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2007年3月17日 (土)

MBO - Management Buy Out

シティによる日興コーディアルグループの公開買付の発表が15日にありました。そのプレスリリースはここ(日本語)pdfここ(英文)pdfにあります。公開買付者は日興コーディアルグループの現時点で4.9%株主となっているCitigroup International LLCではなくて、この公開買付のためにあらたに設立されたDelaware州のCitigroup Japan Investments LLCであり、455,486,645株以上を一株1700円で公開買付すると言うものです。買付期間は4月26日までで決済日は5月9日です。

TOB(公開買付)も、これから益々多くなっていくのでしょうが、TOBの一つの形態として経営者が経営に従事している企業をファンドと組んでTOBを行うMBO(Management Buy Out)について書いてみます。

1) MBO(Management Buy Out)

企業の友好的買収・敵対的買収の友好的・敵対的の意味はその経営者である取締役会と友好的か敵対的かであることから、MBOとは取締役会のメンバーである取締役が行う買収であり、究極の友好的買収です。そのこと故に、問題もあるわけであり、TOBの対象となる株式の買収側が取締役であり売却側が一般投資家であることから、はなはだしい情報非対称の状態における取引です。超インサイダー取引であるとも言えます。例えば、このブログ:昨年9月13日のウォールストリート日記に9月3日のNew York Timesの記事の紹介としてMBOに関する問題点の報告がありました。

2) レックスホールディングスのMBO

JASDAQ上場のレックスホールディングス(レックス)の5年間の連結売上高等の業績は、次の表の通りで、右肩上がりの売上増加を記録していました。レックスは、1987年設立の不動産関連の会社であったのですが、1996年に外食産業に乗り出し、現在の焼肉店の牛角を創業しました。2002年にレッドロブスターの全株式取得により子会社(現在は牛角他と共に子会社レインズインターナショナル)とし、2004年にはAM・PMの株式63%の取得でコンビニ事業を、そして同じ2004年にスーパー成城石井の株式70%の取得(現在は全株保有)でスーパーマーケット事業と事業拡大を行って売上を伸ばしてきました。なお、2004年12月期に純利益で118億円の赤字となっているのはAM・PMと成城石井の買収に関わる連結調整勘定141億円を取得年度に一気に償却し、この償却費を計上したからです。

事業年度 2001/12 2002/12 2003/12 2004/12 2005/12
連結売上高(百万円) 15,356 29,003 50,636 80,456 148,373
連結営業利益(百万円) 1,451 2,193 3,904 4,698 6,580
連結経常利益(百万円) 1,624 2,376 3,802 4,566 6,370
税金等調整前当期純利益(百万円) 1,600 1,973 3,336 -11,821 5,980
連結当期純利益(百万円) 769 866 1,829 -12,230 3,077

以下が、レックスホールディングスの過去2年間の株価チャートです。(2006年2月20日に1 : 2の株式分割を行っています。)

Rexholdingchart

レックスのTOBは、アドバンテッジパートナーズと組んで実施されました。アドバンテッジパートナーズの昨年11月10日付のTOB開始に関するプレスリリースはここにあります。公開買付者は株式会社AP8となっており、「レックスの代表取締役である西山知義氏は、本公開買付けが成立した場合において、AP8に33.40%直接出資することを予定しており、その後も特段の事情がない限りは少なくとも5年間は、レックスの取締役(会長に就任する予定です。)としてレックス及びその関係会社の発展のために最大限努力し、APが推薦する役員と共に、レックスの経営にあたる予定です。」との記載がある通り、このTOBは西山知義氏がアドバンテッジパートナーズと共に実施するTOB即ちMBOです。

少し違った角度から見てみると、レックスの株式16.68%を保有するのは有限会社エタニティーインターナショナルであり、この会社の住所は西山知義氏の住所と同じで出資者は西山知義氏と親族2名です。これに同氏が直接保有する12.93%と合計すると29.61%となります。即ち、TOBの成立により変化するのは、一般投資家の保有がアドバンテッジパートナーズ保有となるという姿になると思われます。そして、上場廃止となります。

3) TOB価格

物議を投げかける一つの点ですが、TOB開始に関するプレスリリースの通り1株につき230,000円で、TOB発表前1ヶ月間の株価単純平均202,000円に対して約13.9%のプレミアムです。実は、上の株価チャートから見ると分かるのですが、8月末より少し前までは300,000円以上していたのです。何故、8月末に急落したかというと、8月21日にこの業績修正に関わるプレスリリースを行い、8月24日に中間期である2006年6月30日に終了する中間決算の決算短信を発表し、中間決算における純損失13.3億円の計上と通期業績予想修正の発表を受けてのマーケットの反応と思われます。なお、この13.3億円の損失には固定資産の減損損失4.8億円と長期前払い費用一括償却17.0億円を特別損失として計上されたことがあり、もしこれらがなかったならば小額であるが利益計上になったと思われます。

固定資産の減損に係わる会計基準が制定されたのが2002年8月で2005年4月以後開始する事業年度からの適用ですから、レックスの場合は2006年6月30日に終了する中間決算からの適用で正しいのです。しかし、8月24日以前、もしかすると会計基準が発表された頃からレックスの内部関係者は固定資産の減損会計を適用した場合の損失計上額のシミュレーションを行っていたかもしません。長期前払い費用一括償却については、8月21日のプレスリリースに「マーケティング・データやノウハウ等の資産における評価を見直したことによる特別損失が1,704 百万円・・・」とあることから、この費用と思いますが、「無形固定資産のその他」や「投資その他の資産のその他」といった勘定科目は2006年3月末と比較して微増となっています。よく分からない。情報の格差がありすぎます。

アドバンテッジパートナーズは、詳細なデュー・ディリジェンスを行っており、レックス、西山知義氏を初め様々な関係先と契約書、協定書、覚書を締結しているはずです。一般投資家と比べると情報格差も大きいし、対応策や保全策も比較にならない程確保している状態のはずです。

9月13日のウォールストリート日記に記載ある項目に従って、このMBOを評価してみると

① 経営者の義務(Fiduciary Duty Law)違反の可能性
経営者は自分(及びLBOファンド)の個人的利益の追求を目的とするMBOで企業を安値で買収するのではなく、公開企業の状態で経営を改善するなり資産を売却するなりして企業の潜在価値を最大化させ、株主に利益を還元する「義務」があるはずである。上場企業の経営者の義務としては、その通りであると思えます。

② 利害相反の可能性
企業の経営陣は株主の利益を代表する存在であるにもかかわらず、MBOに際しては企業を安く買収できればできるほど利益が大きくなるため、経営者の利益と一般株主の利益が真っ向から相反する。自分たちの「信託者」であるはずの株主に対してオークションでビッドをするような行為が許されるのは非常に不可解である。気持ちとしては、そうだと言いたい。

③ ディスクロージャー違反の疑い
情報格差に関しては、埋めることが不可能であると思います。むしろ、MBOに際してのディスクロージャーの義務をルール化すべきと思います。こんなことを書いていたら、47thさんのブログ:MBOの危険性への対応 [ 2006年09月14日 ]に米国では、Rule 13e-3 GOING PRIVATE TRANSACTIONSその報告フォームがあると書いてありました。制度・ルールという面では日本より進んでいると思います。(日本の場合については、これから調べます。)

④ インサイダー取引の疑い
MBOの背景には、インサイダーである経営陣しか知りえない企業価値に関する情報がある。これも否定できない事実であり、レックスのみならず全て共通と思います。

MBOは、排除すべきかというと、自らの上場廃止の選択や、ビジネスの自由は守るべきものであると思うし、排除することによる弊害があるのであると思います。やはり、合理的なルール作りが最も重要なのだと思います。

4) レックスMBOの現状

AP8によるTOBは、2006年12月12日に締め切られこのアドバンテージのプレスリリースの通り198,801株の応募があり、75.20%がTOBで買い付けられエタニティーインターナショナルからの取得とあわせて91.51%がAP8により保有されることとなりました。レックスの場合は、12月決算であることから、定時株主総会が3月末までとなり、2007年は3月28日の予定です。

レックスは3月2日の取締役会で5月9日を効力発生日として、発行済み株式を全部取得条件付株式とし、この取得に際して会社は1株に対し0.0000457株の普通株式を交付することの定款変更、そして1株未満の普通株式交付となる場合は、TOB価格と同じ1株230,000円で会社又はAP8が購入予定とすることを総会に提案することを決定しました。91.5%の議決権をAP8が保有していることから、2/3以上の議決権があり株主総会で必ず決議されます。この株式交換比率の結果、AP8は11株の株主となり、AP8以外が保有する株数は22,454株で1つにまとまれば1株となるが、すでにAP8が実質保有する株式があるとみれば全て金銭が支払われることとなる。結果、レックスはAP8の完全子会社となる見込みです。そのスケジュールは以下の通りで、これでMBOの完成となります。これでレックスの利益は全てAP8(アドバンテッジパートナーズと西山知義氏他)に帰属することとなります。
3月28日 株主総会
4月29日 上場廃止
5月9日 全部取得条件付株式の定款効力発生、全部取得条件付株式の取得、普通株式発行

5) 反対少数株主の戦い

TOBに応じなかった株主がおられます。保有する株式を売却するに当たり相手の言い値が安ければ、売却する必然性はありません。1株につき230,000円はTOB側が付けた価格ですから、必ずしもこれで売却する義務はなかったものの、上場廃止となれば売却が困難なことも予想され安いとは思ったものの現金化が困難となるリスクを考えてTOBに応じた株主もおられることと思います。

レックスの場合、反対少数株主の会として「アドバンテッジ被害者牛角会」を作っておられ、そのホームページがここに、ブログここにあります。現在東京地裁に価格の決定の申し立てをすべく準備中です。(Webに会社法の条項番号が見あたらなかったのですが、会社法172条と思います。)

少数株主の権利として裁判所に申し立てを行おうとされているケースであり、MBOに関連して東京地裁がどのような判断をするか興味深く見たいと思います。

6) 税金面

「アドバンテッジ被害者牛角会」のWebやブログでは、みなし配当に関して心配されておられる面があるのですが、私は、全部取得条件付株式の譲渡に関するみなし配当は発生しないと思います。理由は、所得税法施行令61条1項6号により所得税法25条1項4号のみなし配当から外れると解釈します。但し、5月9日の時点では、レックス株は上場株式ではないので租税特別措置法37条の11は適用されず租税特別措置法37条の10の適用となり、法人税と住民税合計で売却価額と取得原価の差額の20%の税額と思います。

上場している間に売却しておけば、法人税と住民税合計で10%の税率ですむのが、少数反対株主として頑張っていると税率が2倍になるというのは、しっくりこないところがあります。しかし、措置法37条の11が過去の証券税制を未だに引きずっている面があり、現行では本年末までで適用が終了し、現在参議院に送られた所得税の改正でも来年末で終了ですから、騒ぎ立てて改正する方が時間が掛かりそうだと思いました。

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