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2007年9月10日 (月)

映画シッコ

マイケル・ムーアの「シッコ」(SiCKO)を先日見てきましたが、その感想等を書いてみます。

1) アメリカ医療制度(医療保険)から見た日本

「シッコ」を見て、アメリカのことであり、アメリカはクレージーだと感じただけだったら、つまらないと思います。もしかしたら、明日の日本のことになるかも知れない。それを感じますが、例えば、慶應義塾大学権丈教授も、次の勿凝学問103と104で文章を書いておられます。

・ 勿凝学問103 マイケル・ムーア『SiCKO』のすゝめ それと日医「医療政策会議」で紹介した在日米国経済公使ズムワルト氏の談
・ 勿凝学問104 マイケル・ムーア『SiCKO』の僕なりの見方 社会保障問題とは結局のところ財源調達問題に尽きる

権丈教授の文章の中で、もしそうだったらと、思ってしまったのが、次の一文です。(勿凝学問104の1ページ目の下あたりから)

あの映画、たしかに、マイケル・ムーア監督が訪れたカナダ、イギリス、フランスがかかえる深刻な医療問題については触れてはいない。しかし、それはそれで良いと、僕は思っている。なぜならば、カナダ、イギリス、フランスの医療問題は、今ある制度に公費を投入すればおおよそ解決する問題であるという意味で、これら3カ国がかかえる医療問題は財源調達問題である。いわば、医療制度のあり方を規定するベクトルの方向性は正しいが、いかんせんスカラーが不足していることから生じている医療問題を、これら3カ国はかかえているのである。それに対して、アメリカは、医療制度のあり方を規定するベクトルの方向性が、はじめから間違っている。アメリカがかかえる問題は、今の制度に公費を投入したからといって大きく解決されるような問題ではないのである

せめて日本の医療崩壊は解決できる範囲にとどめておかないと大変なことになると思います。

2) 医療保険

このNew England Journal of Medicine August 23の記事 Election 2008 — Campaign Contributions, Lobbying, and the U.S. Health Sectorは、面白いですね「2008年アメリカ大統領選では、イラク問題は別として、医療問題は移民、経済の問題より重要」と言っていますから。このあたりは、マイケル・ムーアは意識して映画を作ったのだと私は思います。その意味で、アメリカとは面白い国と思います。日本では、誰も格差問題で映画を作ろうなんてしない。(作っても、上映してもらえないと言うべきでしょうか?)

アメリカの医療保険について、李 啓充氏は2月5日の週刊医学界新聞「アメリカ医療の光と影  第101回」で、「米国の無保険社会がここまで深刻化した大元の原因は,医療保険を民間に委ね,市場原理の下で運営してきたことにあった。」と言っておられます。医療保険とは、疾病リスクの平準化と所得格差の平準化の側面を持っています。この2つのリスクの平準化は公的制度でないと実現が不可能です。「民間の論理がよい。」ということや「民で出来ることは民でする。」と言うのが、当てはまらない分野です。民間事業とは、利潤追求により事業永続を計ることです。そして、競争により、品質改善がなされ、供給量が合理的に確保されることです。しかし、万能ではありません。

リスクの高い人には高い保険料が民間保険の原理であり、これをはずしたら競争に負けてその保険会社は倒産する。その結果、保険利用者に損害を与える。しかし、このリスクと保険料の原則は、疾病リスクの平準化と所得格差の平準化には相反します。従い、民間保険には適さない。政府保険を維持することと、税をつぎ込むことの必要性を私は感じます。税収を上げるためには、消費税率、所得税率(累進)、法人税率、相続税率(累進)の全てを少ーしだけ上げればよいものと思います。(所得税だったら、例えば、所得年1億円以上の人だけ少し増税するとか、証券税制を本来の姿に戻すとか)小さい政府を作っても、国民がサービスを受けられないなら、何のための政府かと思いますから。安心して病気になれる方が、精神的に楽です。高齢化社会になったなら、保険会計における保険料収入は下がるし、保険金支出は増加する構造だと思います。さあ、どうしますか?

医療サービスは医療保険と表裏一体の関係であると思います。恐ろしいのは、崩壊すると再建困難になるー再建には超長期を要することと思います。本来なら、あるべき医療を最初に考え、そしてその医療に対して必要な医師・看護師と言った人材・人員(将来計画も含め)を考え、そのための費用を算定する。そして、その費用の捻出方法を考える。ところが、今の政府や厚生労働省のアプローチは、根本的に狂っているのではないかと。増税なしの財政再建が優先であり、税の名目で徴収できないから、保険料を上げ、自己負担を上げ、診療報酬を下げる。その結果、医療崩壊になる。

完全な本末転倒を起こしているような気がします。増税が必要なら、増税です。もしかしたら、参議院選の結果は、それを要求したのでしょうか?何故なら、格差社会の恩恵から取り残された人たちが、勝ったのだとしたら、増税が当然だと思うからです。これ以上、負け組から税を取れません。勝ち組から取るしかないからです。

3) アメリカ医療のある部分

9月3日をもってTaichanは、ブログ「マイアミの青い空」を終了されたのですが、Taichanのブログで私にとっては、衝撃を受けて読んだブログがあります。次の2つです。

米国臓器移植の裏側

緩和ケアの移行が早い

臓器移植に関しては、「ICUに長く入院が続くと患者家族への負担は大です。しかし、臓器移植に応じれば呼吸循環管理費用はドナー管理費用としてGift of Life Donor Program(GLDP)が全額負担となります。」と書かれているのを読んで、そうなんだと思いました。ある意味で、合理的かも知れない。脳死になるまでは、確実に医療を継続してもらえる。脳死患者からの臓器移植って、そんな面があるのだと感じました。

緩和ケアも、「Palliative care緩和ケアへ移行するのがここでは早い。意識レベルの改善がみられない、画像所見からこれ以上の回復が見込めないと判断されると状態が安定して2日目に家族へ主治医から緩和ケアの話が切り出される。アメリカでは重症患者への医療費高騰に対する解決策として緩和ケアの導入が始まった経緯があり、癌末期患者に対する緩和ケア同様、脳卒中患者で意識障害が不可逆的と判断されると家族へのアプローチが早い。」と書かれておられ、その一因がICUの治療費が1日40万円程度で、保険がないとなると、経済的な理由と緩和ケアへの移行が結びつくのだと改めて認識します。

医療は、国により制度が大きく異なります。どのような制度がよいのか、私たちは、自分たちのための制度を作り、維持していくことが重要だと思います。厚生労働省が、作ってくれるわけではありません。マスコミも作らないですね。

4) 週間東洋経済TKプラス

週間東洋経済TKプラスにも、「医療費増大という悪夢が社会主義の復活を招く?」ハーバード大学教授 ケネス・ロゴフが載っていましたので、紹介しておきます。

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コメント

こんにちは。m3.comがやらかしたおかげで医療系ブログの引越しが進んでいますね。
http://blog.livedoor.jp/onizukam/archives/306014.html
http://blog.livedoor.jp/onizukam/archives/306017.html
リンク元はこのあたりに移植されているようです。

投稿: dokusya | 2007年11月18日 (日) 09時48分

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