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2007年10月 2日 (火)

病院経営

9月29日の記事ですが、読売 9月29日 東京の病院が新患・救急受け入れ休止、来月末で全科休診というニュースや、同じことについて読売 9月29日 東十条病院、職員に解雇通告 医師引き揚げ、日大側と食い違いという記事がありました。

東十条病院は、医療社団法人りんご会が運営している病院であり、冒頭の読売新聞の記事には、「現在61人いる入院患者については」との記載があり、病床数350床ですから、17%の病床利用率です。既に、少し前から稼働病床を減らしていた可能性があると思います。

そして、これはFACTA On-line10月号(フリーコンテンツ)ですが、「倒産続出」病院ビジネスに明日はないという記事がありました。すこし前から、読売 2007年3月23日 医師引き揚げ 「空白」拡大のような報道はよくありました。

医療崩壊という言葉が使われています。医療は大丈夫か、厚生労働省を信じていてよいのかとなるのですが、下手をすると年金よりヤバイと思います。年金は、最後は税を含めてお金で何とかやりくりできますが、医療は医師を初め医療提供者がいないとお金だけで解決できない話です。だから深刻だと思います。そこで、すこしでも、実情が掴めないかと頑張ってみます。

1) 病院の収支状況

医療機関の財務諸表を余り見かけないのですが、総務省の平成17年度の地方公営企業年鑑がここにあります。この年鑑に982の自治体病院の平成17年度の財務データがあります。次のグラフは982自治体病院の合計収支です。

982

医業収益が3兆6千億円で、これに医業外収益4千億円、補助金収入9百億円、固定資産売却益等の特別利益2百億円の合計4兆1千5百億円が収入ですから、支出4兆3千億円に1千5百億円不足し損失であります。

但し、約35%の339病院は黒字で、643病院が赤字ですが、黒字計上病院と赤字病院をそれぞれ別個に集計したのが、次のグラフです。

339

643

339黒字病院の純利益合計は372億円であり、医療収入と医療外収入(補助金を含め)に対する純利益率は2.5%です。医療収入から給与費、材料費、経費を差し引いた医療業務のみに関する収益では、3千億円の赤字(損失率14.1%)です。

赤字病院についての純損失は合計は1,850億円ですから、規模の差があり、適切ではありませんが単純平均では1病院あたり約3億円の赤字です。

東十条病院は、自治体病院ではありませんが、日本において病院経営は利益が出ない事業であると言えます。

2) 自治体病院の資産・負債・累積損失

自治体病院の資産・負債・累積損失についても見ておくこととします。次のグラフが全自治体病院を合計した貸借対照表です。なお、損益計算書もそうであったのですが、公営企業に関する会計基準に基づいているため少し一般企業と異なっています。例えば、資本剰余金は主として施設建設に対する国庫補助金等であり、債券発行による資金調達は長期負債ではなく借入資本金となっています。

Bs_2 

繰越欠損金の合計が1兆6千億円です。自己資本金と資本剰余金の合計が3兆8千億円ですから、債務超過ではありませんが、台所は極めて苦しい火の車というのが実態です。なお、赤字団体、黒字団体別に表した貸借対照表が次の2つのグラフです。(1県に2つ以上の県営病院が存在することもあり、団体数は合計674です。)

Bs_3

Bs_4

3) 自治体病院の今後

病院経営とは本当に大変だと思います。かつては、無医村をなくし、住民のために必要な医療環境を提供することが地方自治体の大きな仕事で、市町村長は、そのために頑張りました。次のグラフは都道府県別の国公立病院の占める割合を病床割合で示しています。

Photo 都道府県の表示が、1つおきになっており、青森、山形、岩手、鳥取、宮城、香川という順です。いずれにせよ、自治体病院が貴重な医療サービスを提供していることには間違いがないものと思います。

しかし、赤字体質で赤字の補填を自治体が最後まで出来るのか、現在の政治情勢の下、決して楽観視できないと思います。

総務省が公立病院改革懇談会を開催していますが、その第1回の本年7月23日の資料には、次のことが書かれています。

③公立病院改革
総務省は、平成19年内に各自治体に対しガイドラインを示し、経営指標に関する数値目標を設定した改革プランを策定するよう促す。

サービス供給の在り方の再検討と民間的経営手法の導入促進・・・民間への事業譲渡等の選択肢を含め検討する必要がある。」とも書かれています。

馬鹿だと思います。医療は、営利事業であってはならないとして、医療法人や生協等にしか認められていないこと、そして、損失を生み出し、しかも先行き不透明というリスクがある事業なんて事業として誰もしない。する場合は、リスクヘッジを行って引き受ける。この場合は、リスクを自治体に押しつける。(リップルウッドが長銀を購入した際、政府に不良債権の損失補填を約束させたように。リップルウッドが悪いというのではなく、民間の市場原理とは、そのようなものと言いたいのです。)

確かに、米国には株式会社組織の病院があり大きな利益を計上している。しかし、そこには自治体病院が抱えている以上の大きな問題がある。

本末転倒です。医療が私たち人々にとって重要だから誰もがよい医療サービスを受けられるようにするのが命題です。そのために、お金がいくら必要か、そしてどのような仕組み・体制がよいのかを考える。馬鹿は、「赤字がダメだ。民間がすればよいのだ。」としか考えられない。

東十条病院という民間病院の閉鎖は何を物語っているのでしょう。馬鹿に欺されないようにしたいと思います。

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コメント

経済は学生の頃から苦手で、いまだに貸借対照表とか、見方がわかりません。でも、わかるところは本当にそうだと思います。
必死に稼いでも赤字すれすれか赤字になるような料金設定。世界標準からみても割高で時代遅れな医療機器や薬物。目先の問題でころころ変わる方針。こんな先行き不透明なものを事業としてなりたたせるなんて、よほどあこぎにやらなければ無理ですよね。

投稿: 山口(産婦人科) | 2007年10月 2日 (火) 20時57分

山口(産婦人科)さん

コメントありがとうございます。私も、モラルハザードという言葉を浮かべてしまいます。

おそらく一番縁遠い言葉であるはずなのですが、モラルハザードに陥らなければというか、引きづり込まれてしまうような、料金設定は改善すべきと確信します。悪貨が良貨を駆逐するような制度ではなく、良貨が悪貨を駆逐する制度にすべきと思います。

次回は、医療に関する国際比較を書いてみたいと思います。

投稿: ある経営コンサルタント | 2007年10月 2日 (火) 21時09分

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