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2008年12月12日 (金)

サイゼリヤのデリバティブの恐ろしさ

サイゼリヤがデリバティブで153.1億円の損失を出しました。

日経 12月10日 サイゼリヤ、デリバティブ契約解除で損失153億円 全取締役を減俸に

サイゼリヤ 12月10日発表 デリバティブ契約解約に関するお知らせ

見逃してしまいそうですが、このデリバティブ取引は52百万豪ドルの円との為替スワップでした。従い、1豪ドルを65円とすると、34億円足らずの取引で153.1億円の損失になっています。目的が外貨変動為替ヘッジであれば、あり得ないような損失金額なので、少し分析します。

1) デリバティブ契約の内容

デリバティブ契約の内容については、この11月21日のサイゼリヤ発表 デリバティブ評価損発生見込みに関するお知らせに書かれています。2種類のデリバティブ契約があり、2007年11月22日と2008年2月7日に締結され、それぞれの契約締結時の豪ドルの為替レートは105.83円と98.93円でした。サイゼリヤは、オーストラリアから牛肉等の輸入があり、豪ドルを安く入手できれば、豪ドル決済の仕入れ価格も安くなります。そこで、これら2本のデリバティブ契約ではサイゼリヤが豪ドルを78円と69.9円で入手可能な契約としました。

但し、豪ドル為替レートが万一78円(もう一つの契約では69.9円より豪ドル安/円高になった場合は、比例級数的に逆に豪ドル高/円安の為替レートでサイゼリヤは円対価を支払う契約でした。金額は、2007年11月22日の契約は24百万豪ドルで2008年12月1日から2010年11月1日まで毎月百万豪ドルであり、2008年2月7日の契約では28百万豪ドルで2008年8月から2011年3月まででした。

チャートで示すとよく分かるので、チャートを作りました。(2007年11月22日の契約についてです。)

200812a

青のAUDスポットレートが、実際の豪ドル為替レートの動きです。デリバティブ契約を締結した頃は、豪ドルは100円程度であったので、まさか78円以下になるとは思っていなかった。しかし、2008年9月に悪夢の78円以下に突入した。しかも、この契約のスワップ時期は2008年12月からなので、読みと結果は全く逆に出てしまった。

基準為替レート78円以下になると比例級数的に豪ドル高/円安為替になるのですが、それを示したのが次のチャートです。これは、今後の為替が1豪ドル=65円で推移したと仮定してデリバティブ契約によるレートを計算したものです。

200812b

レートの上限である600円/AUDに2009年8月以降は張り付きました。

2) 教訓

上記の様な結果になったことから、反対取引を組んで、契約解除する以外に選択はなくなったと思います。これが、34億円足らずに相当する外貨変動為替ヘッジで、その5倍近い金額の153.1億円の損失を生んだ理由です。

デリバティブは、リスクヘッジに使用するものです。多分、サイゼリヤの経営者もレストランのメニューは円建てであり、豪ドルを78円や69.9円で固定して為替リスクをヘッジしたつもりでいたと思います。しかし、これはヘッジではありませんよね。

決して、「後出しジャンケン」で言っているのではありません。上のチャートは、ファイナンスのことが少し解っている人であれば、書けたのです。そして、チャートを書いたり、確率を計算したりして、リスクの度合いを予想できたのです。それと、インベストメントバンクの手の内を、ある程度は読むことができるのです。少しでも読めれば、落とし穴に気づいたりします。

ファイナンスコンサルタントでも経営コンサルタントでも良い、自社に人材がいないのであれば、外部の専門家に少しだけでも相談することと思います。サイゼリヤがデリバティブ契約を締結した相手は、この金融庁の行政処分により業務改善命令が出されたBNPパリバですが、さすがBNPパリバで、このようなデリバティブを作られたと思います。考えれば、ハイリスク・ハイリターンのデリバティブなんて、簡単なのかも知れません。不況になるほど、「貧すれば鈍する」に陥ってしまいやすいかも知れないので十分注意してください。

株主代表訴訟の訴えがあっても問題がないように経営をすることは重要です。このようなデリバティブ取引を実行する際は、そのデリバティブを持ってきたインベストメントバンクの説明のみを聞かず、他のファイナンスに詳しいコンサルタント等の意見も聴取して、経営者として判断することをお奨めします。日本は、金融商品を販売する際にはリスクについて十分に説明することを金商法が義務づけていますが、考えれば矛盾する点が少しあると思います。むしろ、同業者でない利害関係のないコンサルタントの意見が、私からすれば、よいと思います。

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コメント

確立を確率と書いてしまうとアレな人なんだなって思ってしまいます.

投稿: あ | 2008年12月12日 (金) 18時29分

あ |サン

ご指摘ありがとうございます。修正しました。

投稿: ある経営コンサルタント | 2008年12月12日 (金) 18時41分

自分でもわかりました
丁寧な説明です
損をしたいとは思って取引をしたわけではないでしょうが、リスク管理がもうちょっと出来ていればよかったのかもしれません
社内に反対意見は出なかったのかその点だけ気になります

投稿: しん | 2008年12月14日 (日) 15時48分

素人が大損するこんな派生商品取引はまだまだ眠ってるでしょうね。
深く考えずに組んでしまう客もどうかと思いますが、証券会社には顧客が「取引に適格かどうか」考慮する義務があるのでP証券の責任も大きいと思います。

投稿: ん | 2008年12月14日 (日) 16時08分

2つ目のデリバティブ契約(69.9円)をしていることで、
経営陣が契約内容を理解してなかったことが分かります。

投稿: あせい | 2008年12月14日 (日) 16時41分

しん サン、ん サン、あせいサン

コメントありがとうございます。
デリバティブの契約を締結したのは、豪ドルが105.83円と98.93円の時であり、78円や69.9円で手にはいると言われると、人間は弱い者で、つい惹かれてしまうのでしょう。
BNPパリバもリスクがあることについての説明は行っていたでしょうね。
経営幹部のなかに、「78円や69.9円以下に豪ドルがなることなんて、あり得ないよ。あってもほんの一瞬だよ。」なんて言う人がいたら、確率論ではそうかも知れないので偉い人には巻かれろになるでしょうね。だから、仮にそんな経営幹部がいたとしたら、他の経営に参加している人がなんと言ったかです。
上場会社は、3人以上の取締役(全員同じレベルで、社長も同一です。)と3人以上の監査役がいないとなりません。ワンマン経営体制は、上場会社にはふさわしくありません。
しかし、実質ワンマンという会社は、見受けますね。サイゼリヤがそうであったかどうかは、知りませんが。

投稿: ある経営コンサルタント | 2008年12月14日 (日) 17時01分

貧すれば貪すでは?(鈍す)になっています。

投稿: 宏くん | 2008年12月14日 (日) 17時35分

宏くん サン

私の辞書では、「貧すれば鈍する」となっています。不況が、更に深刻化しつつありますが、つい目の前だけを見がちになって、失敗をしてしまう恐れがある。そんな心配・懸念を言いたかったのです。

投稿: ある経営コンサルタント | 2008年12月15日 (月) 00時49分

丁寧なご説明ありがとうございました。よくわかりました。
私も本件、疑問に思い、財務諸表を見てみましたが、
売上げ、製造原価、利益からして、
なぜ150億円の損失になったのが、分かりませんでした。
デリバティブ取引のグラフを見て、納得しました。
100円/AUDのときに、80円/AUDで買えるのは、企
業にとってはとんでもないコストダウンですが、
その反動も相当なものですね。

投稿: ホホ | 2008年12月20日 (土) 12時12分

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