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2009年7月 3日 (金)

日本航空と全日空の比較

次の2つ最近のニュースが、興しろいと思いました。

日経 7月1日 日航、政投銀などと1000億円の融資契約締結

日経 6月30日 日航優遇「公平性欠く」 全日空、国交省に申し入れ

そして、全日空は、この7月1日のプレスリリース「新株式発行並びに株式売出しに関するお知らせ」の通り、537,500,000株の増資を発表。この増資により払込を受ける金額は、本日の株価320円を基準にして90%を払込金額にすると、1548億円となります。

次の様な、日本航空と全日空を「財務格差一段と 増資か公的融資かで明暗」なんて記事もあったので、両社を比較してみました。

日経 7月2日 全日空・日航、財務格差一段と 増資か公的融資かで明暗

1) 2009年3月期業績

日本航空と全日空の連結損益計算書は次の通りです。

Jalana20097

収入の規模からすると、全日空が71%なので、適切な比較が可能と考えます。また2社とも収入のなかで航空輸送収入が88%を占めています。(両社とも、航空輸送収入のグループの内部収入を含めていますが、旅行事業への内部収入と思いますから、実質航空輸送収入でよいと思います。)今年度と昨年度の航空輸送収入を2社についてグラフにしたのが次です。

Jalanarev20097

国内輸送に関する収入は両社ともほぼ同じで、国際線輸送に関する収入で日本航空が全日空より大きく、旅客収入は2.4倍です。ちなみに、収入を輸送した人数と距離および重量と距離で平均単価を求めると次の表になりました。距離が長いと単価は安くなるはずなので、簡単には言えませんが、日本航空の国際線旅客はほんの少し安いのでしょうか。そして、国内線は、その逆の感じです。いずれにせよ、それほど大きな差があるようには、感じません。

日本航空と全日空の旅客と貨物の平均収入単価
JAL 2008/3 JAL 2009/3 ANA 2008/3 ANA 2009-3
国際旅客(円/人km) 12.5 13.5 14.6 15.0
国際貨物(円/トンkm) 43.0 43.6 42.9 41.7
国内旅客(円/人km) 21.3 21.3 18.5 18.6
国内貨物(円/トンkm) 70.3 76.5 68.7 71.2

2) 両社の航空輸送事業収支

航空輸送事業の事業収支を書いたのが次の表です。(航空輸送費用には、航空輸送事業に関わる販売費及び一般管理費も含んでいます。)

Jalanaplf20097 

さほど、変わらない感じですが、日本航空は609億円の損失で、全日空は48億円の利益です。一つ言えるのは、燃油費が、日本航空の場合は、収入の落ち込み6.0%に対して23.4%の増であり、一方全日空の場合は、収入の落ち込みは5.5%と日本航空と余り変わらないが、燃油費は14.0%増で押さえることができています。

収入単価の低い国際線が多い日本航空に、燃料単価の上昇インパクトは大きくなることがその要因と思います。一方、航空機減価償却費と賃貸料は燃料単価の影響は受けず、長距離の国際線が多い日本航空の方が、コスト中に占める割合も低く、日本航空が償却費・賃貸料合計で10.0%で、全日空は13.9%です。なお、両社の保有航空機の比較表も作成しました。

Jalanaplane20093 

このあたりから言える一つのことは、新素材を多く使用した軽くて燃油費が安くて済む航空機に機材を変更していくことが、経営戦略として欠かせない。全日空も今回発表した増資の資金使途は、航空機購入を含む設備投資資金に充当と言っています。ちなみに、全日空はボーイング787型機を55機購入するとしており、総投資総額は7181億円。今回の増資額の4倍以上になります。発表から計算すると飛行機の単価は777型機が150億円、787型機130億円となります。

3) 両社の貸借対照表

2009年3月末の両社の貸借対照表を示したのが次のグラフです。Jalanabs20093

売上規模が日本航空2兆円で全日空1.4兆円ですから、総資産額が売上高にほぼ一致するあるいはより大きい会社です。

なお、日本航空の2009年3月末期の財務諸表において、ファイナンス・リース取引を、有形固定資産とリース債務として貸借対照表に計上せずに、賃貸借取引として処理しているリース取引があり、注記情報からこの部分を、比較の目的で資産・負債に組み替えました。この結果は、資産増2806億円、負債増2886億円となり株主資本が80億円減少となっています。このベースにおける両社の借入金、社債、ファイナンス・リース取引を抜き出したのが、次の表です。

Jalanaltloan20093

債務について、一つ言えるのは、1年以内に返済期限、償還期限が来る長期資金債務が日本航空に2,259億円あり全日空の1,229億円の倍近くあることです。日本航空は、この返済・償還のための資金が必要です。

4) 燃料ヘッジの失敗

これまで見た範囲では、それほど大きな差はなかったのですが、貸借対照表における両社の純資産の部が次の通りです。

Jalanaequity20093

貸借対照表全体で見ても、3)に掲げたグラフのように、日本航空の純資産の部は小さいのですが、その原因は、評価・換算差額等にあり、その中でもマイナス2018億円と圧倒的マイナス金額を誇っているのが、繰延ヘッジ損益です。

流動負債として計上されているデリバティブ債務1263億円と関係があり、多分内訳としては出ていないが、固定負債はその他固定負債1793億円の中に隠れていると思います。その他固定負債が前年度末より703億円増加しているので、合計すると1966億円になり2018億円に近くなります。

Webでは見つかりませんでしたが、2009年3月3日の日経で「相次ぐデリバティブ損失 原油乱高下でヘッジ裏目」と題して、2008年12月末時点で日本航空が約2,400億円、全日本空輸が約1,000億円の繰延ヘッジ損失が発生していると報じられています。そこで、これが何かですが、次のジェット燃料価格のチャートを見てください。

Jetkeroseneprice20095_2 

燃油に関するデリバティブ取引とは、先物の燃油価格をあらかじめFixしてしまうことと考えてください。もし、将来の市場価格が上がれば、購入価格上昇を避けられるが、逆に下がってしまえば、高値の燃油を購入することとなります。日本航空の消費する年間燃油量は、45百万バレル程度と推定されます。このうちデリバティブ取引で押さえているのが決算説明会資料からすれば、80%-90%になるようです。そうなると、36百万バレル-40百万バレルが1年以内にデリバティブ取引の決済となるはずで、US$35/バレル程度の値差になると思われ、デリバティブで押さえたのは、平均US$90-US$100/バレルでしょうか?実際のオペレーションでは、期間の長短が組み合わさっており、金額としては「価格差X数量」であるので、3月末時点で存在したデリバティブ取引に関わる対象燃油量はもっと少なく、一方更に高い価格で押さえている可能性もありますが、実態は、分かりません。日本航空は、2009年度の計画を燃油価格をUS$76.2/バレルで作成しているので、このデリバティブ取引がなければ、もっと利益が出る計画であったはずです。

いずれにせよ期末時価で損益を換算すると赤字が2018億円増加するということです。燃油価格が上昇するとデリバティブ取引による損失が少なくなるわけですが、一方、会社全体としてどうなのか?単純では、ないはずです。例えば、世界景気がよくなれば、国際線を運行する航空輸送事業は利益が見込めるのであり、その場合は、国際的燃料価格は上昇するはずです。本来、マーケットは、それ自身の中に、オフセットの方向に働く部分があります。例えば、円高で輸出企業は打撃を受けるとしても、実は輸入原材料や輸入原材料から作られる物は、価格が下がることになります。本来複雑な要素が絡み合っているにも拘わらず、どの時点でFixしているか等よく知らないので言えない部分が多いのですが、80%-90%をデリバティブ取引で固定してしまうのは、行き過ぎであると思います。

本来は、経営者が説明すべきです。コンプライアンスや内部統制が完璧であっても、経営者はその経営判断についても問われるのであり、株主代表訴訟がそのために存在すると私は思っています。

5) 退職給付引当金、退職給付費用

退職給付引当金、退職給付費用に関して、日本航空と全日空で差があるので、見ておきます。次の表を、2009年3月期財務諸表の注記から抜き出して作成しました。

Jalanaemplob20093

日本航空の方が数字が随分大きいのですが、その原因には退職金、年金の水準のみならず他の要素も入ってくるので、よく解りません。そして、費用とした671億円も販売費及び一般管理費に退職給付費用は119億円しか計上されておらず、残る552億円はどうしたのか、私は掴めていません。

退職給付については、日本航空の大きな課題のはずです。従業員にとって水準を下げることは、受け入れることはできないと思います。但し、一方で、年金資産が4000億円存在することは、会社にとっても従業員にとっても強いことと思います。

なお、退職給付債務から年金資産を差し引くと、退職した従業員を含めた債権金額となりますが、これも同じく4000億円です。GMを考えれば、最悪は年金債権の一部を出資株式に転換し、組合が取締役を出すのも面白かったりして。4000億円は、株主資本より金額が大きいのですから。

6) 政府保証の政策投資銀行からの借入

日本政策投資銀行等からの総額1000億円の借入で、そのうちの政策投資銀行約600億円の80%について政府保証を得ることについては、おそらく数多くの交渉の結果として、そうなったはずで、それで良いと思います。

但し、日本航空から政府に対して正当な保証料が支払われる必要があると思います。保証料がどうなっているか、調べずに書いていますが、民間会社に保証料免除はおかしいと思います。中小企業も、信用保証協会に保証料を払っていますし。

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コメント

非常に参考になる分析です。多分、JALの1兆円ある飛行機をどう評価するかが難しいですね。

ANAの場合、ホテルを売却したときに得た益を使い、同時に旧型飛行機を売却しております。JALの場合、あまりそれが進んでいないようにみえます。

飛行機の場合、それなりに時価がありますので、1兆円ある飛行機が半値になっていれば、JALは債務超過になります。

会計基準変更時差異、未認識数理差異もある意味で静態的にみると補充するべき負債のような性格なので、実質的には3000億ぐらいのマイナス。

大体債務超過が6000億ぐらいに及ぶのではないかなと思います。むろん年金の場合、支給水準などの減額が不可能とまではいえません。国が再生させるというけれど、どのように再生できるのかはなはだ疑問ではあります。

投稿: ああ | 2009年7月 6日 (月) 04時22分

ああさんコメントありがとうございます。

JALの場合は、政府が全株保有している日本郵政とは違い、純然たる民間会社、一部上場企業ですから、是非頑張ってもらいたいと思っています。

飛行機の新型機への入れ替えが、JALは余り進んでいないと当初は思っていたのですが、このエントリーを書き進んで、余り強く言えないと感じました。2)にJALとANAの保有機のリストを書きましたが、B777は両社とも43機で同じでした。確かに、B747は、JALが多い。しかし、このうち半分ぐらいは貨物専用機なので、集荷能力・状況にも関連するから単純には言えない。B787だってJALも購入する。

従って、JALとANAと一番の違いはと考えたら、燃料価格ヘッジだと思いました。ヘッジをデリバティブ取引で実施して良いのだが、所詮価格動向は誰にも不明なので、自社の業績数字に響くまでのことをしてはならない。逆に言えば、燃油価格が下がり始めた段階で、デリバティブ取引を解消するか、逆デリバティブ取引を組んで相殺する。そのような、相場の手じまいをしていない。もし、相場が分からないなら、手を出さないか、年間購入量の10%といったお遊び・研究程度で納めるべき。この辺りが一番問題だと感じた次第です。

投稿: ある経営コンサルタント | 2009年7月 6日 (月) 22時13分

私はスカイの株主なので、この記事非常に興味深いのですが、今回ANAは1500億増資し、純資産は5000億近くまで回復します。燃費の悪い旧型機は処分が遅れれば遅れるほど市場価値は下がります。新型機購入するために増資するということは旧型機の処分をするということに他なりません。

スカイの場合、今年400億の売上で15億ぐらいの利益が出ます。2兆円も売上がある会社が-630億。スカイが50倍の売上があれば750億の利益が出た計算になりますので、ある意味、恐ろしい差です。むろん路線の問題はありますが、スカイは多分、JALの撤退路線を引き受けても利益が出るケースもあると思っています。

ちなみにスカイはヘッジしていないため、昨年は大赤字です。JALのようにヘッジ損が現在の自己資本と同じだけ計上するのをみると、航空会社の原油リスクを考えると航空株には投資すべきでないということを考えてしまいます。スカイの経営方針がよく、JALがダメというわけではなく、ヘッジしていない会社も大損していることに変わらないのです。

昨年、スカイの場合原油で50億ぐらい損していた計算になり、売上の約10%前後。JALは2兆円の売上ですので2000億というのはまあ、規模見合いから普通かもしれません。

投稿: ああ | 2009年7月 7日 (火) 04時51分

 会社は、燃油のヘッジ損について社内でほとんど説明しません、昨年の上昇期にはヘッジで80億儲かりましたと、一度話がありましたが、その後まったく説明しなくなりました。私たちは、会社の決算報告を見てもはっきり読み取れませんでしたが、このPAGEを拝見致しまして、よく理解できました、本当にありがとうございました。
 昨年の前期日本航空はシンガポールケロシン、110ドルでヘッジしたと報告がありました、ヘッジの期間が明らかにされてませんが、今年もその損失をひきずることになるのは間違いありません。噂によると、2400億とも言われています。航空機の更新もご指摘の通り遅れました.もうひとつ教えて欲しいことがあります、最近リース機が増え、導入時は費用が押さえられると、会社はいいますが、その後銀行の利子より高いリース代を何年保障で払い続けるのか、全くわかりません、一説によりますと、実態の判らない有限会社が数社からんでいて、その会社の役員に名を連ねているのが役員OBと銀行関係者等と聞きます、実態はわかりませんが、リース会社の顧問弁護士の話によると非常においしいと言ってるそうです。一時期役員の天下り先として、ホテルを建て、今、リース会社とも言われています。よろしく、お願いします。 

投稿: I.M | 2009年7月19日 (日) 17時41分

I.M さん コメントありがとうございます。

燃油のヘッジについては、航空機は着陸空港で給油するので、その空港の燃油価格になる。しかし、原則その給油時の市場価格なので、デリバティブ取引の基準価格となりやすいシンガポール価格等でデリバティブ取引を締結してヘッジすることとなる。所詮、市場価格は変動するので、益になったり損になったりであります。その基準を会社としてどうしていますが、例えば○○億円以上のポジションは持たないと言った規則をしっかりと持ち、管理していますかが問題と私は考えます。

燃油ヘッジのポジションは2008年末で2400億円、2009年3月末で2018億円のそれぞれ損失です。(私の本文の通りです。)

航空機リースについては、私もそれほど、情報は持っていません。せいぜい有価証券報告書の33ページ、34ページぐらいの情報です。これからすると、B777がダイヤシーガル有限会社他と最長平成30年まで、B767が有限会社シナリバー・アビエーション・ファイナンシングと最長平成33年までです。これだけでは、有利不利の判断は、つかず、一方リース会社が日本法人であるか外国法人であるかも不明です。

文章からは、I.M さんは、日本航空(グループ)に勤務されていると理解しました。会社として、どこまで従業員に開示できるかの問題はあるが、自社の経営について興味・関心を持ち、経営者に質問をすることは、会社にとっても良いことと私は思います。

投稿: ある経営コンサルタント | 2009年7月19日 (日) 21時29分

既にJALに1兆円投入されてその行方が分からなくなっていると聞いています。
さらに1兆円投入ということですか。。。?
そもそも、そこまで事業を立て直せないってどんだけ無能な経営層
なんでしょうね。
民主党も民主党です。小沢氏と民主党の支援団体である京セラの重鎮を
JALのトップに置くなんて、本当に信用できないです。

ちなみに、2010/1/12になんの前触れもなく警視総監が更迭、新しい警視総監に小沢氏の旧友池田克彦が就任
など、権力を行使する能力だけは一人前ですね。。。

投稿: JALと民主党って。。。 | 2010年1月20日 (水) 10時36分

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