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2010年3月19日 (金)

大淀病院事件の請求棄却判決を読む

3月3日に大淀病院民事訴訟判決を書きましたが、判決文が裁判所Webで公開されました。次の所からDownloadできます。

大阪地方裁判所 第17民事部 事件番号 平成19(ワ)5886 平成22年03月01日 損害賠償請求事件 棄却判決

1) 判決の結論

判決文の40ペ-ジに、次のように書かれています。

6 結論
以上のとおり,被告D医師らにCT検査を実施しなかったことについて過失を認めることはできず,仮に過失を認めたとしても,Cが死亡したこととの間に相当因果関係があるということもできない。結局,本件においては,Cに脳出血があってからの経過が急激であるため,産婦人科,脳神経外科,麻酔科が完備した病院で分娩をし,緊急の対応が可能であった場合でない限り救命できなかった,あるいはその条件が揃っていたとしても,救命できたかわからない事案であったということができる。したがって,原告らの各請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。
よって,原告らの各請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。

D医師とは、大淀病院の産科医であり、民事裁判で損害賠償を求められていることから被告D医師となっています。刑事被告人ではありません。Cとは、妊婦で亡くなった高崎実香さんです。

どのような民事請求を行ったかは、1ページの事案の概要にありますが、大淀病院と産科医に対して連帯して高崎実香の夫に4728万円および子に4078万円の合計8806万円の損害賠償を求める裁判でした。

2) たらい回し事件(18病院受け入れ拒否)

この事件は、たらい回し事件としてマスコミに報道されました。本当にたらい回しがあったのか、判決文を読みました。

A) 他病院への転送決定

16ペ-ジですが、次を読むとよく分かります。脳に異常がある可能性を認識すると同時に、産科医は対処不可能であると判断して、転送を決定しました。妊婦の治療と帝王切開を同時にするには、大淀病院では不可能で、2つの命を失う危険性があったのですから。

E医師は,午前1時50分ころ,陣痛室に駆けつけCを診察した。血圧,呼吸状態は安定していたが,瞳孔は散大し,右の対光反射は消失し,左の対光反射をわずかに認めるのみであった。E医師は,こうした所見や約1時間30分意識消失状態が続いていることから,脳に何らかの異常を来しているものと考え,被告D医師に対し頭部CT検査を行って脳の状態を調べるかを尋ねたが,被告D医師は直ちに転送したほうがよいと考え,受入依頼を連絡するために,陣痛室を出て電話があるナースステーションに向かった。陣痛室ではE医師とH看護師,F助産師がCの観察にあたった。

E医師とは、当直の内科医です。

B) 奈良県周産期医療情報システムに則って,奈良県立医大に電話

ナースステーションで直ちに電話をしました。

被告D医師は,午前1時50分ころ,奈良県に導入されている奈良県周産期医療情報システムに則って,奈良県立医大に電話をかけ,Cの受入れを依頼した。奈良県立医大では,満床であり,受け入れることができなかったため,他の病院を探して見つかった時点で連絡するとのことであった。被告D医師のそれまでの経験では,搬送先は長くても1時間程度で決まっていた。

C) 受け入れ先決定に時間を要した

受け入れ先決定までの間の出来事を抜き書きすると次の通りです。

Cの父が以前大阪市消防局に勤務していたことがあり,携帯電話で大阪市消防局の救急隊に電話をかけて,数か所の病院の電話番号を聞き,被告D医師に伝えた。被告D医師は,奈良県立医大を通じて搬送先を依頼していることから,別のルートで搬送先を探すことに消極ではあったが,家族から強い依頼を受けたため,救急隊から聞いた病院数か所に電話をかけたが,いずれも断られた。

被告D医師は,原告AやCの家族からの要請を受けて,また奈良県立医大に電話をかけ,奈良県立医大での受入れを依頼したが,やはり奈良県立医大では受入れができないとの回答であったものの,県立奈良病院に直接依頼の,電話をかけると受け入れてもらえるかもしれないとの情報を得た このため被告D医師は,県立奈良病院に電話をかけて受入れを依頼したが,応じてもらえなかった。

D) 国立循環器病センターでの受け入れ決定

国立循環器病センターでの受け入れは、午前4時30分ころ決定し、奈良県立医大から連絡があり、待機していた救急車で、被告D医師,F助産師,原告の夫ら同乗し、午前4時49分出発しました。国立循環器病センター到着は午前5時47分。

そのころ,国立循環器病センターでは,大阪府立母子総合医療センターから,次いで,奈良県立医大から相次いで,Cについて子癇の救急患者であるとの連絡を受け,受け入れることを決め,その旨の連絡が大阪府立母子総合医療センター及び奈良県立医大から被告病院にされた。

救急車に乗ってあちこちの病院をさまよったわけではありません。危険な状態であることを認識し、救急車に乗せるより、転送先病院が決定するまでは大淀病院で見守っています。

3) マスコミのレベル

マスコミの記者は国語ができない。それのみならず、編集部の人間も無茶苦茶と思います。ビジネスなら、こんなことをしていたら、商売がなくなります。2)に書いた状態を「たらい回し」と表現するマスコミです。

事件は2006年8月8日早朝の出来事です。報道されたのは、2月あまり経過した10月17日です。奈良県周産期情報システムが機能しなかったことを報道し、その背景や原因を探るのが報道の使命のはずです。2月経過して速報の意味はなかったはずです。フォーカスの当て方や、社会に対する報道姿勢が変だと思います。

「続きを読む」をクリックすると、2006年10月当時の新聞記事が出てきます。どう感じるか読んでみてください。

それからすると本日の毎日の社説も面白いです。社説:ネット中傷有罪 「無責任さ」への警鐘だは、「インターネット(や毎日新聞等)の掲載だからといって、閲覧者が信頼性の低い情報として受け取るとは限らない--。」と括弧のアンダーライン部分を追加しましたが、このように追加して読むのが正しいと思えてしまいます。

大淀病院に関する2006年10月報道記事

毎日新聞 2006年10月17日

分べん中意識不明:18病院が受け入れ拒否…出産…死亡

 奈良県大淀町立大淀病院で今年8月、分べん中に意識不明に陥った妊婦に対し、受け入れを打診された18病院が拒否し、妊婦は6時間後にようやく約60キロ離れた国立循環器病センター(大阪府吹田市)に収容されたことが分かった。脳内出血と帝王切開の手術をほぼ同時に受け男児を出産したが、妊婦は約1週間後に死亡した。遺族は「意識不明になってから長時間放置され、死亡につながった」と態勢の不備や病院の対応を批判。大淀病院側は「できるだけのことはやった」としている。

 妊婦は同県五条市に住んでいた高崎実香さん(32)。遺族や病院関係者によると、出産予定日を過ぎた妊娠41週の8月7日午前、大淀病院に入院した。8日午前0時ごろ、頭痛を訴えて約15分後に意識不明に陥った。

 産科担当医は急変から約1時間45分後、同県内で危険度の高い母子の治療や搬送先を照会する拠点の同県立医科大学付属病院(橿原市)に受け入れを打診したが、同病院は「母体治療のベッドが満床」と断った。

 その後、同病院産科当直医が午前2時半ごろ、もう一つの拠点施設である県立奈良病院(奈良市)に受け入れを要請。しかし奈良病院も新生児の集中治療病床の満床を理由に、応じなかった。

 医大病院は、当直医4人のうち2人が通常勤務をしながら大阪府を中心に電話で搬送先を探したがなかなか決まらず、午前4時半ごろになって19カ所目の国立循環器病センターに決まったという。高崎さんは約1時間かけて救急車で運ばれ、同センターに午前6時ごろ到着。同センターで脳内出血と診断され、緊急手術と帝王切開を実施、男児を出産した。高崎さんは同月16日に死亡した。

 大淀病院はこれまでに2度、高崎さんの遺族に状況を説明した。それによると、産科担当医は入院後に陣痛促進剤を投与。容体急変の後、妊娠中毒症の妊婦が分べん中にけいれんを起こす「子癇(しかん)発作」と判断し、けいれんを和らげる薬を投与した。この日当直の内科医が脳に異状が起きた疑いを指摘し、CT(コンピューター断層撮影)の必要性を主張したが、産科医は受け入れなかったという。

 緊急治療が必要な母子について、厚生労働省は来年度中に都道府県単位で総合周産期母子医療センターを指定するよう通知したが、奈良など8県が未整備で、母体の県外搬送が常態化している。

 大淀病院の原育史院長は「脳内出血の疑いも検討したが、もし出血が判明してもうちでは対応しようがなく、診断と治療を対応可能な病院に依頼して、受け入れ連絡を待っていた」と話した。

 一方、高崎さんの遺族は「大淀病院は、総合病院として脳外科を備えながら専門医に連絡すら取っていない。適切な処置ができていれば助かったはずだ」と話している。【林由紀子、青木絵美】

朝日新聞 2006年10月17日

奈良の妊婦が死亡 19病院が転送拒否、6時間“放置”

 奈良県大淀町の町立大淀病院で今年8月、出産中の妊婦が意識不明の重体に陥り、受け入れ先の病院を探したが、同県立医大付属病院(同県橿原市)など19病院に「ベッドが満床」などと拒否されていたことがわかった。妊婦は約6時間後に約60キロ離れた大阪府吹田市の国立循環器病センターに搬送され、男児を出産したが、脳内出血のため8日後に死亡した。

 妊婦は、奈良県五條市に住んでいた高崎実香さん(32)。大淀病院によると、出産予定日の約1週間後の8月7日に入院した。主治医は高崎さんに分娩(ぶんべん)誘発剤を投与。高崎さんは8日午前0時ごろ頭痛を訴え、約15分後に意識を失った。

 主治医は分娩中にけいれんを起こす「子癇(しかん)」発作と判断、けいれんを和らげる薬を投与する一方、同日午前1時50分ごろ、同県の産婦人科拠点施設・県立医大付属病院に受け入れを依頼したが、断られたという。

 付属病院と大淀病院の医師らが大阪府内などの病院に受け入れを打診したが拒否が続き、国立循環器病センターが応じた。高崎さんは同センターに同日午前6時ごろ到着、脳内出血と診断され、緊急手術で男児を出産したが、8月16日に死亡した。男児は元気だという。

 大淀病院の横沢一二三事務局長は「脳内出血を子癇発作と間違ったことは担当医が認めている」と話した。搬送が遅れたことについては「人員不足などを抱える今の病院のシステムでは、このような対応はやむを得なかった。補償も視野に遺族と話していきたい」としている。

 実香さんの夫で会社員の晋輔さん(24)は「病院側は一生懸命やったと言うが、現場にいた家族はそうは感じていない」と話した。生まれた長男は奏太ちゃんと名付けられた。実香さんと2人で考えた名前だったという。

読売新聞 2006年10月17日

出産で意識不明、18病院受け入れ断る…1週間後死亡

 奈良県大淀町立大淀病院で8月、出産の際に意識不明になった同県五條市の妊婦について、受け入れを打診された18病院が断り、約6時間後、60キロ離れた大阪府吹田市内の病院に搬送されていたことが、明らかになった。妊婦は脳内出血で緊急手術を受け、帝王切開で男児を出産したものの、約1週間後に死亡した。

 大淀病院などによると、妊婦は高崎実香さん(当時32歳)で、高崎さんは8月7日に入院。8日午前0時ごろ、頭痛を訴えて意識不明になった。産科担当医が、同県立医大付属病院、県立奈良病院に受け入れを要請したが、いずれも満床。その後、同付属病院の当直医が電話で搬送先を探し、大淀病院で待機していた高崎さんは約6時間後、吹田市の国立循環器病センターに収容された。

 大淀病院は、容体が急変した際、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)の妊婦が分娩(ぶんべん)中にけいれんを起こす「子癇(しかん)発作」と判断、脳出血の治療などはしていなかった。原育史院長は「結果として判断ミスがあった」と話している。夫の晋輔さん(24)は「実香が意識を失っても、大淀病院の主治医は『単なる失神でしょう』と言って仮眠をとっていた。命を助けようという行動は一切見えなかった」と訴えている。

毎日新聞 2006年10月20日

奈良妊婦死亡:搬送先探し、診断不正確で遅れか

 奈良県大淀町立大淀病院で意識不明となった妊婦が搬送先の大阪府内の病院で死亡した問題で、同県立医科大病院(橿原市)から搬送先を探すよう求められた府立母子保健総合医療センター(同府和泉市)が、府内の7病院に受け入れを拒否されていたことがわかった。同センターには、妊婦が子癇(しかん)発作であると伝えられたため、それに対応できる病院を探したと証言している。同センターは「脳内出血と正確に診断されていれば、別の病院に打診し、もっと早く搬送先が見つかったはず」と指摘。大淀病院で「脳内出血」と診断されなかったことが、転送先の決定を遅らせた可能性がさらに強まった。

 この問題では、県立医大病院を含め、少なくとも奈良県内で2カ所、大阪府内で17カ所の計19病院が受け入れを拒否。これまで県立医大病院が大半の病院に打診したとみられていたが、一部を同センターが担っていたことになる。

 同センターの末原則幸・産科部長によると、8月8日午前2時半ごろ、大淀病院の依頼で搬送先を探していた県立医大病院から受け入れ打診の電話があった。「頭痛があり、子癇発作らしい」との内容だったが、脳内出血の可能性を示す症状の説明は一切なかった。同センターは満床だったため、要請を断った。

 医大病院から「一緒に探してほしい」と求められたため、府内で受け入れ先を探した。しかし、満床や人手不足などの理由で7病院に拒否され、同4時半ごろになって、国立循環器病センター(同府吹田市)に決まった。妊婦は同6時ごろ到着し緊急手術を受けたが、8日後に死亡した。

 大淀病院は、妊婦を子癇発作と診断した。しかし、専門家によると、子癇発作は、けいれんの後に脳内出血を起こすことがあるが、脳内出血の場合、一般的に頭痛の後に意識がなくなり、けいれんする。妊婦は頭痛を訴えた後に意識不明に陥り、けいれんを起こした。

 大淀病院では内科医が、脳内出血かどうかを診断できるCT(コンピューター断層撮影)の必要性を主張したが、産科担当医が受け入れなかったという。

 末原部長は「脳内出血で母親の命が危ないと分かっていれば、産科より救命救急センター、大学病院を中心に搬送依頼した。搬送先が決まるまで待つ時間があるなら、CTを撮る時間もあったのではないか」と指摘している。

朝日新聞 2006年10月20日

意識消失の妊婦、1時間以上放置 奈良・町立大淀病院

 奈良県大淀町の町立大淀病院で8月、分娩(ぶんべん)中に重体となった妊婦(当時32)が県内外の19病院に搬送を断られ、出産後に脳内出血で死亡した問題で、妊婦は意識を失った後、約1時間20分も治療を受けずに放置されていたことが、朝日新聞が入手した同病院の看護記録でわかった。主治医らは単なる失神と判断し、病床を離れていた。その後の激しいけいれんについても、主治医は妊娠中毒症患者が起こしやすい「子癇(しかん)」と診断。瞳孔の拡大など子癇とは異なる症状も出たが、脳を検査しなかったという。

 看護記録は、助産師が作成した分娩経過記録(パルトグラム)と看護日誌。それらによると、妊婦は出産予定日が過ぎた8月7日午前に入院したが、翌8日午前0時、「こめかみが痛い」と訴えて嘔吐(おうと)し、約15分後、「意識消失」した。当直の内科医が診察し、「失神でしょう」。主治医もその意見に従い、妊婦のそばを離れたとされる。

 だが、午前1時37分、妊婦は意識が戻らないまま手足が棒のように硬く突っ張る「強直性のけいれん」を起こし、「瞳孔開大」となった。駆けつけた主治医は、子癇発作に有効とされる薬剤を投与。緊急の帝王切開をするため、搬送先の病院を探し始めた。

 同4時半、妊婦は「呼吸困難」となり、酸素を送り込むための「挿管開始」。20分後、救急車で大阪府吹田市の国立循環器病センターに向けて搬送されたという。

 この看護記録を見た日本産科婦人科学会の専門医は「意識を失った患者には医師が付き添い、原因を調べなければならない。けいれんが起きるまで1時間以上放置したのは信じられない行為」と驚く。

 さらに、「子癇の場合、妊婦のケースとは逆に瞳孔が狭まる傾向があり、手足が大きく震えるけいれんが伴う」と主治医の診断に疑問を呈し、「子癇と違う症状が出た時点で脳疾患を強く疑うべきだった。けいれんが収まった時点でCT(コンピューター断層撮影)検査ができたし、その時点で脳内出血が判明していれば、ここまで受け入れが拒否される事態にはならなかったのではないか」と指摘する。

 妊婦の死後、遺族が主治医に、再び病床に戻るまでの1時間余、何をしていたのかを尋ねたところ、「仮眠室で寝ていました」と告げられたという。

 大淀病院の横沢一二三(ひふみ)事務局長は「警察の捜査の関係もあり、現段階ではコメントできない」と話した。

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