日本航空整理解雇から考える
日本航空について書くのは随分久しぶりですが、次のニュースが出発点です。
しんぶん赤旗 2月9日 “業績上は整理解雇不要だが更生計画は反故にできない”
JAL会長稲盛氏が、日本記者クラブでの2月8日昼食会で、会長就任から1年の取り組みについて
2011年2月8日 12:00〜 14:00 10階ホール 日本航空の稲盛和夫会長講演
日経の三宅記者の質問は、この動画の1時間3分を経過した所から始まり、それに対する稲森氏の回答は1時間8分経過付近で終了します。
1) 発言内容
しんぶん赤旗が報道している通りでした。
「会社業績は日を追うごとによくなっている。160人を残すことが経営上不可能かといえば、そうではない。しかし、金融機関、債権者、裁判所などに約束した(日本航空の)『更生計画』を1年もたたないうちに反故にしてしまうことはできない。過去、日本航空は約束を守ってこなかったから、倒産したのである。合計16,000人を解雇するという自分が就任する前に作られていた再建計画に基づき、ほぼこれに近い方々に別会社に移動することを含め、人員削減を実施してきた。」
2) 解雇権
日経三宅記者は、日本の解雇制度が厳しすぎて企業が解雇をできず、その結果が新卒者の就職難や若年労働者の雇用機会の減少につながっているのではないかと稲森氏の意見を求めていました。現実に解雇を実施している日本航空経営者への質問です。
雇用者に解雇権がないかと言えば、当然あります。なお、他の権利と同様で濫用してはなりません。
(注)「濫用」とは、「乱用」ではありません。権利の「乱用」とは、認められない権利を行使することであり、権利の「濫用」とは、権利としては存在するが、他の権利を侵害することになったり、みだりに行使することは許されず、権利行使にあたり代替案を含め十分な検討と努力をした上で行使すべき権利を、安易に行使することです。
そこで、濫用にあたるかどうか考えると、次の報道にある労働組合の主張の通りであれば、濫用に思えます。計画より業績がよいのに、何故計画通りに解雇する必要があるのかと思います。
47ニュース 2月4日 日航解雇で労組がILO申し立て 十分な協議せず、と
ILOに是正勧告を求め、1月には解雇無効を東京地裁に提訴したとのことですが、ILOや東京地裁の判断を待ちたいと思います。
なお、2010年11月26日に京都地裁で整理解雇が権利の濫用にあたるとして整理解雇の無効が判断された判決がありますので、リンクを掲げておきます。
平成22年11月26日 京都地方裁判所 地位確認等請求事件 判決 判決文
3) 雇用
雇用は大きなテーマです。もっと事由に解雇を実施できるのが、本来の姿かも知れません。しかし、雇用を単純に、その雇用に関わる雇用主・会社と労働者の問題のみで考えることは適切でないと考えます。日本は、終身雇用の世界であったし、実は未だ終身雇用的な状態が日本社会に続いていると思います。ある先進国の会社を訪れた時、応対してくれた人に、それまでの仕事の実績等を尋ねたことがあります。その人は、その会社のモロ競争相手に数年前まで勤めていたとのことでした。自分の能力を精一杯高く売りつける社会では、よくあることです。日本だったら、企業機密が競争相手に渡ると心配するでしょうね。しかし、そもそも、自分が身につけたKnow-Howと企業に属する情報とは、それほどスッキリと区別できないはずです。
政府は、平成23年度税制改正案で、雇用を増やした企業に対する法人税の優遇措置なんてのを出していますが、どんな効果があるのだろうかと思います。例えば、農林業の労働人口が高齢化すると同時に減少している。労働マーケットがゆがんできているように思います。政治家だけの責任ではありませんが、一方で法や政府政策が果たす役割は大きいと思います。雇用マーケット、労働マーケットを進化・発展させていくことを考えることは重要と思います。
| 固定リンク
コメント