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2011年4月16日 (土)

原子力災害賠償法と農業損害

次の主張が全国農業新聞にあった。

全国農業新聞 4月15日 原子力損害賠償 農家一人残らず補償を

当然、補償はされるべきです。しかし、「民民の枠組」と言ってしまうと、支持を失うと私は思いました。東京電力が、法令通りに建設し、運転しており、法令においても想定されていなかった高さの津波により事故となったとすると、「民民の枠組」という概念で、説得力があるか、正しいか疑問を持つ。

日本の農業の将来を考えれば、多くの人に支持や賛同を得られる主張をすべきです。日本振興銀行の預金は、預金保険で保護されました。農業への福島原発被害についても、預金保険の適用はなくても、社会的に重要であるから保護されるべきと考えます。農業は、食料を供給する産業であり、安全で安心できる農産物を国民に供給してきた。今後とも国民はそれを期待します。

報告書が出ていないので、何も言えないのですが、法令の要求以上の必要性についても東京電力は検討すべきであったと思います。しかし、法令の要求以上のことを実施する義務があったのか、今回の津波が法令の義務を遵守していても防げなかったとしたら、そのことについて損害賠償の成立範囲はどうなるか。

しかし、実際には、原子力損害の賠償に関する法律(原子力損害賠償法)が適用され、このような議論はありえません。重要なのは、次の第3条により、過失がなくても賠償責任があるとしている無過失責任であること。そして、但し書きにより、「異常に巨大な天災地変」については、この限りではないとしている。なお、「この限りではない。」について、「責任がない。」を意味すると、私は解釈しません。しかし、東日本大震災は、やはり「異常に巨大な天災地変」に該当すると考えます。

第3条 原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない

このような不思議な法律が制定されたいきさつについて、国会議事録から質疑を紹介します。

1) 昭和35年5月17日 衆議院-科学技術振興対策特別委

この委員会で、原子力損害賠償法が最初に審議された。当時の科学技術庁長官中曽根康弘氏による法案の説明です。(アンダーラインは、ブログ主による

以下、本法律案の内容につきまして、その重要な点を御説明申し上げます。
 第一に、この法律の目的は、原子炉の運転、核燃料物質の加工、使用及び再処理等の行為を行なうことによって、方々一放射能等、原子力による被害を第三者に与えました場合、その損害の賠償に関する基本的制度を定めて、被害者の保護に遺憾なきを期することにより住民の不安を除去し、同時に、原子力事業者に損害賠償措置を講じさせることにより原子万事業経営の基盤を安定化し、原子力事業の健全な発達に寄与しようとするものであります。
 第二に、原子力事業者の賠償責任につきましては、民法の不法行為責任の特例として無過失責任とし、かつ、原子力事業者に責任を集中することといたしたのであります無過失責任といたしましたのは、原子力の分野においては、未知の要素が含まれるという実情にかんがみ、原子力損害の発生について故意、過失の存在しない場合も考えられ、また、かりにこれらの要件が存在するといたしましても、その立証は事実上不可能と認められるからであり、一方、近代科学の所産である危険を内包する事業を営む者は、よって生ずる損害については故意、過失の有無を問わず責任を負うべしとして無過失責任を課している各国の例に徹しても妥当であると考えられるからであります。また、原子力事業が広範な産業の頂点に立つ総合産業でありますだけに、損害発生時における責任の帰属が不明確になる場合が予想されるのであります。それでは被害者の保護に欠けるばかりでなく、原子力事業に対する資材、役務等の供給が円滑を欠き、事業そのものの発達が阻害されることとなるおそれが強い点もあわせ考慮して責任の集中を行なったのであります。従ってまた、損害の発生が資材、役務の供給に原因するような場合にありましても、原子力事業者の求償権は原則としてこれらの者に故意がある場合に限って行使できるものとしたのであります。ただし、異常に巨大な天災地変等によって損害が生じた場合まで、原子力事業者に賠償責任を負わせますことは公平を失することとなりますので、このような不可抗力性の特に強い特別の場合に限り、事業者を免責することといたしたのであります。
 第三に、損害賠償のための一定の措置を講じない限り、原子炉の運転等を行なわせないこととし、損害賠償責任を担保するための措置を原子万事業者に強制することといたしたのであります。この措置は、原子力損害賠償責任保険にかけるか、または供託をするか、あるいはこれらに相当するその他の方法により、一事業所または一工場当たり五十億円(注)を損害賠償に充てることができるようにしなければならないものであります。ただし、教育用の小型原子炉等、大規模の損害の発生が予想されないものにつきましては、その規模内容に応じてこの金額を引き下げることといたしておるのであります。
 第四に、現在の原子力損害賠償責任保険につきましては、その大半を外国保険市場の再保険に依存しているのでありますが、一定の事由、たとえば日本における地震、正常運転等による損害は外国保険業者がこれに応じないという実情にあるため、保険のみをもってしては賠償責任の全部はカバーしきれない場合があるのであります。このような場合における損害賠償の履行を確保するため、政府といたしましては、原子力損害賠償補償契約を原子力事業者との間に締結し、被害者の保護の完全を期することといたしたのであります。なお、この補償契約の詳細につきましては、さらに検討の上、別に法律をもって定めることといたしておるのであります。
 第五に、ただいま申し上げましたように、五十億円までの損害賠償につきましては完璧を期待し得るのでありますが、五十億円をこえる損害がかりに生じた場合いかにこれに対処するかという問題が残るわけであります。政府といたしましては、このような場合はまずあり得ないと考えておりますが、万々一このような事態に至りました場合は、被害者の保護と原子力事業の健全な発達をはかるというこの法律案の目的を達成するため必要と認められますときは、国会の議決により、政府に属させられた権限の範囲内において、原子力事業者に対し、賠償に必要な援助を行なうことといたしたのであります。また、原子力損害が異常に巨大な天災地変等によって生じたため原子力事業者が損害賠償の責任を負わないような場合におきましても、政府は、原子力損害の被災者の救助や被害の拡大防止のために必要な措置を講ずるものとして、住民の不安に対処することとしているのであります。
 さらに、原子力損害に関する国民的関心、損害、の特殊性等にかんがみ、万々一相当規模の原子力損害が発生いたしましたような場合には、わが国原子力政策の帰趨にもかかる問題でありますので、国家的規模において、すなわち、国民の代表たる国会の意思が十分反映されるような形態で処理されるのが適当であろうと考えるものであります。このため、政府は、相当規模の原子力損害が生じました場合には、できる限りすみやかに損害の状況及びこの法律に基づき政府のとりました措置を国会に報告するものといたしたのであります。また、原子力損害が生じました際、専門的立場から、原子力委員会が損害の処理、損害の防止等につき内閣総理大臣に意見書を提出いたしましたときは、政府は、当該意見書を国会に提出しなければならないものといたしたのであります。
 第六に、原子力損害の賠償につき紛争が生じました場合、その迅速な処理をはかり、被害者の保護に資するため、紛争に関し和解の仲介及びそのための損害の調査評価を行なう特別の機関として、原子力損害賠償紛争審査会を必要に応じ設置するものといたしたのであります。
 第七に、原子力損害につきまして国の特別の措置を講じておりますゆえんのものは、その未知の要素に基づく不安を除くところにその一半の理由があるわけでありまして、今後研究が進み、未知の点が究明されるに従い、国による特別の措置の必要性は減少する方向にあると言えるのであります。アメリカ、西ドイツ等におきましても、国の措置は一応十年程度としている点も参考とし、この法律案におきましても、国の補償契約及び事業者に対する援助措置につきましては、現段階において、一応今後十年に限るものといたしたわけであります。
 以上が原子力損害の賠償に関する法律案の提案の理由並びに要旨であります。何とぞ慎重御審議の上御賛成あらんことをお願いいたします。

(注) 50億円は、現在1200億円に改正されています。

2) 昭和35年5月18日 衆議院-科学技術振興対策特別委

翌日の委員会です。前田正夫委員(自民)の質問が、2011年を見越していたみたいです。

前田(正)委員 ・・・・それから、次に問題となりますのは、第二条の原子力の損害であります。原子力の損害というものは、これは今後非常に広範な問題が予想されるのでありまして、たとえば、もしも災害が起こった場合の放射能の影響する範囲というようなことから退避命令を出すとか、あるいは近所に放射能の汚染を受けたために野菜類とか魚介類の損害も出るとか、こういうようなものが出た場合は、前にもマグロの漁船が補償を受けたようなものもあるようでありますが、そういうような例から見て、こういうような広範にわたったものは全部原子力損害の中に入っておるのかどうか、これを一つ御答弁を願いたいと思います

少し、答弁を飛ばすこととなるが、次のように、明解です。

・・・・・・
○佐々木(義)政府委員
 事故が発生した場合の退避の際に要した費用等に関しましては、もちろん、相当因果関係を持っている場合には賠償額の中に入りますが、ただいま御指摘になりました、いわゆる原子力損害とは何ぞやという損害そのものの定義の中には、そういう費用は入っていないというふうに解釈しております。

○前田(正)委員 そうすると、損害の中には入ってないけれども、補償の中には、民法の相当因果関係の範囲のものは全部入る、こう解釈していいわけですか。

○佐々木(義)政府委員 その通りでございます。

蛇足であるが、岡良一委員(社会党)が、日英動力協定について言及しているので、その部分を書いておきます。原子炉の運転等に係る原子力事業者に責任を集中している法律ですが、その背景の一つとして、例えば原子炉供給者と燃料供給者について、この法律が制定される前に免責としています。当時、日本原子力発電の東海一号用コールダーホール原発を英国GECから輸入することとしたのです。

○岡委員 ・・・・それから奥村政務次号に特にこの機会にお願いをしておきたいのですが、大蔵大臣にぜひ私は御出席を願いたいと思う。特に昨年、日英動力協定の際、私は大蔵大臣にこの点についても若干質疑をいたしました。私の記憶によると――記憶というよりも、こういう問答があったわけです。あの日英動力協定では、英国側から買った炉については、万一事故が起こっても英国は責任をとらない、こういうように政府と政府との門で英国側を免責しておる以上は――しかも、日英交渉の議事録を見ると、向こう側ははっきり議事録の中で言っておる。原子炉の燃料については、万一にも瑕疵があると災害が起こり、それは予想すべからざる大きなものになるのである。だが、英国側は、これに対して完全であることを努力するが、しかし責任は持てませんよと言っておる。そういう交渉の過程であの免責条項ができておる。だから、政府と政府との間で、責任を持たないでよろしいといって日英動力協定を結んだ。そこで今度は、日本の方でその炉を受け入れたということになると、万一事故が起こった場合、政府としても政治的な責任があるのではないか、だから、国は万一の場合に補償するのかという点を、私は大蔵大臣に御出席を願ってるる申し上げた。そのときの大蔵大臣の御答弁は、どの程度のものが災害として起こってくるのかというようなことについては、まだ何の資料もない。であるから、もっと具体的に数字が固まる段階にくれば、政府としてもやはり明確な態度を申し上げられるのだが、今のところ、入れるか入れないか、協約を結ぼうという段階だから、まだはっきりしたことは言えないかというような御答弁であった。しかし、こうした法律の上で、先ほど中曽根長官の御答弁を聞いておると、原子力事業者は、一応保険なら保険で、政府との補償契約で五十億までは損害賠償をやる、あとは国が援助するということになると、そしてどの程度のものが予想されるかという数字が出てくれば、政府としてもやはりそれについての補償の限界もあろうし、またその態度もあろうと思うので、大蔵大臣にぜひ御出席を願って、その際はっきりとした御答弁を伺いたいと思います。そういう点でぜひ一つ大蔵大臣の御出席を、これは委員長もぜひお取り計らい願いたい、そう思います。

原子力は、国家のエネルギー政策の一環として推進されてきた。当然、それに伴うリスクも、付随していた。一部分のみを取りだして、都合よく扱おうとしても、原子力とは、そのようなことができないお化けみたいなものであると思います。

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