原子力災害賠償法と農業損害
次の主張が全国農業新聞にあった。
全国農業新聞 4月15日 原子力損害賠償 農家一人残らず補償を
当然、補償はされるべきです。しかし、「民民の枠組」と言ってしまうと、支持を失うと私は思いました。東京電力が、法令通りに建設し、運転しており、法令においても想定されていなかった高さの津波により事故となったとすると、「民民の枠組」という概念で、説得力があるか、正しいか疑問を持つ。
日本の農業の将来を考えれば、多くの人に支持や賛同を得られる主張をすべきです。日本振興銀行の預金は、預金保険で保護されました。農業への福島原発被害についても、預金保険の適用はなくても、社会的に重要であるから保護されるべきと考えます。農業は、食料を供給する産業であり、安全で安心できる農産物を国民に供給してきた。今後とも国民はそれを期待します。
報告書が出ていないので、何も言えないのですが、法令の要求以上の必要性についても東京電力は検討すべきであったと思います。しかし、法令の要求以上のことを実施する義務があったのか、今回の津波が法令の義務を遵守していても防げなかったとしたら、そのことについて損害賠償の成立範囲はどうなるか。
しかし、実際には、原子力損害の賠償に関する法律(原子力損害賠償法)が適用され、このような議論はありえません。重要なのは、次の第3条により、過失がなくても賠償責任があるとしている無過失責任であること。そして、但し書きにより、「異常に巨大な天災地変」については、この限りではないとしている。なお、「この限りではない。」について、「責任がない。」を意味すると、私は解釈しません。しかし、東日本大震災は、やはり「異常に巨大な天災地変」に該当すると考えます。
第3条 原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない |
このような不思議な法律が制定されたいきさつについて、国会議事録から質疑を紹介します。
1) 昭和35年5月17日 衆議院-科学技術振興対策特別委
この委員会で、原子力損害賠償法が最初に審議された。当時の科学技術庁長官中曽根康弘氏による法案の説明です。(アンダーラインは、ブログ主による)
以下、本法律案の内容につきまして、その重要な点を御説明申し上げます。 (注) 50億円は、現在1200億円に改正されています。 |
2) 昭和35年5月18日 衆議院-科学技術振興対策特別委
翌日の委員会です。前田正夫委員(自民)の質問が、2011年を見越していたみたいです。
前田(正)委員 ・・・・それから、次に問題となりますのは、第二条の原子力の損害であります。原子力の損害というものは、これは今後非常に広範な問題が予想されるのでありまして、たとえば、もしも災害が起こった場合の放射能の影響する範囲というようなことから退避命令を出すとか、あるいは近所に放射能の汚染を受けたために野菜類とか魚介類の損害も出るとか、こういうようなものが出た場合は、前にもマグロの漁船が補償を受けたようなものもあるようでありますが、そういうような例から見て、こういうような広範にわたったものは全部原子力損害の中に入っておるのかどうか、これを一つ御答弁を願いたいと思います |
少し、答弁を飛ばすこととなるが、次のように、明解です。
・・・・・・ ○佐々木(義)政府委員 事故が発生した場合の退避の際に要した費用等に関しましては、もちろん、相当因果関係を持っている場合には賠償額の中に入りますが、ただいま御指摘になりました、いわゆる原子力損害とは何ぞやという損害そのものの定義の中には、そういう費用は入っていないというふうに解釈しております。 ○前田(正)委員 そうすると、損害の中には入ってないけれども、補償の中には、民法の相当因果関係の範囲のものは全部入る、こう解釈していいわけですか。 ○佐々木(義)政府委員 その通りでございます。 |
蛇足であるが、岡良一委員(社会党)が、日英動力協定について言及しているので、その部分を書いておきます。原子炉の運転等に係る原子力事業者に責任を集中している法律ですが、その背景の一つとして、例えば原子炉供給者と燃料供給者について、この法律が制定される前に免責としています。当時、日本原子力発電の東海一号用コールダーホール原発を英国GECから輸入することとしたのです。
○岡委員 ・・・・それから奥村政務次号に特にこの機会にお願いをしておきたいのですが、大蔵大臣にぜひ私は御出席を願いたいと思う。特に昨年、日英動力協定の際、私は大蔵大臣にこの点についても若干質疑をいたしました。私の記憶によると――記憶というよりも、こういう問答があったわけです。あの日英動力協定では、英国側から買った炉については、万一事故が起こっても英国は責任をとらない、こういうように政府と政府との門で英国側を免責しておる以上は――しかも、日英交渉の議事録を見ると、向こう側ははっきり議事録の中で言っておる。原子炉の燃料については、万一にも瑕疵があると災害が起こり、それは予想すべからざる大きなものになるのである。だが、英国側は、これに対して完全であることを努力するが、しかし責任は持てませんよと言っておる。そういう交渉の過程であの免責条項ができておる。だから、政府と政府との間で、責任を持たないでよろしいといって日英動力協定を結んだ。そこで今度は、日本の方でその炉を受け入れたということになると、万一事故が起こった場合、政府としても政治的な責任があるのではないか、だから、国は万一の場合に補償するのかという点を、私は大蔵大臣に御出席を願ってるる申し上げた。そのときの大蔵大臣の御答弁は、どの程度のものが災害として起こってくるのかというようなことについては、まだ何の資料もない。であるから、もっと具体的に数字が固まる段階にくれば、政府としてもやはり明確な態度を申し上げられるのだが、今のところ、入れるか入れないか、協約を結ぼうという段階だから、まだはっきりしたことは言えないかというような御答弁であった。しかし、こうした法律の上で、先ほど中曽根長官の御答弁を聞いておると、原子力事業者は、一応保険なら保険で、政府との補償契約で五十億までは損害賠償をやる、あとは国が援助するということになると、そしてどの程度のものが予想されるかという数字が出てくれば、政府としてもやはりそれについての補償の限界もあろうし、またその態度もあろうと思うので、大蔵大臣にぜひ御出席を願って、その際はっきりとした御答弁を伺いたいと思います。そういう点でぜひ一つ大蔵大臣の御出席を、これは委員長もぜひお取り計らい願いたい、そう思います。 |
原子力は、国家のエネルギー政策の一環として推進されてきた。当然、それに伴うリスクも、付随していた。一部分のみを取りだして、都合よく扱おうとしても、原子力とは、そのようなことができないお化けみたいなものであると思います。
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