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2011年7月17日 (日)

橋下知事、最高裁で、勝ったのか、負けたのか

7月15日の最高裁判決で、広島の弁護士4人が訴えた橋下徹に対する損害賠償請求が棄却されたので、損害賠償はなくなり、勝ったと言えるが、そう単純ではないと思いました。日経の記事と最高裁判決を掲げます。

日経 7月15日 橋下知事が逆転勝訴 弁護団への懲戒請求発言で最高裁

平成23年07月15日 最高裁判所第二小法廷 判決 (全文

要約すると、日経の記事の「同小法廷は橋下知事の発言を「配慮を欠いた軽率な行為」としながらも、懲戒請求の呼びかけによって「被告弁護団側の弁護士業務に多大な支障が生じたとまではいえず、その精神的苦痛が受忍限度を超えるとはまでは言い難い」と結論付けた。」で、正しいと思います。

判決文を読む際の固有名詞

時間があれば、判決文を読むのが、一番正しく理解する方法なので、お奨めしますが、判決文を読む際に、次の固有名詞をあてはめて読むと、頭に入りやすいと思います。(下の引用では、置き換えた文章としている。)

第1審被告: 橋下徹

第1審原告: 光市事件の第2次控訴審弁護団(22名)のうちの弁護士4名(広島弁護士会所属)

以下、私の感想です。

1) 表現の自由と賠償義務

判決文の13ページに「表現の自由という憲法的価値を考慮してもなお金銭で償わなければならないほどの損害が生じたといえるかどうかということによってその違法性の有無が決せられるというべきである」と書いてあります。違法性の有無は、即ち、賠償義務の有無と考える。表現の自由は重要であり、全ての人に、誰にでも認められるべきである。

どこで線を引くべきかは、難しいが、名誉毀損が簡単に成立するのは、問題であると思う。その面で、この判決は、国民の表現の自由についての権利を重要視した判決と思う。

2) 須藤正彦裁判官補足意見

須藤正彦裁判官の補足意見に次の文章がある。(アンダーラインは、ブログ主による。)

特に,橋下徹は弁護士であって,専門家として,上記の自律的懲戒制度の元来の趣旨や懲戒請求が刑事弁護活動の当否につき多数なされた場合の由々しき影響などを慮るべき立場にあったのだから,懲戒請求の勧奨をテレビで不特定多数の視聴者に向かって行うようなことは差し控えるべきであったというべきである。ところが,第1審被告は,本件弁護活動に関する重要な情報を有しないままに,高視聴率のテレビ番組における視聴者に向かって,「何万何十万っていう形で」とか,「1万2万とか10万とか,この番組見てる人が」懲戒請求かけたら「弁護士会のほうとしても処分出さないわけにはいかないですよ」などと述べて,懲戒請求は安直になし得,かつ,あたかも多数の懲戒請求がなされれば弁護士会によって懲戒処分がなされるものと受け取られかねない外観を呈する発言をもって,一斉に弁護士会に懲戒請求することを呼び掛けたのである。以上よりすると,本件テレビ番組が,放談形式でのもので,気楽な面があり,その内容が重視される程度はより小さいとの性格を有していることを考慮しても,本件呼び掛け行為は,不適切さを免れない

本件は,弁護士同士の相互論争としての性格も否めず,その点からすると,弁護士会,日本弁護士連合会の自治,自律の下での内部処理に委ねられるべき(国家権力に頼るには適しない)側面もあろう(なお,橋下徹の発言につき,その所属の大阪弁護士会が同人を懲戒したことは官報をもって公告され(弁護士法64条の6第3項),当裁判所に顕著な事実である。)。以上のとおり,橋下徹の発言の趣旨,態様は不適切なものであることは免れ難いが,反面において,弁護士4名が侵害された人格的利益は必ずしも重大なものとはいえないと認められる。そうすると,橋下徹の本件発言中の呼び掛け部分が表現行為の一環としての側面を有していること,表現の自由が憲法的価値であり,民主主義社会の基盤をなすことなども考慮すれば,やや微妙な面があることは否定し難いものの,弁護士4名が害された人格的利益は受忍限度を超えたとまでいうのは困難であるというべきである。」

刑事被告人の弁護士とは、多くの場合、被害者からすれば、弁護活動のほとんど(or 全て)が受け入れられないものかも知れない。光市事件では、事件の残忍性もあり、マスコミが被害者の母子の遺族側に立った報道のみを続け、犯罪者・少年の不幸な生い立ちについては、ほとんど取り上げなかった。弁護士が、どうあるべきかは、やはり、非難・論難を受けようとも、正しい弁護活動を弁護士として行うことであると思う。

3) 弁護士会の懲戒処分

損害賠償は、認められなかったが、弁護士会の懲戒処分は、確定しています。

広島弁護士会は、判決文にあるように、平成20年3月18日、懲戒請求があった弁護士4名を懲戒しない旨の決定をした。

そして、大阪弁護士会は、2010年9月17日 日経 橋下知事に弁護士業務2カ月停止処分 懲戒請求呼びかけ問題でにあるように、橋下徹を懲戒処分にしています。理由は、平成2007年5月27日に放送された讀賣テレビ放送株式会社制作に係る「たかじんのそこまで言って委員会」での発言で、この裁判の原因行為・発言と同じです。

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コメント

なっとくいきません。 損害賠償訴訟ですから、損害賠償は合法かの判断となったのでしょうが。 刑事弁護の存在に関しては、踏み込んでいないようにも受けます。

投稿: omizo | 2011年7月28日 (木) 21時10分

omizoさん

いつもコメントをありがとうございます。

橋下知事の、TV番組での問題の発言については、広島の弁護士4人の方々も刑事事件として告訴されていないと私は理解しています。名誉毀損罪や侮辱罪は、親告罪であり、民事の損害賠償で応じておられると理解します。

世間が極悪人と思っている人を刑事裁判で弁護活動をするのは、やはり報道されると弁護士まで悪人と人々に思われてしまう。しかし、同業の弁護士なら、その任務の重要性や苦労を理解して欲しい。同業者が、軽々と批判などするのは、とんでもないとの思いになって当然だろうと私は思います。

この最高裁判決は、言論の自由を広範囲に認めたと理解します。我々だって、つい、人を非難しがちですから。私も、ブログで、そうなっているかも知れないな。

投稿: ある経営コンサルタント | 2011年7月29日 (金) 15時20分

この件の本質は、恐らく引用されている補足意見に尽くされていると思います。弁護士として決してやって良い行為とは言えないが、さりとて表現の自由の大切さを考えると民事賠償をすんなり認めるわけにもいかない。だから補足意見で言うべきことを言った、というところでしょうか。
しかしこの配慮や趣旨は橋下氏には伝わらない、いや彼は伝わらなかった「ふり」をして、これまでと同じようにふるまうでしょうね。大阪市長選に鞍替え出馬して惨敗すればいいんですが、どうでしょうか。
この手の大衆扇動型の「政治屋」さんに、関西広域連合の一員として居座られると、隣に住む県民としては迷惑極まりないのですが。

投稿: john | 2011年7月30日 (土) 23時20分

johnさん
コメントありがとうございます。

大阪府議会は、大衆扇動型の「政治屋」さんが引っ張る大阪維新の会が府議会の過半数を得て、強行採決やら、何やら、めちゃ大変みたいですな~!隣の県にまで、及びつつあるのですね。

私は、一方で、この判決について、報道のタイトルでは特に「橋下氏逆転勝利」のような表現が目立っていると感じるし、テレビは、補足意見のような部分を、時間的制限もあるでしょうが、伝えていない。そのようなことを残念に思います。

投稿: ある経営コンサルタント | 2011年7月30日 (土) 23時37分

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