« 原子力安全・保安院とプルサーマル問題 | トップページ | 長崎原爆を製造した原発 »

2011年8月 4日 (木)

原子力損害賠償支援機構法の今後について

8月3日の参議院で、原子力損害賠償支援機構法が可決・成立した。

日経 8月3日 原発賠償支援法が成立 機構設立や国の責任を明記

成立した法律は、衆議院東日本大震災復興特別委員会での7月26日修正議決の通りであり、この修正案は、民主党・無所属クラブ、自由民主党・無所属の会、公明党及びたちあがれ日本の四派共同提案でなされたので、今回の参議院での可決・成立は当然のことではある。

しかし、一件落着ではなく、やっとスタートすることができたのであり、むしろこれから先が重要と考える次第です。

1) 東京電力の賠償責任

賠償責任は当然あると思うし、その義務は今回の原子力損害賠償支援機構法が成立したことによっても、何ら変わりはなく、東京電力は賠償責任から逃れられないと考える。

但し、7月31日の原子力安全・保安院とプルサーマル問題で書いたプルサーマル方針を含め原子力政策は日本の国家エネルギー政策として進めていた政策であり、電力会社はその実施・実行部隊という形が認められると考える。沖縄電力以外の9電力会社の全てが原子力発電所を保有しているが、それは横並びで保有したと考えるより、政府の原子力政策の下で、政府指導により原子力発電設備を保有したというのが実態であると思う。

沖縄電力については、本島でも発電設備合計は(電源開発の発電所を含め)200万kW強で、原子力を設置するには小さすぎる。四国電力や北陸電力の、それぞれの発電設備は、合計700万kWと800万kWと、それほど大きくはない。しかし、60Hz圏内で送電線がつながり相互融通・送配電が可能であるので、原子力を保有することが不合理とは言えないであろう。しかし、電力自由化前の地域独占制度においては、今以上に多くの許認可権を政府が握っていたことから、電力会社にとっては、政府と摩擦を起こすより、国策に従い原子力発電所の建設に尽力することが、経営政策としても、やはり当然のことであったと考える。

事故から5月近く経過し、被害も複雑化している。牛肉セシウム汚染問題は、飼料であった稲藁が原因と言われている。稲藁のセシウム汚染は、予測が難しかったのかも知れないが、政府と東京電力とを比べれば、政府には農業・食料の部門もあり、警告を含め対策を講じることも可能であった。福島第一原子力発電所の事故があった当時の官房長官発言として、耳に残っているのが「一義的には東京電力が賠償責任を負う。」との発言や「直ちに影響はない。」との言葉である。政府(あるいは政権首脳)の責任逃れであり、国民の眼を東京電力に向け、政府の対応を遅らせることになったのではないかと思う。

今後は、政府が、前に出て、対応にあたって欲しいと思う。現実に放射性物質の除染という問題が今後の課題となる。どのレベルを基準とし、どのような方法で実施するかは、大きな課題である。除染により放射性物質が無くなる訳ではなく、下手をすると新たな汚染や被爆につながる危険性もある。情報や議論を公開し、国民が納得するように進めるべきである。除染で取り除いた放射性物質で新たな汚染を起こしては意味が無く、また除染作業で被爆する人が出てきてもならない。

2) 成立した原子力損害賠償支援機構法の内容

原子力損害賠償支援機構法の閣議決定法案はここにあり、その修正案はここにあります。原子力損害賠償支援機構なる法人が政府と9電力会社及び日本原子力発電による出資で設立される。(法には、政府及び政府以外の者が出資とあるが、政府以外としては、原発を保有する会社以外に考え難いと思う。

原子力事故が発生し、1200億円を超える損害賠償をする必要があると認められる事業者(東京電力)は、機構に対して、資金援助を申し込める。機構は、交付国債の償還を受ける形で、政府から資金援助を受けることができる。機構の収入は、9電力会社及び日本原子力発電並びに研究原子炉等の保有者から負担金の納付を受け、損害賠償資金を受領した事業者(東京電力)からは、特別負担金の納付を受ける。機構は、年1回(3月)の決算において、剰余金を生じた時は、交付国債の償還により受領した金額に至るまで、国庫納付をし、政府に対するこの実質借入金の返済を行う。

政府への国庫納付については、利息は書かれておらず、無利子と理解する。機構から東京電力への資金援助の返済は、特別納付金であり、その金額は「認定事業者に追加的に負担させることが相当な額として機構が事業年度ごとに運営委員会の議決を経て定める額」となっており、決め方によっては、どうにでもなると言える。9電力会社及び日本原子力発電が納付する負担金は、「機構が運営委員会の議決を経て定める額に負担金率を乗じた額」となるので、これからの話である。

3) 電気料金への影響

電気料金に跳ね返るのかと言えば、負担金の支払いがあり、当然の部分はある。しかし、幾らかは、非常に難しい面がある。また、他の要素もあり、複雑でもある。例えば、原発の定険後の運転再開に時間を要した場合、負担金の支払いコストより、稼働せずに資産が寝ていることに関連して要するコストの方が高いかも知れない。

言えることは、透明性のある情報開示が必要・重要なことである。また、多くの国民の声を聞くことである。公聴会も開催し、Webでも意見募集をする。ある意味では、政府が賠償をすることとほとんど変わりがない。政府による賠償であれば、税金からの支払であり、それが電気料金に変わっただけとするば、徴収方法と比例計算する対象が変わっただけである。

東京電力についても、特別負担金の額に相当する分、東京電力の電気料金が他社より高くなるのかである。比較して、高すぎれば、需要家は不満を持つ。この辺りのマーケット動向はどうなるのだろうか。

そして、やはり電力自由化を、推進すべきことである。原発を持たないPPSは、機構の負担金を分担しない。現在、送配電線は自由化されており、6000V以上かつ50kW以上は、誰からでも電気を購入することが可能であり、また電気料金の取り決めも全く自由である。この制度を推進すべきと言うか、拡大の障害となっていることがあれば、その解決に尽力すべきである。例えば、PPSが事故等により供給不可能となった場合に備え、その地域の一般電気事業者とバックアップ供給契約を締結せざるを得ない。そのバックアップ供給の料金は、経済産業省の認可制であったと思う。問題点を合理的に解決していけば、拡大につながるし、それでも拡大しないなら、既に充分合理的なはずである。

スマートグリッドも同様に推進すべきである。市場主義の取り込みを推進して、国民が納得できる制度になると思う。

4) 東京電力

東京電力自信、その株主、そして融資をしている銀行等の責任を問わずして、単に現状維持を図る法案であるとの批判が多かった。法令違反があった。あるいは、重大な過失があったという場合には、その責任は厳しく問われるべきである。福島第一原発事故は、事故があった場合に、その被害が、原発の場合は、非常に大きいと言うことを知らしめた事故と思う。皆ではないが、多くの関係者が油断していたのであり、単純に東京電力とすることで終わらせてはならないと思う。

東京電力の財務分析は、別途行いたいと思うが、現実には、2011年3月期に単体で1兆175億円の災害特別損失を計上し、繰延税金資産4046億円を取り崩し、1兆2585億円の当期純損失を計上した。結果、資本金9010億円で剰余金残高3638億円となった。機構から資金援助を受け、特別負担金の支払い義務を負っている状態で、株主への配当は、財務的にも困難と思う。巨額の機構からの資金援助を返済する前に、配当金の支払いは、簡単に許されないと思う。そう考えると、株主は否が応でも、ペナルティーを被ることとなる。

社債に関しては、電気事業法で保護されており、それを無視すれば全ての電力債がおかしくなると思う。福島と同じ事故は、他原発であっても、何らおかしくなく、リスクは同程度と思うから。銀行借入については、機構への特別負担金の支払い義務が存続する間、社債発行が困難とすれば、銀行借入に依存せざるを得ない。そうなると、返済免除はありえず、然るべき低利融資をと銀行に東京電力が依頼せざるを得ない。

経営者の責任については、しかるべく問われるであろうし、高報酬はあり得ないと思う。社員についての適切な処遇は必要と思う。東京電力の義務として、福島第一の安全な収束と管理は、どうしても残るし、維持しなければならない。福島以外の発電所での発電を含め、電力供給は必要である。そのための有能な人材は必要である。

しかし、東京電力の存続が絶対必要ということではない。第2東京電力ができても良いし、電力業界の再編があっても良いのである。重要なことは、日本の国民と産業に必要な電力を、最も合理的に供給する体制を築くことである。インフラとは、国民と産業に密接に関わっており、国民がその制度(料金制度を含め)構築に積極的に関われるようにすることが重要と考える。

5) 原子力体制

保安院を環境省へなんて驚くような案が出てきたりしているが、問題点や課題が何であるかを見極めて対応すべきである。私は、日本の制度では、政権与党の権力が強すぎて、情報開示を適切に行い、国民のための仕事をする制度・組織になっていないと思っている。内閣から独立した組織を作ることである。例えば、現状では、原子力委員会も原子力安全委員会も内閣府に設置され、首相を通じて勧告をする。内閣からは、独立し、国民と首相に対して、勧告するというのが本来の姿と思う。もし、経産省保安院に不正があれば、それについての発表や勧告があれば良いのである。

今後の日本における原子力発電は、どうすべきか、脱原発であるのか、その場合は、どのような展望、見通し、計画で実施するのかの検討が必要である。これらは、決して、電力会社の問題ではない。国民の問題である。電力会社は、国策(脱原発が国策かも知れない。)を推進する実施組織である。そう考えると、原子力発電については、各社から発電所を買取し、別会社を設立すべきではないかと考える。例えば、株式交換により、設立することも可能なはず。新原子力発電会社は、株式を上場し、もし必要なら、引き継いだ社債について政府保証を付ける。原子力発電を分離した方が、電力自由化も進むと思う。

原子力損害賠償支援機構法は、賠償を確実に実施するための法である。制度にまで、踏み込んではいない。制度は、国民に利益をもたらすように作るべきであり、今後検討が続けられていくべきと考える。

|

« 原子力安全・保安院とプルサーマル問題 | トップページ | 長崎原爆を製造した原発 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/200131/52392028

この記事へのトラックバック一覧です: 原子力損害賠償支援機構法の今後について:

« 原子力安全・保安院とプルサーマル問題 | トップページ | 長崎原爆を製造した原発 »