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2012年10月17日 (水)

味の素 厚年基金代行返上で277億円の利益計上

一つ前のブログ「AIJ浅川の驚くばかりの非人間性」で、厚生年金基金の悲劇を書いたのですが、こんどは喜ぶべきニュースでしょうか、味の素が厚生年金基金代行部分の返上で特別利益として277億円の代行返上益を計上するとの発表があった。

日経 10月15日 味の素、厚年基金代行返上で特別利益277億円 13年3月期

味の素 10月15日発表 厚生年金基金の代行部分(過去分)返上に関するお知らせ

(どうも喜ぶべきとは、必ずしも言えないようで・・・)

中小企業が集まって同業種で設立している総合型の厚生年金基金を初め、多くの厚生年金基金では代行返上をするに資金もなくて返上できず、給付債務に対して資産は増加せず、その結果として従業員に対する年金と退職一時金が将来支払い減額となるリスクが増加している。この厚生労働省の財政状況調査によると、平成11年度における全595基金の合計純資産額は17.6兆円であり、代行返上に必要な最低責任準備金14.8兆円を上回っているが、上乗せ部分を含めた給付に必要な最低積み立て基準額23.8兆円を下回っている。595基金のうち最低責任準備金以上の純資産を保有するのは382基金で、213基金は下回っている。上乗せ部分を含めた最低積み立て基準額では、これを上回っているのはたったの29基金である。なお、企業単独または企業グループで厚生年金基金を設立している大企業型は100基金であり、495基金は中小企業同業種が設立した総合型基金である。大企業はほとんどが代行返上をしたのである。

ところで、味の素については、2012年3月期の有価証券報告書(78ページ)の退職給付に関する注記を読むと多くのことが記載されている。

2012年3月末における年金資産は1844億円あり、退職給付引当金として630億円を計上している。年金資産は、法的に味の素から分離されており、貸借対照表の資産には含まれていないから2474億円の原資があることとなる。一方、代行返上に伴って政府に支払わねばならない最低責任準備金は3月末時点で228億円と記載されている。そして、3月末に代行返上した場合271億円の利益が見込めると書かれている。

味の素の退職給付制度は、確定給付型として厚生年金基金制度と退職一時金制度そして一部の連結子会社で確定給付型の制度と説明がある。従い、2474億円の原資は、代行返上する厚生年金のみならずその上乗せとなる企業年金並びに退職一時金もカバーしている。

しかし、228億円を払って、271億円の利益が計上できるというのは、不思議に思える。味の素の財務諸表は新日本監査法人の監査を受けており、退職給付に関する債権・債務も正しく計上されていると考える。何故なら債権・債務が正しいのであれば、(未認識数理計算上の差異と未認識過去勤務差異は別にして)キャッシュを動かしても損益には影響がないはずである。

多額の利益となる理由は、代行返上する場合の最低責任準備金の金額計算方式が企業会計の退職給付債務の金額計算と異なるからであると思う。企業会計の退職給付債務は、現役及び退職従業員の貸借対照日までに発生している将来の一時金及び年金を割り引き計算で算出した金額(給付現価方式の計算)である。一方、最低責任準備金は平成11年9月末時点の給付現価方式の金額に代行部分の保険料と厚生年金本体の実績値の利率で計算した利息を加算し、代行部分の支払い年金額を控除した金額に0.875をかけ算した金額です。平成111年財政再計算の結果、本来であれば保険料を引上げるべきであったが、経済環境に鑑みて平成12年法改正で保険料の引上げが凍結された結果と理解する。このような結果、最低責任準備金が企業会計の退職給付債務より低い金額であり、代行返上に伴い利益が生まれると思う。なお、実際の計算までチェックしておらず、2013年3月期の有価証券報告書を読めば、更に判明すると思う。

厚生年金基金が代行を返上せずに続けることは、厚生年金の報酬比例部分を、自らの責任で保険料徴収と年金給付を継続することであり、年金債務を給付現価方式であつかうことは正しいし、IFRSも米国基準も同じであり、国際的な基準である。もし、私の推測が正しく、277億円の利益(3月末時点では271億円の見込み)の発生原因が厚生年金の最低責任準備金の金額計算方式の違いから生じるのであれば、恐ろしいことと思う。何故なら、最低責任準備金の金額計算方式とは、政府が運用している厚生年金の報酬比例部分の資産額に相当するはずであり、国際基準で算定すれば、債務が倍増する危惧を持つ。そうであれば、日本は本当に政治が貧困な国であると思う。なお、それを政治家のみの責任として済ませて良いとは思わない。厚生労働省の審議会や有識者会議等のメンバーも同じであるし、公務員も同じ。そして最後は議員を選出している国民の責任であると思う。

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