前回のエントリー「自治体の保証債務」の最後にPFI病院について次に書くと言ったものですから、今回はPFI病院の倒産の恐れについて書きます。ニュースは次の朝日ですが、日経にもありました。但し、日経は既に記事が消えているので、朝日だけを掲げます。
朝日 1月20日 民間資本活用「PFI方式」の病院が経営難 滋賀
1) 倒産の恐れは本当か
近江八幡市は、近江八幡市PFI病院(近江八幡市立総合医療センター)の経営改善をはかるため、専門家や有識者等で構成されている「総合医療センターのあり方検討委員会」を昨年の12月4日にたちあげ、本年1月21日まで計3回の委員会を開催し、「総合医療センターのあり方に関する提言」(以下提言と呼びます。)が市長あてに提出され、それがWebに公開されています。ここにあります。
提言を読むと、もっと恐ろしいことが、書いてあります。即ち、PFI病院の倒産ではなく、近江八幡市が倒産(正確には、夕張市と同じように財政再生団体となる。)する可能性があるとかいてあります。
具体的には、提言の7ページの下の方です。
(何の対策も採らなければ、数年後に市は財政再生団体へ転落する恐れ)・・・・そして、平成23~25 年度にはこの資金不足額が約50~70 億円に膨らむと見込まれ、この金額の規模は近江八幡市が財政健全化法上の財政再生団体に転落する水準である。
2) 経営悪化の原因
近江八幡市民病院がPFI病院となったのは2006年10月です。PFI病院となるまでは、黒字の年もあったりで、自治体病院の中では、良い経営状態の病院であったのです。次の表を見るとよく分かりますが、平成18年度の前半が従来の市民病院で後半がPFI病院です。見事に、大赤字に転落しています。(提言20ページ、21ページ)
| 単位:百万円 |
平成16年度決算 |
平成17年度決算 |
平成18年度決算 |
平成19年度予算額 |
| 医業収益 |
7,417 |
7,620 |
7,548 |
8,673 |
| 医業費用 |
7,247 |
7,418 |
7,780 |
9,795 |
| 医業損益 |
171 |
202 |
-232 |
-1,122 |
| 医業外収入 |
165 |
201 |
836 |
782 |
| 医業外費用 |
459 |
392 |
742 |
1,036 |
| 経常損益 |
-123 |
11 |
-138 |
-1,376 |
| 年度未処理欠損金 |
-88 |
11 |
-299 |
-2,658 |
PFIになって、なぜ大赤字になったかは、平成17年度決算と平成19年度を比べると、医業費用が23億円以上増加しています。次の表を見てください。材料費のみ減っていますが、すごいのは経費で、15億円の増加です。次は、減価償却費の8億円です。
| 単位:百万円 |
平成16年度 |
平成17年度 |
平成18年度 |
平成19年度 |
平成17年度から平成19年度へ増加額 |
| 給与費 |
3,724 |
3,897 |
4,041 |
4,364 |
467 |
| 材料費 |
2,592 |
2,545 |
2,149 |
2,058 |
-487 |
| 経費 |
652 |
708 |
1,348 |
2,248 |
1,540 |
| 減価償却費 |
258 |
247 |
214 |
1,090 |
844 |
| 資産減耗費 |
3 |
1 |
8 |
8 |
7 |
| 研究研修費 |
18 |
19 |
20 |
26 |
6 |
| 合計 |
7,247 |
7,418 |
7,780 |
9,795 |
2,377 |
提言には、次のことが書かれています。
14ページ
総合医療センターがSPCに対して支払う対価のうち、新病院の施設整備費等の元本に係る支払金利相当額の負担が非常に重いものとなっている。その額は、PFI事業期間30 年間のトータルの施設整備費等約244 億円のうち、約99 億円が金利相当分である(元本は約145 億円)。この99 億円は、毎年数億円以上の医業外費用として病院の資金繰りに重くのしかかっている。
私が、逆算すると利子率3.75%です。但し、提言のこの文章のすぐ下に、「公的金融である地方債で借りていた場合、平成18 年度で約2%前後の金利」と書かれてあり、2%で計算すると年間1.7億円節約できます。30年間合計で50億円です。病院のような施設は、低利資金を使って、社会貢献するように建設すべきです。高利資金に絶対に手を出してはいけないにも拘わらず、禁じ手を使っています。その結果は、健康保険料を支払っている善良な人と、市民サービスが悪くなる近江八幡市民にしわ寄せが行くのです。(支払いの計算書を続きを読むに入れておきますので、興味のある人はごらんになって下さい。)
もう一つ、PFIの変なことをあげます。(アンダーラインは私が引きました。)
9ページ
病院側から委託職員側へ業務上の要望事項がある場合、病院から個々の委託業者へ直接要望することができず、一旦、委託業務を一括して契約しているSPCに対して要望を伝えなければいけない。これが病院と委託業者との直接的な委託関係であれば、病院側と委託側の現場責任者の話し合いで即解決できるという関係が一般的である。つまり総合医療センターでは病院と委託業者の間に、SPCという中間業者が介在することによって、指揮命令系統における手続きが一階層分余計に存在するということができる。
更に提言にある言葉を使って、文章を書くと、
「医療現場の仕事は、机上の事務仕事と違い常に患者さんという生身の人間と相対しながらリアルタイムで進行する仕事であり、業務運営上余計な手続きが増えるだけで、現場の効率性が著しく損なわれるという特徴を持っている。また、患者さんが感情を持った生身の人間である以上、その接遇においては十人十色の臨機応変な対応が必要であり、それらに必要とされる臨機応変な対応内容をすべて契約書の文言に規定することは不可能であるとともに、受託業者側が、契約文言にないことを理由に逐一対応を拒んでいては、円滑かつ効率的な病院運営は不可能である。」となります。
こんな病院には、入院したくないと思わせるような迫力があります。 「自治体の保証債務」の場合は、コンテナターミナルです。でも、これは医療です。医療崩壊と言われる中、誰が医療崩壊を促進しているか、よく考えてみる必要があると思います。
3) 責任問題
やはり、責任問題に触れざるを得ませんが、これも、提言から抜き出します。
4ページ
しかし、どのような組織でも経営悪化の責任は、普段から経営に関する実質的な意思決定を行うことのできる経営者にあるということは明らかであり、総合医療センターにおいても経営を悪化させたことで、職員に不安を与え医療の提供に影響を与えているとすれば、この責任は第一義的にはすべて経営者にあるといえる。
経営者とは誰でしょうか?院長ですか?私は、そうは思いません。院長は、PFIにするかどうかの決定には、ほとんど口を挟まなかったと想像します。おそらく、そんな権限は与えられていなかった。マックの店長の場合は、管理職ではないとの東京地裁の判決です。院長は、管理職であったでしょう。でも、経営者では、なかった。
何も考えずにPFIを採用したと書いてある部分を紹介します。
11ページ
PFI事業計画の資金面に関し参照できる十分な資料が得られなかったことから、資金収支計画が綿密に検討されたという事実を認めることはできなかった
12ページ
近江八幡市は、企業体の経営を行う当事者としての自覚と能力を欠いた状態で、PFI方式を前提とした新病院の建設を計画・実行したため、実際の経営を行ってはじめて病院の危機的な状況に気付いたとも考えられる。一部の職員は当初から病院経営計画の妥当性に疑問を抱いていた可能性があるが、PFI推進派に対する遠慮のために言い出せなかったという状況があったということが推測される。
4) 反省点
PFI業者を高利貸しとは言えないでしょう。PFI業者は、業者自身でリスクを計り、金額を見積もったでしょうから。言えることは、近江八幡市はあるゆる選択肢を検討し、最善と思える選択をしたのか、そして、その過程は公開し、市民の誰もが意見を述べるようにしたかだと思います。提言を読んでみると、全く行われていなかったとしか、私には読み取れませんでした。
その結果が、近江八幡市の倒産とこの病院の閉鎖であったなら、最高の悲劇を見ている気がします。 他に私が知っているPFI病院として高知医療センターというのがあります。病床数648床ですから、近江八幡市立総合医療センターの病床数407床の1.6倍です。しかし、高知医療センターがSPCに支払う金額は30年間で2132億円です。単純には比較できないのですが、近江八幡市立総合医療センターのざっと10倍なのでしょうか。(2132億円はこの書類の8ページ目の「3(1)PFI事業の概要」に書いてあります。)
政府や自治体が信じられないお金の使い方をしてしまう。国民や住民が、本当はそんな政治を望んでいないのに、欺されてしまうからでしょうか。
「民間にゆだねることが可能なものはできる限りこれにゆだねることが、より自由で活力ある経済社会の実現に資することにかんがみ」
と始まるのが、郵政民営化法第1条です。私は、間違っていると思います。本当は、
「政府・自治体その他公的機関が実施することが望ましいものは政府・自治体その他公的機関が実施し、民間が実施することが望ましいものは民間が実施し」
が正しいと思います。病院は、民間で実施することに問題はありません。しかし、僻地の場合、高度医療の場合、民間が採算やリスクの点から取り組めない医療の場合については、政府・自治体その他公的機関が実施すべきと私は考えます。
間違っていることが書いてある郵政民営化法が成立したのは、悲しいことです。郵政民営化法も「銀行業と生命保険業は、民間事業とする。」であれば、私も賛成です。
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