2023年3月12日 (日)

21世紀に入ってからは長期低落の日本経済

一つ前のブログ「税と社会保障の国民負担」(このブログ )で、日本の国民所得(NNI:Net National Income)はOECD統計によれば、OECD35カ国中24位であることを書きました。(OECD統計には、EU諸国とEuro諸国という分類もあるが、これらEU諸国とEuro諸国は除外しての順位です。)35カ国中24位とは、上位、中位、下位で分けたなら、下位グループの先頭と言うような感じです。

果たして今後中位から上位、さらには上位グループの先頭に並べるくらいに発展することができるのか、30年前の1990年からの国民所得の各国比較をしてみました。比較する対象は、税と社会保険料合計の比較をした9カ国としました。結果は、次のグラフの通りです。

Oecdnni20233a

一番上の突出しているラインは米国であり、1990年では10,000ドルに満たなかったが、順調に増加してきたのは韓国です。日本は、1990年の時点では悪くなかった。グラフを見ると2000年位までは悪くはなかった。2008年9月にリーマンショックがあったのですが、21世紀に入って日本経済はだんだんと低迷状態となり、リーマンショックではどの国も落ち込んだのであるが、日本はいよいよ落ち込んだ。その後、多少の回復はしたが、低迷は続き、イタリアより2013年-2015年は少し上であったが、2016年にはイタリアより下位となり、2017年には韓国に並ばれて、その後は9カ国中では最下位となっている。

失われた30年なる言葉があり、バブル崩壊後の1990年頃から現在までの約30年間を指すようであるが、実は2000年まではそれほど悪くはなかったと言える。実は2000年からの森内閣、小泉内閣の頃から日本経済は低迷したと言えるように思う。規制改革と言って、市場競争を取り入れるのは良いが、行きすぎた面があれば、成長を阻害する。社会として保護をして、発展に結びつけるような誘導策も必要ではなかったかと思う。日銀の異次元緩和も経済発展には寄与しなかったのではないか。種々の政策を各国の政策と比較し、日本の政策では取り込んでいないものは何か、取り込んでいたらどうなっていたか等を研究し、その研究成果が発表されることを期待したい。

103万円の壁とか130万円の壁と言う言葉を耳にすることが多い。収入を得ても、税と社会保険料を支払わなくて済むという奇妙な特権を残していては、日本社会の経済発展を阻害すると思える。これが正しいとは誰も思わないはずが、存続を希望する人がいると報道されている。誰が、利益を得ているのか?パート労働の女性だと思うかも知れないが、実は低賃金労働により利益を得ている産業が最大の受益者であると思う。一方、日本経済全体で考えてみれば、低付加価値産業から高付加価値産業への転換を阻害していると思う。その結果が、国民所得低位低迷になっている一因と言える気がする。調査・研究をした報告を待ちたいと思う。

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2023年2月 4日 (土)

映画 「生きる」 大川小学校 津波裁判を戦った人たち

大川小学校の津波裁判を戦った人たちについての上映時間124分の映画が公開されます。公開開始が最も早いのは、新宿K's cinemaで2月18日からです。

映画のHome Pageは、ここ です。

大川小学校では、2011年3月11日の津波により、児童は108名中74名、教員は13名中10名が死亡したと言う余りにも痛ましい災害が発生しました。

私も、ブログで2011年6月5日にこの記事、2015年3月9日にこの記事 、2021年3月28日にこの記事 を書きました。

遺族が、市と県に約23億円の損害賠償を求めた訴訟では、最高裁が2019年10月に、市と県の上告を退ける決定をし、市と県に約14億3600万円の支払いを命じた二審・仙台高裁判決が確定しています。(参考:日経記事 2019年10月11日 、仙台高裁判決文 )

映画に関して、東洋経済Onlineはこの記事を掲載しています。また、裁判で住民側の代理人を務められた吉岡和弘弁護士の弁護士ドットコムのインタビュー記事 2021年3月26日がここにあります。

マニュアルを自分自身の学校に合わせて、見直し・改訂をしないで又その時の災害状況に合わせて適切に対応しなかったことが原因と私は考えるのですが、一方で当然と思える見直し・改訂・適切な対応について実施できなかったのかを考えると、深い問題があるかも知れず、映画を作成された関係者の方々にお礼を申し上げたいと思います。

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2023年1月15日 (日)

OECDデータによる税の国際比較

税は重要である。そして、税について考える場合、税を他の国と比較することで、参考になる情報は多くある。

OECDの統計に、税に関する統計があり、この統計データを利用して、日本、米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、デンマークと韓国の9カ国の税収データについて比較を実施した。その結果をここに報告をしますので、参考にして頂ければと思います。

1) 一人あたりの税額

国の税収を人口で割った金額を米ドル換算して比べてみた。税収額であり、所得税のみならず全税目の税収合計です。更には県民税、市民税等等の地方税を含んでおり、社会保険料(年金や保険料(健康保険、介護保険、失業保険、労災保険等)も個人負担・企業負担を問わず法律で支払義務があるもの) も税としてOECD税収統計はあつかい、税と見做して統計に含めている。なお、OECDデータは各国の通貨建てであったので、為替レートと人口により一人宛あたりの米ドル額を計算して算出した。

9カ国の一人あたりの税額については、次の図1である。OECDの最新税収データは2020年であり、本エントリーでは2020年の税収を比較する。

Oecdtax2020a

図1で、日本の一人あたりの税額は13,195米ドルとなっている。2020年人口と米ドル・円の換算レートをかけていけば、2020年日本の税収額となるが、その結果は177兆3千億円となる。一方、令和5年度政府予算案一般会計の租税・印紙収入は69兆4400億円であある。177兆3千億円は2.5倍以上の金額である。177兆3千億円の内訳は、次の表2であり、財務省の租税収入には含まれない地方税と社会保険料がOECDの税収額には含まれていることがわかる。

次の表2が日本の2020年税収額OECDデータの税分類別内訳である。

Oecdtax2020b

2) 対GDP比による比較

GDPとは、付加価値額の総和であり、各国のGDPに対する税収額を見れば、その国の総平均税率のような指標となる。図3は2020年の対GDP比の各国比較であり、図4は2010年から2020年にかけての過去推移ならびに1990年と2000年のデータです。

Oecdtax2020c

Oecdtax2020d

3) 税目別税収の割合

図1、図3、図4において一人あたりの税収や税収総額のGDP比について比較を行ったが、次に税収に対しての税目の構成比を比較したのが次の図5である。税目は、表2で記載している税目大分類を使った。

Oecdtax2020e

図5を見ると、多くの国で社会保険料の割合が大きいと言える。各国の税目別税収をGDPに対する割合で示したのが、図6である。

Oecdtax2020f

基本的には図5と図6は同じであるが、国別の差は現れている。デンマークは、社会保険料がゼロに近い。しかし、年金等の政府による社会保険制度が存在しないのではなく、年金保険料の徴収がなく、一般財源から社会保障制度の給付を行っている。そのこともあり、所得税の負担はデンマークに於いては大きい。米国は、社会保険料負担が低いと言えるが、その理由には健康保険において民間保険制度を利用している企業・個人が多いからと理解する。

4) 社会保険料の10年間推移

社会保険料は図6に於いてピンク色線で表したが、2010年以後の年次推移を見てみたのが、次の図7である。

Oecdtax2020g

図7を見てもそうであるが、日本はフランス、ドイツ、イタリアと同じようなカテゴリーの国になるような印象を受けます。一方、図3の税収のGDP比からすると日本は33%であり、フランス45%、ドイツ38%、イタリア43%と比べて、日本は5%から12%低いと言える。税が高いことが良いことではないが、国債残高が大きいことは、いずれ税に跳ね返ってくる。国債とは国民の借金である。国の借金だとまやかしを述べている説がある。政府は、国民のために様々な機能により様々なサービスを提供している。税収がなければ、その機能を発揮できない。サービスを低下せざるを得ない。必要な適度な適切なサービスが政府から受けられるように政府を維持していかなくてはならない。そのための税であると私は考える。

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2022年12月17日 (土)

防衛費2.6倍がムードや雰囲気で決まってしまう気がする

日本の防衛に関する方針が閣議決定されている。重要なことなのだが、国民の間での、議論はできていないと確信するのである。

日経 12月16日 岸田首相「防衛力強化が外交の説得力に」 記者会見

岸田内閣総理大臣記者会見 令和4年12月16日

閣議決定したのは、来年度から5年間の防衛力整備計画における総額を約43兆円とし、現行計画の約27兆円の約1.6倍にするということである。ところで、令和4年度の防衛費と呼ばれる防衛省所管の支出予算は5兆3687億円である。このうち人件・糧食比が2兆1881億円で、物件費が3兆2915億円となっている。ところが、防衛力整備計画には、43兆円について「新たに必要となる事業に係る契約額(物件費)は、43 兆5,000 億円程度(維持整備等の事業効率化に資する契約の計画期間外の支払相当額を除く)」と書いてある。なお、12月16日閣議決定の中期防衛力整備計画はここにあります。

私の算数によれば、43 兆5,000 億円の5年間平均は8兆6000億円になり、3兆2915億円の何と2.6倍以上になるのである。そりょあ、無茶苦茶な国民に対する騙しだろうと言いたい。

日本国民の一致した信念は、平和主義であると確信する。即ち、対話を優先し、文は武よりも強しであり、武器・軍事力よりも強いものがある。ウクライナは、人口が自国の3.5倍もあるロシアと戦って負けてはいない。両国の軍事力が拮抗しているからでもなく、やはり外交戦略でウクライナが1枚上手であると言えると思う。

日本に対してウクライナの状況をあてはめるのは間違いであり、日本は日本の方針・戦略を持つべきである。第2次大戦でアジアを戦場に巻き込んだ日本であるが、逆にそれを踏まえて、同じ目線に立って平和戦略を考えることもできるはずである。武器に金を使うなら、その金の一部を周辺国や世界との平和追求のための組織作り支援に充てた方が、よほど平和に貢献すると考える。

このNHKニュース 12月15日は、「安全保障関連の文書をめぐって、有識者らで作るグループが抑止力に頼らない政策などを盛り込んだ提言を発表しました。」と報道している。この会議のYou Tubeが次のアドレスにあり、興味深い内容が語られている。

https://youtu.be/1xR6BinP1Ks

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2022年9月 2日 (金)

原子力発電に関する方針

NHKニュースが伝えたのは次でした。

NHKニュース 2022年8月25日 政府 原発7基 再稼働目指す方針確認 次世代の原子炉開発検討へ

この件について首相官邸のこのWeb Pageは、「総理は、本日の議論を踏まえ、次のように述べました。」として、以下の様に書いています。

電力需給ひっ迫という足元の危機克服のため、今年の冬のみならず今後数年間を見据えてあらゆる施策を総動員し不測の事態にも備えて万全を期していきます。特に、原子力発電所については、再稼働済み10機の稼働確保に加え、設置許可済みの原発再稼働に向け、国が前面に立ってあらゆる対応を採ってまいります。

官邸のWebだと10基の稼働であり、NHKによれば更に7基を加えた17基となっており、よくわからず、8月24日のGX実行会議のWebbがここにあり、資料1の12/27ページの記載によれば、①今冬までの最大9基の稼働確保並びにその次の②来夏・来冬からの高浜1・2、女川2、島根2の着実な再稼働、および柏崎・刈羽、東海第二の再稼働へ向けた取り組みが記載されている。

なお、最重要なことは、原発を稼働させる・運転するとするならば、現状で良いのか、どうすべきかをきちんと考えることである。

1 福島事故から学ぶべき事はないのか

福島事故からの教訓を生かすことなく、原発を再稼働だ、新設だと動くべきではない。

2011年3月の福島第一原発の事故の水素爆発を整理すると、次の表の通りである。

3月11日14時46分 地震発生
 13時37分 津波襲来 交流・直流の全電源喪失
 13時37分 1号機 冷却機能を喪失(全電源喪失と同時)
 3月12日15時36分 1号機 水素爆発
 3月13日 2時42分 3号機 バッテリー枯渇により冷却機能を喪失
 3月14日11時01分 3号機 水素爆発
 3月14日13時25分 2号機 冷却機能を喪失
 3月15日 6時14分 4号機建屋 3号機からの水素により爆発
 3月15日 午前 2号機 建屋外に放射性物質の飛散
出所:東京電力ホールディングス https://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/outline/2_1-j.html より

3回の水素爆発により放射性物質が福島原発より大量に大気中に排出された。1号機は、直流電源が全く使えず。2号機と3号機の直流電源はバッテリー枯渇まで利用できたので、枯渇まで冷却できた。

2 水素爆発は防ぎ得なかったのか

1号機は津波来襲と同時に冷却機能を喪失し、まっしぐらに水素爆発へと突き進んだ。果たして、防ぎ得たかであるが、直流電源(バッテリー)を直ちに用意することができてたならば、付け加えて電源車もと思う。1号機の冷却装置である非常用復水器は電動弁のため作動しなかったとのこと。もし、自衛隊が災害派遣でバッテリーを輸送していたならと思うが、どうなのだろうか?

いずれにせよ、事故対応が十分であったのか、そのことは原因究明のみならず、極めて重要である。事故対応について調査し、教訓はないか、研究すべきである。

3 原発の大事故対応については、特別な仕組みが必要と考える

ここに官房長官記者発表2011年3月12日午前がある。福島原発に関しては、「非常用炉心冷却装置による注水が不能な状態が続いておりますが」と述べているのだが、余り緊迫感はないと感じる。パニックを起こさないようにと、冷静に述べていることは理解できる。しかし、実際に起こったことは、上の表の通りである。3月11日14:46地震発生、15:37津波襲来そして1号機の冷却・注水・減圧機能の喪失、翌12日15:36水素爆発(1号機)となったのである。

このNEWSポストセブンの記事(2011.03.20)は、{保安院の中村幸一郎・審議官が、「(1号機の)炉心の中の燃料が溶けているとみてよい」と記者会見で明らかにした。ところが、菅首相は審議官の“更迭”を命じた。}と報じている。

安心・安全な原発は安全性が確認された原発であることのみならず、運転・管理する体制も重要なのである。事故が大規模な災害を招く原発のようなものは、民間企業に運営を任せることだけでは済まない。事故が発生すれば、お前の責任だと追及しても、その企業の負担能力を超える責任を追及しても意味は無い。国で責任を持つ。国とは国民である。運転は、民間企業が行うが、国のあるいは独立した有能な機関が事故の発生がないように監視をし、改善や使用禁止等を決定できるようにする。立法により仕組みを作り上げる。

考えれば、原発とは原爆とイコールである。譲っても、同等・同程度という位である。原発を進めるなら、原爆を監視するのと同程度の管理やケアが必要なのである。今回の岸田総理の発言を機会に、誇れる管理システムを構築していくべきである。審議官の“更迭”を命じる首相は、あの人には限らず、今後も出てくる可能性はある。変なのが首相になっても大丈夫な制度を構築しなければならない。

3 世界の原発

次の表は世界の原子力発電所である。2021年12月末現在400GW近い原発が存在し、56基で計58GWの原発が建設中である。福島の事故を経験した日本だからこそ、世界に向けて発信すべき事があると考える。使用済み核燃料のプルトニウム問題も極めて重要である。なお、原発を止めても、それまでの発電により発生したプルトニウムは存在するわけで、プルトニウムは、将来の原爆のために保有しましょうとはできないのである。

Nuclearplantworld202112

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2022年7月14日 (木)

参議院選挙終了、新しい資本主義へと向かうのか

7月10日の第26回参議院選挙は、自民63議席、公明13議席を獲得した。この与党合計76を、野党の獲得議席数49と比べると、与党獲得は60.8%である。衆議院では、自民261、公明32なので、63%が与党である。ちなみに、自民党議員のみを対象とした場合は、参議院48%、衆議院56%である。

岸田文雄首相は、議会での十分な多数を得ることができた。2021年6月に発表された新しい資本主義の グランドデザイン及び実行計画(これ )が、岸田首相が力を入れようとしている新しい資本主義の考え方と理解する。2ページ目の冒頭には、次の様に書いてある。

「課題を障害物としてではなく、エネルギー源と捉え、新たな官民連携によって社会的課題の解決を進め、それをエネルギーとして取り込むことによって、包摂的で新たな成長を図っていく。」

政府も国民も協力して日本経済・社会の多様性を担保しつつ、発展を図っていく。安定的な多数を得られた岸田首相は、新しい資本主義に向けて尽力をして欲しいと思う。官民連携の基本は、国民の意見を取り入れて国民のための政策を進めることであり、国民からの提案を受入れて政府政策を作り上げていくよういシステムを作り上げていくことと私は考える。間違っても、過去のバカな政権が言っていたような政治主導なんてことは絶対にすべきではない。

経済産業省が未来人材会議(このページ )というのを実施しており、5月31日に中間とりまとめを発表している。その11ページに次の表がある。

Talentattractj202207

次の図は、引用元のOECDのMeasuring and assessing talent attractiveness in OECD countries(https://doi.org/10.1787/b4e677ca-en)の図である。

Talentattractoecd202207

talent attractiveness「能力を活かすことができる魅力度」とでも言えば良いのでしょうか。就職活動をしていた時「何故女なのに収支を出たのだ?」なんて言われたと話してくれた女性がいました。日本の大学で修士を出た外国人女性がいましたが、日本で就職するかな、難しいだろうなと思っていたら、やはり米国で就職しました。勿論、米国人ではありません。2人とも何年も前の話です。親だとかの関係で日本を離れる事が難しい人もいるでしょうが、自分の能力を生かせ、やりたいことができるなら、魅力ある国で働きたいと思うのが当然です。日本人からも世界中の人からも働きたいと思える国にすること。極めて重要であり、そんな新しい資本主義の日本にしてもらいたい。自分も微力ながら、そのようにすべく努力したいと思います。

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2022年7月 3日 (日)

原子力発電をどう考えるべきか

1)最高裁6月17日判決

最高裁は、6月17日に東京電力福島第1原発事故の避難者らに対して国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を認めなかった。

判決文は、ここここにありますが、国会賠償とは、どのような場合に認められるのか、考えさせられる。1条1項の条文は「公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは」となっており、曖昧である。福島第1原発の被害者補償は、政府が東京電力に資金を供与し、その資金で避難者・被害者補償を行うという方法が採られている。裁判で争っても、被害者が東電に加えて国からも賠償金を受け取れるとは考えにくいと思う。金額が十分かという金額面については、別次元のこととする。

菅野博之裁判官は、補足意見として次の様に述べておられる部分がある。

私は、基本的には、原子力発電は、リスクもあるものの、エネルギー政策、科学技術振興政策等のため必要なものとして、国を挙げて推進したものであって、各電力会社は、いわばその国策に従い、関係法令(「原子力基本法」、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」、「電気事業法」、「発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令」等)の下、発電用原子炉の設置の許可を受け、国の定める諸基準に従って原子力発電所を建設し、発電用原子炉を維持していたのであるから、本件事故のような大規模な災害が生じた場合は、電力会社以上に国がその結果を引き受けるべきであり、本来は、国が、過失の有無等に関係なく、被害者の救済における最大の責任を担うべきと考える。国策として、法令の下で原子力発電事業が行われてきた以上、これによる大規模災害については、被害者となってしまった特定の人達にのみ負担をしわ寄せするのではなく、損失補償の考え方に準じ、国が補償の任を担うべきであり、それは結局、電力の受益者であって国の実体をなす我々国民が広く補償を分担することになると考える。
だからこそ、これに近い仕組みとして、原子力損害の賠償に関する法律が設けられており、原子力損害については、・・・

私もこのような考えである。原子力発電所とは原爆の兄弟・姉妹である。核分裂という全く同じ物理現象を利用する。核分裂とは熱エネルギーと放射線を発する放射性物質を生み出す。極めて危険であり、人に有害な反応である。しかし、莫大なエネルギーが取り出せることから、核分裂反応をうまくコントロールし、放射性物質を閉じ込めることができれば魅力的というか、莫大な富をもたらす可能性がある。

原子力発電所を建設し、運転して、電力を得るかどうかは、人間が決めれば良い。危険として、やめるのか。やるなら、どのようにしてコントロールしつつやるのかである。やるばあいは、規制について強制力を持ってやらねば恐ろしい。有効な法の下で実施する必要があると考えれば、法を制定できる国単位での実施しかないだろうと思う。

2)原発に関する最近の国際動向

世界的な温室効果ガス排出削減への動きに加えて、ロシアによるウクライナ侵略以後高まったオイル・ガス供給不安により原発建設が脚光を浴びつつあると思っている。日本であまり報道されなかったと思うが、岸田総理がロンドンで5月5日に行った基調講演で、原発について次の様に述べている部分がある。(首相官邸のこのページ

「喫緊の課題である気候変動問題に加え、世界全体でのエネルギーの脱ロシアに貢献するためにも、再エネに加え、安全を確保した原子炉の有効活用を図ります。」

原発の世界的な見直し動向に対して、日本がどうしてもしなければいけないことがあると思う。それは、福島第一原発で放射性物質の拡散を防ぐことができなかったのかである。津波で非常用電源が壊れた。しかし、緊急で電源を準備できなかったのかである。もし、かくかくしかじかのことを実施していれば、シナリオは、どう変わっていたのか。折角福島原発事故による放射性物質拡散を経験したのである。日本しか実施できない研究であると思う。

3)参議院選挙での各党の原発政策

参議院選挙での各党の原発政策を見てみた結果である。

自由民主党

政策パンフレット

“脱炭素”を成長の起爆剤にする(13ページ)

安全が確認された原子力の最大限の活用を図ります。

立憲民主党

政策を知る

環境・エネルギー

原子力発電所の新増設は認めません。廃炉作業を国の管理下に置いて実施する体制を構築します。

公明党

マニフェスト2022

経済の成長と雇用・所得の拡大(33ページ)

原子力発電に関する取り組みについては、国民の理解と協力を得ることが大前提であり、説明会などを通じた情報提供・公開の徹底等を図りつつ、国が責任を持って進めます。

日本維新の会

日本維新の会維新八策1.基本政策2021

原子力政策(22ページ)

小型高速炉など次世代原子炉の研究を強化・継続します。

日本共産党

2022年参議院選挙政策

(4)気候危機の打開――原発即時ゼロ、石炭火力からの撤退。純国産の再エネ(14ページ)

即時原発ゼロ、石炭火力からの計画的撤退をすすめ、2030年度に原発と石炭火力の発電量はゼロとします。

国民民主党

政策パンフレット

4 自分の国は自分で守る(12ページ)

法令に基づく安全基準を満たした原子力発電所は再稼働するとともに、次世代炉等へのリプレース(建て替え)を行います。

原子力についての政策のみで投票先を決める人は少ないと思う。また、原発なんて、政治家が口を出してはいけない分野であるとも思う。しかし、法律の関与なしの野放し状態で進めることはできない。原子力とはプロメテウスの火である。なくなりはしないのだろうな。そう考えると、バカには関与させたくない。これからの政治・民主主義においては、正しい意見を尊重する議員を選出すると同時に、そのような人を育て、且つ役所や企業に於いても、そのような人が活躍する社会を築いていかねばならないと思う。

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2022年3月 4日 (金)

原子力発電所が外国の軍隊に占拠される

ロシア軍がウクライナの原発を占拠なんて、考えてもみなかった。

Bloomberg 3月4日 ロシア軍がザポロジエ原発を占拠、ウクライナはIAEAに支援要請

原発をテロリストが襲撃することは、あり得るとして、日本の原発でも計画をしていたはずである。外国の軍隊が占拠するなんて、思いも寄らなかった。軍隊とは、独立国が独立国として存続するための機関であり、理性も働いていると考える。でも、考えれば、今回のロシアのウクライナ侵攻に際して、プーチンはナチスという言葉を発していたことがある。自分のことを意味してではなかったが、翻れば、今のプーチンはヒットラーの様な狂気に駆られているように思える。

何故原発を占拠したか、このNHKニュース は「電力施設を握って電力を止めるなどして市民生活に影響を与えることで、ウクライナ軍の戦力、ウクライナ政府の戦意をそぐことにつながります。」と言っているが、発電を停止し、ウクライナを停電と電力不足に陥れることはできるが、そんなことに加えて放射性物質をウクライナはおろかモルドバ、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリー、スロバキア、ポーランドなんて地域にも放射性物質が降り注ぐと脅かしているのだろうか。ザポリージャ原発の位置は47.511117427528056N, 34.58536185087585Eです。ザポリージャ原発からルーマニアのブカレストまでは740km、モルドバのキシニョフまでは440km、ポーランドのワルシャワまでは1000kmです。

原発をどう考えるべきか、本当はない方が、良いんでしょうが、現在世界の33カ国で稼働している。運転を中止しても、放射性物質を安全な状態に管理し続ける必要がある。複雑な原発である。核兵器はいけないが、核の平和利用(原発)は良いことであり、推進するなんて、単純には行かない。しかし、核共有の検討なんて、キチガイじみたことを発言した元バカ首相がいるから世界は驚きであるが。人間が管理することが困難な領域が拡大しつつあるのだろうか?むしろ、管理について考えが及んでいなかった分野が存在するということと理解する。

昨年10月11日に世界の原子力発電というブログ を書いた。その中の世界の国毎の原子力発電所の表を再掲する。ウクライナは世界で7番目(日本は12番目)の原発大国であり、原発が供給電力の51%を占める。

Worldnuclearplant2022

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2021年12月14日 (火)

真珠湾攻撃から80年

80年前の12月8日午前7時に「大本営陸海軍部、12月8日午前6時発表。帝国陸海軍は、本8日未明、西太平洋においてアメリカ、イギリス軍と戦闘状態に入れり。」とNHKの臨時ニュースが伝えた。

米英軍と日本軍の衝突が偶発的に発生したとのニュアンスが読み取れてしまうが、実際にはだまし討ちと非難されても、反論できない軍事行動であった。

1)真珠湾攻撃の時間

第一次攻撃隊の真珠湾到着時間は現地時間12月7日午前7時55分であった。日本時間では12月8日午前3時25分であり、米国東部時間(首都ワシントン時間)では12月7日午後1時25分である。

2)日本政府の文書(覚書)交付時間

文書に書かれている内容については、3)で述べるので、日本(大使館)から米国(国務長官)への文書交付時間について記載する。外務省から在首都ワシントン大使館に文書を伝達したのは12月6日の電報901号、902号であった。長文のため、電報を打ち終わったのは7日午後4時(米国東部7日午前2時)であった。

外務省から更に要求としてタイピスト等は使わず、機密保持に慎重を期すようにと要求(電報904号、7日午後5時30分発)があった。更には、外務省より電報907号で12月7日午後1時に国務長官宛てに大使から直接手渡しをするようにと指示があった。

Yake Law School Lillian Goldmad Law Libraryのこの資料 によれば、12月7日午後1時に国務長官への面会アポイントを申し入れた。調整結果と思うが、時間は1時45分となった。野村大使と来栖大使が到着したのは、2時5分。会談の開始は2時20分であった。

1時25分に真珠湾攻撃が始まったのであるから、文書の交付は、約1時間の後であった。外交交渉継続中に軍事攻撃を開始したのであるから、だまし討ちである。

3)交付した文書

日本政府は対米覚書と呼んでおり、外務省が12月6日に電報902号で英文を送っているのであるが、そのタイトルは”MEMORANDUM”である。

そして文書の中身に宣戦を布告するなんてことも書いていない。日米交渉を打ち切ると述べているだけである。当時日本で権力を持っていた連中は非常識きわまりない連中だったようである。文書もだまし文書である。

なお、この覚書(MEMORANDUM)は、Yale Schoolの資料にもあるが、ここ にも置いておいた。文書中に長々と説明が続くが、交渉打ち切りの宣言は最終節であり、参考に次に記す。

仍テ帝国政府ハ茲ニ合衆国政府ノ態度ニ鑑ミ今後交渉ヲ継続スルモ妥結ニ達スルヲ得スト認ムルノ外ナキ旨ヲ合衆国政府ニ通告スルヲ遺憾トスルモノナリ
<参考>よって日本政府は合衆国政府の態度を鑑みるに、今後も交渉を継続し妥結に達すると考えることはできないと遺憾ながら通告する。

The Japanese Government regrets to have to notify hereby the American Government that in view of the attitude of the American Government it cannot but consider that it is impossible to reach an agreement through further negotiations.

史料は、特に記載ないのは、すべて外務省 日本外交文書デジタルコレクション からである。

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2021年12月13日 (月)

立憲民主党、日本維新の会、国民民主党がガソリン価格値下げバラマキ法案を提出

恐ろしいものであります。減税による年間1兆円を越えるバラマキをする法案を提出したというのです。

立憲民主党 12月7日発表   日本維新の会 法案提出のお知らせ 12月6日

日本維新の会の発表に国民民主党共同でとあるので、2党の内容は同一です。3党同一かというと、立憲民主党案は「別に法律で決める日までの間、適用を停止」としており、維新と国民は完全に削除としている点が違いである。

1)何を適用停止し、削除するのか

次の「東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律」の44条です。

第四十四条 租税特別措置法第八十九条の規定は、東日本大震災の復旧及び復興の状況等を勘案し別に法律で定める日までの間、その適用を停止する。

そこで、租税特別措置法第89条を読む必要が出てくる。

第89条 前条の規定の適用がある場合において、平成22年1月以後の連続する3月における各月の揮発油の平均小売価格がいずれも一リットルにつき160円を超えることとなつたときは、財務大臣は、速やかに、その旨を告示するものとし、当該告示の日の属する月の翌月の初日以後に揮発油の製造場から移出され、又は保税地域から引き取られる揮発油に係る揮発油税及び地方揮発油税については、同条の規定の適用を停止する。

前条の規定とは、
2 前項の規定により前条の規定の適用が停止されている場合において、平成二十二年四月以後の連続する三月における各月の揮発油の平均小売価格がいずれも一リットルにつき百三十円を下回ることとなつたときは、財務大臣は、速やかに、その旨を告示するものとし、当該告示の日の属する月の翌月の初日以後に揮発油の製造場から移出され、又は保税地域から引き取られる揮発油に係る揮発油税及び地方揮発油税については、同項の規定にかかわらず、同条の規定を適用する。

極めて読み辛いのですが、トリガー条項と呼ばれており、ガソリンの平均小売り価格が3カ月連続で 160 円/ℓ を超えた場合、揮発油税を 53.8円/ℓ から 25.1 円/ℓを下げ、そして、停止後に3カ月連続でガソリンの平均価格が130円/ℓを下回った場合には、この措置を解除するというもの。

揮発油税の税収は年間2兆円強であり、3党は減収見込み1兆690億円と述べている。

2)税金を使ってガソリン価格を引き下げる意味があるのか

ガソリン価格が上がっているのは、原油価格が上がっているからです。下にある上のチャートは2017年1月以降の原油価格で、その下のチャートは11月10日以降の原油価格です。ニューヨークWTI Crudeですが、80ドルを超えていた価格も、70ドル強になっている。将来のことは、よく分からないが、マーケットに対してLong-Shortのビジネスをするのは、政府としてはしてはならないことである。まして、国民の税金でばくちをするのは、許されないことです。

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さて、国内のガソリン価格はというと、次の通り。2019年1月からのレギュラーガソリンの小売価格全国平均です。

Gasolineprice202112_20211213005102

車に関しては、政策として取り組むべき課題が多い。例えば、道路や橋、トンネル等の老朽化対策がある。災害強靱化と言う取り組みも重要である。或いは、過疎化地域、地方においても一定のインフラ整備は必要である。例えば、地方においてガソリンスタンドが減少しており、車の給油に苦労する。或いは、暖房用の燃料確保も苦労するようになってきている。また、CO2排出削減を達成するには、ガソリンの消費削減が重要である。これに対する全く逆の政策であり、本来ならEVの為の急速充電ステーション整備のための調査や計画そして補助金が検討されるべきと思うが、逆行も甚だしい。

日本にはバカ政党がいるのだと思った。なお、OECD諸国のガソリン税の比較がこの財務省のサイト にあるが、日本のガソリン税は安いのである。

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