130万円の壁とは、国民年金3号被保険者制度に関する壁である。 保険料を支払わずに、年金を受給できるのは、何かおかしいと感じてしまうが、これは普通の感覚と思う。 経済同友会と連合も、第3号被保険者制度の廃止を求めるとこの日経記事 は伝えており、社会保障制度は働き方や生き方に対して中立的であるべきとの考え方に私も賛成です。
本ブログ記事では、多面的な分析を行い、ともすれば複雑と思える年金制度について正しく分析を行い、私の意見を伝えると共に、読んで考えていただく際の正確な情報提供の役目も負うべきと考えた結果、長文のブログ記事となってしまいました。 そこで、目次を作成し、少しでも読み易くと思い、各目次へのリンクを張りました。 また、ブログ中の全ての図表は、クリックで別窓表示されます。
1 まえがき
1-1) 国民年金3号被保険者とは
1-2) 3号被保険者の特権
2 日本の公的年金
2-1) 日本の公的年金の概要
2-2) 現制度においての1号、2号、3号の年金受取額の比較計算
2-2-1) 支払う必要がある保険料
2-2-2) 受け取れる年金額
2-3) 日本の公的年金制度の財政・収支の概要
2-4) 基礎年金、基礎年金拠出金、国庫補助金(国庫負担金)について
2-4-1) 国民年金1号被保険者に対する国庫補助
2-4-2) 厚生年金被保険者と3号被保険者に対する国庫補助
2-5) 年金給付
2-5-1) 基礎年金の給付について
2-5-2) 厚生年金(報酬比例部分)の給付について
2-6) 年金積立金
3 3号被保険者制度について
3-1) 3号被保険者の実質保険料負担者
3-2) 3号被保険者制度導入時と現在の比較
3-3) 3号被保険者世帯と共稼ぎ世帯の年金額の比較
3-4) 3号被保険者制度による悪影響
3-5) 働き方の選択肢は個人にある
3-6) 経済成長・発展の阻害
3-7) 年金受給者の視点
3-8) 3号被保険者制度の再構築について
4 更に進む少子高齢化への対応
1 まえがき
1-1) 国民年金3号被保険者とは
国民年金は、国民年金法により定められた公的年金であり、政府が管掌し、国民の老齢、障害又は死亡に関して給付される。 国民年金法において、1号、2号、3号の3種類の被保険者がある。 1号被保険者とは2号又は3号でない20歳から60歳未満の者であり、2号とは厚生年金保険(公務員共済組合等を含む)の被保険者であり、3号とは2号の配偶者であって且つ2号被保険者の収入により生計を維持する者である。
企業であれ個人事業主であれ雇用されている場合は、2号被保険者に該当し、2号被保険者の配偶者であり、その配偶者が被扶養配偶者であり、被保険者の収入により生計を維持している場合には、その配偶者は3号被保険者となる。
[注] 厚生年金法は、4種類の被保険者を定めている。 1号は1号厚生年金被保険者、2号は国家公務員共済組合の組合員たる厚生年金保険の被保険者、3号は地方公務員共済組合の組合員たる被保険者、4号は私立学校教職員共済制度の加入者たる被保険者である。 本記事に於いては、特に断らない限り、厚生年金保険1号から4号加入者を全て厚生年金加入者として区分する。 国民年金法に1、2,3号があり、また厚生年金法に1、2、3,4号があり、混乱しそうですが。
本ブログ記事においては、単に1号、2号、3号と記述する場合は、国民年金法の1、2、3号を指すこととする。
1-2) 3号被保険者の特権
3号被保険者であれば、保険料を支払わなくて、65歳から年金を受け取れる。 年金だけではなく、医療保険も保険料を支払わずとも、3割負担で済む。
3号被保険者制度を良しとするか、どうかは社会・国民が、この3号被保険者制度を支持するかどうかであり、3号被保険者制度について、以下に分析と検討を行っていきたい。なお、3号被保険者制度を考える場合、公的年金制度全体についても考える必要はあり、可能な限り広範囲に検討を行うこととする。
2 日本の公的年金
2-1) 日本の公的年金の概要
国民年金法と厚生年金法が、日本の公的年金制度について定めている法律である。 国民年金法88条は「被保険者は、保険料を納付しなければならない。 」と定め、厚生年金法82条1項は「被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料の半額を負担する。 」とし、さらに82条2項で「事業主は、その使用する被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負う。 」との定めにより、保険料の被保険者と雇用主の50%づつの負担としている。 なお、国民年金と厚生年金の保険料を二重納付する必要はなく、国民年金法94条の6において、2号被保険者または3号被保険者である期間については、国民年金の保険料納付の必要はないとしている。
2-2) 現制度においての1号、2号、3号の年金受取額の比較計算
2-2-1) 支払う必要がある保険料
1号(国民年金)の場合は、月額16,980円の保険料を毎月支払わねばならない。 夫婦だと33,960円である。 2号の厚生年金保険の場合は、毎月の給与と賞与に18.3%を掛けた金額が保険料である。 なお、保険料は雇用主と50%づつの負担であることから、個人負担は9.15%となる。 3号は、負担ゼロである。
但し、国民年金の場合、保険料免除の制度がある。 扶養親族がおらず、前年所得が67万円以下であれば、保険料全額が申請により免除される。 78万円~158万円の範囲内であれば、3/4、2/4、1/4の納付免除が受けられる。 また、扶養親族の数により免除条件は緩和される。 なお、生活保護受給者の場合には、納付義務はない。
2-2-2) 受け取れる年金額
受給できる年金は、1号、2号、3号共通の基礎年金816千円(年額)、と2号のみが受給できる老齢厚生年金の報酬比例部分がある。 基礎年金は、20歳以降60歳までの加入年数が40年より短ければ、期間に応じて減額され、1号、2号、3号のいずれであれ共通で、加入していた期間は加入年数に通算となる。 3号被保険者は、保険料を負担しないが、基礎年金を受給でき、その受給額の計算においては3号被保険者の期間は保険料を納付したとして算出される。
2号被保険者(厚生年金)が、基礎年金に加えて受給できる老齢厚生年金(報酬比例部分)は、被保険者であった期間中に受けとった給料・ボーナス(報酬額)の合計額に対する比例計算となる。
参考として、2号(厚生年金)と1号(国民年金)の場合の年金保険料と受取額の試算予想を表1として掲げる。 3号被保険者の受取年金額は、1号被保険者と同一である。 なお、3号被保険者であっても、過去の期間に1号や2号であったこともあり得るし、2号被保険の場合でも、転職等により一時的に1号であった期間もあり得る。

国民年金(1号被保険者)の場合は、20歳加入で60歳まで払い続け、65歳から86歳まで年金受給を受けたとすると、年金受給総額は払込保険料総額の2.1倍になる計算である。
厚生年金の場合は、保険料負担がパーセンテージ(現行18.3%)であり、受給する年金は基礎年金(国民年金と同額)と老齢厚生年金(報酬比例部分)の合計である。 更に、保険料は雇用主との折半であることから、被保険者(労働者)の観点から損得勘定を考えれば、表1の右端の欄(隠れているので、表をクリック下さい)のように保険料負担に対して年金受給予想額のリターン率は大きくなる。(また、低賃金ほどリターン率は大きくなる。) 投資のリターン率(Internal Rate of Return)で評価すると、年率で国民年金は2.1%、厚生年金の場合は被保険者観点の評価で10万円の場合4.6%、20万円の場合3.3%、30万円2.7%、40万円2.3%、50万円2.0%となる。
1号被保険者(国民年金)の場合は、定額制で毎月16,980円の保険料を払い続ければ、基礎年金が受領できる。 2号被保険者(厚生年金)の場合は、収入額の9.15%(雇用主負担を別として)を払い続ければ、基礎年金と老齢厚生年金(報酬比例部分)が受領できる。
3号被保険者については、負担がゼロであるので、3号期間のみでは∞になる。 但し、配偶者による扶養が前提であるので、結婚前や離婚・死別後の期間、1号あるいは自身が2号の厚生年金被保険者であった期間に於いては保険料を納付していると考えられ、合算され、2号と3号あるいは1号のミックスとなる。 3号は婚姻をしており配偶者の収入で生計を維持し、生活費の為の収入は配偶者に依存していることが前提であり、この前提がなくなれば3号に該当しなくなる。
健康保険については、1号の場合は市町村国保への加入となり、市町村により差はあるが、概ね住民税所得金額の10%と理解する。 2号で協会けんぽの場合は、給与総額の約10%であり、大きな差はないと思われるが、雇用主と半額ずつの費用負担である。 健保組合の場合は、基本的には協会けんぽより保険料は安い。 3号被保険者は、健康保険料の負担はない。 なお、国民健康保険の場合、雇用主による保険料の半額負担はないので、基本的には年金2号保険者より高い。
2-3) 日本の公的年金制度の財政・収支の概要
令和4年度と5年度における日本の年金財政の収支状況の概要は次の表2の通りである。

表2に記載したように、公的年金財政において、収入で大部分を占めるのは被保険者が納付する保険料と国庫による補助金であり、支出では年金給付です。 2023年度について、保険料、補助金と給付金を図で表現したのが図1です。

2023年度に支払われた保険料は国民年金の被保険者からが1兆3352億円で、厚生年金被保険者と雇用主分が合計40兆4157億円であり、保険料の合計収入は41兆7509億円であった。 2023年度の国庫補助金収入は国民年金で1兆8036億円、そして厚生年金で10兆2998億円であり、その合計は12兆1034億円であった。 これら保険料と補助金の合計は53兆8543億円(収入)であった。
支払われた2023年度の年金額は国民年金及び基礎年金で24兆6945億円であり、厚生年金・報酬比例部分で29兆1971億円であり、合計53兆8916億円であった。
2-4) 基礎年金、基礎年金拠出金、国庫補助金(国庫負担金)について
基礎年金勘定は、国民年金と厚生年金に共通な基礎年金を、各制度が分担して負担する制度として設けられている。 国民年金事業に関しては国庫負担を2分の1とすることが国民年金法85条に、厚生年金保険で基礎年金拠出金の2分の1を国庫負担とすることが厚生年金法80条に定められている。 基礎年金とは、1号、2号、3号共通の制度であり、資金の流れを通して、分担に関して考えてみる。
2-4-1) 国民年金1号被保険者に対する国庫補助
国民年金1号被保険者に対する補助金額を算出する基礎は、被保険者数であるが、保険料の納付が前提となる。 但し、申請をしての免除者となっている場合は、補助金対象者となる。 表3が国民年金(1号)被保険者の人数である。

免除を受けていない場合、保険料の納付が年金受取の前提である。 1/4、1/2、3/4免除者は、免除後の保険料を納付すれば満額に相当する年金額の50%プラス3/4、1/2、1/4を受領できる。 申請全額免除者の年金額は国庫補助分のみなので、2分の1となる。 年金を受給できない法定免除者は、補助金対象とはなっておらず、その大部分は生活保護者と推定される。 なお、保険料免除については所得条件があり、また、申請がなければ国庫補助金相当の50%年金給付を受けられない。
現状における国民年金の保険料納付率は約80%であり、この前提で国民年金が納付されていると見做される被保険者(全額免除者を含め)の数を表3の最下欄の行に記載した。
表4は、国民年金1号被保険者について払い込まれた保険料、国庫補助金、基礎年金拠出金について2019年度から2023年度までの5年間について記載した表である。 被保険者一人あたり補助金月額の計算は、納付率80%と仮定しての金額である。

払い込まれた保険料と国庫補助金を比較すると、国庫補助金が保険料の1.3~1.4倍である。 その理由は、補助金対象者数が納付者数より多いからである。 保険料と国庫補助金の合計額が、基礎年金拠出金となる。
2-4-2) 厚生年金被保険者と3号被保険者に対する国庫補助
厚生年金(共済組合関係を含む))について国庫補助金及び基礎年金拠出金について記載したのが表5である。 なお、3号被保険者は厚生年金被保険権者の配偶者であり、年金会計において3号被保険者分の基礎年金拠出金は、厚生年金の中から拠出される。 基礎年金拠出金に拠出された後の残額が、厚生年金の報酬比例部分の割り当てとなる。

5年間の年間1人当たりの平均国庫補助金と平均基礎年金拠出金は、月額換算で、表4の国民年金の場合は国庫補助金の平均は15,917円であり、基礎年金拠出金の平均は27,837円となる。 表5の厚生年金の場合は、17,440円と33,633円となる。 国民年金と厚生年金で、一人あたりの金額の金額を比較すると、国庫補助金についての差は1,523円であるが、基礎年金拠出金での差は5,796円である。 国庫補助金については、両者の差は大きくない。 しかし、基礎年金拠出金ではその差が広がる。 基礎年金拠出金は、保険料と国庫補助金の合計であり、国民年金の場合は、保険料減免者が存在するので、減免者の保険料分は基礎年金拠出金が少なくなる。
国庫補助金の額を基礎年金拠出金で割り算すると0.51-0.52と言うような数字であり、基礎年金拠出金への供出は、わずかではあるが、国庫補助金の額は厚生年金保険料より多い。 厚生年金の保険料は雇用主が被保険者(労働者)より給与やボーナスから差し引いて徴収し、雇用主負担分と併せて納付する制度であり、納付率は高く99%である。
2-5) 年金給付
表4の基礎年金拠出金と表5の基礎年金拠出金が国民年金と厚生年金の基礎年金給付の財源となる。 厚生年金(共済組合関係を含む)については、表5の基礎年金拠出金が国民年金と同様に基礎年金給付の財源となり、保険料収入から基礎年金給付額を差し引いた残額が報酬比例部分の年金財源となる。 もう少し、詳細を見ると以下の通りである。
2-5-1) 基礎年金の給付について
基礎年金について基礎年金拠出金が、基礎年金として年金受給者に支給される収支を示したのが、次の表6である。 表6の1行目「国民年金からの基礎年金拠出金」は表4の最下欄「基礎金拠出金」と同額であり、表6の2行目「厚生年金からの基礎年金拠出金」は表5の「基礎金拠出金」と同額である。

3号被保険者は、1号被保険者と同様、基礎年金のみが受給できるのであるが、その財源は2号の被保険者が払い込んだ保険料と国庫補助金の合計である。 表4の一人あたり補助金額と表5の一人あたり補助金額で大きな差はない。 補助金と保険料の合計が基礎年金拠出金として拠出され基礎年金として受給者に給付されている。
3号被保険者について、もう少し説明を加えると、表4の国民年金と表5の厚生年金で、一人あたり国庫補助金額について年度によりバラツキは多少あるが、ほぼ同額である。 表5において、一人あたり国庫補助金額を計算するにあたり、厚生年金では被保険者数として2号被保険者と3号被保険者の合計としており、3号被保険者についても、1号被保険者や2号被保険者と同額の国庫補助金が供与されている。
更には、表5において(B)/(A)が0.5強であり、国庫補助金は基礎年金拠出金のほぼ半額であることを示している。 残る半額は、厚生年金の保険料から拠出されていることを意味するのであり、この保険料とは2号被保険者が納付した保険料(雇用主負担を含め)であるが、基礎年金拠出金の計算では2号被保険者の人数と3号被保険者の人数を合算していることから、3号被保険者の保険料は2号被保険者が負担していると言える。 但し、3号被保険者を配偶者として有していない2号被保険者も負担している状態になっている。
表6では、基礎年金受給中の人数を記載しているが、この人数は基礎年金を受給している1号、2号及び3号を含む基礎年金の全受給者数である。
2-5-2) 厚生年金(報酬比例部分)の給付について
厚生年金(共済組合関係を含む))について、まとめたのが表7である。 保険料収入に国庫補助金が加わり、国庫補助金のほぼ倍額が基礎年金拠出金として供出される。 供出後に残る金額が厚生年金の報酬比例部分年金としての給付財源となる。

表7の最下行に一人あたりの報酬比例部分の平均年金月額を記載したが、通常発表されている金額より低い金額である。 そこで、分類を細かくして年金平均額を計算したのが表8である。

老齢厚生年金とは、65歳から受け取れる厚生年金である。 通老相当25年未満厚生年金とは、受給開始年齢を65歳以前として選択した場合、65歳以前の受給額は、原則基礎年金は受け取れず、報酬比例部分のみに減額となる。 厚生年金受給者数が基礎年金受給者数より多いのは、このことが関係していると考える。
なお、基礎年金を加算した場合の、一人あたりの老齢厚生年金の受取額は2019年度から2023年度の平均値で月額154千円となる(表6の基礎年金57,718円と表8の97,015円の合計)。
2-6) 年金積立金
2-1)~2-5)において述べたように、公的年金の保険料収入および国庫補助金収入は、ほぼ年金給付に充当されている。 しかし、収入と給付が常に合致するものではなく、差額は年金積立金への積立となったり、取り崩しとなったりする。 表9に、2019年度~2023年度における公的年金の収入・給付の差額と資金運用損益および積立金を記載した。

国民年金と厚生年金の積立金については、GPIF(年金積立金運用独立行政法人)が管理・運用しており、国家公務員共済、地方公務員共済、私立学校教職員共済については、各共済組合が管理・運用している。 基礎年金勘定は、基礎年金の必要額を国民年金と3つの共済組合を含む厚生年金から受領し、基礎年金の給付を管理することが目的であることから、収支差は原則生じない。 公的年金全ての積立金合計は304兆円になる。 但し、積立金は各年金の被保険者が納付した保険料と年金給付の差が積み立てられ、運用された結果であるので、制度を超えてミックスすることは、ふさわしくない面もあると考える。
表9の最下2行に5年間平均の年金収支差と運用損益を記載しており、毎年の年金収支差よりも運用損益額が大きい状態である。 それぞれの期末年金積立金がその年度の給付金の何倍になっているかを図2に表示した。

図3に、各年度の運用損益が期末積立金の何パーセントに相当しているかを表示した。 -5%から25%の間であるが、運用成績に年金毎の差はほとんど見受けられない。

年金積立金が給付年金額の5倍以上となっていることに関する評価は、更に進むと予想される年金受給者の増加とそれを支える被保険者の負担緩和を考える必要がある。 評価方法は、シミュレーションの実施によらざるを得ないと考えるが、本ブログ記事の中では実施しないこととする。
3) 3号被保険者制度について
3号被保険者制度については、次の様なことを思うのです。
3-1) 3号被保険者の実質保険料負担者
3号被保険者は、保険料の負担はないが、基礎年金を受給できる。 第2章においても記載したが、もう一度整理し、再度記述する。 3号被保険者分の基礎年金拠出金は幾らであり、誰が負担しているかの分析を試みたのが表10である。

基礎年金拠出金への拠出額合計(3行目)が基礎年金の給付額合計(4行目)とほぼ同額である。 実際には、当該年度の基礎年金の支給額を予測し、これを基礎年金拠出金で賄うため、その拠出を国民年金と厚生年金とに配分している。 配分の際の考え方は、被保険者一人あたりの金額であるが、国民年金については払い込まれると予想される保険料と国庫補助金の合計額とし、厚生年金については3号被保険者を加えた被保険者数に国民年金の場合の全額納付者と同じ係数(2分の1国庫負担の原則)を適用して決めている。
もう少し追加説明をすると、5、6、7行目が厚生年金(共済組合分を含む)の被保険者数である。 8行目から12行目が国民年金の被保険者数についてであり、生活保護免除者、学生免除者、申請免除者が存在し、基礎年金拠出金の計算のための被保険者数は修正の必要があり、修正を行った被保険者数が12行目である。 修正とは、例えば全部免除者は、基礎年金の受給額は50%であり、基礎年金拠出金も50%相当で計算する。
13行目が国民年金の基礎年金拠出金単価の計算結果であり、13行目は参考値として国民年金保険料を記載し、拠出金と保険料との対比を15行目に記載しており、50%国庫負担であるので、約50%となっている。 16行目と17行目は厚生年金に関する基礎年金拠出金単価の計算結果であり、基礎年金拠出金の額は被保険者と3号被保険者の合計被保険者数で評価すると、国民年金とほぼ同じ水準である。
次の表11は、3号被保険者の制度は存在せず、3号被保険者は国民年金に加入するという制度とした場合の想定計算である。 影響としては、厚生年金からの基礎年金拠出額が減少することがある。 しかし、一方で、国民年金は年金保険料収入が増加すると共に基礎年金拠出金も増加する。 このシミュレーションを実施したのが表11である。

3号被保険者が1号の国民年金被保険者となっても、年金全体としては基礎年金拠出金の総額に、影響なし。 また、同様に総額では国庫補助金額にも影響なし。 2行目の被保険者数は3号被保険者を含んでいない人数であり、3号被保険者数の減少分、厚生年金の基礎年金拠出金は減少する。 その50%が厚生年金財政に余裕が生まれることから、これを厚生年金保険料の料率を下げることが可能となる。 この計算結果が6行目である。
一方、基礎年金の収支は3号被保険者数(表10の7行目)の増加に伴い保険料収入が増加する。 同時に、基礎年金拠出金が増加するが、その2分の1は国庫負担であり、保険料と国庫負担で拠出金増加額を賄うことになり、収支差は生まれない。 3号被保険者の移動による国民年金からの拠出金増加と保険料収入の増加を計算したのが、7行目と8行目である。
3-2) 3号被保険者制度導入時と現在の比較
2-4-2)の(表5 (2-4-2) に2019年~2023年における厚生年金被保険者数(1号と3号)を記載しているが、3号被保険者の制度は、昭和60年(1985年)の法改正で生まれ、昭和61年(1986年)4月から施行された。 1986年から2023年までの厚生年金被保険者数と3号被保険者数の推移は、図4の通りである。 厚生年金被保険者のうちで3号被保険者を有する割合を黒カーブ(右スケール)で表している。 1986年当時の3号被保険者数は、約11百万人で、1995年には12.2百万人となったが、その後減少し、2023年には6.9百万人と1995年の56%である。

3号被保険者の男女内訳は、2023年においては女6,728千人、男129千人であり、パーセンテージでは、98.1%が女性で。その大部分が専業主婦と推定される。 専業主夫は1.9%と少ない。 しかし、制度が発足した1986年当時の男女の比率は、99.7%対0.3%であった。
2023年における厚生年金被保険者数は46,718千人であり、3号被保険者数は6,856千人である。 保険料の負担なしで年金受給を受けられる恩恵は、世帯単位として夫婦合算すれば、3号被保険者の相方の配偶者にも及ぶと考えられる。 世帯単位で厚生年金の受給を考えると、厚生年金被保険者数46,718千人のうち6,858千人は3号被保険者の配偶者であるので、恩恵を受けている。 しかし、残る約4千万人(39,860千人)は3号被保険者の恩恵を受けられずにいる。 異なった観点としては、厚生年金からの基礎年金拠出金は3号被保険者を含めた厚生年金被保険者数で決まることから、独身者等を含め約4千万人と推定される厚生年金被保険者は、高い保険料を払っている制度と言える。
この4千万人の人達について考えるにあたり、令和2年(2020年)国勢調査結果を参考にし分析してみる。 国勢調査結果での20歳から64歳の人口は67,305千人であり、2023年における厚生年金被保険者数と国民年金被保険者数の合計に更に3号被保険者数を加え総合計被保険者数を求めると67,445千人で、国勢調査結果とほぼ同一である。 そこで、国勢調査結果の20歳から64歳の男女別人口を国民年金被保険者相当の男7,307千人と女6,564千人を控除して、厚生年金被保険者数と3号被保険者の男女別人口構成と配偶者有無の人数を推定した。 この方法により推定した2024年3月の厚生年金保険の被保険者の分布は図5の通りである。 図5は、人数をベースにしていることから、婚姻中の世帯(共稼ぎ世帯と専業主夫世帯の双方)は世帯数の人数ベースでは2倍としている。

次の図6は、1980年以後の日本のサラリーマン世帯における共稼ぎ型と専業主婦型の推移である。

なお、図6において共稼ぎ世帯数は60%を越えている。 一方、図5の割合57%(25%+32%=57%)と少し差がある。 その理由としては、労働力調査において労働とする対象範囲と3号被保険者と認定する場合の労働時間等についての基準の差によるものと思う。
3-3) 3号被保険者世帯と共稼ぎ世帯の年金額の比較
現時点においては図5や図6のように、共稼ぎ世帯の方が、専業主婦型の世帯より多い。 そこで、現状における3号被保険者がいる専業主婦世帯と共稼ぎ世帯について、支払った年金保険料と年金の受給額予想額を世帯ベースで比較する表12を作成した。 世帯単位の比較表としているが、表1(2-2-2)の補足でもある。

前提として、年金の受給期間を65歳から85歳までの21年間としている。 3号被保険者世帯の場合は、共稼ぎ世帯と比較して、年金受給予想額は85%から65%程度である。 しかし、払い込んだ保険料は1人分であり、言わば半分(3号被保険者が婚姻以前に払い込んだ保険料を無視すれば)である。 3号被保険者世帯は、払い込んだ保険料総額に対しては2.3倍から5.5倍の年金受給が予想され、1.9倍から4.4倍の共稼ぎ世帯より有利となる計算結果である。
自営業やフリーランス業等の1号被保険者に該当する場合は、一方の配偶者が専業主婦(夫)の場合でも、保険料の納付は義務である。 もし、納付しなければ、その分、受け取る年金が減少する。 表12の1行目の国民年金世帯は 2人分の金額としている。 保険料納付免除制度はあるが、夫婦2人の場合で、前年所得(収入マイナス必要経費)が102万円以下で全額免除となるが、前年所得が250万円以上だと4分の1免除さえも困難かも知れない。 通常の納付義務世帯の場合、夫婦二人で年間40万円強の保険料納付である。 国民年金保険料は1人・毎月という制度なので人頭税みたいだから、弱者には厳しい。 3号被保険者は優遇されていると、ねたまれるような状態になっていると思う。
年金保険料の払込と受給額・リターンの比率関係は、共稼ぎ世帯と独身世帯は同一である。 人口比では4分の1である3号被保険者世帯を優遇する合理的な理由は見当たらないと考える。 130万円の壁を崩して、全員に公平な年金制度にすべきと考える。
3-4) 3号被保険者制度による悪影響
3号被保険者の年金保険料支払免除が厚生年金保険料の料率を押し上げている点があることを、3-1)に記載した。 3号被保険者の配偶者は間接的な利益は受けているが、3号被保険者ではない共稼ぎ世帯や独身者は高い保険料を払っていると言える。
3号被保険者は、保険料負担を嫌って、短い労働時間で働き、低報酬単価を受け入れる傾向になる。 この結果は、労働市場をゆがめ、経済発展を阻害している面があると考える。 3号被保険者制度は、女性の労働報酬単価の水準を引き下げ、また3号被保険者について98.1%が女性である現実からすると、女性全体の活躍を阻害している面はあると思う。 即ち、本来であれば、3号被保険者制度がなければ、女性の社会進出はもっと多くなって来ており、高度な能力を発揮し、社会の発展が進んでいた可能性があると思うのである。
3-5) 働き方の選択肢は個人にある
働き方は多様化しており、サラリーマンの専業主婦(夫)世帯を優遇することは、現在においては社会に良い結果をもたらさない。 政府の成長戦略には、新しい働き方として兼業・副業やフリーランスなどを定着させ、リモートワークによる地方創生の推進、DXを進め、分散型居住を可能とする社会を実現すると述べられている。
また、女性活躍・男女共同参画の重点方針2024 (女性版骨太の方針2024)等では、女性活躍による企業価値向上や、女性活躍推進に資する様々な情報の普及、また、正規雇用の女性の就業継続の支援や妊娠等を契機に非正規雇用となった女性の正社員転換するための取組、企業や地域において活躍する女性人材の育成、専門性の向上と言った様なことが述べられている。
専業主婦(夫)世帯の優遇ではなく、1億総括役時代への取り組みにより日本を発展させ、より豊かな社会をつくっていこうとしているのが現在である。 専業主婦(夫)世帯の選択はあって良い。 個人の自由である。 その専業主婦(夫)世帯の年金保険料は、3号被保険者制度のよに他人に依存することではなく、自分で保険料を負担すべきである。 自営業や農業、あるいはフリーランスやギガワークの人達の世帯は3号被保険者の優遇は受けられない。 夫婦は2人分の国民年金保険料を払わねばならない。
表12 の一番上の行が自営業であり、払った保険料の2.1倍の年金しか受け取れず、5.47~2.33倍の年金が受け取れる3号被保険者世帯とは大きく異なる。 同じ日本人に対して、こんな不公平な公的年金制度を強いるのは、正しくないと考える。
制度は中立であるべきである。 制度がニュートラルであれば、正常な競争社会が形成され、社会の発展が期待される。 多少の有利・不利については止むを得ないことはあり得る。 しかし、3号被保険者制度は是正すべき制度である。
3-6) 経済成長・発展の阻害
3号被保険者において、受け取る賃金の9.15%が厚生年金保険料として給与天引きされ、実質賃金が下がるとして、年間受取給与額を130万円以下とするように調整する人がいる。
一方、雇い主・雇用者の観点で考えると、18.3%の保険料の半分は雇用主負担であるので、3号被保険者は保険料の負担なしで利用できる安い労働力である。 3号被保険者の保険料は2号被保険者全員の負担となるわけで、雇用主にとっては安価な労働力となる。
安い労働力は、社会や経済にとって有益だろうかと言う疑問です。 技能の高い3号被保険者を低コストで利用できる状態は、結果として低成長・低発展につながり、低成長から抜けだせない要因になっているように思います。
3-7) 年金受給者の視点
受給者について見てみる。 図7は老齢基礎年金受給者に関しての5歳毎の年齢階級チャートである。 同様に、厚生老齢年金の受給者について5歳毎の年齢階級チャートを作成したのが図8である。

基礎年金について75歳以上は、図7が示しているように、ほぼ全ての人が基礎年金を受給中である。 なお、人口との対比を把握するために人口を塗りつぶしなしのブロックで図7に表示した。
老齢基礎年金は65歳から受給資格が得られ、65歳以上は人口比80%-85%の人が基礎年金を受給し、80歳以上はほぼ全員が受給中と見受けられる。 この状態を線チャートで見たのが図9である。

一方、図8の老齢厚生年金について見てみると、図7と比較して、老齢厚生年金受給者数は基礎年金受給者数より少なく、その減少度合いは女性の場合に大きい。 基礎年金受給中の人と、厚生年金を受給中の人との受給者数の対比をチャートにしたのが図10である。 老齢厚生年金の受給者は、全員が基礎年金も併せて受給しているとすれば、厚生年金が対象としているサラリーマン、会社員、公務員の割合が時代と共に高くなったことを示すと考える。 85歳以上は1945年以前の生まれであり、20歳になったのは1965年以前であり、サラリーマンではなく農業に従事しておられた方も20%程度であったのではと思う。
なお、女性については、老齢厚生年金を受給中の人は、基礎年金受給者に対して35%-30%である。 現在65歳-75歳の人は、3号被保険者制度が施行された1986年(昭和61年)において、当時26歳~32歳頃である。 3号被保険者制度導入の理由には、婚姻による離職・退職の結果として無年金となる人が増加することを防ぐことがあった。 その結果、図7にあるように、女性も多くの人が老齢基礎年金を受給できている。

現在の保険料は、免除制度を除き、一律の国民年金保険料と収入に対して料率を掛ける厚生年金保険料の2種類しか存在しない。 配偶者が3号被保険者である場合の厚生年金保険料は、そうではない独身者や共稼ぎ世帯の被保険者より高い保険料とすることも可能である。 3号被保険者は、その配偶者が雇用主に届け出を提出することで3号被保険者になるのであり、一般と3号被保険者を有する被保険者に別料率を適用することは容易に実現可能である。
3-8) 3号被保険者の再構築について
保険料を支払わずに基礎年金を満額受給できる3号被保険者制度が発足した1986年当時においては、この制度も意義があったと考える。 しかし、現段階に至っては、3-1)から3-6)に述べたように、種々問題は存在するのであり、制度の維持ではなく、改良を加え、持続性を高めることの必要性を感じる。 3号被保険者制度再構築に関する案について、以下に述べる。
3号被保険者制度を廃止する方法としての一つは1号被保険者として国民年金への加入を義務とし、年間約20万円(毎月16,980円)の保険料の納付とすることである。
他の方法としては、3号被保険者の場合、その配偶者は2号被保険者であるサラリーマンや公務員であり、3号被保険者関係届を必ず提出する。 そこで、会社や役所等の雇用主が給与等から天引きして徴収する厚生年金保険料を本人プラス3号被保険者分とすることも可能である。 この場合、国民年金保険料と同額の月16,980円とするか、或いは本人と同様に、雇用主との折半を適用して半額の月額8,490円を個人負担とする方法もあると思う。 保険料の決め方として、厚生年金保険料を現状の収入額に保険料率を乗じる方法とし、3号被保険者を有する場合と、有しない場合で異なった保険料率を適用することも考えられる。
表13に本議論の整理を記述した。 いずれにせよ、被保険者・国民が払い込む保険料総額および年金受給者が支給を受ける年金の総額は現状と同額であることを前提としている。
表13 3号被保険者の保険料納付に関する案(整理)
案 |
実施した場合の影響 |
3号被保険者を単純に廃止し、1号被保険者(国民年金)への加入とする。 |
3号被保険者に月16,980円の保険料納付義務が発生する。
厚生年金被保険者と雇用主に、それぞれ0.3-0.35%程度の保険料引き下げが見込める。 表11参照(6行目)
|
3号被保険者の基礎年金分保険料をその配偶者が自己分と併せて厚生年金保険料として納付する。
|
2号被保険者である配偶者が3号被保険者関係届の提出で手続き完了とし、3号被保険者を有する場合の保険料は、月額8,490円または保険料率を2%引き上げる。 (2号被保険者の厚生年金であるので、雇用主との折半を前提として計算) 3号被保険者を持たない場合は、被保険者と雇用主に、それぞれ0.3-0.35%程度の保険料引き下げが見込める。(注) |
(注) 下段の3号被保険者分の納付を保険料率の変更で実施する場合に、3号被保険者を配偶者とする場合と、そうでない場合で保険料率の上げ・下げ幅が異なるのは、3号被保険者を配偶者とする被保険者数6,856千人で、そうでない被保険者数39,862千人である対象被保険者数の差による。
表13は、3号被保険者をなくすのではなく、保険料支払いについてイコールフーティングとする案を記載した。 3号被保険者が既に獲得している権利を侵害することは、問題があると考える。 1986年の制度導入と同時に、専業主婦は国民年金加入が許されなくなった。 夫の収入で、子育て育児をこなし、自らは専業主婦として生活することは、合理的な選択肢の一つであった。 独身でいることも、結婚して共稼ぎを続けることも、出産・育児等の休業も、専業主婦・夫も、離婚もすべて個人の自由である。 公的年金制度が、生き方による有利・不利を生み出してはならない。
3号被保険者として現在受給を受けている権利は引き続き継続すべきである。 年金とは、長期間の契約である。 公的年金とは個人と国政府・厚生労働省との長期契約である。
4) 更に進む少子高齢化への対応
今回のブログ記事内では、触れていないが、検討すべき重要な事項として、少子高齢化への対応があり、この検討を避けることはできない。
できる限り早い時期に分析を実施し、本ブログで紹介したいと思います。 ちなみに、2024年の現時点の年齢階級別人口、10年後にあたる2034年の予測そして2044年の予測のそれぞれの人口ピラミッドを図11として掲げます。

図11の元データから年金保険料を負担する世代として25歳から60歳世代の人口と年金を受給する66歳以上の世代の人口を比較したのが表14です。 20年先の2044年は、ともすれば随分先に感じるが、今50歳の人は70歳。
将来の問題ではなく、今の問題として考える必要があると思います。 問題発生の予想があった場合は、その緩和策の検討を重ね、早期に対策を実施することが重要と考えます。 早く書きたいとは思いますが、少し時間の猶予を頂きたいと存じます。
本ブログを書くにあたり、参考とした資料は以下です。
・ 令和5年度財政状況ー国民年金・基礎年金制度ー
・ 令和5年度財政状況ー厚生年金保険(第1号)ー
・ 令和5年度財政状況ー国家公務員共済組合ー
・ 令和5年度財政状況ー地方公務員共済組合ー
・ 令和5年度財政状況ー私立学校教職員共済制度ー
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