日興コーディアル元役員への訴訟
1) 日興CC元役員に対する損害賠償の訴訟
次の産経の記事ですが、日興コーディアルグループ(日興CC)は前CFOの山本元と前NPI会長の平野博文に対し損害賠償請求訴訟を起こす方針を固めたと報道がありました。
産経2月10日-日興コーデ、元役員ら旧経営陣を提訴へ 不正会計問題
理由は、特別調査委員会の調査から元役員らが法令に違反した可能性が高いことが判明し、東京証券取引所は3月中旬に日興コーディアルグループ株を上場廃止か、維持かを決める方針であり、旧経営陣に対する責任追及により、上場を維持したい考えであると書いてあります。
売れない経営コンサルタントのブログ12月27日のエントリー:日興役員に対する株主代表訴訟で代表訴訟の可能性を書きました。代表訴訟とは、株主が会社に成り代わって提訴する訴訟です。代表訴訟の結果、取締役に訴訟を命じる判決が出ても、その支払先は会社であり、訴訟を提起した株主に対して直接に損害賠償がされるわけではありません。手続きとしても、訴訟提起の前に会社に対し書面で責任追及を請求し、会社が訴訟をしなければ、株主が会社に代わって訴訟を行うことになります。
上記の産経の記事に、「さらに、NPIの社員のほか、前社長の有村純一に対しても責任が問えるか検討を進める。」とありますが、日興コーディアルの株主の方は株主代表訴訟を提起する権利を持っておられるので、もし現在の日興コーディアルの訴訟方針が緩すぎると判断される場合は、他の取締役、執行役についても訴訟を請求することが出来ます。日興コーディアルの取締役、執行役でないNPIの人達に損害賠償を求めることが妥当であると考える場合は、現経営陣に対して、その旨を請求し、もし実行しないのであれば、会社に対しての損害の回復を行おうとしないと言う理由での現経営陣に対する株主代表訴訟も可能であると私は思います。但し、粉飾決算の関係でNPIの人の責任を追及することは困難がつきまとう可能性があると思います。
2) 日興CG元役員逮捕の可能性
損害賠償は民事上のことですが、刑事罰についても可能性があると思いました。理由は、ライブドア事件やカネボウ事件を念頭に置いてのことです。ホリエモン、宮内元CFO、岡本元取締役と中村元ライブドアマーケティング社長は昨年1月23日に逮捕されました。ホリエモン裁判における検察側冒頭陳述で、検察が述べたのは、”ケイツネ50のがかっこいいじゃない。大台乗ったって感じでいいじゃん」と連結経常利益の予想値を50億円に上方修正するよう指示した。”と言うようなことです。(参考東京新聞記事2006年9月4日-ライブドア初公判 検察側冒頭陳述)
ライブドア事件は偽計も絡み、複数のディールが重なっての話しですが、50億円の粉飾で有価証券取引法違反で逮捕されるなら、2月 2日のエントリー:日興コーディアルの連結決算修正に書いたように日興CGの粉飾額は連結経常利益で平成17年3月期237億円、平成18年3月期181億円の合計418億円です。会社規模が異なるので、ライブドア粉飾と日興CG粉飾を金額のみで比較することは適切でないとは思います。カネボウは5年間で最終利益2000億円以上の粉飾で、債務超過を隠していたとのことですから、カネボウと比べれば日興CGも大したことはないとなるのでしょうか。でも粉飾した状態で500億円の社債を発行したのであり、5億円の罰金以外に刑事罰があり得るのかも知れないと思うのです。
EB債はNPIHが発行し、NPIが引き受けた訳ですが、100%株式保有の親子会社間の取引でバックデートすることにより利益操作を行ったと理解します。親子会社間だけの取引で外部の会社に債権・債務が一切発生しない取引において連結決算上の損益なんて発生することがおかしいと考えるのが常識でありルールであるはずです。バックデートとして利益を計上したことは、有価証券取引法の違反の罪となる可能性があると思います。
もし、検察が日興CG関係者を逮捕するとすれば、3月中旬の東京証券取引所による情状継続・廃止の決定の後だと思います。検察も、東京証券取引所の判断に影響を与えたくないと思っていると考えますので。
3) ベルシステム24買収計画に関する推理
2月 3日のエントリー:日興 ベルシステム24の推理でささみサンからコメントを頂き、Facta online 2006年12月号-内部メモが明かす「ベル24」疑惑の主役-日興による買収に証券監視委がメス。時系列のメモを入手して追跡してみると……。を紹介されておられます。この記事によれば、日興によるベルシステム24の買収を仕組んだのは米系投資銀行、ゴールドマン・サックス証券(GS)である。この噂は、私も耳にしたことがありました。そして、GSの本命はボーダフォンをソフトバンクに売り込むことであったと。
仮にGSが仕組み、成功の結果GSが多額の手数料を得たとして、証券プロの日興が何故そう簡単にはまってしまったのかとの疑問があります。それを解くのは2004年7月20日のソフトバンクのプレスリリース:ソフトバンクBBとベルシステム24との包括的業務提携についてに記載されている実行されなかったか590億円の新サービス提供における関連システム構築投資であると思います。この投資は、設備投資ではなく、既存の事業買収投資ではなかったかと思うのです。何故なら、特別調査委員会の報告書資料部分の008ページにあるベルシステム24の毎年の経常利益が約270億円程度の予想が2006年5月期から続いています。2005年5月期も237億円です。80億円-90億円の会社が、270億円に急成長する方法は、既存ビジネスの買収と想像するのです。利益が増加することは、収入増もあるはずであり、それはソフトバンクBBとベルシステム24との包括的業務提携と発表されているとおり、ソフトバンク関連の電話コールサービスをベルシステム24が手掛けることがソフトバンクBBとベルシステム24間で話しされ、それに関連して590億円の投資があったのだろうと想像します。
でも、何かの事情により590億円は投資されず、収入増もなかったと言うことだろうと思います。投資されなかった理由は、よく分かりませんが、事業見通しが甘かったと言えると思います。
4) 蛇足
NPIが起用していた弁護士は、Facta onlineの記事にありましたが、やはり森、濱田松本法律事務所だったようです。大勢の弁護士がいる事務所で会社関係の仕事専門ですから、短期間に大勢の人間が人海戦術で戦える事務所です。日興/NPIの期待通り、CSKには勝ちました。でも、ビジネスそのものはもっと高度です。逆にCSKが勝って、日興/NPIが負けていれば、日興/NPIがベルシステム24に突っ込むことなく損失を出し、信用を失う現在の事態は避けることが出来たのかも知れません。
日興/NPIによるベルシステム24の買収は日本において友好的買収と呼ばれる買収であったのです。即ち、ベルシステム24の1/3超を保有する株主CSKは反対していたが、ベルシステム24の取締役会は賛成していたのです。日本語で敵対的と言うと従業員や既存株主を含め会社全体が反対している様に捉えてしまいそうですが、意味は「取締役会」が賛成しているか反対しているかです。敵対的買収というと悪い買収であり、友好的買収というと良い買収と捉えがちですが、良い悪いはそんな単純なものではないと思います。ちなみに、私の理解において英語では、敵対的買収は"unsolicited buyout"であり、友好的買収は"solicited buyout"です。"unsolicited"ってそんなに悪いイメージを私は持ちませんが。
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