« MBO - Management Buy Out | トップページ | タミフルについて(その2) »

2007年3月21日 (水)

NHKをめぐる放送法改正

本日は、NHKの受信料支払い義務化の先送りというニュースがありました。

毎日 3月20日 放送法改正案:NHK受信料支払い義務化盛り込まず 政府

結果、支払義務化の部分が含まれない放送法改正案が国会に提出されることになりますが、どのような改正があるかについては、次の朝日の記事が改正案の骨子を報道していました。

朝日 3月19日 捏造放送に総務相が防止策要求 放送法改正案の条文判明

放送法の改正でNHKに関して気になるのは、政治的独立でありであります。1月30日のエントリー:「あるある」とNHKで、1月29日にあった東京高裁の「NHK番組改編訴訟」に対しての判決についての報道から編集権と期待権の関係より改竄に関して書きました。この判決文については裁判所Webここここ(判決文:PDF)にアップされています。そこで、女性国際戦犯法廷を主催した「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(バウネット)が損害賠償を起こしたNHK番組改編について裁判所が、どのような判断を行ったかを見てみます。

詳しくは、判決文PDFを是非読んでみて下さい。(27ページ以降の第4 「争点に対する判断」からでもよいと思います。)

1) 事実認定

問題の番組はNHKのETV2000「戦争をどう裁くか」の4回シリーズの第2回目で「問われる戦時暴力」の表題で2001年1月30日に放送されました。この番組内で女性法廷を取り上げ、VTRを写しました。

女性法廷とは、バウネットを含む韓国,北朝鮮,中国,台湾,フィリピン,インドネシアの各NGO7団体(従軍慰安婦問題の加害国NGOと被害国NGO)及び国際法の専門家や人権活動家らからなる国際諮問委員会によって構成された国際実行委員会で、戦時性暴力等に関し国際法に違反する個人や国家の責任を追及するものとして刑事裁判に近い形式を採用し、裁判官、検察官及び書記局による構成とし、2000年12月8日から10日にかけて東京の九段会館で、12日に日本青年間で開催されました。東京では、最終判決まではいたらず、最終判決は2001年12月4日にオランダのハーグで言い渡されました。

裁判所が認定したNHKにおける製作・編集作業と外部における動きを一つの表にしてみました。

期間 NHKにおける製作・編集作業 外部団体・政治家とのかかわり
2000年12月15日頃より ドキュメンタリージャパンのディレクターが取材で得た素材・資料の編集を開始。

12月18日右翼団体がNHKを取り囲み、女性法廷を報じた日のニュースに関して抗議行動を行った。

2001年1月17日 NHKチーフディレクター、デスクとドキュメンタリージャパンのチーフディレクター、ディレクタが昭和天皇を有罪とした判決言渡しのシーンについて、会場の拍手を薄め、加害者としての元兵士の証言について加害兵士の家族のプライバシーを保護のための証言の一部削除等を行った第一次版を作成した。
2001年1月24日まで NHK教養部長より、第一次版は女性法廷を紹介するだけの内容で、その歴史的意義を客観的・批判的に考察する教養番組としての視点が欠けていると発言があったので、問題点の指摘を追加、バウネット代表のインタビュー削除、天皇有罪の審理結果発表のシーンについてナレーションに変更するなどの編集を行ったが、NHK教養部長はさらに内容を変更することを求めた。
2001年1月28日まで 26日には教養部長が求めた変更を盛り込んだテープが完成し、通常は番組試写会に立ち会わない放送総局長と国会担当の総合企画室担当局長も「予算説明の際に国会議員から話題とされることに備えて見ておきたい。」と加わり、番組制作局長、教養部長、チーフディレクターらが立ち会って試写が行われた。番組制作局長は、女性法廷に批判的な意見も入れることを指示し、G大学H教授のインタビューを挿入することとした。その他の変更も含め28日に仮編集44分版が製作された。

25日NHKの平成13年度予算案が総務大臣に提出された。この少し前から、NHK総合企画室の担当者らにおいて、与党(X党、Y党、Z党)所属の衆参両議院議員のうち250名程度の執行部等の有力議員等に対する個別の予算説明を開始。26日頃NHK政治部出身の総合企画室担当部長が安倍官房副長官との面談の約束を取り付けた。
26日ある団体役員は総務大臣を訪ね、この番組に関してNHKが公共放送としてふさわしい公正な報道を行うようにと申し入れた。

2001年1月29日と30日22時の放送まで

29日夕方NHK番組制作局長室において、放送総局長、番組制作局長、総合企画室担当局長、教養部長、チーフディレクター、デスクが立ち会って、本件番組の試写が行われた。番組制作局長は、試写の始まる前に、今は時期が悪いとの趣旨の発言をした。試写直後に、総合企画室担当局長が「これではぜんぜんだめだ。」と発言した後、チーフディレクターとデスクは退室を求められた。話し合い終了後、チーフディレクターは、①女性法廷において旧日本軍による強姦や従軍慰安婦制度が人道に対する罪を構成することを認定して日本国と昭和天皇に責任があるとした部分を全部カットすること、②スタジオ発言で女性法廷を積極的に評価している部分を削除すること、③海外メディアの反応から日本政府の責任に言及した部分を削除すること、④日本政府の責任に言及した部分を削除すること等の変更を指示した。チーフディレクターが削除箇所が多すぎる旨の意見を述べると、総合企画室担当局長、女性法廷に反対する立場のG大学H教のインタビューをさらに増すことを指示した。チーフディレクターが難色を示したところ、総合企画室担当局長は「毒を食らわば皿までだ。」と述べて、上記指示を維持した。また、総合企画室担当局長はチーフディレクターに対し、旧日本軍が関与したとする資料に関するコメントの修正を指示した。

30日午前2時ころ、NHK番組制作局長室において、放送総局長、番組制作局長、教養部長、チーフディレクターが立ち会って、約43分となった本件番組の試写が行われ、早朝にかけて放送用のテープのオンライン編集(本編集)及び再度の修正を踏まえた台本の完成作業が行われた。

午前9時頃,スタジオでダビング編集(本編集の音入れ)が行われ、声優による吹き替えやアナウンサーによるナレーションが収録され、午後3時過ぎころからは、ミックスダウン作業(本編集における音声の仕上げ)が行われ、午後6時30分ころ、43分版の本編集した番組が完成した。

午後、番組制作局長は、NHK会長室において、会長と本件番組について話し合った後、放送総局長室を訪れ、放送総局長とともに再度修正された台本を読み合わせて検討した上、教養部長に対し「X党(自民党)は甘くなかったわよ。」と発言した後、元兵士と元慰安婦女性2人の証言シーン等3分の削除を指示した。教養部長から電話を受けたチーフディレクターは、放送総局長室を訪れ、放送の番組尺が40分となり、NHKが深手を負いかねない等と述べて、3分の削除を思い止まるように要請したが,放送総局長は「責任は私がとる。自分が納得する形で放送をさせてほしい。」と述べて,指示を変えなかった。

午後7時過ぎから、制作現場は、VTR等の手直し作業を行って通常の44分より短い40分版の本件番組を完成させ、午後10時NHKは放送した。

29日午後首相官邸内にある官房副長官室において、放送総局長と総合企画室担当局長及び総合企画室担当部長が安倍官房副長官と面会した。その際,総合企画室担当局長がNHKの新年度予算について一般的な説明をした後、放送総局長が本件番組について女性法廷が素材の一つであり、4夜連続のドキュメンタリー番組ではないとの説明をした。安倍官房副長官は、いわゆる従軍慰安婦問題について持論を展開した後、NHKがとりわけ求められている公正中立の立場で報道すべきではないかと指摘した。

上記は、原告側が述べたことではなく、裁判所が証言・証拠から判断した事項です。第三者の鑑定、報告書というものよりはるかに重く、事実と考えてよいと私は思います。番組の製作・編集は、政治的な影響を受けたと考えるべきと私は思います。放送の直前に3分の削除が実施されていますが、この削除された部分は、元兵士と元慰安婦女性2人の証言シーンでした。

2) 大学教授等によるコメント等

NHKエンタープライズのチーフプロデューサーが、2000年8月A大学B助教授の「歴史と裁き」という講演に感銘し、その中で紹介された女性法廷と国際公聴会を素材として「人道に対する罪」というテーマで番組を制作することを企画したことに始まりました。このことから、A大学B助教授がNHKアナウンサーの司会でC大学D準教授の対談が組み込まれ、女性法廷で裁判官を務めた専門家2人の記者会見、首席検事を務めた専門家のインタビュー、批判的な意見としてのG大学H教授のインタビュー(2箇所)、当初対談が予定されていたE大学Fのインタビュー(1箇所)が番組中にあります。

この番組のことではなく一般的な話しとして、番組の中で大学教授、弁護士他専門家が述べていることは、正しい解説を行っているように受け止めてしまいますが、決してそんなことはなく、様々な説や考え方があります。上記は、メディアが、解説者やコメンテーターを選んでいるのであり、メディアが操作しているのであることを認識させてくれるよい例だと思いました。製作・編集するメディアが信頼に耐え得ることこそ最重要なことと思います。

3) 判決が判断した期待権

1月29日の東京高裁判決時の報道による期待権は、分かりつらかったのですが、判決文でどのような表現をしているか、私なりに次の文章を選びました。

特に,本件においては,上記説示のとおり,番組改編の経緯からすれば,一審被告NHKは憲法で尊重され保障された編集の権限を濫用し,又は逸脱して変更を行ったものであって,自主性,独立性を内容とする編集権を自ら放棄したものに等しく,一審原告らに対する説明義務を認めても,一審被告らの報道の自由を侵害したことにはならない。

正しいメディアは重要です。女性法廷は、テレビ報道とは無関係に企画されました。NHKは、バウネットに対し放送する目的、意図、企画内容等を説明し、許可を得て取材を行いました。事前の説明とは異なった内容の番組を作ったら、やはりそれは編集権の濫用にあたると思いますし、判決文は更に踏み込んで「自主性、独立性を内容とする編集権を自ら放棄したものに等しく」と言っています。

4) 放送法におけるNHKの組織

放送法13条2項で、「経営委員会は、協会の経営方針その他その業務の運営に関する重要事項を決定する権限と責任を有する。」と定められており、NHKの経営は経営委員会によりなされます。そして、委員の選任については16条で「委員は、公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する。この場合において、その選任については、教育、文化、科学、産業その他の各分野が公平に代表されることを考慮しなければならない。」と定められています。更に、37条で収支予算、事業計画及び資金計画を総務大臣に提出、総務大臣はこれを検討して意見を附し、内閣を経て国会に提出し、その承認を受けなければならないとなっています。37条4項で、「受信料の月額は、国会が、第一項の収支予算を承認することによつて、定める。」となっていますから、そうとう縛られています。

考え方によっては、自主経営の範囲が狭く、NHKは可哀想だと思えます。NHKは、最高裁に上告しましたが、誰のために上告をしたのか?視聴者のためではなく、政府・与党のためなのかと勘ぐってしまいます。やはり、その時々の与党の言いなりになってしまうことを危惧します。自民党ということでなく、例えどんな政権になろうとも、政権よりになる恐れがあると思えるのです。受信料を払う視聴者が経営委員を選任するというのが本来の姿であると思います。そんな選挙制度を実施するとなると、二重投票の防止や不公正の防止等々様々な課題があるし、経費も掛かる。でも、現状でよいとは思わないのであり、検討をすべきであると思います。

5) 将来のNHK

放送と通信の垣根が技術的には存在しないのではと思うのです。例えば、ハイビジョンカメラも、その録画機器も個人にさえ手が出せる時代です。IP光通信網による個人レベルに近いテレビ放送なんてのも、もうすぐあり得るのではと思います。現に、YouTubeなんて個人が撮影・制作・編集したビデオを投稿し、一般に公開することが出来ます。今に、ブログもテレビブログが出てきたり。

そんな時代に、今のNHKはどうなるのでしょう。NHKより安くて良い番組を提供してくれるIP放送局が現れると思うのです。そんなときに、受信料の義務化なんて方向に向かって良いのだろうかと思います。IP放送局だったら、政治的な公平さも不必要で、逆に各政党が政党の新聞を持っているように、IP放送局を持てばよいと思うのです。

従来出来なかったことが実現するようになったのであるから、技術革新を積極的に取り入れるべきだと思います。放送法改正はその為の、あらたなルール作りを目指して欲しいと思います。

|

« MBO - Management Buy Out | トップページ | タミフルについて(その2) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: NHKをめぐる放送法改正:

« MBO - Management Buy Out | トップページ | タミフルについて(その2) »