医療崩壊-3月6日参議院予算委員会より
3月 5日のエントリー:この人は辞めるべき-2月7日衆議院予算委員を書いたときは、議事録がアップされるのを待っていたため、1月近く遅れてしまいました。前回は、衆議院予算委員会における民主党枝野委員の質疑の関連でしたが、今回は参議院予算委員会における日本共産党小池委員の質疑の関連で書きます。小池委員の3月6日の参議院予算委員会のおける質疑は、この参議院インターネット中継の質問者「小池晃(共産)」にあります。
1) 国民健康保険
現在の国民健康保険法が1958年(33年)に制定され、日本は国民皆医療保険制度の国となり、国民及び1年以上の在留期間がある外国人は全員基本的には何らかの医療保険に加入することとなりました。その結果、国民全員が高度医療を受けることが出来ることなり、平均寿命は大幅に伸び、現在の高齢化社会にもつながりました。決して悪いことではなく、誇りにすべきことであり、今後維持・発展させていくべきものと考えます。
参議院予算委員会における関連の質疑は、以下のような内容でした。
小池委員は、生活困窮者からの国民健康保険証を取り上げている実態があり、その結果、受診が遅れて病気が重症化したケースもあると述べました。安倍総理は、納付相談などが行われており、簡単に取り上げる制度的にはなっていないと回答していました。小池委員が、更に指摘したのは国民健康保険の保険料でした。大阪市の例をあげて、自営業の夫婦、子供2人で所得280万円の場合、保険料が45万円となるが、背景として高すぎる保険料負担があるのではないかと安倍総理に質問しました。安倍総理は、初めて聞く数字であり、この場でこの数字が正しいとの前提で回答するわけには行かないと答弁していました。
そこで、大阪市の国民健康保険料をこのサイトにある保険料を使用して、私も計算をすると小池委員の数字とほぼ一致しました。
平等割 42,708円+均等割 97,852円+所得割 308,700円=449,260円
なお、介護保険料も計算すると77,708円でした。そして国民年金保険料は2人x13,860円/月x12月=332,640円となるので、所得280万円の場合の保険料は合計859,608円です。毎月71,634円が保険料で消えていく。所得税、住民税は合計で年間80,000円弱になると思いますので、保険料負担の大きさが分かります。一方、給与所得者の場合と比較をすると、政府管掌保険の場合で健康保険料が9.43%(介護保険料を含め)であり、事業主と折半となるので個人の負担は4.715%です。国民健康保険とそのまま比べてもよいのですが、280万円の所得金額に対して給与所得控除相当額を加算すると417万円が給与総額となります。この4.715%は196,615円であり、526,968円よりはるかに負担が小さく、事業主負担と合計しても133,738円国民健康保険料が高いのです。
皆様、ご自分の市町村のホームページから国民健康保険に入ると料率が出てくるページがあります。どうなっているか、念のため、確認したら面白いと思います。現在、健保組合、共済組合、政府管掌の健康保険に加入されている人も、退職後は国民健康保険に加入することとなりますから決して他人事ではありません。日本の社会の勤労形態も終身雇用から良い働く先があれば転職する形が増加すると思います。退職したら、一時的には国民健康保険に加入することもあるので、若い方も他人事ではないかも知れません。
国民健康保険と政府管掌健康保険と保険料率を比較してもう一つ思ったことは、国民健康保険の最高保険料がが介護保険料と合計して62万円です。(小池委員が最も高いと指摘した守口市の場合を計算すると、所得280万円の子供2人で最高保険料の62万円に到達しました。)一方、政府管掌健康保険では平成19年4月からの被保険者と事業主合計の最高保険料は187万円のはずです。大阪市の保険料で計算すると所得が310万円あれば最高保険料に到達するから、所得に対する負担率で計算すると310万円以上の所得の人は割安保険料となります。このような計算をしてみて、こんなバカな制度があって良いのだろうかと考えさせられました。即ち、退職したり、失業したりしたら、高い保険料を払わなければならないのです。その一方で、個人事業主の高額所得者は、給与所得者と比較すれば格段に安い保険料負担で済むのです。それなのに、受けられるサービスは同じです。
2) 証券税制の減税
3月6日に所得税法等の一部を改正する法律案が衆議院を通過し、参議院に送られました。大きな減税はないと言えるのですが、実は一つはあります。それは、租税特別措置法37条の11と37条の11の4の上場株式等を譲渡した場合の株式等に係る譲渡所得等の課税の特例で、第1項に”平成十五年一月一日から平成十九年十二月三十一日までの間に”と規定されている平成十九年を平成二十年と変更する改正が含まれています。特例扱いを1年間延長したわけで、減税と実質変わりはありません。
では、いくらの減税となるかですが、国税庁の平成17年の申告所得の統計がここにあります。この8ページによれば株式等の譲渡所得等が所得金額で2兆6519億円、税額で2199億円です。税率を逆算すると8.3%となりますが、非上場株式(税率15%)があるので、変な数字ではありません。又、申告分以外に特定口座による申告分離もあるので総額はもう少し大きくなります。
12月 3日のエントリー:来年の税制改正の2) 上場株式等の配当や譲渡益の軽減税率の廃止で書いたように、政府税調の段階では、この部分については、「期限到来とともに廃止し、簡素でわかりやすい制度とすべきである。」でした。それが、自民党税調では12月18日のエントリー:自民党の来年の税制改正案の4) 上場株式に関する所得税のように1年廃止を延長しました。その結果、政府の改正案は平成二十年十二月三十一日までとなりました。
この財源がいくらあるかですが、私の推定計算では約1800億円となります。但し、地方税も同じ様な扱いになるので、地方税とあわせると約2400億円です。そして、次の円グラフをご覧下さい。円の面積が上場株式の譲渡所得等による所得金額2兆6519億円に相当します。税額2199億円もほぼ同じだと考えられます。税額2199億円のうち、1億円以上の所得がある人が65%であることから、1400億円は1億円以上の所得がある人が納付したと推定できます。もし、1千万円で区分したら、90%です。この減税は、金持ち減税なのです。
国民健康保険では、大阪市の保険料では所得310万円より高い人は一定額にし、一方で証券税制では高所得者に減税を行い、高所得者ばかり優遇している気がします。昨年の所得税の改正では、定率減税が取り止めとなったのですが、定率減税と同時に実施した最高税率の引き下げは元には戻しませんでした。税の一つの役割は、所得の再配分です。再配分は、徴収における所得階層による調整と補助金等による低所得者援助の双方があります。セーフティーネットと言った人がいますが、現在行われているのは、高所得者の税徴収を緩和し、低所得者に対する援助は財政難であるとして縮小しているように思えてしまうのです。それと、次の例の医師である弱者へのしわ寄せでしょうか。
3) 病院勤務医師の労働条件
病院勤務医師の過酷な労働条件については、3月 2日のエントリー:大阪では病院のたらい回し続出で国立循環器病センターの集中治療室での5人の医師退職に関連して書きました。小池委員は、長時間労働が蔓延しており、労働条件が過酷であることを述べたことに対して、柳澤大臣は休憩時間や自己研修は、通常は勤務時間とは見なされない時間であり、これらを含んだ時間を全て勤務時間と考えることは適切ではないという主旨の答弁を行いました。「消防隊員に火事がなく待機していた場合は、勤務をしていない。」と言ったら、どうなるのでしょう。
現実を正しく認識して欲しいと思います。さもなければ、正しいことは何もできない。
4) 医師不足
小池委員はOECD諸国との比較で日本は明らかに医師不足であると指摘しました。実は、これに対して、安倍総理は不足は一時的であり、基本的な不足はないと答弁しました。
小池委員か安倍総理か、どちらを信用するかでありますが、私は小池委員の指摘を信じます。小池委員があげた数字が正しいのかチェックしていませんが、OECD諸国との比較も行うべきであり、正しい調査を行って結論を出すべきと思います。
それと、現実には病院の診療科の閉鎖が余りにも多く見受けられます。産経 3月2日 東金病院産婦人科、4月から休診 常勤医不在、再開見通し立たず という産科の閉鎖に関する報道があります。これについて、次のように解説されている方がおられます。
千葉県の外房エリアは、しばらく前から相当な医療過疎になってます。公立長生病院もずいぶん前に分娩取扱をやめましたし、最近では銚子市立病院も分娩を取り扱わなくなったということです。国保成東病院で細々と分娩を扱っている以外は、旭中央病院と鴨川の亀田総合病院の間(九十九里浜の長さよりも、更に距離があります)に、分娩可能な『病院』がないのが現状です。
上記は、ブログ元検弁護士のつぶやき:東金病院産婦人科、4月から休診にあったコメントです。直接ブログのコメントを読めば更に多くの危機的な状況についてのコメントがあります。又、勤務医 開業つれづれ日記:【産科・小児科 休止一覧 2 】 日本全国 今後の崩壊予定には産科小児科の休止のロングリストがあります。これを見れば、震えてきます。
5) 行政改革
本当に必要な行政改革は何も出来ていないと感じます。政府と役人が国民のために働くようにすることが行政改革です。上の全て(証券税制は自民党主導かも知れませんが)は、政府が首相と大臣にものを言わせしめている面があると思います。例えば、次の昨年7月の「医師の需給に関する検討会報告書(pdf)」です。
医師の勤務と医師不足については、安倍総理と柳澤大臣が答弁したことと全く同じことが書いてあります。報告書の最終ページにメンバー15人のリストがあります。この人達が実状を直視しなかったのか、自らの身の安全を守ろうとしたのか、厚生労働省の役人の意をくんだのか、どうしたのか分かりません。少なくとも良心に基づいて行動して欲しいと思います。もし、良心に基づいて行動したのであれば、私があげた様々な疑問に対して、委員と厚生労働省の方々は説明すると同時に、この報告書が実状とかけ離れていると考えておられる多くの医師の方々が納得が行くように説明して欲しいと思います。
医療崩壊が進行中であると多くの医師の方々から聞きます。私も、過大・誇張表現であると最初は思っていました。しかし、だんだんとその意味が分ってきました。医療崩壊を防ぐために行政改革は必要です。
何故閉鎖する診療科があるのか?医師は足りているのか?これは、リスクです。リスクを正しく評価し、対処するのがビジネスであり、我々の政治です。一人前の医師を製造する(敢えて、生む機械的な表現を使います。)には、10年程度必要なのでは、或いはもっと長期間でしょうか。費用も相当掛かります。でも、社会に必要です。10年、20年先を見てリスク対処しなければなりません。だから、国民が自分のこととして考えなければならないと思います。
蛇足ですが、アジアの留学生は今や日本を見ていないという話があります。皆、米国を希望する。医師を増やし、又、アジアから医学留学生を受入れて、アジアによりよい医療を広める。そうすると、日本は尊敬される国になると思うのです。例えば、そんな夢のある展望を進めないと日本は日沈む国になる気がします。
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