定時株主総会に向けて
3月決算の上場企業の大半も決算発表が終了し、日経の集計結果によれば、金融、新興市場など除く1434社の07年3月期の連結経常利益は前の期に比べ10.7%増とのことです。(この日経5月19日)
5月12日に日経が過去最高益と報道したときは、集計対象が11日までに665社が決算発表を終えた段階で全体の4割と言っていましたから、現在は90%近くが決算発表を終えたことになります。これから、株主総会の季節になってきます。今回は、少し早いかも知れませんが、株主総会の関連で書いてみます。
1) 株主の権利
「会社の経営は取締役が行います。」と言っても、経営とは何か?となるのであり、会社法362条第1項と第2項には、以下の条文があります。(委員会設置会社の場合は、少し異なります。)
① 取締役会は、すべての取締役で組織する
② 取締役会は、次に掲げる職務を行う。
一 取締役会設置会社の業務執行の決定
二 取締役の職務の執行の監督
三 代表取締役の選定及び解職
取締役会を組織し(取締役会のない会社を除きますが、上場会社はすべて取締役会があります。)、業務執行を決定し、業務を執行するのが取締役です。このことを通常は経営と呼んでいます。
経営に携わる取締役を選任するのが株主総会です。私のブログでも企業の不祥事を書いてきました。その多くは、取締役会や取締役の業務執行(業務執行の中には、適切な組織の設置、使用人の雇用、活用そして社内ルールの整備等あるゆることが含まれます。)に問題があったケースがほとんどであると私は思っています。
言いがかり的ですが、そんな取締役を選んだ株主にも責任はあるとなります。でも、積極的に考えれば、株主として問題ある人物を取締役に選任してはならないのです。
株主総会に対して株主による書面での議決権行使(会社法298条②)や電磁的方法(インターネット)による議決権行使(会社法312条)があるので、昔のように議長宛の委任状に印鑑を捺印して送付するのではなく、総会に出席できない一般株主も議案ごとに○×をつけて議決権を行使すべきと考えます。
会社の取締役選任に関する議案は、選任する取締役毎の議案となっておらず、一括議案で全員を選任するかどうかの○×になっていると思いますが、好ましくない人物が候補者に含まれている場合は、×として株主の権利を行使すべきだと思います。
2) 取締役等の説明義務(会社法314条)
314条から抜き出しますと「株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならない。」です。正当な理由がある場合は、この限りでないと文章が続くのですが、取締役の選任に関しての質問に対しては、取締役等の説明義務が必ず当てはまります。
例えば、「A氏を会社提案の取締役候補とした理由を説明を求める。」。「B氏の略歴の開示を求める。」・・・・等色々考えられます。株主が行使しなければならない最も重要な事項は、その会社にふさわしい取締役を選任することだと思うからです。
敵対的TOBがなぜ発生するかは、取締役が無能だからと言えないでしょうか?現在の取締役が経営をしているより、自分たちが経営者を入れ替えて新たな取締役を選任し会社の事業を行えば、企業価値は上昇すると言う考え方が、TOBです。敵対的とは、現在の取締役と敵対的なのであって、会社と敵対的ではないのですから。敵対的TOBについて、ともすればその名称から悪いものと考えてしまうかも知れませんが、実は無能な取締役を選任した結果かも知れません。
取締役の選任権は会社の社長にあるのではなく、株主にあるという原則で、疑問があれば会社側によく問いただすべきと思いますし、書面やインターネットによる議決権を自分の意志で行使すべきと思います。
3) 社外取締役の選任に関する議案
3月決算の会社では、来月6月の総会が会社法における第1回目の定時株主総会となります。会社法においては、社外取締役の選任に関する議案における参考書類の記載事項が社外取締役と社外監査役について商法の時より追加となりました。その内容は、会社法施行規則74条第4項(監査役は76条第4項)に記載があり、続きを読むに入れておきますが、その第三号には次のことが書いてあります。
会社において法令又は定款に違反する事実その他不当な業務の執行が行われた事実(重要でないものを除く。)があるときは、その事実並びに当該事実の発生の予防のために当該候補者が行った行為及び当該事実の発生後の対応として行った行為の概要
社外取締役であった期間内に粉飾決算その他法令違反が会社にあった場合に、候補となった社外取締役は、どのような対応を行ったかが記載されることになりました。
2月1日のエントリー日興コーディアルの報告書を読んでにおいて、日興コーディアルの報告書の内容から書きました。日興コーディアルの粉飾決算において2人の社外取締役が全く異なった行為を行いました。青山学院大学教授の渡邉淑夫氏と濱田松本法律事務所の松本啓二弁護士です。渡邉淑夫氏はEB債の時価評価がおかしいと指摘、一方松本啓二氏は時価評価に問題なしと主張しました。
社外取締役の定義は会社法2条十五号にありますが、業務を執行しない取締役で、かつ過去にその会社または子会社の業務執行取締役や使用人になったことがない人です。言わば、しがらみのない人であり、会社のガバナンスに対してにらみをきかすことが期待できる人です。
社外取締役の制度は、ガバナンス強化のために始まった制度です。しかし、見かけ倒しの体裁だけの制度とならないように、社外取締役の選任に関する参考書類の記載事項が強化されました。会社法の制定とともに、意味のある活動を行う社外取締役の選任をすべく社外取締役についても会社案の社外取締役が不適格と判断される場合は、会社案に×をつけるべきと考えます。
4) 株主提案権
会社法303条に株主提案があります。株主総会の日の8週間前(定款により短くしている会社もありえます。)までに、株主総会の目的とする事項を取締役に対して請求することができます。権利のある株主は、総株主の議決権の1%または300個以上の議決権を6ヶ月以上保有している株主です。議決権の1%または300個以上に相当する株数は、相当多いのですが、委任状を集めて株主提案を行う方法があります。
この株主提案権については、ファンドが行使して総会議案に盛り込まれたり、あるいはこの日経4月19日楽天、TBSへ三木谷氏らの社外取締役選任求める もそうであります。
市民活動としてとりくんでおられる株主オンブズマンと言うNPO法人もあり、活動の一つとして株主提案権の行使があります。この株主オンブズマンで有名なのは、雪印乳業の社外取締役の日和佐信子氏の選任です。ここに2002年4月17日に提出した株主提案申立書がありますが、最終的には雪印が提案を受け入れ会社案として日和佐信子氏を社外取締役とする案を株主総会に提出しました。ここに株主オンブズマンのWebにあった2003年6月の日和佐信子氏へのインタビューがあります。
5) 株主総会の今後
やはり変化していくものと思います。ライブドア事件は、株主がもの言わず株価のみを気にすることの恐ろしさをを教えてくれました。村上ファンドも実は総会において株主が権利行使できることを認識させました。スティール・パートナーズ等ファンドが活躍しているは株主の権利に基づくものです。預金や債権と株式との違いの一つは株主の権利があることで、一般株主も株主の権利を有効に行使して企業活動ならびに社会の発展につくすべく活動できることを期待したいと思います。
会社法施行規則74条第4項
④ 第1項に規定する場合において、候補者が社外取締役候補者であるときは、株主総会参考書類には、当該候補者についての次に掲げる事項(株式会社が公開会社でない場合にあっては、第三号から第七号までに掲げる事項を除く。)を記載しなければならない。
一 当該候補者が社外取締役候補者である旨
二 当該候補者を社外取締役候補者とした理由
三 当該候補者が現に当該株式会社の社外取締役(社外役員に限る。以下この項において同じ。)である場合において、当該候補者が最後に選任された後在任中に当該株式会社において法令又は定款に違反する事実その他不当な業務の執行が行われた事実(重要でないものを除く。)があるときは、その事実並びに当該事実の発生の予防のために当該候補者が行った行為及び当該事実の発生後の対応として行った行為の概要
四 当該候補者が過去五年間に他の株式会社の取締役、執行役又は監査役に就任していた場合において、その在任中に当該他の株式会社において法令又は定款に違反する事実その他不当な業務の執行が行われた事実があることを当該株式会社が知っているときは、その事実(重要でないものを除き、当該候補者が当該他の株式会社における社外取締役又は監査役であったときは、当該事実の発生の予防のために当該候補者が行った行為及び当該事実の発生後の対応として行った行為の概要を含む。)
五 当該候補者が過去に社外取締役又は社外監査役となること以外の方法で会社(外国会社を含む。)の経営に関与していない者であるときは、当該経営に関与したことがない候補者であっても社外取締役としての職務を適切に遂行することができるものと当該株式会社が判断した理由
六 当該候補者が次のいずれかに該当することを当該株式会社が知っているときは、その旨
イ 当該株式会社の特定関係事業者の業務執行者であること。
ロ 当該株式会社又は当該株式会社の特定関係事業者から多額の金銭その他の財産(これらの者の取締役、会計参与、監査役、執行役その他これらに類する者としての報酬等を除く。)を受ける予定があり、又は過去二年間に受けていたこと。
ハ 当該株式会社又は当該株式会社の特定関係事業者の業務執行者の配偶者、三親等以内の親族その他これに準ずるものであること。
ニ 過去五年間に当該株式会社の特定関係事業者の業務執行者となったことがあること。
ホ 過去二年間に合併、吸収分割、新設分割又は事業の譲受け(ホ及び第七十六条第四項第六号ホにおいて「合併等」という。)により他の株式会社がその事業に関して有する権利義務を当該株式会社が承継又は譲受けをした場合において、当該合併等の直前に当該株式会社の社外取締役又は監査役でなく、かつ、当該他の株式会社の業務執行者であったこと。
七 当該候補者が現に当該株式会社の社外取締役又は監査役であるときは、これらの役員に就任してからの年数
八 当該候補者と当該株式会社との間で法第四百二十七条第一項 の契約を締結しているとき又は当該契約を締結する予定があるときには、その契約の内容の概要
九 前各号に掲げる事項に関する記載についての当該候補者の意見があるときは、その意見の内容
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