加ト吉循環取引に思う
加ト吉の循環取引については、3月27日のエントリー加ト吉の循環取引で取り上げたことがことがあり、加ト吉は4月24日にこの発表(pdf)により「外部調査委員会調査報告書の要旨」を添付して報告を行い、この報告の中で、加藤 義和代表取締役会長兼社長、加藤 義清代表取締役副社長及び高須 稔取締役の3人の4月24日付け退任と金森 哲治代表取締役副社長の代表取締役社長への就任を発表しました。この発表に関する読売新聞の記事は以下です。
3月27日にエントリーを書いた件であり、少し思うことを書いてみます。なお、加ト吉社の報告を「声明」と略し、外部調査委員会調査報告書の要旨を「要旨」と略すこととします。
1) ワンマン経営、同族経営の弊害
この言葉は、加ト吉社「声明」から取りました。実体をよく表していると思います。「要旨」は、会社名を全てA、B、C、D、Eとアルファベットのみで表現していることと個人名も乙としています。但し、乙が取締役を退任した高須 稔であることは、簡単に判明します。
高須 稔は、昭和14年生まれで、昭和36年に22歳で加ト吉に入社し、35歳で取締役に就任しました。加ト吉が冷凍設備を持ち企業活動を開始したのが昭和32年ですから、高須 稔は、その4年後に入社し、取締役となった10年後の昭和59年に大阪2部に上場を果たしました。現在68歳ですから、一生涯加ト吉と過ごしているような人生と思います。だから、会社と自分は一体であり加藤 義和元社長は恩人といったような感じだと思います。
高須 稔が架空循環取引の首謀者であったとして、それで問題を終わらせてしまっては、何も学べないと思います。心情的には、会社のためを思い行動したのでしょうが、会社であれば一人がルール違反を犯そうとしても、それを阻止する構造がなくてはなりません。しかし、加ト吉には、そんな体制(ガバナンス)が、なかったことにつきるのだと思います。
日本の会社には、ガバナンスがない会社が多いのかもしれない。会社を昔の藩のように捉えておられる方がおられます。社長が殿様で、会社=お家の存続のためには、殿様の不名誉も家臣が着る必要な場合もあるという感覚です。しかし、ビジネスでは、この体制は不都合です。大商人の家には、番頭がいて、実務については番頭が采配を振るい、実務の経験を積んだ番頭の方が実力も上で、旦那も番頭をリスペクトしなければ商売がうまくいかない。旦那は世襲でも、番頭は世襲ではないから優秀な使用人を番頭に育てていけば良い。そんなのが、商人であっただろうと思います。会社法で営業(営利事業)という言葉が、単に事業という言葉になりました。しかし、会社は武士社会を目指してはならない。商人社会を目指すべきと思います。
夫婦でやっておられる会社があります。旦那さんは社長で第一線に立って頑張っておられるのですが、財布は奥さんがきちっと管理されておられました。すごいガバナンスです。
2) 帳合取引の売上計上見直し、帳合取引の許容基準の厳格化
これも加ト吉の「声明」のなかの「3. 再発防止に向けた経営方針」に掲げられている言葉です。でも、帳合取引って私も聞いたことがありませんでした。このWikiには、
堂島米会所で行われた帳簿上の差金の授受によって決済を行う「帳合米取引」が、世界で最初の商品先物取引と言われる。
と書いてあり、米先物取引の差金決済による取引を帳合取引と言ったようです。現在の言葉に直せば、何のことはない「デリバティブ取引」です。
但し、加ト吉が行った取引が帳合取引であるかというと、私にはそうは思えません。例えば、株式先物取引は差金決済ですが、差金決済は売買の相手が同一もしくは同一と扱えるから差金決済で済ますことができます。仕入れと販売の相手が異なっている場合、差金決済で済ますことはできません。加ト吉調査報告書は、全て帳合取引と述べており、調査報告書の信憑性を疑ってしまうのですが、最も加ト吉調査報告書が全ての真実を述べる義務もないわけで、株主でもない私が、これ以上発言することは差し控えるべきかも知れません。しかし、もう少し続けます。
「要旨」のなかのC社は判明しています。岡谷鋼機であり、この4月26日付けプレスリリース 当社に関する一部報道(冷凍加工食品の循環取引)について(pdf)を行っています。このなかで、D社は、加ト吉およびその子会社加ト吉水産が合計で33%の出資と書いてあります。従い、「要旨」の「D 社からC 社へ対象商品が買い戻されていた事実が判明し、循環取引であることが判明。」と書いてあることより、岡谷鋼機プレスリリース「当社の見解は、商流の起点はD社であり、D社と(株)加ト吉の商流の中に、当社が参加していたと認識しております。」の方が信憑性があるように私には思えます。
帳合取引が差額決済であれば、通常の商品売買取引では行われない決済です。仮に営業部や購買部がそのようなことをしたとしても会社の経理部等でばれてしまうはずです。これを架空取引と置き換えても同じはずです。ところが、「声明」は「売上計上見直し、許容基準の厳格化」と言っています。やはり、甘すぎるのではないかと思う次第です。
3) 今後
日興コーディアルは、予想と異なり上場廃止になりませんでした。加ト吉の上場廃止の可能性は、日興と比べれば極めて小規模であることから上場廃止の可能性は低いのかも知れません。もし、上場廃止が決定すれば、ファンドが安値で手に入れるかも知れないと思います。日本食の冷凍食品事業なんて安く手に入ればおもしろいかも知れません。
なお、加ト吉は「声明」にあるような150億円程度の損失ではなく、来期以降への影響を含めるともっと大きな金額の損失になると思います。但し、一方で、何のための架空取引であったかというと親会社による赤字関係会社救済ではなかったかと思うのです。少し前までは、中国で安く製造・調達し日本で販売すれば利益がでた。今は、中国の需要が増加した結果、日本で販売して利益がでるほどの仕入れを行うことが容易ではないと思います。加ト吉以上に加ト吉と取引をしている中小食品業者の方がもっと大変だと思います。
加ト吉循環取引とは、様々な広がりを持っていると思いました。
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