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2007年7月23日 (月)

原子力発電所の安全性

本日、日本政府はIAEAの査察を受け入れると表明しました。

日経 7月23日 塩崎官房長官、IAEA調査受け入れ正式表明
Reuter Jul 23, 2007 Japan ready to accept IAEA inspectors after quake

その前には、産経 7月21日 刈羽原発へのIAEA受け入れ、当面見送り のような報道もありましたが、日経 7月22日 IAEA早期受け入れを・新潟県が国に要望 のように新潟県の要望もあり、受け入れたものと思いますが、原子力発電所の安全性に関連して少し書いてみます。

1) IAEA

ホームページはここにあり、本年3月末現在144ヶ国がメンバー・カントリーで、そのリストはここにあります。(日本は1957年の設立からのメンバーです。)なお、Nikkei Biz経済新語辞典のIAEAがここにあります。

日経 7月18日 IAEA、北朝鮮の原子炉停止を確認・AP通信日経 7月13日 イランとIAEA、重水炉の査察開始で合意のようにIAEAは北朝鮮やイランの原子力関連でも活動を行っています。

2) 原子力発電所は安全か?

絶対的安全は、どのような場合でもないものと思います。相対的な安全であり、リスクが低いということは存在すると思います。しかし、リスクが低く、安全であると考えてよいのかは、リスク評価を行って初めて言えるし、全てについてリスク評価を実施し、安全宣言を行うことも大変な作業であるし、まして未知の世界がある以上は、絶対安全とは言えないと思います。

人が利用していくには、安全性について何らかの評価をして、対策が必要であるなら、対策を実施して利用することです。正確な評価をしないで安全神話で利用することは許されないはずです。

例えば、今回の柏崎刈羽原子力発電所についても、全く違った評価が可能であると思います。

(a) 一つは、危険であり慎重にとする考え方で以下のようなことと思います。
想定した揺れを上回る地震が発電所を襲った。変圧器絶縁油が火災を起こしたが、消火に長時間を要した。放射能を含んだ水が外部に漏れた。運良く、大事故となっていないだけであり、危険である。

(b) もう一つの安全だと考える評価は、次のようなことかと思います。
原子炉を始め高放射能レベルの部分については、安全に保護された。発電所の社員も地震後第一にすべきは、高放射能部分の安全確認であり、変圧器火災については、大事に至らないと判断がついたのであれば、優先順位に従った保安を確保すべきであり、問題はなかったし、信頼性が実証された。

(a)も(b)も両方とも私が書いたのですが、(a)も(b)も決定打はありません。むしろ双方とも誤りがあるのではと思いますし、正確な評価が必要です。

3) 正しい評価の必要性

次の文書を是非ご覧ください。

平成16年11月26日付け内閣参質161第7号 参議院議員近藤正道君提出新潟県中越地震と原子力発電所に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

3年近く前に新潟県中越地震に関して柏崎刈羽原子力発電所の安全性に関し、当時の総理大臣小泉純一郎から参議院議長扇千景に対して出された答弁書です。いくつかのブログで言及されていますが、この答弁書には、「地表に現れた活断層のみならず、敷地及び敷地周辺の地質、過去に発生した地震、地表に現れていない活断層等に関する詳細な調査の結果を踏まえ、敷地の直下又は近傍に、マグニチュード六・五を超え、敷地に大きな影響を及ぼす可能性がある地震の震源となり得るような活断層がないことを確認しており、マグニチュード六・五以上の規模の地震が発生した場合であっても地表に断層が現れないことがあることをもって、耐震設計審査において想定しているマグニチュード六・五という直下地震の規模を見直すことが必要となるとは考えていない。」と書かれています。

言い過ぎであると思うのですが、揚げ足を取ることではなく、正しい評価を行って訂正をして欲しいと思います。日本の原子力は、神話で推進派が押し切ってきた面があると思うからです。

この日経 7月19日 「政府、IAEA勧告を無視」志位氏が原発防火体制で批判という記事についても、真相を知りたいと思います。国民の知らないところで、もみ消しているのだとすると恐ろしいからで、どのようないきさつで、どうなっているか知りたいと思います。

4) 原子力

原子力の利用を無視して人類の今後の発展を継続できるほど甘くはないと私は思っています。例えば、次のグラフはIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)のプレゼンにあったグラフですが、上のグラフは北半球における過去1千年の温度変化です。下のグラフは、地球上の過去1千年のCO2濃度です。1900年を過ぎて20世紀に入ったとたんに共に急激に上昇しているのが分かります。これで特定できるわけではありませんが、可能性を示しています。

Temperaturevsco2

石油価格は上昇しています。私は、原子力を放棄できるほど安易な時代ではないと思います。原子力を安全に使いこないしていかなければならない時代であると思います。原子力は、決して簡単ではない。目に見えません。原子力を利用するなら、現在のところ発電に利用するのが、一番安全であり有効であると思います。

神話に基づかない、データに基づく安全を確保すべきであると思います。そのためには、多くの人間が検証すべきであり、日本政府、政府機関、電力会社のみならずIAEAも参加してデータに基づく安全確保を実施することは意義深いことと私は思います。そして、その報告書は絶対公開すべきです。

5) 世界の発展と安全

エネルギー問題は、日本のみの問題ではありません。例えば、世界の大生産・消費国中国もエネルギー供給問題を持っているし、中国に続くインドもそうです。そして、中国にもインドにも原子力発電所があります。多くの国が、やがて原子力発電所を持つことと思います。北朝鮮も現在の黒鉛炉原子力発電所は休止するでしょうが、軽水炉原子力発電所をその代わりに持つと思います。この仮定は良くないのですが、万一放射能漏れが朝鮮半島で起こったら、日本に放射能が飛んでくるのではと思います。放射能は、国境に関係ありません。そもそも、物理や化学は人為的な国境にとらわれません。

原子力は、国際的な取り組みが必要であると私は思います。日本がリードして、なんて、大げさでなくていいから、少なくとも日本も積極的に国際的な取り組みに参加して欲しいと思います。私は、IAEAとの今回の取り組みもそんな中の一環になって欲しいし、北朝鮮やイランの件に関してもIAEAの中に入って取り組めないものかと思います。

最後に、原子力と核兵器は極めて近いと思っています。原子力神話を唱えた人は、平和利用は核兵器と全く違うと言っていたように思うのですが、私はほぼ同じであり、だからこそ、今の日本も原子力発電所の燃料再処理とよんでいるプルトニウムに関してIAEAの査察を受け入れ、厳しい管理をしていると思っています。原子力発電が広まることは、それだけ核拡散につながり易いことである。従い、IAEAの管理体制をしっかりしないと核戦争の危機が強まると思います。広島・長崎を思うとき、原子力発電についても同時に考えるべきと思います。

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