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2007年8月 9日 (木)

ブルドックソースは、これでよかったのか

ブルドックソースのスティール・パートナーズに対する買収防衛策に対して最高裁判所の決定が8月7日に出され、ブルドックソースの新株予約権の無償発行とスティール・パートナーズからの396円での同時買い戻しが適法であると確定しました。

最高裁の決定文がWebに掲載されたのは、今回極めて短期間であり、最高裁に敬意を表します。下記に東京高裁、東京地裁の決定文もあわせリンクを紹介しておきます。

8月7日 最高裁判所第二小法廷 決定文
7月9日 東京高等裁判所 決定文
6月28日 東京地方裁判所 決定文

私が今までに本件について書いていたエントリーは次のものです。

7月15日 スティール・パートナーズに対する東京高裁の決定
7月 4日 ブルドックソースの買収防衛策
6月29日 ブルドックソースの第1戦勝利
6月26日 ブルドッグソースの買収防衛策に思う

最高裁決定文に関しては、他のブログでも多く書かれており、私は経営コンサルタントとしてブルドックソースの買収防衛策について、どう思うかを書いてみます。

1) ブルドックソースの買収防衛策は正しかったのか

「正しい」か「間違い」であったかは、簡単ではありません。「法的に、問題はない。」と言い切れます。しかし、法的に問題がなければ、それで正しかったと言えるのかは、検討を要します。例えば、薄型テレビを30万円で購入した。でも、別の店で全く同じ品物を25万円で売っていた。また、更に別の店では店頭に展示をしてあったことを理由に20万円で売ると言ってくれた。どの選択が正しいのでしょうか?法的には全て適法です。企業であれば、A社、B社、C社いずれから購入するのが、最も正しいのでしょうか?価格のみならず品質や、将来性、その他の面での協力度等あり、単純ではないはずです。

私が、一連のニュースの中で一番驚いたのが、このブルドックソースの平成20年3月期第1四半期報告書です。その中での、次の一文です。

3)特別損失の発生
平成19年8月7日開催の取締役会決議に基づき、①非適格者から取得した自己新株予約権の消却による自己新株予約権消却損及び②財務アドバイザー報酬・弁護士費用等の係争費用を合わせ約28億円の特別損失が見込まれます。

スティール・パートナーズからの新株予約権購入金額が21億円ですから、7億円が財務アドバイザー報酬・弁護士費用等となるわけです。アドバイザーに対する報酬が7億ですから、すごい金額ですが、ブルドックソースの2007年3月期連結ベースの営業利益9億円、経常利益10億円、税引後純利益7億円、期末従業員数366人と比較しても巨大な金額となります。

ブルドックソースは、スティール・パートナーズへの支払いのため、短期借入れ8.5億円、長期借入れ8億円の合計16.5億円の借入をしました。返済が必要な資金です。年間純利益額が7億円であれば、2.4年分です。年間配当総額を約4億円と発表しており、配当後の繰越利益剰余金で考えれば5.5年相当です。但し、これは既に借入を実施した16.5億円をベースとした計算であり、28億円で考えれば、4年間と9.3年間になるのであり、これ以上の出費は無理があると思う次第です。

2) 28億円の出費は必要であったのか

ブルドックソースの買収防衛費用は28億円であったのです。その結果として、何が得られたのでしょうか?スティール・パートナーズは、この8月8日付のスティール・パートナーズの発表にあるようにTOB価格を1,700円からその四分の一の一株当り425円に引下げました。当然このスティール・パートナーズのTOB価格引き下げも合法的であり、一方TOBの買い取り資金としてブルドックソースから21億円を受領したのであり、普通に考えれば馬鹿なゲームをしているとしか思えないと感じます。

最高裁は、「議決権総数の約83.4%の賛成を得て可決された」という事実とその手続きに瑕疵がなかったことを重く見てスティール・パートナーズの抗告を棄却した一番の理由と私は決定文を読んでいます。一方、83.4%の賛成があるのであれば、株主はTOBに応じるはずがなく、経営者である取締役は自らの主張を株主にスティール・パートナーズのTOBに応じないように訴えることが本筋であると思います。

ブルドックソース取締役会は株主総会における2/3多数決の特別決議として提案したのであり、むしろ、このことの方が、変であると感じてしまいます。2/3が賛成するのであれば、最大1/3の株主しかTOBに応じないのであり、株主に対して取締役・取締役会の主張を記載した書面を株主総会の案内と同時に送付し、株主総会においても、スティール・パートナーズのTOBに対する取締役・取締役会の考え方や今後の経営方針を説明するのが本来の姿と思います。そうすれば、28億円の無駄使いをしなくても良かったのではと思います。

もし、私が経営コンサルタントを引き受けているとするなら、タダではありませんが、7億円もの報酬は必要ありません。株主に対する誠実な説明を勧めていたと思います。そして、言ったでしょう。「スティール・パートナーズなど恐れずに会社経営に邁進しなさい。株主、従業員、ユーザー、取引先のために会社業務に正しいことを行っていれば何も怖くはありません。」と。

3) 今後のリスク

「法廷闘争には勝ったが、ビジネスには負けた。」というようなことも、現実には生じます。スティール・パートナーズとのことも、これで終わったわけではなく、新しいステージに移っただけと思います。

例えば、スティール・パートナーズから21億円で買い戻した新株予約権の償却です。この8月7日付ブルドックソース発表 特別損失の計上および業績予想の修正に関するお知らせでは、「関連費用の合計額として約28億円を見込んでおり」と記載していますが、業績予想では連結ベースでの年間純利益減少額14.8億円です。これは、税効果を見込んだことからと思いますが、そうであれば新株予約権の償却費についても税効果が入っている計算と思います。

新株予約権の償却とは、何であるかですが。無償で発行して、21億円の価値をブルドックソースが付けました。そして、21億円を払って入手したら、今度は無価値だと言ってゼロにする、即ち償却を行いました。無茶苦茶勝手ですよね。勿論、ブルドックソースの考え方によれば、それなりの理論・理屈はあるわけで、そこまで否定するつもりはありません。しかし、税の観点ではそんな勝手なことは許されて良いはずがありません。税は、公平に徴収しなくてはいけません。税に不公平があれば、それを逆手にとって、「どうして俺はダメなのだ!」と言う輩が出てくるはずです。税は、税法が公平であるのみならず施行・徴収も公平でなくてはならないのです。

そう考えると、同じ物をある時は21億円だとし、ある時は0円であるとして、21億円の損失相当の8億円税を安くしろと言うのが通るのでしょうか?認めて良いのでしょうか?私は、税務署は21億円の損金扱いが可能であるなんて言っていないと想像します。

4) アドバイザーの使い方

アドバイザーの使い方を間違うととんでもないことになってしまいます。TOBだから証券業者や弁護士に任せておけばうまくやってくれるはずだと思ったら大変な間違いです。弁護士は法について調査し、アドバイスをすることはできます。でも、ビジネスについてとなると、ビジネスとは全分野を見渡して判断を必要とすることから無理があります。まして、細かく言えば、法という分野だけで見ても一つのことについて様々な見方ができます。そして、どれをとっても、リスクゼロではないのです。大きいか小さいかはあります。確率もあります。

そんなことを思いつつ、ブルドックソースの取締役名簿を眺めてみました。すると取締役で何とか担当となっていないのは代表取締役の池田章子氏のみです。連結でも従業員数366人の会社ですから、経営に専念する取締役をおきたくない気持ちは解りますが、それなら8人もの取締役は不要と思います。代表取締役が営業担当であり、セールスのことと理解しますが、2007年3月期連結販売一般管理費81億円のうち32億円が販売促進費です。業界の特殊性があるので、細部の議論はしませんが、これで会社としてのガバナンスを、どのようにして確保していたのですかと疑問を抱きます。

私の想像ですが、だからスティール・パートナーズは狙ったのだと思いました。なお、誤解を避けるために一言追加をさせて下さい。弁護士、アドバイザーに対する報酬7億円が高すぎると言っているのではありません。依頼された仕事をしたのですから、それなりの報酬を得るのが当然だと思います。高い・安いは仕事量のその中を知らないのでコメントすることが出来ません。ブルドックソースの従業員の中(例えば、法務部)に外部アドバイザーの起用の仕方に経験豊富な方がおられれば、ずっと安い金額で済ませること出来たはずと言いたいのです。もし、社内にいないのであれば、信頼しておられる弁護士や会計士に相談されてビジネスアドバイザーの起用を考えるの良いと思います。場合によっては、私が引き受けることも可能かも知れません。

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コメント

はじめまして。同業のものです。「ビジネス法務の部屋」のトラックバックから覗かせていただきました。
ブルドック経営陣に対する思いは同じですが、この対策を選んだのも彼ら自身であり、私も同じ主張ですが、野村や西村あさひには非がないでしょう。
同時期の森総合の天竜製鋸はおっしゃるとおり、反対運動するだけで不発でしたよね。
西村の弁護士個人の癖を知らないのでなんともいえませんが、何通りか選択肢を出して、あの女社長がこの策を選択したんでしょうね。野村が作ったと思われる計画もとってつけただけの数字でなぜか6年計画で、6年目にばら色になる(ターミナルヴァリューが大きくなる)いい加減な数字のように見えましたから。
特別決議を取った以外は、幼稚な事件だったと思います。しかし、インパクトが大学院よりも大きかったですね。

投稿: katsu | 2007年8月13日 (月) 23時20分

gonchan0810さん

コメントありがとうございます。多面的に見ることの重要性を感じます。複数の選択肢があることが多いのと思うのですが、コンサルタントの業務として、それに濃淡を付けることも重要なのだとも思うのです。話は違いますが、医師がインフォームド・コンセントを行うべく、説明をした結果、患者は「色々聞きましたが、先生はどれが一番良いとおもいますか?」と問いかける。

投稿: ある経営コンサルタント | 2007年8月14日 (火) 23時55分

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