光市殺人事件が裁判員制度での裁判であったなら
「光市殺人事件が裁判員制度での裁判であったなら」なんて、嫌なことは考えない方が、良いのでしょうね。ヤメ記者弁護士さんの9月3日のブログが弁護団が作成した「Q&A(弁護団への疑問に答える)」を紹介されておられ、このQ&Aを読んで、そう思ってしまいました。なお、このQ&Aは、寺本弁護士の9月3日のブログによれば9月3日に愛知県弁護士会会館で開かれた光市母子殺害事件弁護団報告集会で配布された資料です。感想を書きます。
1) 弁護団の主張
勝田清孝と来栖宥子の世界というホームページのWebの先にこのページがあり、ページの下部分に、最高裁における高裁弁護人弁論要旨、弁論要旨補充書、鑑定書-鑑定人:上野正彦(結論部分だけ)、差し戻し審関連の記事等(最高裁検察官弁論要旨もあります。)があります。(すごい量です。大量資料と称することとします。)
弁護団の主張は、「事実に基づく公正な裁判」につきるのだと思います。大量資料の中にある光市最高裁判決と弁護人バッシング報道 安田好弘(3)に、
彼(被告人)が法廷で事実について聞かれたのは、1審、2審を通じて、1審の10分間くらいのことです。その質問の中で聞かれたことは、問と答えで約20分間程度ですから、ほんのわずかです。
と書かれています。Q&Aでは、
Q どうして差戻し前の弁護人は,最高裁までの7年間も,差戻審の弁護団のような主張をしなかったのですか。
A 私たちは,回答すべき立場にはありません。私たちが言えることは,これまでの裁判において審理が不十分であったということだけです。
となっています。
2) この事件の嫌な点
私には嫌な点が沢山ありすぎる事件です。その中の一つに、被告人が拘置所から隣の房にいた少年に対して書いた手紙があります。広島高裁判決文では検察側主張として次のように触れられています。
被告人は,遺族に対しては,謝罪の手紙すら一度も書いたことがないにもかかわらず,友人に対しては,わいせつな話題,出獄を心待ちにしている様子,検察官に対するひぼう,本件各犯行を茶化した記載など,不謹慎極まりない内容の手紙を書き送っているのであり,現在に至るも罪の重さを全く自覚しておらず,およそ真しな反省の態度が認められない,と主張する。
拘置所からの手紙は検閲され、そのような内容の手紙は普通は出せない。検察が私信を手に入れることはできない。裁判所が証拠としてとりあげない。これが、私の常識なのですが、この裁判では私にとっての常識が破られています。
ちなみに、大量資料安田好弘(3)では、次のようになっています。
それは隣の房にいた子どもが、小説家になりたいという希望を持っていて、彼からすれば、死刑を求刑されるような事件をやった被告人は関心の的であったわけです。文通の相手は被告人を偽悪的にもてはやします。そして、そのもてはやし、挑発といってもいいのですが、それに乗せられて書いたのが例の手紙であったわけです。しかし、そういう個人的なてがみのやりとりが、そっくりそのまま検察の手に渡って、検察が証拠請求してきたんです。検察官は、その手紙を盾にとり、裁判官と弁護士だけでなく被害者や被害者遺族も被告人に愚弄されている、絶対に許すわけにいかないと声高に主張を続けたのです。
Q&Aでは、直接触れられていませんが、次のQ&Aがあります。
Q 被告人の態度が悪いといわれていますが,被告人は,差戻審前に被害者や遺族を侮辱したことがありませんでしたか。
A 通常の少年事件の場合,その少年の精神的な未成熟性を考慮して,専門的な知見に基づき処遇する中で,少年も事件に向き合い,被害者遺族や被害者に対する順罪の意識が真に根付いて,更生へと至るものなのです。
しかし,被告人の場合は,犯行当時の人格特性や精神的に未発達な状況のまま放置されており,また,更生に向けての処遇などは一切なされていません。自己の行為に直面し,自分がどういう生い立ちをし,何を課題として抱えているのか,あるいは解決していないのかを,丁寧に寄り添いながら処遇されなければならないところ,そのようなことが全くなされてはいませんでした。
したがって,被告人自身が,反省をしていても,その表現の仕方が分からないことに加えて,被害者遺族がどういう思いをしているのか相手の立場に立って考え,被害者遺族を傷つけないで自らの気持ちを表現するにはどうしたらよいのか,などの配慮を欠いていた状態であったことは否めません。
3) 結論は?
どうなるのでしょうね?殺人を犯していることに間違いはありません。だから死刑と短絡して良いのかと思います。即ち、この事件で言えば、検察は死刑を求刑している。遺族は死刑と言っている。遺族に対して与えた苦しみは大きい。でも、死刑の判断を下すことは、容易ではない。無期と死刑と、その差はどこで分かれるべきか?色々悩むと思います。
もし自分が裁判員に選ばれているとするなら、死刑とは、自分が裁判員となった裁判で下したくない判決です。裁判員制度はこの裁判員制度Q&AのQ24にあるように評議に加わり裁判官3名と裁判員6名の裁判員の多数決で無罪、有罪、有罪の場合の量刑を決めることになります。そして、評議については裁判員制度Q&AのQ29にあるように刑事罰が科される守秘義務があります。評議において、自分を含め誰が何を言ったか、多数決の人数を外部の人に言うことは出来ません。当然のことですけれどね。もし、自分がどのような意見を出したか判れば、被害者または加害者から、恨まれるでしょうね。
プロの裁判官に任せたいというのが、本音でしょうか?でも、どうして裁判官3名に対して裁判員6名なんて数になったのでしょうね。いずれにせよ、国民的な議論がないままに、成立してしまった法律である気がします。
| 固定リンク
コメント