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2007年9月 1日 (土)

奈良の妊婦救急搬送

この事件に関して、今一度書いてみます。

1) 妊婦健康診査

救急搬送された女性は、38歳で妊娠7ヶ月であったようです。(例えば、この毎日新聞の記事)高年齢出産となるのですが、妊婦健康診査を受けておられなかった。妊娠していることが分かったら、市町村の役場・出張所に行って、母子健康手帳の交付を受けるとともに、都道府県・市町村からのサポートを受ける。これが、私たちが母子保健法で決めていることです。ちなみに、母子健康保険法の第1条から第3条は以下の条文です。

(目的)
第1条 この法律は、母性並びに乳児及び幼児の健康の保持及び増進を図るため、母子保健に関する原理を明らかにするとともに、母性並びに乳児及び幼児に対する保健指導、健康診査、医療その他の措置を講じ、もつて国民保健の向上に寄与することを目的とする。
(母性の尊重)
第2条 母性は、すべての児童がすこやかに生まれ、かつ、育てられる基盤であることにかんがみ、尊重され、かつ、保護されなければならない。
(乳幼児の健康の保持増進)
第3条 乳児及び幼児は、心身ともに健全な人として成長してゆくために、その健康が保持され、かつ、増進されなければならない。

今回の事件についても、母子保健法をまずは考え合わせるべきことと思います。母子手帳の交付を受けて、妊婦健康診査をしていれば、健康診査で母体や胎児の状態がある程度は、分かったはずであり、死産・流産を防げた可能性が高かったと思います。

2) 妊婦健康診査の公的援助

格差社会で、妊婦健康診査も大変です。だから、厚生労働省は、平成19年度地方財政措置で少子化対策により財政拡大がなされたことにより、年14回(財政的に困難な場合でも、最低限5回)の妊婦健康診査を全て公費負担とするように都道府県・政令市・特別区に2007年1月19日に通知を行っています。そして、更に6月26日に市町村に対し周知するようにと事務連絡を行っています。

厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課のこの通知と事務連絡はここここにあります。(社団法人日本助産師会にあったものです。)通知の中で、次のように述べられています。

公費負担の有無にかかわらず、妊婦健康診査の重要性について、妊婦及び一般市民に対する周知・広報に積極的に取り組まれたいこと。

本来今回の事件で、問われるべき一つの点は、奈良県、橿原市が妊婦健康診査について広報活動をどのように行っていたのか、十分であったのかという点であると思います。

3) 産科医を助けてあげたい

日本の今の社会はいじめ社会で、いじめ社会の先端を行っているのがマスコミであるような気がしてしまいます。次の奈良県立医科大学附属病院の発表を読んで、どうお感じになられますか?

今般の妊婦救急搬送事案について(8月31日付)

産婦人科は、8月28日19時から当直医2名(但し、29日2時30分までは当直外医師も重症患者がいたため応援1名あり。)で、朝の5時30分までに5名の緊急患者を受け入れています。記録には、既に入院していた重症患者1名の記述がありますが、この患者の手術は9時から23時まで14時間を要したのであり、相当な重症であったと思います。そして、8月29日の朝に2名の当直医の勤務は終了せず、1名は通常勤務、もう1名は他病院で24時間勤務です。

発表文には、「なお、産婦人科に限らず、救急科、脳神経外科、心臓血管外科、麻酔科等の医師も同様の状況であることを付け加えておきます。」と記載されています。

そこで、8月31日の産経新聞 奈良県の「ドクターバンク」、いまだ登録医ゼロ 産科・小児科 不足解消遠くですが、何故医師が登録しないかよく分かります。

日本の医療崩壊は、こんな形で起こってきているんだなあ!つくづくそう思います。

4) 飛び込み出産の増加

次のJ-Castニュースが、本事件について別の側面を伝えた私が知っている一つです。

J-CASTニュース 8月31日 なぜ産科医は患者を断るのか 出産費用踏み倒しに「置き去り」

この記事に神奈川県立子供医療センターの例として、「1~4月に来た飛び込み出産の妊婦8人のうち、出産費用を払ったのはわずか2人しかいなかった。なかには生まれた赤ちゃんをおいていってしまった女性もいたという」と書いてあります。そして、この朝日新聞(神奈川)7月15日には、横浜市内の病院に勤務する49歳の女性産科医の話として「病院でお産をしたあと、出産費用を払わないで帰ってしまう女性が、ここ2、3年で目立つようになってきた。」と書いてあります。

プライバシーは守らねばならないのですが、実態を正確に把握することが、全ての基本と思います。そうしないと、間違ったことをしてしまわないでしょうか?結論を急ぐより正しい解決の道筋を考えることが重要と思います。

5) マスコミへの問いかけ

マスコミが書いていることは、私が上で書いていることと焦点があっていないと思います。

産経社説8月31日妊婦たらい回し また義務忘れた医師たち
読売社説8月31日妊婦たらい回し 一刻も早い産科救急の整備を(8月31日付・読売社説)
朝日社説8月31日奈良の死産―救急網に穴が多すぎる

とあり、社説・論説はありませんでしたが、しんぶん赤旗の記事で8月30日 たらい回しの悲劇再びというのもありました。確かな野党というからには、確かな視点での記事をお願いしたいと思います。

長くなってしまいましたが、医療崩壊が始まっています。このままマスコミの言うように動いていては、私たちが医療を受けられない状態になる危険性があると思います。首都圏の産科でも、実態は次の通りです。

朝日2006年12月30日「お産ピンチ」首都圏でも 中核病院縮小相次ぐ

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コメント

秋月様
産婦人科に感する未払い患者の件は知りませんでした。
私もマスコミ(特に社会記事)の記事は辟易とするものが多いと感じています。
たまたま食品安全性の調査をしており特に感じていたのですが、結論ありきで強引にロジックを組み立てているような気がしてなりません。
大きな権威に向かって「管理がずさん」「組織ぐるみ」がキーワード(正しい場合もありますが)で決め付ける内容が目に付きます。
食品安全性の取材の際、AERA(朝日新聞社!)の記者が専門家に「Made in Chinaは危険」という結論を誘導しようとしたらしく、専門家が「国産も中国産も残留農薬では同じ問題を抱えている。差別的な記事のために取材を受ける気はない」と主張したら、「中国産が毒と書くと部数が伸びるんです。すみません。国産も扱いますから取材させてください。」といったそうです。
要は過激な記事で部数を伸ばそうとしているだけだと感じました。インターネットの影響で彼ら自身が危機にさらされているのですが、聞き手を惑わすのは我々としても迷惑なものですね。
AERAには国産も毒という主旨の記事がありましたが、中国産の1/3ぐらいのスペースで取扱われていました。

投稿: gonchan | 2007年9月 1日 (土) 22時52分

gonchanさん

コメントありがとうございます。
雑誌には、売るために衝撃的なタイトルを付すのだろうと思いますが、TVワイドショーなんて視聴率だけのためにやっているのかなと、辟易してしまいますね。

投稿: ある経営コンサルタント | 2007年9月 2日 (日) 23時47分

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出産費用には、妊娠してから通う病院の検査代・定期健診代・分娩費、マタニティ用品やベビー用品、内祝い費や出産祝いのお返しなどがあります。平均的に、分娩や入院費に35万円前後、さらに定期健診やマタニティ用品、ベビー用品などを加えると、50万前後は必要でしょう。子どもが誕生するということは、思っている以上にお金のかかることです。健康保険は、病気の場合に適用される制度です。妊娠や出産は、病気ではないので、健康保険は適用されません。検査や定期健診の費用は、全額負担となります。しかし、検査で異常が出た場合や、帝... [続きを読む]

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