バイオ燃料
10月9日の読売、産経と朝日に、次のような記事がありました。
読売 関西発 バイオ燃料試験販売、大阪府内の2店で始まる
産経 10月9日 建築廃材原料のバイオ燃料 大阪で販売開始
朝日 関西 建築廃材からバイオ燃料、大阪のGSで試験販売開始
このバイオ燃料は建築廃材から製造するとのことで、食料・飼料に対する影響はなく、リサイクルだから問題はないとは思えるのですが、バイオ燃料に関して少し考えてみます。
1) バイオ燃料の理論(理屈)
7月23日のエントリー 原子力発電所の安全性の中の4)で、次のグラフを掲げました。
下のグラフにあるように、1800年頃までは大気中CO2濃度は280ppmでした。しかし、1900年頃から急激に濃度が上昇し、現在は360ppm位です。大気温度が上のグラフで、1950年頃から急激に上昇しています。
何故、大気中CO2濃度が1900年頃から上昇したかですが、石炭、石油、天然ガスという化石燃料を使用したからと説明されています。動物は食物を食べ、息をして口等からCO2を出します。植物も同様に呼吸をし、CO2を出すのですが、光合成によりCO2を吸収し、植物のCO2吸収量と動植物のCO2排出量がほぼ同じであることから、1800-1900年頃まで大気中CO2濃度はほぼ一定でした。
石炭、石油、天然ガスは、白亜紀とか・・・・という大昔に地中に埋もれた動植物が変化したものと考えられています。いずれにせよ、燃料として使用することは地中に入っていたモノを大気中に出して、CO2を製造することになります。その結果、CO2の放出量は増加したし、今後も増加すると見込まれる。その結果が、大気温度の上昇になるという理屈です。大気温度が上昇して、どんなことになるか、偉大なる実験が始まろうとしているのか、最小限の影響で食い止めることが出来るのか、今後にかかっています。
バイオ燃料は、Biomass(生物)から製造した燃料ですから、化石燃料ではない。いくら使ってもCO2の光合成・植物吸収によって循環するからCO2の増加にはならないというのが、バイオ燃料の使用は地球温暖化にはならないというのが理論(理屈)です。
2) バイオは地球にしか育たない
地球は、直径12,700km強の球のような形をしており、1.5億平方Km弱が陸地面積です。砂漠を除いて、植物が存在しており、森林破壊もCO2の光合成・植物吸収を阻害することであり、地球温暖化になります。従い、育った植物も枯れるだけで、利用されない未耕作地にバイオ燃料を製造するための植物を育成し利用する場合は、1)の理論は完全にあてはまります。
しかし、食料・飼料用のトウモロコシをバイオ燃料に転用すると、食料・飼料が不足する。値上がりする。たとえば、この日経トレンディー 5月8日 キユーピー、マヨネーズ値上げ・17年ぶりは、「菜種など植物からつくるバイオ燃料の世界的な需要拡大で植物原料が高騰しており、その影響が食卓に及んできた。」と言っていました。途上国で食糧不足に直面している貧しい人々は、もっと大変だろうなと思います。
日本におけるバイオ燃料の可能性ですが、容易とは思えません。バイオ燃料はイコール農業の面があると思うからです。即ち、飼料以上に安い価格で生産しないと、現状では困難と思うことと、食料・飼料を輸入している国にバイオ燃料用の植物を生産することは無理と思うからです。
3) バイオ燃料とは
使用済み天ぷら油をディーゼル油にというバイオ・ディーゼルがありますが、冒頭の大阪のバイオ燃料というのは、ガソリンに容積比で3%(実際には2.6%+/-0.2%と理解します。)バイオ・エタノールを混入するバイオ燃料です。
このエタノールは何かというと、エチルアルコールとも呼ばれ、要は酒です。例えば、トウモロコシを砕いて、水に浸し、発酵させて、エタノールを製造する。この段階では、水とエタノールが混じった状態なので、水を取り除いて純度を上げる。そして、このままでは、人が飲める状態だから、ガソリンを多少混ぜて、人が飲めないよう、燃料専用にするという具合で製造します。
酒を造るのと同じなので、副産物として絞りかすが出てくる。これを飼料にするという具合で、原料や製造方法によりプロセスや副産物の種類が違ったりするわけです。もう一つ、発酵させて製造するということは、この段階で実はCO2を発生します。そして、電気も消費するし、エネルギーも消費します。発酵段階のCO2は、植物にあったCO2だから、化石燃料のCO2ではないのですが、電気を使うことは、発電に消費された化石燃料を消費することであり、エネルギーは通常石油や石炭あるいはガスであり、化石燃料です。そこで、差し引き、どうなったかを次に考えます。
3) バイオ・エタノールのエネルギー・バランス
今や、私たちの産業や生活が化石燃料と無縁では済まない状態です。もし、バイオ・エタノールを1トン製造するために、1トン以上の化石燃料を使用しているなら、そんなことは合理的ではないのでしょう。但し、エネルギーなので、1トンではなく、1カロリーあるいは別のエネルギー単位で考えるべきです。
次のグラフは、ここにあったMichael Wang氏のトウモロコシ・エタノールのエネルギー・バランスに関するグラフです。
トウモロコシ・エタノールの熱量は84,000BTU/Gallonですから、差の純エネルギーが20,000BTU/Gallonということは、64,000BTU/Gallonのエネルギーをエタノールを得るために消費したと言うことです。即ち、76%のエネルギーを生産のために消費し、燃料として使用可能なエタノールとなったのは24%です。
一方、石油、石炭、天然ガスも、掘削、運搬等にエネルギーを消費しているのであり、石油については、1のエネルギーを得るためにその23%のエネルギーを消費しているとしています。一見すると、1のエネルギーを得るために76%消費することと、23%消費することでは23%消費することの方がはるかに効率が良いのですが、化石燃料の消費の観点で見ると、バイオ・エタノールの生産に要したエネルギーが全て化石燃料であったとして76%です。しかし、石油の場合は、消費している1と獲得するためのエネルギー23%の合計ですから、123%の化石燃料を消費していることとなります。
狐に欺されたような感覚もありますが、1のエネルギーを消費するとして化石燃料の消費を出来る限り下げたい場合は、バイオ・エタノールの方が下げられると言えます。しかし、一方で化石燃料の消費をゼロにすることは大きな困難がつきまとうとも言えます。
なお、トウモロコシ・エタノールを獲得するためのエネルギーとは、耕作地における肥料はその製造に化石燃料が使用されており、灌漑用水、農業機械も化石燃料と無関係ではありません。収穫したトウモロコシをエタノール工場に輸送するにも、生産されたエタノールを輸送するにも化石燃料が使用されるのであり、エタノール製造に係わる直接工程での化石燃料以外にも化石燃料が使用されています。
他の環境に良いとされるエネルギーについても、同様のことがあてはまります。燃料電池も、水素を得るのは化石燃料であり、水素を取り出すためにエネルギーを消費します。電気自動車も、電気が化石燃料でつくられている部分があります。原子力発電にしても、燃料ウランを製造するため、発電所を建設するため、部品を製造するため、やはり色々と化石燃料を消費していると言えます。水力、風力、地熱、太陽光全て全く化石燃料を消費していないとは、言えません。多いか、少ないか。環境により優しいか。将来により問題を残さないかがポイントだと思います。
4) バイオや地球温暖化はビジネスチャンス
例えば、この日経BP 10月10日 エタノール普及に「待った」 巨額の補助金受ける石油大手です。上に書いたことと違ったことも書かれていますが、この中に出てくるE85とは、85%をエタノールにした燃料です。日本はまだ3%エタノールのE3ですから。しかも、石油連盟はこれのようにE3に反対しており、ETBE(ここにWikiがあります)を推しています。
ビジネスの思惑が絡み、複雑であり、そんな簡単なことではないことが、少しおわかり頂けたと思います。バイオ燃料を調べていくと次から次へと深みに入っていってしまいました。
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