医療の国際比較
10月2日のエントリー病院経営で、自治体病院の経営内容について書きました。9月10日には映画「シッコ」について書きました。今回は、日本の医療について書きたいと思います。しかし、あまりにテーマが大きくとりあえず、国際比較をOECDやWHOのデータで行ってみます。(本エントリーは、グラフが多くなっており、グラフはクリックするとWindowが開き、拡大表示されるようにしました。)
1) 日本の医療費
現在OECD加盟国は30ヶ国です。OECD30ヶ国のGDP合計で世界GDPの60%を占めており、日本との共通点も多いと思うことから、その比較を行えば、日本の姿がよく見えるはずということで、次のグラフを作成しました。
日本の医療費はGDPの8.0%であり、30ヶ国中22位です。ちなみに最大の米国は15.2%ですから日本の1.9倍の医療費を使っています。米国を特別だとし、ヨーロッパの標準を仮に仏、独のように10%とするなら平成18年度の日本のGDPが510兆円ですから、日本の医療費が10兆円今より増加してもおかしくないこととなります。
一人あたりの医療費を購買力平価(Purchasing Power Parity)で表した比較グラフが次のグラフです。購買力平価とは、実際の物価水準から割り出した実質為替レートにより換算した金額と考えてください。こちらでは、19位に上昇しましたが、大きな変化はないと思います。但し、米国との比較では、2.56倍になり1.9倍から格差が拡大しました。
過去からの推移を表したのが、次のグラフです。従来から低かったと言えるのだと思います。しかし、すごいのは米国です医療産業は右肩上がりの成長を続けています。但し、米国についても、面白いのはBill Clintonが大統領であった1993-2001年頃は比較的フラットで、George W. Bushの現政権になると突然2%以上上昇する。露骨に現れるとは、このことかな?て思います。
それからすると、英国も同じようかも知れません。Margaret Thatcherの英国医療制度改革(実際には、John Majorが首相になってからと思います。)の1991年頃からフラットになりTony Blairの労働党政権になって、カーブに傾きが出てきた。しかし、余り他国のことを言えません。日本も2001年小泉政権が誕生し、聖域なき改革でフラットになりました。福田カーブは、どのようになるか興味があるなんて、馬鹿なことを言ってはいけません。自分のことだから、どうすべきか真剣に考える必要があると思います。
2) 医療レベルの比較
とりあえずOECD30ヶ国の平均寿命が次のグラフです。
日本は一番の長寿国です。米国と比べると、購買力平価で日本の2.56倍であった米国が、平均寿命では女が日本の94%で、男が96%です。すごい皮肉です。ちなみに、昔からそうであったかというと、1960年では欧米諸国より平均寿命が短かったのです。各国の中でも、日本は寿命の伸びが大きく、米国は小さかったということです。平均寿命は医療のみの貢献ではないものの、医療が悪ければ長寿は得られないと言えると思います。
もう一つ指標として、5歳未満の乳幼児死亡率を見てます。この指標は、本来は次のグラフのように、国の貧困度、衛生度を計るための指標です。(データーは、WHOのReproductive Health Indicators Database July 2006によります。)
全部で193ヶ国を比較したグラフなので、日本が隠れてしまいました。そこで、40ヶ国を
対象としてグラフを作成しました。日本は、3.5人で、第2位です。医療費については、OECD30ヶ国での比較であったから、5歳未満の乳幼児死亡率についても30ヶ国でもよかったのですが、米国が37位で30ヶ国にすると対象から外れてしまうので、米国も比較対象とすべく40ヶ国にしました。ちなみに米国は7.5人ですから日本の2倍以上の乳幼児死亡率です。
米国は、国土も広く地方では、子供を病院に連れて行くのも時間を要するという事情があることと思います。しかし、一方で格差社会の中、低所得者層の医療環境の悪さを物語っているのではと思います。
上で触れたもう一つの国である英国は、5.5人で、26位です。言えることとして、「日本は少ない医療費にも拘わらず、最高水準の医療を確保している。」であると思います。
米国の医療技術が低いわけではありません。移植医療とか先端医療の分野で日本よりずっと進んでいる部分があると思います。しかし、先端医療の恩恵を受けられる人が、実は米国でも限られている。医療保険の無保険者が多くいると理解します。
3) 医師数の比較
OECD統計に戻ります。OECD統計による医師数の比較が次のグラフです。日本の医師数は、少し異なってはいますが、医療費の順位とほぼ同じです。その次は、1960年以降の医師数の推移を表したグラフです。
日本は2002年から2.0人で水平です。英国は、日本にほぼつきあっていてくれていたのですが、2001年からは差が出ました。1987年から医療費抑制で水平飛行(それでも日本より高い高度でした。)をしていたカナダが2005年は2.2人で少し上向きました。米国は、2005年の医師数2.4人ですが、1992年以前のデータがOECD統計になく、それ以前は線が描けていません。
日本の医療費の低さは、医師の労働力によって支えられていると言ってよいのだと思います。例えば、9月 1日のエントリー 奈良の妊婦救急搬送で書きましたが、奈良県立医科大学附属病院でその夜19時から当直であった2名の産科医は1名が翌日も通常勤務で他の1名も他の病院で24時間勤務です。このホームページは、月に5-6回(最大は月8回)の当直勤務をこなし過労で勤務先の佼成病院(東京都中野区)の屋上から飛び降り自殺をした故中原利郎医師の裁判を支援する会のホームページです。(労災認定は、行政裁判の結果、認定されました。立正佼成会に対する民事裁判は、東京高裁で継続中です。)
4) 将来に向けて
将来のことを考えると恐ろしくなる面があります。一つは、政府や世間は「医療費削減」のムードにあることです。国際比較すると、医療費削減をしてしまうと、医療崩壊にまっしぐらだと思えます。このような読売 9月28日 首相、高齢者医療費負担増の凍結に向け協議会設置を了承ニュースがあります。そもそも高齢者医療費と呼んでいるのは、来年4月から始まる高齢者医療制度です。いろいろ探しましたが、このしんぶん赤旗(7月27日)が一番わかりやすい感じです。この厚生労働省のWebは、平成18年1月31日の医療制度改革大綱で、高齢者医療制度以外も含んでいると思いますが、一番下の表に医療保険8300億円と公費6800億円の財政負担が軽減されると書いてあります。さあ、どうなっていくのでしょうと思います。無責任・人任せの最後は、自分にツケが回ってきそうな気がします。最後は、公的資金(公的医療保険も含む)の、国別の負担割合の比較です。
国際比較をすると、日本はいい国です。その良さを、どう伸ばしていくかを考えるのが重要だと思います。効率が悪いとか、高いとか、そんな面がないとは言えないと思いますが、根拠を数字で示し、対策をその結果の期待と考え得る悪影響も同時に提示して、提案されるべきです。よい面を維持していくことの大切さを感じます。
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