揮発油税の扱い
民主が揮発油税の税率を、租税特別措置法第89条に定めた適用期限がこの3月末で満了することから、本法である揮発油税法の税率に戻そうとの動きが聞こえてきています。
日経 1月16日 民主、ガソリン価格で「値下げ隊」・議員60人が結成
数日前ですが、この朝日新聞の1月13日の記事「3月末まで成立させない」 ガソリン税で民主・山岡氏は13日のNHKの日曜討論の中での発言として、「暫定税率は廃止する方向で検討し、・・・・民主、共産、社民3党の足並みがそろう方向となった。 」と報道しています。
どちらかというと、このブログでは、政府、与党、自民・公明の政策に批判的なことを書いておりますが、揮発油税の税率は現状を維持すべきと私は考えています。その理由を以下に述べます。
1) 石油価格
まずは、原油価格の推移を表したグラフが次です。1999年1月から2007年11月までの動きです。原油価格は、OPEC Baskect Average Priceを使っています。
本年初めに原油が100ドルを超えたと報道がありましたが、あの価格はWTI (West Texas Intermediate)という米国テキサス州の原油のニューヨークマーカンタイル取引所(NYMEX)での価格です。上のグラフのOPEC Baskect Average Priceの方が、日本に輸入される原油価格に近いと思います。なお、バレルと米ドルで表現しても、ピンとこないので、円貨換算してリットル表示にしたのがピンクの線です。右座標で読んでください。
これと、ガソリン価格との関係を見たのが次のグラフです。
一番上の赤の線がガソリン価格です。総務省の小売統計物価調査の東京都区部小売価格がデータの源です。ガソリン小売価格と原油価格は、ほぼ連動しています。その差額を黒の線で表しましたが、80円と100円の間にあることが分かります。この内訳は、中東から日本へのタンカー運賃、日本での貯蔵、精製、ガソリンスタンドまでの運賃とガソリンスタンドでの販売費用、そして税金です。
2) ガソリンと軽油の税金
ガソリンに課せられる揮発油税と軽油に課せられる軽油引取税に絞ることとします。揮発油税が48.6円/㍑と軽油引取税32.1円/㍑なのですが、実質としてはガソリンには5.2円/㍑の地方道路税(国税ですが、地方の道路関係に支出が限定されています。)があるので、ガソリンは実質53.8円/㍑が税金です。
ガソリンと軽油で税金の差が、21.7円/㍑ですから、これがガソリンと軽油の価格差の大部分です。
上のガソリンのグラフの差額は80円~100円ですから、このうち53.8円が税金なので、26円~46円が輸送費、精製費、販売費になります。平均を計算すると88円でした。そうなると、税を差し引いた残りは34円です。
3) この3月以降の税率は
ガソリンが揮発油税24.3円/㍑と地方道路4.4円/㍑の合計28.7円/㍑及び軽油引取税15円/㍑となります。その根拠は、「続きを読む」に関連の法律条文を記載しましたが、現在適用中の税率については「平成15年12月1日から平成20年3月31日までの間」と記載されているからです。
税金が安くなることは良いことだと単純に考えて良いのでしょうか。ガソリンの年間消費量を59百万キロリットルとし、軽油の年間消費量を41百万キロリットルとして税額を計算すると現行税率でガソリン関係は3.2兆円、軽油関係が1.3兆円の合計4.5兆円です。これが下がった税率になると、それぞれ1.7兆円と6000億円になり合計は2.3兆円ですから、2.2兆円の税収がダウンとなります。
2.2兆円の財源がなくなることは、大きいです。教育、医療、格差問題、研究開発、環境いずれをとっても重要と思うし、手が抜けないと思います。2.2兆円を道路財源として、使用することは中止して当然と思います。その場しのぎではない、解決策を作るべきだと思います。例えば、炭素税の議論が全く行われていません。ずるずると来ているだけだから、1月9日の次のグラフのように、日本の地位は落ちて行くのみという気がします。
それに、税率を引き下げてガソリン・軽油価格が安くなって、その恩恵は、誰の所に行くのでしょうか?下請けの運送業者にはほとんど行かないと思います。税金が下がった分、運賃を安くさせれると思います。自家用車に乗ることが少ない、ガソリンを使わない高齢者にも恩恵は行きません。公共交通機関の運賃は据え置きです。ほとんど、影響がないからです。(元々燃料費により運賃を上げていないと思います。)
高価格だから、省エネルギーが進むのであり、省エネルギーが最も重要という側面があると思います。
4) 世界の石油需給バランス
次のグラフは2006年の初めからの四半期毎の世界の原油生産と原油需要のグラフです。(データは米国Energy Information Administrationからです。)
グラフの上に書いた数字は、赤で1.17%の場合は、1.17%需要が生産より大きかった。即ち、不足であった場合です。不足した場合は、在庫(Stock)からの供給となり、生産が大きければ在庫の増加になります。統計誤差も大きい場合は1%近く含まれることがあり得るので、需要の伸びも需給バランスもそれほど大きいわけではありません。少しのバランスに対して、価格は大きく動くのがマーケットです。そして、長期的には、需要も増加するし、価格も上昇すると見るのが正しいと思います。但し、現在の価格が高いか安いかは誰にも分からないのです。
これだけの需給バランスで、最初の1)に書いたような価格変動になるのです。価格は、だれも高い・安いと言えないのです。現実に、その価格で取引がされている以上は、嘘ではない実価格です。年間の取引高は全世界で300兆円です。価格は、コントロールできない。だから、価格が上がっても耐えうる体質を作ることが重要です。それは、揮発油税を下げることとは私には思えません。
租税特別措置法89条
平成五年十二月一日から平成二十年三月三十一日までの間に揮発油の製造場から移出され、又は保税地域から引き取られる揮発油に係る揮発油税及び地方道路税の税額は、揮発油税法第九条 及び地方道路税法第四条 の規定にかかわらず、揮発油一キロリットルにつき、揮発油税にあつては四万八千六百円の税率により計算した金額とし、地方道路税にあつては五千二百円の税率により計算した金額とする。
揮発油税法9条
揮発油税の税率は、揮発油一キロリットルにつき二万四千三百円とする。
地方税法附則32条の2
2 平成五年十二月一日から平成二十年三月三十一日までの間に第七百条の三第一項若しくは第二項に規定する軽油の引取り、同条第三項の燃料炭化水素油の販売、同条第四項の軽油若しくは燃料炭化水素油の販売、同条第五項の炭化水素油の消費若しくは第七百条の四第一項各号の軽油の消費、譲渡若しくは輸入が行われた場合又は当該期間に軽油引取税の特別徴収義務者が第七百条の三第六項の規定に該当するに至つた場合における軽油引取税の税率は、第七百条の七の規定にかかわらず、一キロリットルにつき、三万二千百円とする。
地方税法700条の7
軽油引取税の税率は、一キロリツトルにつき、一万五千円とする。
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コメント
共産党シンパですが、正直言って環境のことを真摯に考えるなら、あえて石油関連税維持を言うべきではと思います。「弱者の味方」も環境のことを考えねばならぬ時代です。
安くしたら代替エネルギー開発のモチベーションが下がります。原油が有限なのは自明のことなのですから、これから先原油の値段は上がることはあっても下がることはないと思うべきでしょう。コンサルタント先生のおっしゃるとおり、値段が上がってもそれに耐える社会を築き上げるときに来ていると考えます。
問題は石油関連税が道路だけに使う特定財源だと言うことではないでしょうか。代替エネルギー開発などに回すべきでしょう。
投稿: 山口(産婦人科) | 2008年1月21日 (月) 15時46分
山口(産婦人科) さん、いつもコメントありがとうございます。
本来は2.2兆円の使い方を議論すべきだと、私も思うのです。例えば、ガソリン・軽油の税であるから、関連した分野で有効的に支出するとすれば、公共交通機関の整備や運用補助金により地方の路線を増やしたり、利用しやすいようにする。地方救済、弱者救済に積極的に利用して欲しい財源だと思います。
投稿: ある経営コンサルタント | 2008年1月22日 (火) 11時18分