追徴税の支払いは税引後利益に関係せず(フォスター電機)
「追徴税の支払いは税引後利益に関係せず」です。もしかしたら、おもしろいなと思いました。何の件かは次の朝日の記事とフォスター電機のプレスリリースをご覧下さい。
朝日 1月9日 フォスター電機18億円申告漏れ 香港子会社分申告せず
フォスター電機株式会社 1月9日 プレスリリース 本日の一部報道について
1) 本当に税引後利益に影響せずか?
”影響せず”です。昨年12月21日に平成19年4月1日から平成19年9月30日までの半期報告書をフォスター電機は、提出していますが、そのなかの当該中間期に関する連結財務諸表及び単体財務諸表は次のようになっています。(単位:百万円)なお、繰延税金資産及び負債は流動・固定合計の数字にしています。
繰延税金資産 | 繰延税金負債 | 未払法人税等 | 過年度法人税等 | 法人税等調整額 | |
連結貸借対照表 | 657 | 1,653 | 1,730 | ||
連結損益計算書 | 1,463 | ▲798 | |||
単体貸借対照表 | 1,273 | 0 | 1,675 | ||
単体損益計算書 | 1,463 | ▲1,230 |
プレスリリースは、「追徴税額は地方税等を含め約900 百万円と試算しており、当中間期では896 百万円を見積計上しております。」と記載していますが、上の表だけ見ると1,463百万円を予想したのかと思います。
やはり税引き後利益には、ほとんど影響がありません。何故なら、単体の方から述べますが、法人税等調整額を1,230百万円計上して、この期の法人税の負担を1,230百万円少なくしているからです。では、その心は?となりますが。それは、将来の税金の前払いとして扱っているからです。税金の前払いであるから、繰延税金資産となります。(繰延税金資産計上額1,273百万円)
すなわち、将来香港子会社のフォスターエレクトリックから親法人に配当が支払われ、配当金の見合いで親会社は利益を計上し、その時の利益に対応する法人税等であるからです。将来、親会社が利益を計上するときには、今回払った税金分が丁度税の前払いに相当するからです。香港の子会社の法人税率は低いから香港では税引後利益は大きい。しかし、日本の親会社へ配当として支払えば、日本での法人税が課される。この時の日本の法人税の納付金額は(その先の投資先の中国も含め)香港で子会社が支払った額が二重課税となるために控除されます。
これで、連結財務諸表の税引後利益もおわかり頂けたのではないかと思います。会社の利益が香港の子会社にあろうが、本社に配当として受領していようが、理論的には同額でないといけないのです。というか、最終的には子会社を持つのは、子会社の事業利益の配当を期待して投資したのですから、親会社に配当してくるはずです。その前提で連結財務諸表は作成されているからです。技術論で言えば、子会社の利益が将来の配当で親会社に移ったときに、税の納付が発生することから、未払い税金です。但し、債務の発生にはなっていないことから、会計の仕訳では(法人税等調整額/繰延税金負債)となります。従って、連結財務諸表では、未払法人税に加えて繰延税金負債も計上されています。
2) タックスヘイブン対策税制とは?
タックスヘイブン対策税制とは、租税特別措置法66条の6「内国法人に係る特定外国子会社等の留保金額の益金算入」のことです。税率が25%以下の国に子会社を持っていた場合、その子会社の利益を日本の親会社に配当してこないで、子会社に留保した場合に一定の留保金額(課税対象留保金額)については、親会社である日本法人の課税所得に加算して親会社の納付税額を計算する制度です。低課税国に子会社を設立して税逃れをすることを防ぐのが最大の目的と理解しています。
一方、プレスリリースは「業態が卸売業で、第三者からの仕入高が50%以上あることからタックスヘイブン対策税制の適用除外であると認識しておりました。」と述べていますが、この意味は、租税特別措置法66条の6第4項に適用しない場合の除外事業を規定しており、卸売業の場合は租税特別措置法施行令39条の17第2項において「関連者以外の者との間の取引に係る仕入取扱金額の合計額の占める割合が百分の五十を超える場合」と規定されています。従い、プレスリリースが正しいことになります。
しかし、香港子会社が中国に孫会社を持ち、一体としては製造業であると税務署は考えたのだと思います。実際、フォスター電機のビジネスレポート(第74期中間期)には次のように書かれています。(実物には赤字表示はありません。)
FOSTER ELECTRIC CO.(, HONG KONG)LTD. 豊達電機(香港)有限公司
-各種スピーカ、スピーカシステム、ヘッドホン、マイクロホン、および電子部品の製造・販売-
私も、実態を知りませんが、表面ではなく、実態を重視して税法を適用するのが正しいと思います。さもないと、税逃れがいくらでもできますから。そして税逃れは、正規に税を納付する人が困ることとなります。
3)?????
ブログに書くほどのこともないかと思ったのですが、追徴課税があっても、税引後利益は変わらずというのが、面白いと思いましたので、書いてみました。しかし、本当は租税特別措置法66条の6ではなくて、法人税法69条(外国税額の控除)があるから、香港で税を納付していなくても、日本で税の納付金額が大きくなるし、逆に外国子会社で税を納付してたら、(限度額はありますが)その額だけ日本での納付税額は少なくて済むという「外国税額の控除」の話だと思います。だから、税引後利益に変化なしと言うわけです。
そこで、もう一つ、法人税率引き下げの議論があります。日本の会社は、低課税国で事業をしようが、日本の税率が最終的には税の負担になります。従い、日本企業に国際競争力を持たせるには、日本の法人税の税率引き下げが必要だとの議論が生じています。即ち、国際的に見て米国に次いで高いのであるとの議論です。
しかし、法人税のみを取りだして議論することは、正しくなく、政府の税収全体をどうするかの議論をしなければならないと考えます。法人税を低くすると、その分、消費税の引き上げになるでしょう。一方、世界一高い米国企業は、外国に投資し、外国で事業を行うことによって利益をあげています。米国も日本も外国税額控除の制度については、ほぼ同じです。例えば、地方税も含めて税率30%と言う国があったとします。日本より、地方税の分だけ安いのであり、そこに株主が直接会社を作り、事業をすれば今でも税率30%がエンジョイできます。でも、現実には、なかなかそんなことが生じないし、そんなことをしても、経費も増えるしリスクも増えます。もし、やるのであれば、法人税ゼロの国を利用するのではと思います。だから、少々下げても意味はないと私は考えています。
日本を住みやすい、暮らしやすい、有能な人材が豊富な国にすることが、日本を競争力のある国にすることだと思います。(直前のエントリーと同じトーンとなりました。)そのために、税はあるはずです。
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