NHK職員の株式インサイダー取引に関しての第三者委員会が、報告書を提出しました。
日経 5月27日 NHKの職員81人が勤務中に株取引、第三者委が調査報告書
その報告書はこのNHKのWebからダウンロードできます。報告書を読んで思うことを以下に書きます。
1) インサイダー取引と認定された事件の概要
カッパ・クリエイト株式会社(以下カッパと略す)と株式会社ゼンショー(以下ゼンショーと略す)が資本提携について、2007年3月8日にNHKが情報をスクープし、午後3時のニュースで報道しました。この放送前にNHKの報道情報システムの端末から情報を得たNHK職員3名が証券市場の午後立会が終了する3時前にカッパとゼンショーの株式を購入しインサイダー取引を行ったという事件です。
このインサイダー取引について証券取引等監視委員会が2008年2月29日に課徴金納付命令の勧告を出していますが、ここにあります。
3名とは、水戸放送局Xディレクター、(東京の)放送総局報道局Y制作記者と岐阜放送局多治見報道室Z記者で、当時の所属先です。なお、多治見報道室は一人勤務です。
この3名がインサイダー取引でいくら儲けたかでありますが、各人が失ったものに比較すると、たいした金額ではありません。(賢ければ、利益とリスクが見合わないことが解るはずですが。)
|
購入額 |
売却額 |
手数料 |
手数料差引後純利益 |
水戸放送局 X |
5,150,000 |
5,570,000 |
5,017 |
514,983 |
東京 Y |
1,710,050 |
1,811,250 |
1,002 |
98,392 |
多治見 Z |
8,673,900 |
9,202,700 |
17,346 |
511,454 |
合計 |
15,533,950 |
16,583,950 |
23,365 |
1,124,829 |
多治見Zについては、カッパとゼンショーの2社の株式を購入しており、水戸Xと東京Yは、カッパ株式のみです。
2) NHKによる株式報道スクープは不要である
報告書によれば、経緯は以下の通りです。(全て、2007年3月8日のことです。)
11:00頃 経済部デスクが記者よりゼンショーがカッパ株の1/3をTOBで取得する方針と聞く。
12:00頃 経済部デスクは同部民間グループのキャップに取材と記事原稿の作成を依頼。
13:23 キャップは収集した情報も踏まえ記事を作成し、NHKの報道情報システムに原稿を入力した。この際、パスワードをかけ、更にタイトルも「外食問題」とした。
14:00過ぎ 日経クイックをチェックしたところ、ゼンショー・カッパの情報がないことから、NHK独自情報として15:00のニュースで報道したいと思い、ゼンショーに確認をすることとした。
14:20 担当記者はゼンショーに電話を入れ問い合わせた。結果、TOBではなく第三者割当で、ゼンショーがカッパ株式の約1/3を取得することを知った。記事の修正に取りかかる。
14:38 最終記事が完成。(パスワードも解除したと思います。)
15:00 ニュース開始
3名が何時株式購入をしたかですが、水戸放送局Xは、14:30頃自宅に戻り、14:45から14:57にかけてであり、東京Yは事務所の廊下で携帯電話により14:42に、多治見Zは14:20頃自宅に戻り14:28から15:00にかけてです。報告書によれば、3名ともパスワードがかかった本文を見ていないが、タイトルが既に「ゼンショー、カッパ株式・・・」となっていたのを報道情報システムの端末で見て、株式購入に動いたのです。
ゼンショーとカッパのプレスリリースは、それぞれこことここにありますが、両社は15:15に発表したのです。なお、この提携は結局は7月強経過した10月26日に凍結されているのです。株式保有は継続。プレスリリースはこことここにあります。
NHKの任務は、こんな報道合戦をすることではないはずです。普通のニュースでもNHKニュースはTVだから短い時間に伝えざるを得ず、端折った表現になっていると、私は感じています。TVのニュースは複雑なことを伝えることに適しているとは思いません。他のメディアより遅くてよいから、TVでないと伝えられない映像表現が豊かな情報が良いと思います。
同じようにインサイダー取引の事件が報道されている日経と野村とNHKはレベルが異なります。日経と野村は、他社から引き受けた仕事に含まれていた情報によるインサイダー取引です。NHKは、勝手に取材して得た情報によるインサイダー取引です。3名を悪者にして終わらせてはならない。NHKが手を出す必要ない報道に手を出して、犯罪を犯したとも言えるのかなとの気もします。
3) NHK組織の欠陥
地方の放送局の報道記者が報道情報システムの端末で情報を見られるようにしておく必要があるのか。一人勤務の多治見報道室Z記者なんて、「猫に鰹節」状態におかれていたのですから。XYZ3名の責任と決めたら、大事なことを見逃すと思います。
誘惑に駆られても踏み止まざるを得ない制度をつくることが重要です。そのような制度を作らなかった経営委員と会長、副会長、理事と言った執行委員の責任は重大であると私は思います。組織のルールを作る責任は経営者です。
4) インサイダー取引?
金融商品取引法166条3項の違反に相当するのでしょうが、多少無理をしていると感じます。即ち、インサイダー取引とは166条1項の役員・従業員を含む会社関係者に適用され、第3項で会社関係より伝達を受けた者も含めていますが、3名は報道情報システムの端末で情報を得たのです。
インサイダー取引で構わないのですが、本当は、職業倫理の問題だと思うのです。船場吉兆の廃業のニュースがありましたが、同様です。プロフェッショナルとして譲れない一線があると思います。報道で、その一線を崩したなら、信頼を得られなくなり、自ら崩壊する。
5) NHKに苦言
NHKには誤解を生む表現をしている報道が多いと思ったりしますが、最大の問題は放送法32条の「受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」という点でしょうか。でも、NHKに言うことではなく、国会に言うべき、議員に言うべきことかも知れません。
アナログ放送を止めた段階で、全てのTVにB-CASカードが付くのであり、有料放送が可能となります。NHK有料放送と言っても、現段階で既に有料放送ですが、一律ではない、ペイ・パー・番組とか、契約の種類によって見ることができる番組が違ったり、一部無料放送を組み込んだり、きめの細かいサービスの提供が可能となります。
見ようが見まいがワンセグでも受信機を持てば、毎月払わねばならない。法人契約は厳しいです。1台に1契約に近いから、法人は受信機を持つと受信料が大変です。法人が契約している携帯にワンセグが見れるようにしたならば、電話料金よりNHK受信料が高くなったりして。ここにNHK受信規約がありますが、その第2条は次のようになっています。しかも、契約解除は受信機を廃止する時だけです。(放送法がありますから)
2 事業所等住居以外の場所に設置する受信機についての放送受信契約は、前項本文の規定にかかわらず、受信機の設置場所ごとに行なうものとする。
4 第2項に規定する受信機の設置場所の単位は、部屋、自動車またはこれらに準ずるものの単位による。
NHKさん!良い番組を作ってください。放送法に寄りかかった経営ではなく、デジタル時代に適した合理的で、良い番組が作られ、NHK職員の給与も民法並に近づくような、そんな受信契約を自らも検討していって欲しいと思います。
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