後期高齢者医療制度
「長寿医療制度」の間違いではないかって?厚労省が、そう言っているかも知れませんが、法律の名前が、「高齢者の医療の確保に関する法律」(リンクはここ)であり、その50条で、「次の各号のいずれかに該当する者は、後期高齢者医療広域連合が行う後期高齢者医療の被保険者とする。」と定め、次の各号は(1)75歳以上の者と(2)65歳以上75歳未満の障害者としています。
衆院山口2区補欠選挙において、後期高齢者医療制度が始まったことも、選挙結果に影響したとの噂ですが、ゴールデンウィークが明けようとしていることから、ここらで現実に戻って、後期高齢者医療制度をよく見てみます。
1) 何故75歳で線を引くか?
人の医療費は、その多くを死に至る直前に支出しているのが、現状であると理解します。次の、グラフは、1948年生まれの人の将来の人口予測です。(国立社会保障・人口問題研究所による「将来推計人口」による。)
現在60歳であるとして、将来75歳になっても85%の人たちは健在です。それと、将来の人口構成を見たのが次のグラフです。データ元は同じです。
現在日本の人口は127百万人程ですが、既に減少傾向に入っており、2021年頃に1.2億人にを切ることになる。75歳以上の人口は、現在10.4%ですが、20年後の2028年には19.3%と20%近くなると予想されます。
対策を考えるなら、75歳で線を引くことになるなという感じです。
しかし、重要なのは、分析したり、検討したりする場合の線と制度を構築する際の線が同じである必然性はないし、制度は制度で何がよいかを検討するのが本来であると思います。大嘘を、そのままにして、名前を「長寿医療制度」なんて呼ぶのは、悪いことと思います。
2) 医療費抑制が目的
参議院厚生労働委員会で法案の審議が、2006年5月23日に始まりましたが、その時の西島英利委員(自民)の質問とそれに対する水田邦雄君厚生労働省保険局長の答弁によく出ています。(国会での答弁の通りに、国民に説明をしないのは、国民に対する裏切りみたいに思えるのですが)
西島英利君 ・・・・もうちょっと時間はございますけれども、高齢者医療制度の、特に後期高齢者医療制度につきまして、本来この後期高齢者医療制度は、ある意味では医療費の適正化のために実はつくられた制度と私は理解をいたしております。
ですから、75歳以上の医療はみとりの医療なんだというふうに考えまして、ある意味では包括的な医療ということにしたらどうかというのを、当時私が日本医師会に在籍していましたときに自民党に御提案申し上げて、健康保険法の附則の中に書き込んでいただき、今回制度化されているというふうに私は理解をいたしております。
となりますと、まさしく医療費適正化のための一つの方法でございますので、まさしくこの後期高齢者医療制度が導入されて、どのくらい、じゃ医療費の適正化が行われるのかと、本来やっぱり数値は出していかなきゃいけないはずでございますけれども、まだ厚生労働省の方からそういう数字はほとんど聞いておりません。
この件について何か御見解があればお教えいただきたい。
水田邦雄君 ・・・・・後期高齢者に係る医療費につきまして申し上げますと、2015年、平成27年段階で、改革を実施しない場合医療費ベースで18兆円という見通しが、改革の実施後は16兆円、それから2025年段階では、改革前で医療費ベースで30兆円との見通しが、改革実施後は25兆円と、このような数字を医療費について持っているところでございます。
3) 誰が得をする制度か?
厚生労働省は、保険料は10%負担で、50%は公費(政府・都道府県・市町村4:1:1)と40%を国保、組合健保、政府管掌保険が負担とすると言っていますが、40%の既存健保の負担に人頭割が含まれています。組合健保は、基本的には大企業です。人件費が高いと負担割合が低いのです。だから、保険料率も組合により3%~10%と開きがあります。人件費が高い保険料率の安い健保組合は、後期高齢者制度が始まって、ウハウハかも知れません。
しかし、参議院厚生労働委員会の議事録を読んでも、不思議なことばかりです。2006年5月30日の朝日俊弘委員(民主)の質問に対する川崎厚生労働大臣の答弁です。
川崎二郎君 特定保険料の負担でございますけれども、高齢者医療制度においても過度のものとならないよう、後期高齢者支援金の割合は制度発足時は給付費全体の約四割になりますけれども、若い人口が減っていく、我々が後期高齢者になっていく、その割合が減少していく仕組み、我々が増えれば、若い人口の減少を勘案して、その割合が減少していくと。
それから、個別の保険者ごとに見て支援金等の負担が著しく重い保険者については、著しく重い部分について全保険者で再案分する措置、負担調整措置を講ずることといたしております。
また、健保組合等は医療給付や後期高齢者支援金等に要する費用の見込額等を勘案した上で医療給付等を不足なく行えるよう保険料率を定めることになりますが、特定保険料率と基本保険料率が特に高い水準となる健康保険組合に対しては、これまでと同様、給付費等臨時補助金も活用してまいりたいと。すなわち、事実上赤字になるところには国の方から調整をすると、このようなことを考えております。
ずっとその後どうなるかと。そこにつきましては、将来における医療費の動向、健康保険組合等の財政状況を見極めた上で、中長期的な課題として今御指摘いただいたことは考えなければならないだろうと、このように考えております。
日本の医療保険の負担は、いびつな形をしている部分があり、本来は、そのような部分を改善していくはずが、そうではなく、破滅に向かっているのが、後期高齢者医療制度である気がします。制度が維持できなくなることが予想されるからです。75歳で一端線を引いたら、「高齢者は高齢者で何とかしろ」との声が強くなる可能性があります。そうなると、一人あたりの医療費の制限をせざるを得なかったり。混合診療解禁へも向かうと思います。
混合診療解禁でよいではないかと思われる方もおられるでしょうが、混合診療解禁の裏に潜むのは、後期高齢者医療制度よりもっと恐ろしい面もあり、別途何時の日がエントリーをたてたいと思います。
4) 国会審議
2005年9月11日が郵政民営化衆議院選挙で、与党の圧勝でした。それを引き継いで、後期高齢者医療制度が盛り込まれた「健康保険法等の一部を改正する法律案」が衆議院に2006年2月10日に提出されました。衆議院厚生労働委員会は5月17日に強行採決で、翌18日に衆議院本会議で可決され、参議院本会議可決が6月14日、公布が6月21日でした。
5月18日の衆議院本会議の議事録の一部を少し覗くと次の様でした。(自民、公明は発言をしませんでした。)ねじれ国会は、よいものだという気がします。ガソリン税の暫定税分は少なくとも一般財源になりましたから。
民主党の郡和子でございます。
私は、民主党・無所属クラブを代表して、政府提出の健康保険法等の一部を改正する法律案及び良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律案に反対の立場から討論を行います。(拍手)
この国に民主主義はないのか、医療はだれのものなのか。
昨日の厚生労働委員会での与党による強行採決は、国民を愚弄し、政治を私物化するものであります。二〇〇二年の健康保険法改正案のときには五十六時間の審議が行われましたが、しかし、今回はまだ三十四時間にすぎません。国民を代表して、断固抗議するものであります。(拍手)
政府のこれまでの失政により、日本の医療は今壊滅の危機にさらされています。理想の医療、それは、国内のどこででも、いつでも、最善、最良の医療を無理のない金銭負担で、安心して受けられることです。医師を初めとする医療従事者と患者、患者家族との間で培われた確かな信頼関係の中で、平等、公平に受けられる医療、この日本が世界に誇るべき医療体制は、政府の失政により崩壊の一途をたどっております。
高橋千鶴子君 私は、日本共産党を代表して、健康保険法及び医療法の一部改正案に対し、反対の討論を行います。(拍手)
まず最初に、本法案は、国民の命と健康にかかわる極めて重大な法案であるにもかかわらず、昨日の厚生労働委員会において、自民、公明の与党が審議を打ち切り、採決を強行する暴挙を行ったことに、満身の怒りを込めて抗議をするものであります。(拍手)
小泉構造改革のもとで、国民健康保険の保険料を払えない世帯がふえ、保険証の取り上げが三十二万件に達するなど、国民の命と健康は重大な危機に直面しています。
本法案は、医療給付費の削減を至上の命題とし、高齢者を中心に患者負担を拡大する、都道府県には入院日数の短縮目標を義務づけ、高齢者医療制度を創設して新たな負担増を打ち出すものであり、しかも、産科や小児救急を初めとする地域医療の拡充、医師の確保や看護師の充足など、国民の切実な声である医療供給体制の充実とはほど遠い制度改悪となっています。
本法案に反対する第一の理由は、高齢者や重症患者への情け容赦ない負担増と医療の切り捨てが強行されることであります。
ことし十月から、高齢者の窓口負担は現行の二割から三割になり、療養病床の食費、居住費も保険適用から外されました。また、新設される高齢者医療制度では、年間六万円もの保険料が年金から天引きされ、滞納すれば保険証の取り上げもするというものであります。
日森文尋君 私は、社会民主党・市民連合を代表して、健康保険法等の一部を改正する法律案、良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律案、この両案について、反対の立場で討論いたします。(拍手)
まず、冒頭、昨日、厚生労働委員会において、国民の命に直結する本重要法案を政府・与党が強行採決したことに対し、満身の怒りをもって抗議をいたします。(拍手)
本法案は、政府の財政支出の削減のみが目的です。公的医療の範囲の縮小、削減は、国民共有の財産である国民皆保険制度を縮小し、所得による医療格差を持ち込むものです。医療費適正化は避けて通れない重要な課題ではありますが、本法案の基礎となる医療費の将来推計、健診効果による抑制効果は、正確な根拠に基づいたものではありません。
また、医療改革において最も優先すべきは、国民の立場に立った医療の中身の改善と医療提供体制の構築、そして国民の信頼を得る医療保険制度の充実です。政府が、これらに対する明確なビジョンも戦略も何ら示さないまま、国民、患者、医療現場、そして地方に負担と責任を一方的に押しつけることは断じて許されません。
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