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2008年6月21日 (土)

株主総会の週

株主総会の週がやって参りました。ちなみに、6月27日(金)に予定されている上場会社の株主総会は、Nikkei Netで検索をすると1,303ありました。そこで、目にとまった新聞記事は、日経新聞の次の記事です。

日経 6月20日 大手運用会社、株主総会の3-7割で反対 野村アセットは500社強で

昨年の5月20日に私は、定時株主総会に向けてというエントリーで株主の権利の行使として取締役選任議案に対する反対票を投じてみることを書きました。本当に、その様なことがアデランスの株主総会であり、少し驚いた面もありますが、経営者を評価し、選任するのは株主であり、当然であると思います。

1) 自己資本利益率(ROE)が3年連続5%以下には反対票

自己資本利益率(ROE)が3年連続5%以下であれば、野村アセットマネージメントは、取締役の選任議案に反対票を投じるとのことであります。ROE5%とは、数字ですから基準として明確であり、面白いと思いました。

2) ROE5%とは

ROE5%とは、株主資本の5%に相当する税引後純利益を1年間で稼ぎ出すことであります。地方税を含め法人税実効税率が40%なら、税引前利益では、1.666・・倍になります。従い、株主資本の5%は税前では、8.333%の利益となります。

借入金と比較をします。今現在10年国債の利回りは1.8%程度ですから、これに1%のスプレッドを乗せて借りるとすれば、年利2.8%となります。これからすると、借入で調達すれば2.8%で済むところを、株主資本を使う場合は8.3%を支払うべきとなります。勿論、資本金が小さければ、会社としてのバッファーが小さく、借入金調達のための与信が困難となるという面が、存在します。しかし、一方で、株主資本に多くを依存した場合は、レバレッジが小さくなり、会社自体も大変であります。安易に、株主資本に依存することは、高いコストの資金に依存することです。

3) ROE5%に相当するPERとPBR

ROE5%が、ある会社において永続するとして、投資額100に対するリターンの現在価値を計算してみました。

割引率 現在価値
1.0% 500
1.5% 333
2.0% 250
2.5% 200
3.0% 167
3.5% 143
4.0% 125
4.5% 111
5.0% 100

年率5%で割り引けば、ROE率と割引率が同じですから、当然100のまま変化しません。10年国債の利率を年1.8%として、これに資金調達スプレッドとリスクプレミアムを加えて、合計3.8%以上とすると130程度(3.8%で厳密に計算をすると132です。)となります。

現在価額が130で、株主資本が100ですから、PBR1.3となります。一方、PERは純利益が5に対して現在価額130ですから、26です。だから、ごく普通のPERやPBRです。ROE5%の水準は、ごく普通の妥当な数字であると思います。逆に言うと、高株価を維持しておきたいのであれば、ROE5%は当然の水準と思います。

4) 個別判断

最終的には、個別の判断です。単に今期1年だけを取り出して議論するのではなく、長期的な観点で考えるべきです。何故なら、この考え方が、そもそも長期保有がベースです。短期保有なら、その株式に早々と見切りを付けて、別の株式に乗り換えれば良いのです。何も、取締役の選任に反対する必要なないのです。

個別の企業に特有の事情があることもあります。例えば、東京電力は昨年7月の中越沖地震により柏崎原子力発電所が停止し、その後の安全確認と復旧のために、発電ができない状態にあります。連結財務諸表で2008年3月期のROEを計算すると、マイナス5.7%です。ちなみに過去は、2007年3月期10.4%、2006年3月期11.6%、2005年3月期9.3%でありました。

単に1期のみで、判断することは誤るかも知れないし、個別の企業の種々の事情も勘案して判断すべきと思います。

5) 取締役選任議案への反対方法

実は、私は昨年の5月20日のエントリーでは、議案ごとに○×のこともあると書いたのですが、会社法施行規則66条1項1号をよく読むと、役員の選任議案の場合は、書面議決あるいは電磁的方法による議決において、各候補者ごとに議決権が行使できるようにしなければなりません。会社法298条2項により、株主の数が千人以上の場合は、書面議決をすることができるようにしなければなりません。

株主総会に出席すると議長が「第X号議案の取締役選任議案について一括して採決をお願いしたいと思います。御異議のある方は・・・。異議なしと認め・・・」と言ったようになります。従い、会社議案に反対をすることは、よほどの勇気がないと困難です。しかし、書面や電磁的方法であれば、簡単です。そして、この取締役は良くないと、取締役毎に×を付けられます。

経営者の選任は株主の重大な権利です。総会の案内通知を見て、どうするかゆっくり考えてみるのも良いのではないでしょうか。但し、議案に反対し、その結果、その取締役が選任されなかったとしても、会社の業績が良くなるとは限りません。そして、会社を評価する場合に、単に業績のみではなく、社会的貢献や、将来の可能性や、様々な要素があり、また投資家により判断基準は異なります。でも、それが投資信託ではなく、社債ではなく、あるいは銀行預金ではない、株式に直接投資することの楽しみだと思います。なお、このエントリーは株式投資の勧誘でないことは、ご承知おき下さい。

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2008年6月19日 (木)

NECは面白い

次のニュースだけを読むと、どーてことないのですが。

日経 6月18日 NEC、米SECと和解

紐を解いていくと、面白いものが現れてきます。

1) SECは、和解とは言っておらず

この元となる米証券取引委員会(SEC)の6月17日付の発表はここにあります。この発表で言っていることは、”REVOKING REGISTRATION OF SECURITIES, AND IMPOSING A CEASE-AND-DESIST ORDER”であり、NECに関わる証券の米国における登録の廃止と上場取消命令であり、極めて強い命令と理解します。もっとも、そのSEC命令にNECは、合意したと書いてありますので、ニュースの内容が間違っている訳ではありません。

もう少し、SEC発表を見ていきますと。Summaryに要約がありますので、抜き出すと以下の通りです。興味ある部分にアンダーラインを引きます。

For fiscal years 2000 through 2005, NEC filed annual reports with the Commission that misstated revenues, net income, or net loss. Specifically, NEC improperly recognized revenues from contracts with customers that included the provision of hardware, software, and customer support. In accordance with GAAP, NEC should have deferred a substantial portion of these revenues pending future performance. From 2000 through 2006, NEC also did not maintain accurate books and records, and had deficient internal accounting controls. As a result of these deficiencies, NEC is unable to restate prior financial statements and to file with the Commission annual reports on Form 20-F for the fiscal years ended March 31, 2006 and March 31, 2007. Accordingly, NEC violated Sections 13(a), 13(b)(2)(A), and 13(b)(2)(B) of the Exchange Act and Rule 13a1
thereunder
.

先ずは、2000年から2005年までの5年間にわたって、粉飾決算を行ったとあります。更には、NECの内部統制には問題があると言っています。結果、米証券取引法に違反をしたと言っています。

2) NECのプレスリリースはもっと面白い

NECの6月18日の本件に関するプレスリリースはここにあります。面白いのは、Cease and Desist Orderを「本命令」と称しています。Cease and Desist Orderを例えば、Wikipediaで引くとここにありますが、裁判所や監督官庁が発する停止命令・中止命令です。米国上場停止決定を、本命令と日本語にすれば、偉大なる誤解が生まれかねないと思います。

NECのプレスリリースを読むとSECの発表とニュアンスが、まるで異なっています。外人投資家は、Cease and Desist Orderという言葉が出てくるし、SECの発表、その他を読むから解るとして、日本人投資家・株主をバカにしていないかと心配になります。

もう一つ、NECのプレスリリースの面白いのは、同じ6月16日付で「内部統制における文書化サービスを強化 」という発表をしています。この発表は、ソフトウェア販売に関することでNECそのものの内部統制のことではないものの、一方でSECが内部統制に問題ありとしている会社が内部統制の宣伝をしていますから、NECは面白い会社です。

3) NEC上場停止の理由

NECが米国でADRを発行しているにも拘わらず、米国基準の財務諸表が発行できずにいることは、私も以前から、ニュース等で知っていました。米国基準に従えなかったのは、SEC発表にありますが、米国会計基準は要素毎の売上認識を求めています。しかし、コンピュータについて、ハード、ソフト、アフターサービスに価格を分解することは容易ではなく、米国基準は”GAAP requires the issuer to allocate the revenue from the entire arrangement to the individual elements based upon evidence of the fair value of each of those elements.”ですから、公正価格に基づかねばならない。契約書に内訳が記載されていても、当事者間で意図的に変更も可能であり、公正価格ではないと米国では考えます。

公正とは、重要な概念です。しかし、この場合については、損益の認識する時期が異なるだけで、最終的な合計は同じです。だから、日本人だったら、「大したことはない。」と考えるかも知れませんが、米国流の考え方では、粉飾決算であります。

個人的な感想は様々であって良いと思うのですが、世界を渡り歩こうとしたなら、世界中で通用するものを持たないとならないと思います。米国基準の考え方には、やはりそこに至っている必然的な理由もあるはずです。

4) NECの対応

とっくの昔に対応済みです。すなわち、日本の金商法や証券市場対応としては、2007年3月期から日本基準の連結財務諸表を作成し、発表しています。それ以前は、NECの連結財務諸表は米国基準を日本でも発表していました。

結果、日本における上場は維持されています。だから、米国人でADRを持っていたとしても、株式に転換して日本市場で売却することは可能です。現在は、どうか知りませんが、2007年3月末時点でNECの外国法人の持ち株比率は27.7%でした。このあたり影響があるのでしょうか?

しかし、日本基準では粉飾ではなく、米国基準では粉飾というのも、しっくりこないし、本当はNECが米国基準と格闘してでも、問題点をクリアーにしてくれればよいのになあと思います。そうしないと、会計基準のコンバージェンスは、進まないのではと思ったり。でも、投資家のことを考えれば、日本だけででも必死になって上場維持をはかるのが、企業としては現実的な選択だったりします。

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東シナ海におけるガス田開発について日中合意

東シナ海におけるガス田開発について日中間で合意が成立したようです。日本政府の発表は以下であります。

6月18日 東シナ海における日中間の協力について

この読売の記事ガス田開発、中国との合意内容発表…「翌檜」は周辺区域でには、「4ガス田の中で最大の埋蔵量を持つとされる白樺」とあり、白樺ガス田について、日本政府発表文は「中国企業は、日本法人が、中国の海洋石油資源の対外協力開発に関する法律に従って、白樺(中国名:「春暁」)の現有の油ガス田における開発に参加することを歓迎する。」とあります。

春暁の英文名はChunxiaoであります。そこで、Wikipediaによれば、Chunxiaoは2006年1月から中国のCNOOCとSinopecにより生産が開始されており、埋蔵量はコンデンセートが3.8billionバレルとガスが167bcfです。帝国石油の磐城沖ガス田が2007年7月に生産を終了し23年間で56億m3の累計生産をしたことから、200bcf弱となるので、春暁ガス田と同じくらいの規模と思われます。但し、磐城沖ガス田は、福島県楢葉町の沖合約40km、水深154mでしたから、条件は、春暁ガス田の方が、はるかに悪いのだろうと想像します。

いずれにせよ、春暁ガス田については、中国の法律に従って、日本法人が開発に参加するのであり、中国へのガス供給になると思います。他のガス田は、春暁ガス田より小規模であり、中国本土に既に春暁ガス田から引かれたガスパイプラインを利用することになるので、ガスは中国へ販売することになると思います。共同開発ガス田からのコンデンセートは液体なので、日本分は日本へ輸送するのでしょうか。

将来、日本分のガスを日本に持ってくるか(その場合は、パイプラインとユーザーが必要ですが)は、日本のユーザと中国のユーザーとどちらが高く買ってくれるかで決めればよいことと思います。日中の合意が成立したというのは、それだけ大人の関係になってきたと考えておきます。

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2008年6月16日 (月)

食糧問題

食糧問題を書こうとして、なかなか書けずにいましたが、少し書き始めます。

1) 食料価格は上昇しているか?

勿論、上昇しているのですが、グラフに書いてみます。図1が1980年からの価格推移で、1980年1月価格を1.00として書いています。データ元はIMFの統計資料です。(クリックすると別ウィンドウが開きます)

Foodimf1980

黒色で原油価格の推移も示しましたが、28年間の価格の動きを見ると、食料は長期的には安定していてくれていたのだと思えます。次の図2は2000年1月から2008年5月までを拡大したチャートです。

Foodimf2000

2000年以降の拡大チャートを見ると、鮭は物価の優等生みたいに思えます。但し、原油価格ほどではないにしろ、全般的には上昇しています。そこで、もう少し直近の2007年1月以降2008年5月までを拡大したチャートが図3です。

Foodimf2007

2007年1月を基準にすると、昨年末から本年初め頃は小麦と大豆の値上がりは原油より大きく、今は少し落ち着いているといった感じです。米(タイ米)は、今年になってから急に価格上昇し、高値で少し落ち着いている感じでしょうか。メイズ(トウモロコシ)も上がりました。

食料は、絶対必要な物ですから、貴重です。大豆価格が2倍近くになっているというのは、豆腐屋さんにとって大変だし、メイズ価格は酪農家に影響が大きい。小麦価格の影響も、あると思います。

2) 穀物生産

世界の穀物生産のグラフを図4として書きました。データ元は、FAOです。

Cereal1961production

穀物生産は、右肩上がりに伸びています。なお、データは2006年の生産量までです。耕作面積の拡大、灌漑の整備、肥料の使用、品種改良といったことが、生産量右肩上昇の背景にあることと思います。但し、右肩上昇を評価するには、人口一人あたりの生産量を見てみないといけないので、そのグラフを表5として掲げます。

Cerealpopluation1980_3   

1984年・1985年頃は人口一人あたり年間415kg程度の生産量があったのですが、2006年は346kgでした。人口一人あたりで評価すると、減少しているのであり、これから先の長期見通しは、むしろ苦しくなっていくのかも知れません。

バイオ燃料なんて悠長なことを言っておられないし、日本の食料確保もよく考えた方がよいのではと気になります。中国、インドが食料にしても、エネルギーにしても需給バランスを崩している原因のように言われることがありますが、私は決してそうではないと思います。例えば、穀物の世界最大生産国は中国であり、4億5千万トン(世界の20%)の生産をしています。世界の10位までの穀物生産国と日本についての表を掲げておきます。(2006年のデータです。)

 

生産量
(百万トン)

世界シェア
1 中国 445.4 20.1%
2 米国 346.6 15.6%
3 インド 239.1 10.8%
4 ロシア 76.9 3.5%
5 インドネシア 66.0 3.0%
6 フランス 61.8 2.8%
7 ブラジル 59.0 2.7%
8 カナダ 50.9 2.3%
9 バングラデシュ 45.0 2.0%
10 ドイツ 43.5 2.0%
32 日本 11.7 0.5%

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2008年6月13日 (金)

NHK vs バウネット 最高裁判決

バウネットがNHKを損害賠償で提訴した最高裁判決について、やはり書いておくべきだと思いましたので、私の感想を以下に書きます。

1) 判決文

最高裁判所第一小法廷での判決文はここ 判決文全文(pdf)にあります。以下の私の感想文は、この判決文を読んでのことです。

2) 期待権

Matimulogサンも書いておられますが、いわゆる期待権をこの判決の多数意見(5人中4人)は認めており、判決文では次の通りになっています。

取材対象者は,取材担当者から取材の目的,趣旨等に関する説明を受けて,その自由な判断で取材に応ずるかどうかの意思決定をするものであるから,取材対象者が抱いた上記のような期待,信頼がどのような場合でもおよそ法的保護の対象とはなり得ないということもできない。すなわち,当該取材に応ずることにより必然的に取材対象者に格段の負担が生ずる場合において,取材担当者が,そのことを認識した上で,取材対象者に対し,取材で得た素材について,必ず一定の内容,方法により番組中で取り上げる旨説明し,その説明が客観的に見ても取材対象者に取材に応ずるという意思決定をさせる原因となるようなものであったときは,取材対象者が同人に対する取材で得られた素材が上記一定の内容,方法で当該番組において取り上げられるものと期待し,信頼したことが法律上保護される利益となり得るものというべきである。

しかし、以下のように「最終的な放送の内容が説明とことなるものになることを認識することができたと解される。」として損害賠償は認めませんでした。

NHKの担当者の原告に対する説明が,本件番組において本件女性法廷について必ず一定の内容,方法で取り上げるというものであったことはうかがわれないのであって,原告においても,番組の編集段階における検討により最終的な放送の内容が上記説明と異なるものになる可能性があることを認識することができたものと解される。
そうすると,原告の主張する本件番組の内容についての期待,信頼が法的保護の対象となるものとすることはできず,上記期待,信頼が侵害されたことを理由とする原告の不法行為の主張は理由がない。

3) 民事損害賠償

この裁判は民事損害賠償を求めた裁判であったので、損害賠償の債務が存在するのかという点です。期待、信頼を、バウネットが持ったとしても、NHKから確約がなければ、損害賠償までNHKは負う義務はないとも言えます。

それからすると損害賠償が認められない可能性は初めから存在したのであります。取材を受けるに当たっては、書面を交わし違約金条項も取り決めておくべきと思いました。取材拒否の権利はあるのですから、NHKの担当者が番組の取り上げ方や、趣旨を説明したなら、契約書を交わした上で取材を許可するのが本当なのだろうと思いました。

但し、高等戦術はあります。編集が加えられ、自分たちの主張とは異なる番組になる可能性があるが、放映させることにより多くの人たちに多少でも知らせしめることができるとして、取材に応じるという考え方も存在します。なお、これはバウネットの見解ではなく、私が勝手に言っていることであり、実際には個々のケースでそれぞれ判断すべきです。

4) 政府与党の影響

判決文は、「原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。」として、3ページから14ページまで、確定した事実関係が書いてあります。そのなかに、「安倍晋三副長官は,従軍慰安婦問題について持論を展開した上,NHKがとりわけ求められている公正中立の立場で報道すべきではないかと指摘した。」と書いてあります。私は、東京高裁の認めた事実は、変わっていないと考えます。

5) NHK改革

NHKにNHKの改革を期待するほどバカなことは、ないのでしょう。独占のみならず放送法32条で「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」と法的な契約権まで有している特殊法人ですから、超独占的特権を持っています。

一時は聞かれた、受信料値下げや放送法改正が聞こえなくなっている気がします。

6) 怖いこと

マスコミは、期待権は否定されたと誤解を与えかねない報道をしていることです。

読売 6月13日 取材協力者の「期待権」認めず、NHK番組改編で最高裁

現実には、書面を取り交わすことはなかなか困難であり、マスコミは取材を受ける側の権利を無視して暴走する可能性が高いのではと思います。考えてみれば、6月11日のブログに書いたように、NHKは判決を伝えるニュースでさえ一方的な編集を行っていましたから。

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2008年6月11日 (水)

国会で多くの法律が成立します

国会の会期末となると多くの法律が連日成立します。本日6つの法律が公布されました。本日成立した法律に「少年法の一部を改正する法律」があります。

ネジレ国会と言われながら、何故こんな少年法を改正する法律が可決成立されなければならないのだろうと思います。

1) マスコミ報道

マスコミ報道は、表面のみで、問題点を正しく伝えていないと感じています。読売をあげておきます。マスコミ報道を読んだ印象と、このブログ全体を読んだ印象を比べてみてください。

読売 6月11日 改正少年法が成立、審判で被害者や遺族の傍聴可能に

2) 日弁連の声明文

改正少年法の成立を受けて日本弁護士連合会は会長声明を発表しました。ここにあります。

5月30日の衆議院法務委員会で政府原案が修正され、自民、公明、民主の賛成となり、5月30日に、この法案が成立する見通しとなったのです。本日の成立は、5月30日時点で確定的でした。

3) 問題点

この少年法改正については、J-CASTニュースが比較的問題点をよく書いていると思いますので、掲げます。

J-CASTニュース 5月3日 少年審判への遺族傍聴 法改正に賛否両論

J-CASTニュースの記事は5月3日なので、5月30日の修正前ですが、本質部分に変わりはありません。それと、日本弁護士連合会の法案に対する意見書を掲げます。

日本弁護士連合会 2007年11月21日 犯罪被害者等の少年審判への関与に関する意見書

私の意見は、日弁連の意見書に全て書かれています。重罰主義、被害者の権利主義、モンスター・・・・・等々嫌な社会になりつつある気がします。秋葉原事件においても、犯人の両親になぜインタビューして報道しなければならないのかと思います。

マスコミは、この少年法改正について、今までは被害者の傍聴が全く認められなかったかのように報道します。しかし、日弁連が言うように少年審判規則29条の運用で、可能であり、問題ある法律を急いで制定しなければならない理由が私には理解できないのです。運用について、関係者がじっくりと話をし、問題点をつぶしていくべきであり、法の制定が全てではなく、慣習として自然に確立されるのが良いと思います。少年審判規則については、ここにあります。そして、29条は以下の通りです。

少年審判規則29条 裁判長は、審判の席に、少年の親族、教員その他相当と認める者の在席を許すことができる。

4) 制定された少年法の一部を改正する法律

原案がここにあり、その改正についての案がここにあります。

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NHKニュースに対するBRCの決定

放送と人権等権利に関する委員会(BRC)が、2007年1月29日のNHK総合テレビの午後9時00分からのNHKのニュース報道は公平・公正を欠き、放送倫理違反があったと6月10日に発表しました。委員会決定第36号であり、ここをクリックするとその文書が読めます。

その不公正があった報道とは、6月10日に私の昨年3月21日のブログで取り上げた、日本(バウネット)、韓国、北朝鮮、中国、台湾、フィリピン、インドネシアのNGO7団体他が開催した女性法廷のNHKのETV2000の報道に関する東京高裁の2007年1月29日の判決についての報道でした。

昨年3月21日に取り上げたこともあり、少し書いてみます。

1) NHKの報道は外部影響力を受けやすい

残念ながら「NHKの報道は外部影響力を受けやすい。」と思いました。何故なら、私の2007年1月30日のブログ 「あるある」とNHKの最後に、2007年1月29日 19時31分と記録されているNHKニュースの文章が残っています。多分これが「NHKニュース 7」の報道であったと思われます。

NHKニュース7では、NHKの見解も述べていますが、原告側のコメントも伝えていたのです。ところが、9時のニュースは、安倍晋三と中川昭一のコメントを報道し、バウネットとその弁護士のコメントの報道を落としたのです。たった2時間で、ニュースの中を変えてしまったというお話です。

NHKには倫理がないと思います。BRCの決定文によると、NHKの説明は「テレビ放送では、新たな情報やニュース素材が入ってきた場合、後の放送で当初の放送とは異なった扱いをすることは通常行われていることであって、政治家二人の談話は、「ニュース7」の放送後に入ってきたものであり、これを受けて本件放送を構成したことは通常の編集判断であって、これによって公平性に問題を生じるようなものではない。」と言っているようですが、私は、この言葉は犯罪者の言葉を感じます。

2) BRCが判断したこと

BRCの決定文から抜き出すと、以下の文章に代表されると思います。

裁判の相手方であった申立人らの見解に何ら触れることなく、自らの解釈だけを伝え、さらに介入が疑われた二人の政治家のコメントだけを放送したことは、被申立人自身が掲げる上記の自主的規範に照らしても、本件放送において申立人らに対し公平・公正な取扱いを欠き、放送倫理違反があったといわざるを得ない。

3) 政治家2人の介入

NHKは政治介入がなかったと言っているが、介入という言葉の定義をせずに議論しても無駄なだけ。実は、NHKの日本語は言語明瞭意味不明のことが多いと思っています。例えば、国という言葉をよく使っていますが、私は普通は政府という言葉に置き換えて理解しているが、そうでない場合もある。公共放送という訳の分からない言葉もよく使っておられます。

そこで、政治家の介入ですが、私の3月21日のブログに書いたように、放送総局長他が安倍晋三と面談したのが2001年1月29日午後でした。そして、翌30日の出来事は、番組制作局長が、NHK会長室において、会長と本件番組について話し合った後、放送総局長室を訪れ、放送総局長とともに再度修正された台本を読み合わせて検討した上、教養部長に対し「自民党は甘くなかったわよ。」と発言した後、元兵士と元慰安婦女性2人の証言シーン等3分の削除を指示した。

そして、通常の44分より短いETV2000の40分版の番組を完成させたのです。これが、高裁が認定した事実です。最高裁の判決は6月12日です。気になりますね。

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2008年6月 7日 (土)

新銀行東京の倒産の可能性

新銀行東京の倒産の可能性を感じてしまいました。一番の理由は、84.22%を出資する大株主である東京都が株主責任を放棄したと感じたからです。本日の石原知事の記者会見における毎日新聞の記者からの質問に対する回答の次の部分からです。

(1000億円の減資は)まだ正式に決まったわけではなく、株主総会で報告された時に是非の意思表示をする。」

この発言は、この東京都のWeb(知事記者会見)の会見日2008/6/6の開始から8分を過ぎた頃から始まり、当該発言は終了近くの9分30秒頃です。なお、NHK首都圏ニュースも報道をしていたことから、当該部分を続きを読むに入れておきます。

減資について報じた毎日新聞の記事は次の報道です。

毎日 6月3日 新銀行東京:1016億円減資 累積赤字一掃へ、今月末総会で

減資金額がいくらであるかは、記者会見では触れられておらず、この6月2日のNikkeiNetには「累積損失と同程度の減資を提案する方針」と書かれていることから、1000億円かも知れませんが、いずれにせよ巨額の減資が株主総会で決議されることが予想されます。

1) 減資とは

資本金を減少させることです。但し、株主から払い込まれた金額の2分の1は資本準備金として計上することができる(会社法445条)ので、実際には資本金及び資本準備金の減少として決議されるはず。新銀行東京の現在の資本金は東京都の400億円の追加出資を含めて807億円であり、資本準備金が782億円で、合計1589億円です。

単純に減資を行ってもキャッシュは動きません。毎日の記事も、累積赤字一掃と言っていますし、累積損失が同額減少となる減資のはずです。この場合、新銀行東京の資産から負債を差し引いた純資産額は変わりません。その意味で、東京都を含む出資者にとって、損・得なしです。しかし、累積損失が減少することは、将来に利益を計上できた場合、累積赤字が累積黒字・繰越利益の計上時期が早まることになります。即ち、債権者の目から見ると、資本の充実がなされず、株主への配当分配が多くなる可能性があり、不況に弱いこととなります。

減資とは債権者に不利なのです。従い、減資は株主総会における2/3以上の株主の賛成(会社法309条1項9号、447条)で決議し、債権者の異議がないときに減資の効力が生じます。(会社法449条)新銀行東京の場合の債権者は預金者であるので、預金者には通知が届くと思います。そして、異議を述べれば預金が返ってくると思います。異議を述べない場合は、承認したこととなります。

減資とは、通常は信用を失うことです。株主が、赤字ではあるが、自らへの配当は早く受領すると宣言することです。従い、通常は、減資を行いません。減資をするのは、増資をして会社の信用力を高めようとする場合に、新規増資に対する株数と既存株式の数の調整を行うためです。例えば、100株発行して100億円払い込みを受けた会社が90億円損失を出して、10億円の純資産額となり、100億円追加出資を受ける場合を考えます。追加出資者が、90億円の損失分担をすることは不合理であり、既存株主への発行株式数を10株に減少させ、その上で100億円の追加出資に対して100株を発行するような場合です。実際には、会社の価値の評価が絡むので、金額がすんなりと出るわけではないが、少なくとも追加出資者の利益のことも考えないと誰も追加出資には応じないこととなります。

2) 株主東京都

上に書きましたが、東京都の出資比率は84.22%であり、2/3を超えています。新銀行東京の経営者は当然東京都と相談しています。株主総会の招集の通知は、総会の日の2週間前に発しなければならない(会社法299条)ので、未だ発送されていない可能性はありますが、新銀行東京と東京都が減資について相談し、両者合意の上で進めていると私は思います。もし、そうでないとしたら、いよいよ東京都は無責任となります。

そこで、相談し、両者合意の上で進めているなら、「株主総会で報告された時に是非の意思表示をする」は、東京都民や預金者ならびに多くの関係者をバカにした発言です。知事として現状説明の発言をすべきです。

3) 税金の軽減はないでしょう

「税金が軽減されるし」という知事の発言があります。これって本当のバカですね。資本金が小さくなると軽減される税金は東京都に支払う税金である法人事業税です。法人税を含め、国税は軽減されません。

何故事業税が軽減されるかというと、資本金1億円を超える法人の法人事業税は所得割(地方税法72の3、72の24)、付加価値割(地方税法72の14)と資本割(地方税法72の21)の3本立てになっており、資本割の事業税は標準税率が0.2%ですから、1000億の減資効果は約2億円の東京都への税金支払いが軽減されます。アホかと思います。

なお、かつて法人事業税は、所得割のみでした。しかし、石原知事が東京にある銀行には外形標準課税だといって強引に課税し、裁判で負けました。しかし、その結果、地方税法が国会で改正され、外形標準課税と称する3本立ての変な税体系となりました。

資本金が少なければ税金が安いというのは、不合理ですよ。利益が生まれれば、税を利益に応じて払うのが、ビジネスと思います。実は、3本立てにするために、資本金1億円を超える法人の所得割の税率は低くなってしまったのです。

4) 新銀行東京の今後

私は、明るくないと思います。1千万円以上の預金は、保護されないと言うリスク。一方、借入を行っており、借り換えが前提で事業計画を立てている場合、借り換えができず、新銀行東京に借入金を返済して、自らは資金繰りができなくなる事態に陥るリスクがあると思います。

どんな場合も、リスクはあるのですが、すこしでも小さくしておくことが重要と思います。

続きを読む "新銀行東京の倒産の可能性"

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2008年6月 5日 (木)

国籍確認訴訟の最高裁判決

多くの新聞が1面で取り上げていましたが、判決文をじっくり読むと、色々考えさせる判決と思いました。ニュースと判決文のリンクを掲げます。

日経 6月5日 国籍法の規定は「違憲」 最高裁判決、婚外子に日本国籍認定

平成20年06月04日国籍確認請求事件 最高裁判所大法廷判決 (全文(pdf)

1) 現状と今回対象としたケース

現状について、実は、マスメディアが伝えるほど、簡単な内容とは私は思いません。現状を正しく理解しないと、今回の判決がよく解らないと思うので、最初に現状を書きます。

国籍法2条で自動的に日本国籍となる場合が定められています。そして、3条に申請により日本国籍となる場合が、4条から10条に帰化によって日本国籍を取得する場合が定められています。2条と3条は下記の条文です。

第2条  子は、次の場合には、日本国民とする。
一  出生の時に父又は母が日本国民であるとき。
二  出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき。
三  日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。

第3条  父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子で二十歳未満のもの(日本国民であつた者を除く。)は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であつた場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であつたときは、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。
2  前項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を取得する。

今回争われたのは、3条1項についてです。即ち、結婚していないフィリピン人の母と日本人の父の間に生まれ、生後に認知された子についての3条1項の適用です。複雑なのは、母が日本人の場合は、2条1項により自動的に日本国民となります。父の場合は、婚姻届を出していないと子の父は不明となるからです。

ややこしいのは婚外子です。結婚していれば、民法772条2項に従い、離婚から300日以内に生まれた子は、本当の父が誰であれ戸籍上の父が夫と推定されます。結婚していない場合は、認知により父親が決まります。認知には、任意認知(民法779条、781条)と強制(裁判)認知(787条)があります。認知により父親が決まった場合は、その子は母の氏(民法790条)を称し、遺産相続分は、そうでない子(嫡出子)の2分の1になります。

そこで国籍法3条を見ると、「認知により嫡出子たる身分を取得した子」と書いてありますが、民法789条1項に「父が認知した子は、その父母の婚姻によって嫡出子の身分を取得する。」とありますから、非嫡出子も父母の婚姻によって嫡出子となり、父が日本人であれば、日本国民となります。

なお、妊娠中に父が子の認知をすることも可能です。(民法783条)この場合は、生まれたときから、非嫡出子ではあるが、父は日本人です。従い、この場合の国籍は2条1号により日本国民です。

すなわち、今回対象としたケースは、母が外国人で日本人の父は認知をしたが、その認知の時期が出生より後であった場合で、なおかつ婚姻をしていない場合です。(この場合に限られます。)

2) 偽装認知

日本で働くために偽装結婚をするという手口があるようです。同じように、妊娠中の認知を偽装でする手口があるようです。実は、私は、このことが今回の判決の背景に存在すると思っています。偽装は、良くないことで取り締まるべきであるが、一方で子供に罪はありません。

3) 帰化

例えば、国籍法8条は次の条文です。

第8条  次の各号の一に該当する外国人については、法務大臣は、その者が第五条第一項第一号、第二号及び第四号の条件を備えないときでも、帰化を許可することができる。
一  日本国民の子(養子を除く。)で日本に住所を有するもの
二  日本国民の養子で引き続き一年以上日本に住所を有し、かつ、縁組の時本国法により未成年であつたもの
三  日本の国籍を失つた者(日本に帰化した後日本の国籍を失つた者を除く。)で日本に住所を有するもの
四  日本で生まれ、かつ、出生の時から国籍を有しない者でその時から引き続き三年以上日本に住所を有するもの

8条1号に従って、帰化により、今回のケースも日本国籍を取得する方法があったのであろうと思うし、政府の考えには、この国籍法8条の運用により処理した方が合理的との考えがあったのではと思います。判決文では、これについては「法務大臣の裁量行為であり・・・」と述べています。

4) 判決

判決文のアンダーライン部分が、最も言い当てているだろうと思いますので、抜き出します。

本件区別については,これを生じさせた立法目的自体に合理的な根拠は認められるものの,立法目的との間における合理的関連性は,我が国の内外における社会的環境の変化等によって失われており,今日において,国籍法3条1項の規定は,日本国籍の取得につき合理性を欠いた過剰な要件を課するものとなっているというべきである。しかも,本件区別については,前記(2)エで説示した他の区別も存在しており,日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子に対して,日本国籍の取得において著しく不利益な差別的取扱いを生じさせているといわざるを得ず,国籍取得の要件を定めるに当たって立法府に与えられた裁量権を考慮しても,この結果について,上記の立法目的との間において合理的関連性があるものということはもはやできない。
そうすると,本件区別は,遅くとも上告人らが法務大臣あてに国籍取得届を提出した当時には,立法府に与えられた裁量権を考慮してもなおその立法目的との間において合理的関連性を欠くものとなっていたと解される。
したがって,上記時点において,本件区別は合理的な理由のない差別となっていたといわざるを得ず,国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは,憲法14条1項に違反するものであったというべきである。


最高裁多数意見は、3条1項の要件が過剰であると判断しました。「内外における社会的環境の変化等」というのが、大きいと思います。時代遅れの法律で、規範を守ることは慎むべきであり、法を憲法違反としたことは意義あることと思います。この場合の憲法は、私にとっては、14条1項の法の下に平等は、単なる14条1項の文字のみならず広い解釈と考えています。

5) 裁判官の意見

判決は15人の裁判官全員一致ですが、5人の裁判官の反対意見、そして6人の裁判官の補足意見と1人の裁判官の意見が判決文に記載があります。判決文が全42ページで、その中で13ページから43ページに意見が書かれており、全体の文字数からすると意見の方が長いのです。

この判決文は、裁判官の意見の中に、味わい深い文章がたくさんあります。時間があれば、判決文を読んでみるのが面白いと思います。その中で、一つだけ紹介しておきます。

今井裁判官の補足意見の一部

反対意見は,違憲の状態が続くことになっても,立法がない限り,やむを得ないとするものと考えられる。反対意見がそのように解する理由は,憲法10条が「日本国民たる要件は,法律でこれを定める。」と規定し,いかなる者に国籍を与えるかは国会が立法によって定める事柄であり,国籍法が非準正子に国籍取得を認める規定を設けていない以上,準正子と非準正子との差別が平等原則に反し違憲であっても,非準正子について国籍取得を認めることは,裁判所が新たな立法をすることになり,許されないというものと理解される。
しかし,どのような要件があれば国籍を与えるかについて国会がその裁量により立法を行うことが原則であることは当然であるけれども,国会がその裁量権を行使して行った立法の合憲性について審査を行うのは裁判所の責務である。国籍法3条1項は,国会がその裁量権を行使して行った立法であり,これに対して,裁判所は,同項の規定が準正子と非準正子との間に合理的でない差別を生じさせており,平等原則に反し違憲と判断したのである。この場合に,違憲の法律により本来ならば与えられるべき保護を受けることができない者に対し,その保護を与えることは,裁判所の責務であって,立法権を侵害するものではなく,司法権の範囲を超えるものとはいえない。

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2016年東京オリンピックへの反対運動が始まるか?

2016年の夏季五輪の開催地の第1次選考に東京が残り、これからさらなる誘致活動が始まると思います。石原知事は、都庁内で幹部を招集し、「これから熾烈(しれつ)な戦いが始まる。協力して頑張ろう」と呼びかけたとのことです。

日経 6月5日 2016年夏季五輪1次選考通過、石原都知事「自明の結果」

記者会見のビデオがこの東京都のWeb Pageの中の該当部分をクリックすれば見ることができます。

ビデオを見ると石原節が流れてきます。「国は尻ぬぐいをするつもりで、応援して欲しい。」日経の記事で言えば、”「国家の事業ですから、政府に本腰を入れてもらいたい」と注文を付けた。”の部分です。

2016年の夏季五輪の誘致を決めたのは東京都ですから、東京都が東京都民の税金をつぎ込み誘致しオリンピックをするのは、東京都民の権利です。しかし、日本国民の税金をつぎ込むとなると話は違ってきます。

3月14日に新東京銀行の今後で、東京都が出資した新東京銀行の悲惨な経営内容について書きました。私には、2016年の夏季五輪プロジェクトが新東京銀行と同じ道をたどる気がしてしまうのです。

従い、日本政府今の財政難の状況下、自分たちの税金が2016年の夏季五輪で無駄に使われるリスクがあると思われる方は、積極的に東京オリンピック反対運動を始めるべきだと思った次第です。

一方、東京都については、次の点に関する情報の提供をお願いしたい。

(1) 収支・財政見通し

スポンサー料等の収入がいくら見込め、運営費の予想はどうか、公共投資等の額等を開示してもらいたい。同時に、オリンピックをすることによるCO2の排出増があるはずで、何トンを予想するか、また全体的な環境影響はどうか、そして最終的な経済効果はどのような計算でいくらになるかを示すべきです。(バックアップデータも付けてください。)情報を提供せずに、支持を訴えることについては、反対します。

(2) 他の候補地についての見解

東京以外には、シカゴ、マドリッド、リオデジャネイロが選ばれました。オリンピックは儲かる(経済効果も含めて)としても、費用がかかるとしても、他の候補地と比較して東京はどうかを述べるべきです。

北京の次はロンドンですから、私は2016年は南米初のリオデジャネイロなんてのも良いのでは思っていますが。このあたり、日本のメディアは他の候補地の魅力についても色々と報道をしてくれるのだろうかと思います。

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2008年6月 3日 (火)

日経ビジネスvs信越化学

信越化学が日経ビジネスの6月2日号の記事に抗議を行うプレスリリースを6月2日付で出しております。先ずは、そのプレスリリースと日経記事ビジネスの記事のリンクを掲げます。(日経ビジネスの記事は、読むには、登録が必要かも知れません。)

6月2日付信越化学の抗議プレスリリース
6月2日付日経ビジネスの記事の当該部分

そこで、この件に関して考えてみます。

1) 原油価格

6月3日日経 サウジ産原油など最高値、5月積み15―16%高は、「主力のサウジ産「エキストラライト」と「ライト」が初めて1バレル120ドルの大台に乗せた。」と伝えており、NYMEXの原油先物相場について、日経は6月3日 NY原油続伸、7月物127.76ドルで終了と伝えています。

OPECが発表しているDaily OPEC Crude Baskect Priceの5月14日から5月28日の価格推移を図1のグラフに示します。最高値は5月20日のバレルあたり127.59ドルでした。

Opec_crude080603

長期的な価格動向を見るために、1999年1月から2008年4月までの価格を図2のグラフに示します。

Opec_crude_jan99_080603

図2を更にわかりやすくするために、原油価格の前年同月比グラフを図3として示します。

Opec_crude_comparilastyear080603

原油価格の前年同月比は、実は1.5近くであったことが多くありました。2007年5月のOPEC原油バスケット平均価格は64.36ドルでしたから、1.5倍すると96.54ドルで、120ドルは1.86倍となります。高い感はありますが、ありえないとは言えない水準と私は思います。

日経ビジネスの200ドルは、米Goldman Sachsの原油価格見通しのシナリオの一つで2009年に200ドルになり、そして急落するとの見通しを書いており、1年後を考えれば1.6-1.7倍であり、あり得ることかも知れません。経営を考える上では、このようなシナリオもあり得るのだとした方が無難と思います。

一方、日経ビジネスが書いた”信越化学の金川千尋社長は、現在の原油高について「不愉快極まりない。実需でなく、投機筋が値を上げている」と不満をあらわにする。”との部分については、信越化学は「別の機会に別の目的で行われた弊社社長の発言までもコメントとして引用し」と述べています。

私として、これ以上に述べることはできませんが、私は原油価格の高騰は単に投機の結果ではなく、基本的には需給であると思っています。即ち、原油は工業製品ではないので、増産するといって簡単に増産できません。OPEC Monthly Reportにあった世界合計とOPEC合計の原油生産量の過去2年間の推移のグラフを掲げておきます。(ちなみに日本の需要量は4mb/dと思ってください。世界全体の5%弱。)

Crudeproduction080603

2) ガス価格

信越化学のプレスリリースで一番気になるのが、「塩ビ事業を大規模に展開している米国シンテック社では、原料は石油ではなく天然ガス由来です。」と書いている部分です。次のチャートはOILNERGYさんのチャートをそのまま掲げたものですが、米国天然ガスの価格も上昇しています。Henryhub080603

塩ビにおける天然ガス原料コストが全体コストに占める割合は、知らないので、数字としては言えませんが、影響なしではありません。

3) 信越化学株価

6月3日の信越化学の株価は、始値6,550、高値6,570、安値6,440、終値6,540ですから、日経ビジネスの記事の影響は皆無だったのかなと思いました。

4) 感想

細部についても色々ありますが、省略します。

信越化学の主張は正しいとしても、日経ビジネスが書いた分析記事は、企業の発表を、そのまま伝える記事が多い中で、興しろい記事です。信越化学の「相応の措置を講じてまいる所存です。」の部分が、具体的に何かは不明ですが、どの様な展開になるか見守っていきたいと思います。そして、どの様な展開になるにせよ、言論・報道の自由は守らねばならないものと思います。

原油価格のことを本日書きましたが、本当は食料について是非書きたいと思っています。近いうちに書くこととします。

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2008年6月 2日 (月)

消費者保護を頑張ろう

消費者契約法という法律があり、その第10条は以下の通りです。

10条  民法 、商法 (明治32年法律第48号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする

「消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」という法律条文は、読んでいて気持ちの良いものです。

Matimulogで知りましたが、賃貸マンションの賃貸借契約に付随した定額補修分担金特約が消費者契約法10条に該当し無効であるとして、この特約に基づき支払われた金員の返還請求を認める判決が4月30日に京都地裁でありました。判決文は、裁判所Webのここここ(前文pdf)にあります。

5月29日にカニカニ詐欺の電話を受けましたを書いたこともあり、少し書き続けます。

1) 無効とされた定額補修分担特約の内容

定額補修分担金特約とは、次のようなマンション賃貸契約に付随していました。

ア 賃料月額: 6万3000円
イ 共益費: 月額6000円
ウ 契約期間: 平成17年3月31日から平成19年3月30日まで
エ 更新料: 家賃の1か月分
オ 定額補修分担金: 16万円

定額補修分担金に関する特約では「① 賃借人は、契約締結時に本件退去後の賃貸借開始時の新装状態への回復費用の一部負担金として定額補修分担金を賃貸人に支
払う。② 定額補修分担金は敷金ではなく、返還を求めることができない。③ 入居期間の長短に関わらず。④ 乙の故意又は重過失による損傷・改造は除き、定額補修分担金以外に本物件の修理・回復費用の負担を賃貸人は求めることはできない。⑤ 賃料等の債務を相殺することはできない。」を規定していました。

賃借人は、定額補修分担金の16万円の特約は、過度の義務であり、二重取りになり、消費者契約法10条により無効であると主張しました。一方、賃貸人は、原状回復費用を賃借人の負担とせず、故意・重過失による特に著しい汚損・破損が生じた場合のみ、賃借人にその費用を負担させる内容であり、合理的であるとの主張でした。

賃貸契約に調印し、定額補修分担金の16万円を支払い、契約締結から2年経過後の更新時に更新料6万3000円を支払ったところで、定額補修分担金と更新料の合計22万3000円の返還を求めたものです。16万円があるから、賃料は安くなっていたかも知れませんが、定額補修分担金の特約は弱い者いじめである気がします。

2) 判決は

判決は冒頭に記載したように、消費者契約法10条により定額補修分担金特約は無効であるとしました。

定額補修分担金は消費者たる賃借人が賃料の支払という態様の中で負担する通常損耗部分の回復費用以外に本来負担しなくてもいい通常損耗部分の回復費用の負担を強いるものであり、民法が規定する場合に比して消費者の義務を加重している特約といえる。

定額補修分担金の特約は、通常ない特約であり、消費者契約法10条に該当すると判断されても仕方がないと思います。賃貸料を表面的に下げて、別の特約で値上げするというのは採るべきでないと思います。

更新料についても、争われていましたが、裁判の途上で賃貸人から賃借人に返還がなされたことにより、棄却されました。

3) 他の裁判例

消費者契約法10条での裁判を探してみましたら、2005年11月22日の東京簡易裁判所の判決がありました。ここここ判決文pdfです。マンションの賃貸借を終了し、敷金13万6000円が返還されると思ったら、原状回復費が18万0390円かかったとして、逆に4万4390円足りないとして、請求された例です。この裁判でも、以下のように消費者契約法10条による特約の無効が認められました。

自然損耗等についての原状回復義務を借主が負担するとの合意部分は、民法の任意規定の適用による場合に比べ、借主の義務を加重し、信義則に反して借主の利益を一方的に害しており、消費者契約法10条に該当し、無効である。

国民生活センターが2006年10月6日作成した文書がここにありますが、3ページ以降の〔表2〕消費者契約法関連判決に多数の判決例が書いてあります。

消費者契約法10条は、被害を泣き寝入りしないために重要と思います。

4) 適格消費者団体

平成18年改正で、適格消費団体に関する消費者契約法12条以降が追加されました。事業者等が不特定かつ多数の消費者に対して消費者契約法4条または8条から第10 条までに規定するような行為を現に行い又は行うおそれがあるとき、適格消費団体は、当該行為の差止請求をすることができます。この内閣府のWebには、6団体の名前があり、この6団体が現在までに認定された適格消費団体です。

一部改正が本年3月4日に衆議院に提出され4月15日衆議院通過、4月25日参議院を通過し、5月2日に公布されました。改正内容については、この内閣府のWebに説明があります。

消費者保護に関しても進んできているようです。

5) 消費者庁

この5月20日のMatimulogも言っておられますがこの毎日の5月20日の記事にある「問題が生じた際、業者の処分や被害防止策の実施を他省庁に勧告する権限を与えることや、被害者に代わり国が業者などに損害賠償を請求する仕組みの導入」については、消費者庁にのみ権限を委ねるのではなく、同じ権限を適格消費団体に委ねることも検討をすべきだと私は思います。

政府は信用ができないのではないでしょうか?政府は、どうしても八方美人にならざるを得ないですから。行政は消費者の方のみを向いていては、公正な行政とは言えないと思うので、適格消費団体にも権限を与えるのがよいと思います。最終的な判断は裁判所になるし、裁判所以外にしてはなりません。

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