NECは面白い
次のニュースだけを読むと、どーてことないのですが。
紐を解いていくと、面白いものが現れてきます。
1) SECは、和解とは言っておらず
この元となる米証券取引委員会(SEC)の6月17日付の発表はここにあります。この発表で言っていることは、”REVOKING REGISTRATION OF SECURITIES, AND IMPOSING A CEASE-AND-DESIST ORDER”であり、NECに関わる証券の米国における登録の廃止と上場取消命令であり、極めて強い命令と理解します。もっとも、そのSEC命令にNECは、合意したと書いてありますので、ニュースの内容が間違っている訳ではありません。
もう少し、SEC発表を見ていきますと。Summaryに要約がありますので、抜き出すと以下の通りです。興味ある部分にアンダーラインを引きます。
For fiscal years 2000 through 2005, NEC filed annual reports with the Commission that misstated revenues, net income, or net loss. Specifically, NEC improperly recognized revenues from contracts with customers that included the provision of hardware, software, and customer support. In accordance with GAAP, NEC should have deferred a substantial portion of these revenues pending future performance. From 2000 through 2006, NEC also did not maintain accurate books and records, and had deficient internal accounting controls. As a result of these deficiencies, NEC is unable to restate prior financial statements and to file with the Commission annual reports on Form 20-F for the fiscal years ended March 31, 2006 and March 31, 2007. Accordingly, NEC violated Sections 13(a), 13(b)(2)(A), and 13(b)(2)(B) of the Exchange Act and Rule 13a1
thereunder.
先ずは、2000年から2005年までの5年間にわたって、粉飾決算を行ったとあります。更には、NECの内部統制には問題があると言っています。結果、米証券取引法に違反をしたと言っています。
2) NECのプレスリリースはもっと面白い
NECの6月18日の本件に関するプレスリリースはここにあります。面白いのは、Cease and Desist Orderを「本命令」と称しています。Cease and Desist Orderを例えば、Wikipediaで引くとここにありますが、裁判所や監督官庁が発する停止命令・中止命令です。米国上場停止決定を、本命令と日本語にすれば、偉大なる誤解が生まれかねないと思います。
NECのプレスリリースを読むとSECの発表とニュアンスが、まるで異なっています。外人投資家は、Cease and Desist Orderという言葉が出てくるし、SECの発表、その他を読むから解るとして、日本人投資家・株主をバカにしていないかと心配になります。
もう一つ、NECのプレスリリースの面白いのは、同じ6月16日付で「内部統制における文書化サービスを強化 」という発表をしています。この発表は、ソフトウェア販売に関することでNECそのものの内部統制のことではないものの、一方でSECが内部統制に問題ありとしている会社が内部統制の宣伝をしていますから、NECは面白い会社です。
3) NEC上場停止の理由
NECが米国でADRを発行しているにも拘わらず、米国基準の財務諸表が発行できずにいることは、私も以前から、ニュース等で知っていました。米国基準に従えなかったのは、SEC発表にありますが、米国会計基準は要素毎の売上認識を求めています。しかし、コンピュータについて、ハード、ソフト、アフターサービスに価格を分解することは容易ではなく、米国基準は”GAAP requires the issuer to allocate the revenue from the entire arrangement to the individual elements based upon evidence of the fair value of each of those elements.”ですから、公正価格に基づかねばならない。契約書に内訳が記載されていても、当事者間で意図的に変更も可能であり、公正価格ではないと米国では考えます。
公正とは、重要な概念です。しかし、この場合については、損益の認識する時期が異なるだけで、最終的な合計は同じです。だから、日本人だったら、「大したことはない。」と考えるかも知れませんが、米国流の考え方では、粉飾決算であります。
個人的な感想は様々であって良いと思うのですが、世界を渡り歩こうとしたなら、世界中で通用するものを持たないとならないと思います。米国基準の考え方には、やはりそこに至っている必然的な理由もあるはずです。
4) NECの対応
とっくの昔に対応済みです。すなわち、日本の金商法や証券市場対応としては、2007年3月期から日本基準の連結財務諸表を作成し、発表しています。それ以前は、NECの連結財務諸表は米国基準を日本でも発表していました。
結果、日本における上場は維持されています。だから、米国人でADRを持っていたとしても、株式に転換して日本市場で売却することは可能です。現在は、どうか知りませんが、2007年3月末時点でNECの外国法人の持ち株比率は27.7%でした。このあたり影響があるのでしょうか?
しかし、日本基準では粉飾ではなく、米国基準では粉飾というのも、しっくりこないし、本当はNECが米国基準と格闘してでも、問題点をクリアーにしてくれればよいのになあと思います。そうしないと、会計基準のコンバージェンスは、進まないのではと思ったり。でも、投資家のことを考えれば、日本だけででも必死になって上場維持をはかるのが、企業としては現実的な選択だったりします。
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コメント
こんばんは
これは確か昨年のことですよね。NASDAQから「追い出された」のは。私は日本企業の恥だとさえ思っていたのですが、システムインテグレーターの同僚に聞いたところ、システムのソフト、ハード、保守サービスを一体として提供する複合契約と言われているもので、カナダの企業で大きな不祥事が生じたことから監視の目が厳しくなっていたとのことです。
米国基準では、売り上げが複数年にまたがる場合、具体的な費用収益対応のエビデンスとともに、合理的な説明なく一定の年度に利益が偏っていないかを厳しくチェックすることになっています。
日本企業は長期一括で「いくら」とどんぶり勘定で契約するケースが多かったようです。
NECもその辺がおざなりじゃなかったのかと。
なぜ「恥」とまで言い切ったかと申しますと、同業もやっている日立製作所はNYSEでそのような注文が一向になかったそうです。
NECはこの手のコンプライアンスといいますか、脇の甘い面があり、06年に架空売上計上、07年に取引先から賄賂を受け取って子会社に取引をその賄賂先に強要させるなどの事件が相次いでいたため、監査法人も身構えて監査した可能性もあります。
なので、ちょっと根本からしっかりしてほしい企業の一つです。
実はこのNASDAQ追放事件を昨年ブログで取り上げようとしたのですが、出張やらでエントリー出来ずじまいとなったので結構調査していたものですから。
海外投資家から見れば日本も中国も決算書は同じように怪しく見えているかもしれません。
投稿: gonchan | 2008年6月21日 (土) 01時41分
gonchanさん
コメントありがとうございます。この件は、とても多くのポイントを含んでいますよね。例えば、会計に関しても米国はFair Valueの考え方で、一方日本は金融商品会計にあるように「時価」が、その考え方と私は思っています。だから、日本では「時価」がないものについては、申請者の数字が最も重視される。Fair Valueの場合は、申請者は直接の利害当事者であり、申請者のみの申告ではFairでないというような考え方があると私は思っております。
投稿: ある経営コンサルタント | 2008年6月21日 (土) 10時57分