NHK vs バウネット 最高裁判決
バウネットがNHKを損害賠償で提訴した最高裁判決について、やはり書いておくべきだと思いましたので、私の感想を以下に書きます。
1) 判決文
最高裁判所第一小法廷での判決文はここ 判決文全文(pdf)にあります。以下の私の感想文は、この判決文を読んでのことです。
2) 期待権
Matimulogサンも書いておられますが、いわゆる期待権をこの判決の多数意見(5人中4人)は認めており、判決文では次の通りになっています。
取材対象者は,取材担当者から取材の目的,趣旨等に関する説明を受けて,その自由な判断で取材に応ずるかどうかの意思決定をするものであるから,取材対象者が抱いた上記のような期待,信頼がどのような場合でもおよそ法的保護の対象とはなり得ないということもできない。すなわち,当該取材に応ずることにより必然的に取材対象者に格段の負担が生ずる場合において,取材担当者が,そのことを認識した上で,取材対象者に対し,取材で得た素材について,必ず一定の内容,方法により番組中で取り上げる旨説明し,その説明が客観的に見ても取材対象者に取材に応ずるという意思決定をさせる原因となるようなものであったときは,取材対象者が同人に対する取材で得られた素材が上記一定の内容,方法で当該番組において取り上げられるものと期待し,信頼したことが法律上保護される利益となり得るものというべきである。
しかし、以下のように「最終的な放送の内容が説明とことなるものになることを認識することができたと解される。」として損害賠償は認めませんでした。
NHKの担当者の原告に対する説明が,本件番組において本件女性法廷について必ず一定の内容,方法で取り上げるというものであったことはうかがわれないのであって,原告においても,番組の編集段階における検討により最終的な放送の内容が上記説明と異なるものになる可能性があることを認識することができたものと解される。
そうすると,原告の主張する本件番組の内容についての期待,信頼が法的保護の対象となるものとすることはできず,上記期待,信頼が侵害されたことを理由とする原告の不法行為の主張は理由がない。
3) 民事損害賠償
この裁判は民事損害賠償を求めた裁判であったので、損害賠償の債務が存在するのかという点です。期待、信頼を、バウネットが持ったとしても、NHKから確約がなければ、損害賠償までNHKは負う義務はないとも言えます。
それからすると損害賠償が認められない可能性は初めから存在したのであります。取材を受けるに当たっては、書面を交わし違約金条項も取り決めておくべきと思いました。取材拒否の権利はあるのですから、NHKの担当者が番組の取り上げ方や、趣旨を説明したなら、契約書を交わした上で取材を許可するのが本当なのだろうと思いました。
但し、高等戦術はあります。編集が加えられ、自分たちの主張とは異なる番組になる可能性があるが、放映させることにより多くの人たちに多少でも知らせしめることができるとして、取材に応じるという考え方も存在します。なお、これはバウネットの見解ではなく、私が勝手に言っていることであり、実際には個々のケースでそれぞれ判断すべきです。
4) 政府与党の影響
判決文は、「原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。」として、3ページから14ページまで、確定した事実関係が書いてあります。そのなかに、「安倍晋三副長官は,従軍慰安婦問題について持論を展開した上,NHKがとりわけ求められている公正中立の立場で報道すべきではないかと指摘した。」と書いてあります。私は、東京高裁の認めた事実は、変わっていないと考えます。
5) NHK改革
NHKにNHKの改革を期待するほどバカなことは、ないのでしょう。独占のみならず放送法32条で「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」と法的な契約権まで有している特殊法人ですから、超独占的特権を持っています。
一時は聞かれた、受信料値下げや放送法改正が聞こえなくなっている気がします。
6) 怖いこと
マスコミは、期待権は否定されたと誤解を与えかねない報道をしていることです。
読売 6月13日 取材協力者の「期待権」認めず、NHK番組改編で最高裁
現実には、書面を取り交わすことはなかなか困難であり、マスコミは取材を受ける側の権利を無視して暴走する可能性が高いのではと思います。考えてみれば、6月11日のブログに書いたように、NHKは判決を伝えるニュースでさえ一方的な編集を行っていましたから。
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