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2008年6月 5日 (木)

国籍確認訴訟の最高裁判決

多くの新聞が1面で取り上げていましたが、判決文をじっくり読むと、色々考えさせる判決と思いました。ニュースと判決文のリンクを掲げます。

日経 6月5日 国籍法の規定は「違憲」 最高裁判決、婚外子に日本国籍認定

平成20年06月04日国籍確認請求事件 最高裁判所大法廷判決 (全文(pdf)

1) 現状と今回対象としたケース

現状について、実は、マスメディアが伝えるほど、簡単な内容とは私は思いません。現状を正しく理解しないと、今回の判決がよく解らないと思うので、最初に現状を書きます。

国籍法2条で自動的に日本国籍となる場合が定められています。そして、3条に申請により日本国籍となる場合が、4条から10条に帰化によって日本国籍を取得する場合が定められています。2条と3条は下記の条文です。

第2条  子は、次の場合には、日本国民とする。
一  出生の時に父又は母が日本国民であるとき。
二  出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき。
三  日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。

第3条  父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子で二十歳未満のもの(日本国民であつた者を除く。)は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であつた場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であつたときは、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。
2  前項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を取得する。

今回争われたのは、3条1項についてです。即ち、結婚していないフィリピン人の母と日本人の父の間に生まれ、生後に認知された子についての3条1項の適用です。複雑なのは、母が日本人の場合は、2条1項により自動的に日本国民となります。父の場合は、婚姻届を出していないと子の父は不明となるからです。

ややこしいのは婚外子です。結婚していれば、民法772条2項に従い、離婚から300日以内に生まれた子は、本当の父が誰であれ戸籍上の父が夫と推定されます。結婚していない場合は、認知により父親が決まります。認知には、任意認知(民法779条、781条)と強制(裁判)認知(787条)があります。認知により父親が決まった場合は、その子は母の氏(民法790条)を称し、遺産相続分は、そうでない子(嫡出子)の2分の1になります。

そこで国籍法3条を見ると、「認知により嫡出子たる身分を取得した子」と書いてありますが、民法789条1項に「父が認知した子は、その父母の婚姻によって嫡出子の身分を取得する。」とありますから、非嫡出子も父母の婚姻によって嫡出子となり、父が日本人であれば、日本国民となります。

なお、妊娠中に父が子の認知をすることも可能です。(民法783条)この場合は、生まれたときから、非嫡出子ではあるが、父は日本人です。従い、この場合の国籍は2条1号により日本国民です。

すなわち、今回対象としたケースは、母が外国人で日本人の父は認知をしたが、その認知の時期が出生より後であった場合で、なおかつ婚姻をしていない場合です。(この場合に限られます。)

2) 偽装認知

日本で働くために偽装結婚をするという手口があるようです。同じように、妊娠中の認知を偽装でする手口があるようです。実は、私は、このことが今回の判決の背景に存在すると思っています。偽装は、良くないことで取り締まるべきであるが、一方で子供に罪はありません。

3) 帰化

例えば、国籍法8条は次の条文です。

第8条  次の各号の一に該当する外国人については、法務大臣は、その者が第五条第一項第一号、第二号及び第四号の条件を備えないときでも、帰化を許可することができる。
一  日本国民の子(養子を除く。)で日本に住所を有するもの
二  日本国民の養子で引き続き一年以上日本に住所を有し、かつ、縁組の時本国法により未成年であつたもの
三  日本の国籍を失つた者(日本に帰化した後日本の国籍を失つた者を除く。)で日本に住所を有するもの
四  日本で生まれ、かつ、出生の時から国籍を有しない者でその時から引き続き三年以上日本に住所を有するもの

8条1号に従って、帰化により、今回のケースも日本国籍を取得する方法があったのであろうと思うし、政府の考えには、この国籍法8条の運用により処理した方が合理的との考えがあったのではと思います。判決文では、これについては「法務大臣の裁量行為であり・・・」と述べています。

4) 判決

判決文のアンダーライン部分が、最も言い当てているだろうと思いますので、抜き出します。

本件区別については,これを生じさせた立法目的自体に合理的な根拠は認められるものの,立法目的との間における合理的関連性は,我が国の内外における社会的環境の変化等によって失われており,今日において,国籍法3条1項の規定は,日本国籍の取得につき合理性を欠いた過剰な要件を課するものとなっているというべきである。しかも,本件区別については,前記(2)エで説示した他の区別も存在しており,日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子に対して,日本国籍の取得において著しく不利益な差別的取扱いを生じさせているといわざるを得ず,国籍取得の要件を定めるに当たって立法府に与えられた裁量権を考慮しても,この結果について,上記の立法目的との間において合理的関連性があるものということはもはやできない。
そうすると,本件区別は,遅くとも上告人らが法務大臣あてに国籍取得届を提出した当時には,立法府に与えられた裁量権を考慮してもなおその立法目的との間において合理的関連性を欠くものとなっていたと解される。
したがって,上記時点において,本件区別は合理的な理由のない差別となっていたといわざるを得ず,国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは,憲法14条1項に違反するものであったというべきである。


最高裁多数意見は、3条1項の要件が過剰であると判断しました。「内外における社会的環境の変化等」というのが、大きいと思います。時代遅れの法律で、規範を守ることは慎むべきであり、法を憲法違反としたことは意義あることと思います。この場合の憲法は、私にとっては、14条1項の法の下に平等は、単なる14条1項の文字のみならず広い解釈と考えています。

5) 裁判官の意見

判決は15人の裁判官全員一致ですが、5人の裁判官の反対意見、そして6人の裁判官の補足意見と1人の裁判官の意見が判決文に記載があります。判決文が全42ページで、その中で13ページから43ページに意見が書かれており、全体の文字数からすると意見の方が長いのです。

この判決文は、裁判官の意見の中に、味わい深い文章がたくさんあります。時間があれば、判決文を読んでみるのが面白いと思います。その中で、一つだけ紹介しておきます。

今井裁判官の補足意見の一部

反対意見は,違憲の状態が続くことになっても,立法がない限り,やむを得ないとするものと考えられる。反対意見がそのように解する理由は,憲法10条が「日本国民たる要件は,法律でこれを定める。」と規定し,いかなる者に国籍を与えるかは国会が立法によって定める事柄であり,国籍法が非準正子に国籍取得を認める規定を設けていない以上,準正子と非準正子との差別が平等原則に反し違憲であっても,非準正子について国籍取得を認めることは,裁判所が新たな立法をすることになり,許されないというものと理解される。
しかし,どのような要件があれば国籍を与えるかについて国会がその裁量により立法を行うことが原則であることは当然であるけれども,国会がその裁量権を行使して行った立法の合憲性について審査を行うのは裁判所の責務である。国籍法3条1項は,国会がその裁量権を行使して行った立法であり,これに対して,裁判所は,同項の規定が準正子と非準正子との間に合理的でない差別を生じさせており,平等原則に反し違憲と判断したのである。この場合に,違憲の法律により本来ならば与えられるべき保護を受けることができない者に対し,その保護を与えることは,裁判所の責務であって,立法権を侵害するものではなく,司法権の範囲を超えるものとはいえない。

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コメント

 新聞やテレビを見ていると、こうして生まれた崩壊家庭が凶悪犯罪の温床になっている現実も否定できない。婚外子の人権擁護も大切ですが、不幸な出生を奨励する結果を危惧する。

投稿: 罵愚 | 2008年6月 8日 (日) 18時03分

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» 国籍法に関する最高裁判決の判決文 [一寸の虫に五寸釘]
昨日のエントリでとりあげた国籍法の違憲判決が早速最高裁のサイトに出ていました(こちら) 反対意見が5人(3人と2人に分けて2種類)、補足意見6人、意見1人とかなり議論になったことがうかがえます。 反対意見はざくっと言えば実質論(国籍法3条1項の規定は国の内外における社会的環境の変化等によって失われている、という点への反対や無国籍になるわけではない)と違憲立法審査権の範囲についてのいわば形式論(国籍法は,憲法10条の規定を受けどのような要件を満たす場合に日本国籍を付与するかということを定めた創設的... [続きを読む]

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 嫡出子と婚外子の差別の解消に異論はない。よろこぶ母子の写真もよかった。しかし、報道から父親が消えていた。親父がよろこんでいる姿も、見せてもいたかった。ついでに、かれの家族が、不道徳の末の異母兄弟の出現を、どう考えているのかも、報道してもらいたい。  生まれてきた子供に罪はない。説得力のある釈明だが、婚外子をつくった両親の責任をはずして終わる話題だろうか?異母兄弟をつくられた家族は被害者ではないのだろうか?家族法も、民法も結婚を前提にして、家族や家庭生活を規定している。婚外の性関係を是認...... [続きを読む]

受信: 2008年6月 8日 (日) 18時04分

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