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2008年8月20日 (水)

アーバンコーポレーションとBNPパリバのデリバティブ取引

やはりアーバンコーポレーションとBNPパリバ(ホームページはここ)との取引については、日経も8月20日の社説 不信を招いた破綻前の起債と題して取り上げておられたし、書いておかねばと思いました。

1) 東証1部上場会社のするべきことではない

上場会社でなければよいのかとの疑問も多少は残りますが、誰もが株式取引をする公開会社で上場会社である会社は、その財務情報に関する情報開示は厳しくあるべきです。アーバンコーポレーションで起こったことは、一般投資家に不信を与え、株式投資に二の足を踏ませることです。日本の株式市場の破滅にも繋がることと思います。(日経社説よりも、厳しい意見としました。)

2) アーバンコーポレーション(アーバン)が行ったこと

時系列でアーバンの出来事をアーバンの発表から見ていきます。

(a) 6月26日付2010年満期転換社債型新株予約権付社債の発行(第三者割当)のお知らせ(PDFファイル/233KB)
(b) 8月13日付(訂正)「2010 年満期転換社債型新株予約権付社債の発行(第三者割当)のお知らせ」の一部訂正及び営業外損失の発生について(PDFファイル/27KB)
(c) 8月13日付平成21年3月期第1四半期決算短信(PDFファイル/248KB)

(a)の6月26日付の発表を読むと300億円の資金をBNPパリバから新株予約権付き社債により年利2.5%の満期日2010年(償還期間2年)で調達したと読めます。但し、発表文に「平成20 年6 月4 日株式会社日本格付研究所による当社長期優先債務ならびにコマーシャルペーパーの格付けについて各々1 ノッチの引下げが行われたほか、投資家ならびに金融機関の取引姿勢が急激に変化していることを受け・・」とあり、300億円の調達が信じられない気分になりますが。

(b)の8月13日の発表(民事再生手続き開始の申し立てをした当日)にやっと、裏をばらしました。「BNP パリバとの間で、平成20 年6 月26 日及び7 月8 日にそれぞれスワップ契約(以下あわせて「本件スワップ契約」といいます。)を締結しております。本件スワップ契約によれば、当社は、同年7 月11日に、BNP パリバに300 億円を支払う・・」と。300億円を借りた相手に、300億円を払ったら、キャッシュフローは帳消しです。

3) スワップ契約

但し、支払ったのはスワップ契約のアーバンの義務を履行したのであり、同時にアーバンは権利を取得しました。それが何であったのか、現在どうなっているのかを(b)と(c)の8月13日付の発表で想像してみます。

VWAPなんて、ややこしい言葉で表現していますが、「売買高加重平均株価(Volume Weighted Average Price)」のことです。アーバンが取得した権利は、自社株の売買高加重平均株価の90%の価格相当の金額をBNPパリバから受領する権利です。300億円は、「行って帰る」取引ですから、キャッシュフローは無関係ですが(実際には手数料分動いた)、BNPパリバには80,744,202株の新株予約権が残っており、これを使って、アーバン株を取得して市場で売る。売って得た金額の約90%をアーバンに支払う。このような感じです。

BNPパリバは、10%儲かる。アーバンは、もし株価が転換価格の344円より高ければ、(厳密には10%のBNPパリバの取り分をカバーする必要があるから378円)儲かるし、低ければ損をする。但し、何がしかの資金にはありつける。(株価がスワップ契約で取り決めた下限を下回れば、そのままで動かず。)

(c)の決算短信によれば、150億円について8月13日までに株式転換されており、150億円が社債として残っています。(b)の書類には58億円の損失とありますので、そうすると、約90億円をアーバンは受領して終わったのかと思います。

そうであれば150億円の社債債権をBNPパリバは持っていることとなりますが、スワップ契約でのアーバンの権利未行使分が同じ150億円残っているはずですから、BNPパリバには、損はないはずです。少なくともリスクが大きければ、BNPパリバはディールをしなかったでしょう。

4) どう考えるべきか

アーバンがBNPパリバに欺されたと見られる人があるかも知れませんが、私はそうは思いません。インベストメントバンクやインベストメントバンク部門を持つ銀行は、日本人が考える銀行をはるかに超えたことをやります。それについて行かないと、現在のビジネス社会では負け犬になります。インベストメントバンクを利用して勝ち組にならないといけないのです。その意味では、アーバンが自社株の値上がりに賭けたというなら、その判断の是非は別にして一つの選択であったでしょう。(私は、正しくない選択だと思いますが。)

悪いのは、こんな重要なことを、民事再生手続き開始の申し立てをした当日に「実は・・・」と言ったことで、こんな経営者は、最悪だし、市場を裏切る行為だと思います。そもそも、社債とデリバティブはワンセットディールです。それを社債部分だけの発表で実態を誤魔化したといのが私の見方です。

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コメント

パリバの方が悪い

投稿: gd | 2008年8月28日 (木) 00時04分

私は、素人ですけど念入りに計画の上の倒産のようです。
バリバとの取引も一部上場の会社がやることでは、ないです。

投稿: リリー | 2008年10月 5日 (日) 11時09分

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» 「私は既に死んでいた」と言われてもねぇ [一寸の虫に五寸釘]
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受信: 2008年8月20日 (水) 21時33分

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