健康保険組合の保険料率引き上げ
次のようなニュースがあります。
日経 9月25日 NTT健保、保険料率引き上げ 10月から1%
1%の保険料率ではなく6.27%→7.27%であります。しかし、NTTの保険料が元々安かったと言える面があり、少し書いてみます。
1) 政府管掌保険の保険料率
現在の保険料率は、8.2%です。従い、保険料率の比較では7.27%に上がったとしても、政府管掌保険よりは1%近く安いのです。
2) 国民健康保険の保険料率
保険者(保険事業者)が、市町村であり、この国民健康保険ガイドの説明にも書いてあるように、住んでいる市区町村によって保険料は大きく異なります。保険料は、所得割、資産割、均等割、平等割の4種類の計算方法で計算した合計額です。
所得割について評価をすると、8.5%であるから、政府管掌健保より保険料率が高く、しかも、資産割、均等割、平等割が加わるので確実に高いはずです。また、組合健保も政府管掌健保も会社と従業員が50%づつの負担なので、生活実感からすれば保険料全額自己負担の国民健康保険料は負担が大変と思います。(なお、厳密には、所得割は、所得に対してであり、住民税を計算する際に、社会保険料控除、扶養控除、基礎控除等を差し引くので、グロスの支払額に相当する金額で計算する組合健保や政府管掌健保のかけ算対象金額より小さくはなります。・・・・実際は、国庫(税金)の補助金があるから、猛烈に複雑にはなりますが、とりあえず個人・世帯ベースでいくら負担しているかの話で終始します。
但し、最高保険料は53万円ですから、組合健保や政府管掌健保より低い(政府管掌健保の最高保険料の場合は、143万円)ですが、会社との折半を考えれば、53万円の上限は妥当とも考えられます。更には、保険料が高額になると、自分でリスクを取って、民間保険に加入し、病気になれば自由診療を受けるという選択を取る高額所得者がいるかも知れないことでしょうか。国民皆保険制度の崩壊防止と高額所得者への配慮もあると想像します。
3) 健保の比較
西濃運輸の組合健保が解散したというニュースがありました。また、この9月11日日経 健保組合、計6300億円赤字 全体の9割、収支マイナスのような報道もありました。但し、財務諸表を見たわけでもないし、政府管掌健保と比べると安い保険料率で高い付加給付となっている組合も多いと考えられるので、全体を把握した上でないと、結論めいたことを言うのは不適切と考えます。
次の表は、社会保険庁が作成した2005年12月13日の政府管掌健康保険 改革ビジョンの8ページの表であり、国民健保、政府管掌健保、組合健保の比較です。
この比較表は平成16年3月末の状態で古いのですが、1世帯あたりの保険料に国保、政府管掌、組合の間で大きな差はありません。政府管掌健保と組合健保を比較した場合に、平均報酬月額に差があります。この差が、保険料率の差となっていたのであり、組合健保は企業または企業グループ毎なので、賃金が高い企業の健保組合は低い保険料率で運営できていました。
4) どうなる政府管掌健保
多分解散して、政府管掌健保に移行する健保組合が増加すると思います。しかし、実は、政府管掌健保は9月30日で消滅し、10月1日に「協会けんぽ」という不思議な健康保険制度になります。このWebをご覧下さい。ちなみにここに雑誌に出した広告がありますが、政府は何故変更するのか、よく説明していません。
いつだれが、そんなことを決めたかですが、後期高齢者医療制度を決めた平成18年6月21日公布の法律第83号「健康保険法等の一部を改正する法律」です。すなわち、郵政民営化選挙で小泉が勝利し、好き放題に法律を作ったときです。
何が協会けんぽになると変わるかというと、日本全国一律の健康保険料が都道府県毎の料率となります。差を埋める調整をすることになっているのですが、将来どうなるか、分かりません。何故改正するのか、納得がいかないのですが、最大の改正点である健康保険法4条は次の通りです。
第4条 健康保険(日雇特例被保険者の保険を除く。)の保険者は、政府全国健康保険協会及び健康保険組合とする。
ある保険料の試算を次に掲げておきます。(厚生労働省のある資料です。)
医療費抑制を意図しているのだろうと思いますが、何かの利権が絡んでいるのでしょうか?いずれにせよ、5月7日に書いた後期高齢者医療制度と同じで、この改正が、国民の健康や医療に、有利なのかどうか、私は理解できていません。私の頭の構造では、Simple is Bestで、複雑にしてしまえば、問題点の把握も困難になると思います。
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コメント
『社会保険庁の解体と職員の解雇(若しくは公務員という身分の剥奪)』が、当時における直近の国政選挙で負けた与党の至上命題だったからかと。選挙で負けたのも社会保険庁の責任と、年金未納問題からこの方、目の敵にされている社会保険庁という存在について、「解体!」と言えば支持が得られるという判断だったのでしょう。世論という空気も支持しているように思います。
制度の詳細を知っている人間からすれば、「解体した結果生じる混乱と利便性の低下・不利益」等々問題点も多々あるのですが、当時の与党全体の雰囲気としては、後で国民が困ろうが混乱が生じようがそんなことは知ったことではなく、どうあっても「社会保険庁を解体・消滅」させたかったという事なのでしょう。
この点についても、後期高齢者医療制度と同じように混乱が生じると思いますが、後期高齢者医療制度と異なり社会保険庁のずさんさの帰結という事でになって、与党の責任が正面から問われることは無いんじゃないでしょうかね。んで、社会保険庁は10月以降に権限が無くなった(責任の存在しない、関与すれば法令違反になる)健保部分の混乱の後始末までやらされて、ますます機能不全が深刻化して、社会保険行政への信認が低下して、、以下負の無限ループ。
投稿: 素人の浅知恵 | 2008年9月26日 (金) 13時05分
記事本文中の2)に引用されている、某行政書士事務所の「国民健康保険ガイドの説明」ですが、これは既に改正された古い規定(医療分の上限は平成18年度53万円ですが、平成19年は56万円)で、平成20年度からは次のような上限額になっています。
医療分:(加入者分)年間47万円
(後期高齢者支援分)年間12万円
医療分の合計の年間上限額59万円
介護分(40歳以上のみ対象):年間9万円
40歳以上の世帯上限額:66万円
(国保の上限額は個人ではなく世帯単位)
また健康保険料の82/1000については、税引前の給与支給総額(総収入)を基準に賦課しますが、健康保険料は総収入から課税控除を差引いた市町村民税課税所得額に対して賦課されます。税引き前のグロス収入に賦課している健保保険料と、税引き後のネット所得に賦課している国保保険料を、単に料率で比較することは無意味です。
もう一つ、健保保険料の上限(健保料+介護保険料)の上限は、賞与も含めると平成20年年度は年間185.8万円(本人負担はこの半分)であり、記事本文中の143万円の上限額は平成17年度の基準で計算した金額と思えます。
更に付言すれば、健康保険料は個人単位で賦課されますが、国民健康保険は世帯単位で賦課されます。その為に夫婦2人とも給与収入者で健康保険の加入で、2人とも先の健康保険料の賦課上限一杯の高額給与収入者(給与+所与の合計が1900万円)の場合、夫婦それぞれが185.8万円の健保料が賦課されて、夫婦合計では371.6万円となります。ところがこの夫婦が共に個人事業主であって、同じく年収1900万円×2人の年収3800万円の世帯の場合、国民健康保険料は夫婦2人の世帯合計で59万円+9万円=68万円が賦課上限となり、税引き控除を無視した単純比較でも国保の方が1/5以下の負担で済みます。
制度の異なる社会保険料の個人や世帯単位の賦課額を比較しようとすると、制度上の賦課基準を熟知した者でも困難な作業です。軽々に比較されると誤った数値や結論が導き出されますので、ご注意頂きたいと思います。
投稿: 法務業の末席 | 2008年9月29日 (月) 15時30分
法務業の末席さん
コメントと詳細な解説をありがとうございます。
組合健保と政府管掌健保の比較で済ませようと当初は思っていたのですが、国民健保についても触れないと本質に迫れないと思い、国民健保についても書きました。公務員共済等の共済関係との比較はあきらめましたが。
国民健保が世帯単位であり、雇用者が給与・ボーナス支払い時に徴収し、雇用者分と合わせて納付する他の健康保険制度では個人単位である。そのために、共稼ぎ自営の場合は、ご指摘のような負担差が生じますね。
保険の給付内容が同じであれば、制度が違っても保険料は(保険料体系は別にして)本来であれば同じでないと不公平が生じる。しかし、現実には生じている。その改正は利害関係があることから、年金改革より難しいとも思える。一方で、医療崩壊の話がある。多くの人に現実を知って欲しいと思う。厚生労働省は、健康保険のことになるといよいよ黙っている。恐ろしい気がします。「後期高齢者医療制度についての説明不足」なんてことで終わらせることは、できないと考えます。
投稿: ある経営コンサルタント | 2008年9月29日 (月) 18時00分