社会保険庁不祥事の矮小化は好きではありません
毎日の9月10日社説は次でした。
毎日 9月10日 社説:厚生年金改ざん 「組織ぐるみ」の実態解明を
9月5日のブログ信頼できる年金と政府歳出削減の両立で、歳入庁による一元管理を書きましたが、制度欠陥の指摘をせずに、社保庁に原因の改善のみを訴えても、有効ではないと考えます。ちなみに、厚生年金の記録改ざんに社会保険事務所職員が関与していたという調査結果の政府発表に関して読売も次の解説記事を載せていました。少しは踏み出しているかも知れませんが、大差はないように思います。
読売 9月10日 [解説]厚生年金記録改ざん 社保庁ぐるみ疑惑も 政府、被害回復に責任
1) 日本の厚生年金の制度欠陥
最大の制度欠陥は、社会保険庁が保険料を徴収する仕組みであると思います。厚生年金保険法82条2項に「事業主は、その使用する被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負う。」となっており、保険料は事業主(雇用者)が納付義務を負っています。徴収義務を負っているのが誰か、書かれていないのではと思います。最も、滞納の場合のみを規定すればよいので、厚生年金保険法86条1項に「保険料その他・・・の規定による徴収金を滞納する者があるときは、社会保険庁長官は、期限を指定して、これを督促しなければならない。」とあり、強制執行についても89条に「保険料その他この法律の規定による徴収金は、この法律に別段の規定があるものを除き、国税徴収の例により徴収する。」とあります。
保険料は、給与金額(厳密には標準報酬月額)に一定割合(現在は15.35%)を掛けた比例で決まります。従って、事業主が不正をした場合に、どのように防ぐか。逆に言えば、善意に余りにも依存しすぎではないかと思うのです。
年金記録改ざんが社保庁職員が知らないうちに、事業者から、そのような自分の給与金額を減らした虚偽の申請が出されていれば、どうなるのでしょう?しかも、自分の給与明細には実金額で計算した保険料が差し引かれていたら。頭に来ますよ。
あり得ます。社会保険庁が、個人に問い合わせをして、調査する制度ではないからです。せめて、年1回社会保険庁から保険料払込明細が、全員に送付される。それだけでも多少の改善になると思います。
2) 強制調査・強制執行
厚生年金保険法89条の国税徴収の例とは、国税徴収法に準じてとの意味です。いずれにせよ、納付期限前の徴収はあり得ず、従い担保の概念は馴染みません。税については、裁判所の執行命令なしに、一定の手続きで税務署は強制執行が可能です。滞納処分や強制執行もそうですが質問・調査についても、不正をしていないのに、されることを望みません。でも、社会正義を守るためなら、どこか一つに限って欲しいと思うのが普通と考えます。
会社を含め雇用主は、会計帳簿を保管する義務を有し、法人税と勤務者の給与・ボーナスの支払いに関して税務署に対して申告を行います。また、財務諸表も提出するのであり、厚生年金に関する全部のデータは税務署にあります。一元管理して、効率的にし、経費を安くすれば、年金の受取額を増えるでしょう。不審な場合は、調査をしてください。それが、国民(国民というと厚生年金を支払っている外人を含まないみたいで嫌ですが)を守ることになりますから。
最終的には国民背番号制がよいと思うものの、その実効性を高めるには、社会保険と地方税の徴収一元化もしなければいけない。可能な所からでも手を付けて欲しいと思います。
三笠フーズによる工業用の事故米の食用転用も、そんな事故米が手にはいるなら、誘惑に駆られた人も、もしかしたら多いのではと思います。犯罪を誘発する制度を作ってはいけないと思います。
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コメント
「国税徴収の例による」とある場合「国税徴収法を準用する」と規定されている場合より広い範囲で国税徴収の関係法令を利用するという意味になります。
よって、「国税通則法・国税徴収法(及び両法に基づく政令・省令)の規定に従って」と等値ですから、限定的な局面ながら国税通則法・国税徴収法の規定によって繰り上げ徴収が認められる事案については、年金保険料も同様に繰り上げ徴収可能です。
なお、厚生年金保険法のほか、健康保険法・船員保険法・国民年金法にも同様の規定があり、基本的に社会保険庁が徴収する保険料は、国税や地方税と全く同様に、全て自力執行権を伴う強制徴収・滞納処分が可能です。これは地方税・労働保険料についても同様の形式によって規定されている事により同様です。もっとも保険料については、先取特権の関係で国税や地方税に劣後致しますが。
「税については、裁判所の執行命令なしに」と記載されている点について、税務署(=国税庁)に限定されていると狭く解釈することが可能なので、念のため投稿させて頂きます。
それとは別に、厚生年金保険法など被用者に適用される保険料については別として、無業者・学生や(地方税も含めて)納税申告不要者をも包含する国民年金の保険料の扱いはどう扱いましょうか?この件は国税も後ろ向きですし、完全な徴収一元化が進まない大きな障壁の一つです。地方税との一元化は、国税・地方自治体双方が一元化には消極的ですし。
投稿: 通りすがりました。 | 2008年9月10日 (水) 22時18分
「通りすがりました」様
コメント及び解説ありがとうございます。
所得税と地方税の所得控除は、所得税の方が控除金額が大きく、また地方税には均等割もある。国民年金や国民健康保険は、免除手続きが絡んだりと複雑ではあります。
納付・徴収制度も改善していかないと、国民が最終的には不利益を受けると私は思っています。
国税・地方自治体双方が一元化には消極的とのことですが、現状では地方自治体は法人についても個人についても所得を補足する力を持っておらず、税務署に依存している状態と思っています。例えば、法人の税務申告についても、税務署には貸借対照表を提出しますが、県税事務所と市役所には申告書のみです。また、個人所得税も3月に税務署に申告をした所得をベースにその年の県民税、市民税の付加通知が出されています。
私は、税務署(役所の名前をどうするかは私にとっては余り問題ではありません)が代行することでよいと思っています。
なお、固定資産税、軽油取引税等は税務署に移す必要もなく現状でよいと思います。
投稿: ある経営コンサルタント | 2008年9月10日 (水) 22時44分