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2008年10月31日 (金)

景気対策、定額給付金、消費増税

麻生首相が30日の総理大臣記者会見で経済対策を発表しました。

記者会見での発表は、この首相官邸のWebにあります。報道されている次の定額給付金や消費増税の部分もあります。

定額減税については給付金方式で、全所帯について実施します。規模は約2兆円。詳細は今後詰めてまいりますが、単純に計算すると、4人家族で約6万円になるはずです。

景気回復期間中は、減税を時限的に実施します。経済状況が好転した後に、財政規律や安心な社会保障のため、消費税を含む税制抜本改革を速やかに開始します。そして、2010年代半ばまでに、段階的に実行させていただきます。本年末に、税制全般につきまして、抜本改革の全体像を提示します。簡単に申し上げさせていただけるのなら、大胆な行政改革を行った後、経済状況を見た上で、3年後に消費税の引き上げをお願いしたいと考えております。

1) 定額給付金

私にとっては、何故かすっきりしません。記者会見での発表には、正規雇用の奨励についても触れているが、1回限りの政策ではない根本問題・構造的問題の解決への取り組みが重要と考えます。

例えば、このJ-Cast News「敷金・礼金・仲介手数料ゼロ」 その裏に潜むとんでもない事態ですが、 「敷金・礼金・仲介手数料・リフォーム費用0円」をうたう不動産会社・スマイルサービスの賃貸トラブルにおいて弱い立場の賃借人が理不尽な目にあっていると書かれています。内容については、十分あり得ることと思います。

問題の根本部分は、被害者弁護団の弁護士の話のように「契約を結んでいる人の多くは、把握している限りでは、若い人で収入が安定していない人、非正規雇用の人だ」であり、そのような人達にとっては、定額給付金として1人1万5千円を受け取るより、安定した雇用の方がよほど嬉しいと思います。しっかりした雇用対策が、経済対策の上でもより重要と思います。

2) 消費増税

記者会見の発言は、消費税に限っておらず、消費税を含めた税制全般についての見直しであり、私は賛成します。但し、税制改正は、それを決めた時の強者に都合がよい税制になることが危惧され、弱者も含めた真に公平・公正な税制になるように時間を掛けて多くの国民の参加を得て決定していくべきです。税のみならず、年金と健康保険を含め総合して解決を計るべきと考えます。

なお、定額給付金が2兆円とすれば、消費税に換算すると約1%です。定額給付金への賛成は、景気が良くなったある1年について消費税増税1%をすることと思えば良いのです。所詮、誰かが定額給付金を負担してくれるわけではなく、税金がその税源ですから。

3) 日本の将来

良い方向に行っているのでしょうかね。例えば、日本政府・地方自治体の債務金額の規模は世界一です。この意味することは、将来世界一高い税率の国になることを意味します。もし、そうならないのなら、逆に年金、医療、インフラ、政府・自治体からのサービス最悪の国です。コストとベネフィットの関係が成立するわけで、当然のはずです。

世界経済フォーラムが今月8日に「2008-9年版世界競争力報告」を発表しました。ご存じの通り、日本は1つ順位を下げて9位になっています。世界経済フォーラムの評価が正しいのかという問題はありますが、日本の機関による評価より第三者的評価になっていると言えるのか知れません。

報告書は世界経済フォーラムのこのページ The Global Competitiveness Report 2008-2009 からダウンロードできます。50位までの国と評価点数を棒グラフで書いてみました。

Wefrankingglobalcompetitiveness20_2

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2008年10月30日 (木)

ソフトバンク750億円社債デット・アサンプションによる損失

ソフトバンクは、29日に第2四半期の連結業績並びに平成21年3月期、平成22年3月期の連結営業利益見通し等の発表を行いました。

ソフトバンク プレスリリース 2008年10月29日 平成21年3月期、平成22年3月期の連結営業利益見通し等に関するお知らせ

但し、経常利益や臨時損益を含んだ純利益については、触れられておらず、プレスリリースの中では、次のように記載されています。

連結売上高は、携帯電話端末の販売手法によって大きく変動するため、業績予想の公表は困難な状況にあります。また、連結経常利益および連結当期純利益の業績予想は、当社が投資有価証券を多数保有していることや、ファンドを通じた投資を行っていることから、市場環境の影響を受けやすく、持分法投資損益および特別損益の予測がしづらいため、現時点における公表は困難な状況にあります。

しかし、今期の平成21年3月期においてデット・アサンプションに起因する750億円の損失発生の可能性が大きいと考えられることから、書いています。

1) 750億円損失の原因

平成21年3月期第2四半期連結業績として、ソフトバンクはこの決算短信を発表しました。決算短信の26ページから、連結貸借対照表の注記事項の記載があり、その2番目の項目である偶発債務として、750億円の損失発生の可能性が書いてあります。

当該部分の全文は続きを読むに入れましたが、どのような取引であったかと言うと、2010年8月と9月に満期償還となる社債に対して、期限前償還をしたいが、社債の満期日前の償還は困難であるため、金融機関と信託契約を締結し、償還資金を信託により運用し、その運用益と運用返済資金で社債が償還されるように仕組み、社債を期限前償還することと同一効果になるようにした。但し、金融機関との契約は信託契約であり、金融機関は管理者に止まり、全リスクはソフトバンクが負担する。

貸借対照表上は、社債債務は、金融機関に支払った資金で償還される予定であることから、双方とも認識せずに、注記として記述した。損失金額が750億円と想定される理由は、「デフォルトが8銘柄以上の場合は全額の75,000 百万円が減額される」と書いてあり、既に6銘柄のデフォルトが発生していることから、全部で160 銘柄の構成なので、2009年3月までに、今後2銘柄以上のデフォルトが発生する可能性が残念ながら存在すると思われるし、満期日の2010年8/9月まで無事に過ごせると思うのは楽観的すぎると感じたからです。

2008年5月27日の武富士の300億円に思うで、武富士の実質的ディフィーザンスによる300億円の損失を書きましたが、ソフトバンクの750億円損失も基本的には全く同じです。

2) 信託契約により投資した資産

投資した資産は、英国領ケイマン諸島に設立された特別目的会社(SPC)が発行した債務担保証券と書いてあり、サブプライムで有名となったCDO(Collateralized debt obligations)です。CDO自身、サブプライム・ローンとは限らず、色々な貸付金、債券がその対象となります。このNikkei Net IT Plusの記事 10月29日 ソフトバンク、営業最高益も金融不安で最大750億円の損失リスク 4―9月決算には、「アイスランドの銀行やリーマン・ブラザーズ証券など6銘柄が債務不履行(デフォルト)となっており」と記載されており、従来であれば優良投資債券が組み込まれていたのだろうと思います。アイスランドの銀行やリーマンなんて、少し前なら超優良先と皆が思っていましたから。

しかし、160 銘柄で8銘柄以上デフォルトの場合に全額減額なので、やはり大きなレバレッジが仕組まれていたと言えます。もし、レバレッジ1であれば、8/160である5%減額で済むわけですから。CDOとは、レバレッジを、好きなように組める仕組みです。デリバティブの恐ろしさを見せてくれています。現在の世界的金融不況については、改めて書きたいと思っていますが、何故米国発金融不況が生じたかは、デリバティブという金融派生商品に起因する所が大きいと思います。

3) ディスクロージャー

現時点では、デフォルトになったのは6銘柄であり、7銘柄になると損失発生の様なので、ディスクロージャーについて問題があるとは思いません。しかし、デフォルトになる可能性があるなら、引当金を計上しておく必要があり、本決算においては、引当金も問題になるであろうし株主に対する更なる説明を必要だろうと思います。2009年3月期は、デフォルトになっていなくても、引当金を計上し損失を認識することはあり得ると思います。

一方、このデット・アサンプションを実行した時期ですが、2007年3月期の貸借対照表から注記が始まっているので、2007年3月期と考えるが、ソフトバンクがボーダフォン日本法人を買収したのが2006年4月であり、これ以降2007年3月までのプレスリリースを見ても、このデット・アサンプションについての発表がありません。社債そのものは、1998年、2000年発行なので、ボーダフォンによる買収前のJ-フォンの時代のはずです。そうなると、ソフトバンクはデット・アサンプションが実施された状態のボーダフォン日本法人を購入したと思われます。

M&Aが行われた会社の財務諸表って難しいと思いました。一方、M&Aをする側にとっては、相手先がデリバティブ取引を持っていた場合に、そのリスクを短期間のデューデリで、どこまで分析できるのかなと思います。一見してうまく仕組まれているが、思わぬ落とし穴があったりして。

2007年3月期のソフトバンク連結貸借対照表の偶発債務に関する注記も続きを読むにおきました。

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2008年10月29日 (水)

会計の独立

会計は、時の権力の都合により左右されてはいけません。現実を冷静に報告するための基準です。

10月28日に企業会計基準委員会は、実務対応報告第25号「金融資産の時価の算定に関する実務上の取扱い」を公表しました。10月17日の金融資産の時価評価に関連して2) 日本基準の現状 のなかで紹介した案を、正式なものとして一部修正したものです。この企業会計基準委員会のWebからダウンロードできます。(但し、公開から2ヶ月間経過後は会員のみの閲覧となります。)

会計基準委員会は、同時に「債券の保有目的区分の変更に関する論点の整理」についても、コメントを11月14日までに募集することを目的として公表しました。こちらは、10月17日の金融資産の時価評価に関連して1) 国際会計基準の動向のなかで紹介した国際会計基準委員会(IASB: Internatinal Accounting Standards Board)の基準改訂(AMENDMENTS TO IAS 39 AND IFRS 7)に関連しての日本の会計基準の扱い方についての論点の整理で、会計基準委員会は、11月4日正午までのコメントの募集としています。この企業会計基準委員会のWebからダウンロードできます。

上記の「金融資産の時価の算定に関する実務上の取扱い」にしろ「債券の保有目的区分の変更に関する論点の整理」にしろ、読んでみると一般の人にとっては、重箱の隅のようなことであり、むしろ「なぜそんな細かいことが重要なのか?」とさえ思えてくるのではないでしょうか。言葉として好きではありませんが、「時価会計」の範疇を崩すものではありません。

ニュースを眺めると、次のようなのがあります。

MSN産経 10月29日 【麻生首相ぶら下がり詳報】時価会計緩和「検討してみたら」(29日午前)

毎日 10月29日 首相VS記者団:時価会計「こだわる必要あるのかね」 10月29日午後0時4分~

麻生首相が「時価会計緩和を検討してみたら」と発言したとのことです。株式の満期とは、何でしょうと思ったりします。首相、記者団が、それぞれどこまで理解ができて発言しているのか不明ですが、企業会計基準委員会が、そんな動きには動じずに、自らの任務を果たしておられるのは、重要なことと考えます。

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2008年10月28日 (火)

時価会計について

日経が次の10月27日の「時価会計「凍結」の意味を考える」という社説で、私の意見とはずいぶん異なることを述べられました。

日経社説 時価会計「凍結」の意味を考える(10/27)

日経ともあろう者がと思ってしまうので、少し書きます。

1) 時価とは

次の文章が、企業会計基準第10号金融商品に関する会計基準の時価の定義です。

時価とは公正な評価額をいい、市場において形成されている取引価格、気配又は指標その他の相場(市場価格)に基づく価額をいうこととした。また、デリバティブ取引等において、個々のデリバティブ取引について市場価格がない場合でも、当該デリバティブ取引の対象としている何らかの金融商品の市場価格に基づき合理的に価額が算定できるときには、当該合理的に算定された価額は公正な評価額と認められる(第6項参照)。

なお、金融商品の種類により種々の取引形態があるが、市場には公設の取引所及びこれに類する市場の他、随時、売買・換金等を行うことができる取引システム等が含まれる。

時価とは、公正な評価額であります。寿司屋の時価とは違います。日経は、曲解し「「活発な取引に基づかない取引価格は公正価値を表さない」として、経営者の判断を加えた理論値での評価も認めた。」としていますが、従来から認められていたとも言えます。だからこそ、10月17日の私の金融資産の時価評価に関連して2) 日本基準の現状 のなかで紹介したように、企業会計基準委員会が発表したのは「金融資産の時価の算定に関する実務上の取扱い(案)」です。会計基準の解釈・運用に係わる実務上の取り扱いに関する指針の案です。

2) 時価主義vs取得原価主義

食品の安全性に起因した様々な問題が報道されています。もし、報道されなかったら、発表されないなら、安心して食物を手にすることができません。投資先の企業が、タイムリーに重要事項を発表していくれ、会計期間毎の財務報告をしてくれるから、投資ができるのです。

考え方として、取得原価主義で貸借対照表を表示するが、時価情報と時価と原価の差額を注記する方法を採用しても、本質的な違いはないとも言えます。しかし、何故唯我独尊で世界と異なる方法を採用するのか理解に苦しみます。鎖国せよ!と言うなら別ですが、世界の中で発展していくのであれば、世界の多くの方々と共通語でコミュニケーションが取れるようにすべきです。

3) 米国における見直し

日経社説は、「米国の金融安定化法は米証券取引委員会(SEC)に時価会計凍結の権限を与えた。」と述べています。それは、事実と異なりますよと言いたい。金融安定化法(Emergency Economic Stabilization Act of Act 2008)の133条がその条文です。(条文は続きを読むに入れておきます。法律全文はここにあります。)

法は、SECが見直しをすべきと言っているのですが、その見直しを実施する対象はFASB基準157番の公正な評価(Fair Value Measurements)であり、今回の対象企業は金融機関についてです。金融安定化法133条の私の理解が間違っているでしょうか?条文を読んでみてください。

なお、日本語の会計用語としての時価は、Fair Valueの意味です。Market Valueではありません。

恐ろしいのは、世界の動向を読み間違えることです。さもないと日本は奈落の底に転落する危険性があると思います。日経が社説で間違えるなど、私はトンデモナイと言いたいのですが。それとも、私の読みや理解が間違っていますか?

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米国基準と日本基準の財務諸表

会計ニュースコレクターさんのところで知りましたが、三菱UFJフィナンシャルグループの2008年3月期の当期純利益が米国基準では、日本基準より1兆1千億円少なく、5424億円の純損失であったのですね。三菱UFJフィナンシャルグループの、この件についての報告は次の所です。

平成20 年9 月19 日 平成 20 年3 月期米国会計基準決算におけるのれんの減損について

のれんの減損が8937億円なので、それ以外の要素も加わり、2853億円更に落ち込み、日本基準6366億円の純利益が5424億円の純損失となっています。

UFJホールディングスとの合併は、2005年10月であり、現行の日本会計基準の「企業結合に係わる会計基準」も2006年4月1日以降開始する事業年度からの適用であったので、合併の会計処理においては、のれんを計上せず、合併時のUFJホールディングスの資産から負債を控除した1兆4563億円の正味資産の増加に対して、資本準備金1兆0779億円と利益剰余金3784億円の増加として処理したと理解します。結果、のれんは計上されなかった。

一方で、三菱UFJフィナンシャルグループの日本基準と米国基準の連結貸借対照表を2008年3月末と2007年3月末について比較したのが次の表です。どっちがどうと簡単に言えないのですが、2つの基準で作成して発表するというのも大変だなと思ってしまいます。

Mufj20083_2

他の銀行と比較する場合、相手が外銀であれば米国基準の財務諸表を基として比べることになるであろうし、米国基準や国際基準(IFRS)でない場合は、比較する時に誤差を見込むことになるのだろうか?そうなると日本基準に固執していると世界から取り残されるというか、ジャパン・プレミアムが乗っかり、日本企業が不利になる、損をするとなるような気がします。

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2008年10月26日 (日)

アーバンに対する課徴金150万円から一気に1,231万円にアップ

10月13日のアーバンコーポレイションに対する課徴金納付命令に係る審判手続開始決定のなかで、アーバンに対する課徴金150万円が低すぎることはないのかと書きましたが、金融庁さんがアーバンに対する課徴金を追加されたので、少し驚きました。(私のブログを読んだからとは思いません。)

平成20年10月24日 株式会社アーバンコーポレイションに対する課徴金納付命令に係る審判手続開始の決定について

金額として10,810,000円と書いてあります。なお、前回の決定は、次ですから、単に日にちが異なるだけで、表題は同じです。前回と合計すると1,231万円となります。

平成20年10月10日 株式会社アーバンコーポレイションに対する課徴金納付命令に係る審判手続開始の決定について

10月10日と10月24日の差は、課徴金の適用条項であり、10月10日が金融商品取引法第172条の2第2項による臨時報告書の重要な事項につき虚偽の記載であります。一方、10月24日は金融商品取引法第172条の2第1項で、重要な事項につき虚偽の記載がある有価証券報告書の提出です。

言葉にするとほんのわずかの差ですが、金額にすると大きく異なりました。一つは臨時報告書の場合は2分の1となることによる差ですが、対象とする株価が臨時報告書の場合は、その係わる期間が4月1日から上場廃止の9月14日までであるが、有価証券報告書の係わる期間は2007年4月から2008年3月までで、一つ期間がずれている。その結果、課徴金の金額計算の基となった株価が、347.13円と1,588円とまるで異なったことによります。

課徴金計算に関する内閣府令は、「金融商品取引法第六章の二の規定による課徴金に関する内閣府令」です。

それぐらいの株価変動は普通だと考えるべきでしょうか?アーバン株を保有していた投資家からすれば、ケシカランの思いになります。参考まで、2006年9月からのアーバン株Yahooチャートです。

Chart2years

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2008年10月24日 (金)

都立墨東病院における妊婦死亡

マスコミが「たらい回し」と言いたがる事件が報道されています。(今回は、次の読売のように「受け入れを断られ」との表現を使っている報道が多いようですが。)

読売 10月22日 脳出血に「対応できぬ」と7病院が拒否し、妊婦が死亡

今回の出来事についての多くの意見は次の読売の社説に代表されると思います。

妊婦搬送拒否 一刻も早い医療改革が必要だ(10月23日付・読売社説)

細部は、余り掴めていませんが、それでも気になることがあるので、書いてみます。

1) 東京都の病院戦略

東京都(病院経営本部)は、本年1月31日に「第二次都立病院改革実行プログラム」を策定し、ここに発表しています。気になる項目としては、次のような項目があります。

  • 「東京ER」の設置・運営(広尾病院、墨東病院、府中病院)
  • 「東京DMAT(災害医療派遣チーム)」の設置(広尾病院、墨東病院、府中病院)
  • PFI手法による再編整備の推進
    6 経営力の強化
  • 経営管理の取組
  • 経営の効率化及び経営分析力の向上など
    7 都立病院の新たな経営形態の検討

    広尾病院、墨東病院、府中病院をERやDMATを含め中核的な病院と位置づけ、整備していく方針と理解します。そして、一方で、経営力の強化を掲げ、この資料の最終ページ(104ページ)には、一般地方独立行政法人にすることも20年度から十分な検証を実施すると記載されています。

    広尾病院、墨東病院、府中病院を含む、病院経営収支の2006年度の実績は、8月21日の自治体病院の経営指標の実績(その3)に記載の表にありますが、他の都道府県と比較すると赤字幅は小さいと思えます。

    ERを営利事業として実施することが果たして社会にとって良いのだろうか。政府や地方自治体が、これだけは、国民・住民の福祉のために、確保するのだという方針が最初にあるべきと考えます。当然そのための税金支出が伴います。「民間の手法」と言う言葉が、医療の面で使われることがありますが、「民間の手法」イコール「損をする事業は取り組まない。取り組めない。」であることを忘れてはなりません。「民間の手法」を適用するのであれば、損失が発生する事業については、必要な補助金を支出して、その事業を支えるというコミットメントをすることです。

    2) 墨東病院のケース

    都立墨東病院のホームページの「お知らせ」から、「産科の外来診療の縮小について」をクリックすると次の文書が現れます。

                  産科の外来診療の縮小について
    当院の産科におきましては、医師の欠員が生じたため、平成18 年11 月13 日(月曜日)からしばらくの間、外来診療を縮小いたしますのでご了承下さい。
    ● 予約のある患者様、救急の患者様につきましては従来どおり診療いたします。
    ● 予約のない初診患者様は紹介状の有無に関わらず、新規の予約受付及び予約外受付診療は行なっておりません。お近くの医療機関を受診されるようお願いいたします。
    ● 予約外の再診患者様、再診予約をするか、総合案内でご相談下さい。分娩予約のある場合に限り医師に確認のうえ判断いたします。

    平成18 年11 月13 日からと書いてあるので、2年前からこの文書が掲げられていたと思います。一方で、この文書の29ページによれば、墨東病院は東京都立病院で最も周産期医療が充実した病院に思えます。医師不足であっても、報酬を高く、待遇を良くすれば、医師は働いてくれると考えるのが、民間の考え方です。

    墨東病院のケースを考えると、猛烈な矛盾があるように思えます。医師を大東亜戦争の日本兵のように、赤紙一つで招集し、前線に無理矢理送り込むような扱いをしては、いけません。医療の充実のためには、合理的に対処することが必要かつ重要です。

    3) 五の橋産婦人科

    墨東病院と五の橋産婦人科は、すごく近く、500mも離れていないと思います。墨東病院はここで、五の橋産婦人科はここです。しかも、五の橋産婦人科のドクター紹介には、「院長 川嶋 一成 埼玉医科大学卒 墨東病院勤務の後、平成9年当院院長に就任」と書いてあり、五の橋産婦人科の医師の方々は、墨東病院の産科の実情はよくご存じであったと思います。

    このあたり、何をどう考えるべきかですが。墨東病院も、五の橋産婦人科も、遺族から訴訟を受けるリスクを考えて、記者会見に臨んでいるように感じてしまうのです。結果は、妊婦さんが亡くなったのですが、本当は、1時間強で受け入れができた成功例ではないかと思うのです。墨東病院も当直ではなかった医師を自宅から呼び出して対応したのですから。多分、最初の電話で、墨東病院も勤務に就いていなかった医師を呼び出したが、念のために、別の受け入れ先を探そうと墨東病院と五の橋産婦人科は協力して尽力した。(墨東病院の産科医は、別の妊婦のために手が離せなかったと思いますが)

    私は、墨東病院の関係者も五の橋産婦人科の関係者も、妊婦と赤ちゃんのために全力を尽くされたと思います。非難するのではなく、感謝し、激励するのが本当の姿だと思います。

    4) 週刊文春

    今回の報道は、TV、新聞が第一報です。しかし、23日の発売とおもいますが、週刊文春10月30日号のルポ「産婦人科の戦慄」に、この出来事が詳細に書かれています。この意味するところは、何でしょうか?入院したのが、10月4日です。10月4日から10月22日までのどこかの時点から週刊文春の記者は取材をしていたはずです。そして発売日の前日に、TVや新聞にリークしたのではと疑います。目的は、週刊文春のその記事をハイライトし、販売部数を伸ばすためです。

    マスコミが悪いと言っても始まりません。報道内容が事実であれば、非難することが賢いと思いません。但し、マスコミに振り回されることなく、それぞれの重要性を私たち自身がよく考える必要があると思います。

    医療の問題は、医師不足なんて簡単な言葉では解決できない底深さを感じます。例えば、「医療費を削減しつつ医師不足も解消する。」なんて標語を聞いても、それは政治家と政治家にしっぽを振る官僚の言葉でしかないと思ってしまいます。しかし、一方で、具体論になればなるほど、難しさを感じます。

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    時価会計

    尾を引いているようですね。日本公認会計士協会も、10月23日付けで「時価会計等に関する所感」と題して会長声明を公表されました。

    平成20年10月23日 日本公認会計士協会 会長声明「時価会計等に関する所感」

    ちなみに、声明の中には、次の文章もあります。

    日本公認会計士協会は、会計基準が、企業の実態を反映する鏡であり、投資家に対して意思決定情報を提供するための財務諸表に関する基準であることから、金融市場の混乱を契機に金融商品の時価評価を凍結することは、到底、賛同できないと考えている。

    会計とは、企業の財政状態や業績を計る物差しです。ユーザーである投資家に有用な意志決定情報を提供する物差しでないと意味はありませんから。

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    2008年10月22日 (水)

    世界は大不況に突入か?

    サブプライムによる金融面における影響、あるいは住宅関連の不況については、誰もが認識しているところです。一方、別の面で実体経済の不況が進んでいるように思え、本エントリーを書いています。

    1) バラ積み船の船賃下落

    9月9日に価格下降にどう立ち向かうかを書き、その際にInvestment Tools.comで紹介されているバラ積み船の船賃指標であるBaltic Indexのチャートをコピーして掲げました。現在のチャートと9月9日のチャートを以下に掲げますので、比べてみてください。(上が現時点で、下が1月半ほど前です。

    Balticexchange081022jpg_3

    Balticexchange0809

    9月9日頃は5,663であったのが、1月と20日弱で1,292と4分の1弱に下落しており、最高時と比べると、その10分の1近くです。

    対象となっているバラ積み船とは、大きな船では300mもあるケープサイズの30万トン積のような船から、パナマ運河最大級のパナマックスと言われる8万トン積の船、あるいはもっと小さいハンディーサイズと呼ばれる4万トン積程度の船とか色々あり、石炭や穀物を主たる貨物として運搬する船です。

    何故そんなに安くなっているかは簡単です。荷物が無いから、相場が落ちただけです。バラ積み船の市況は、大きく変化しますが、現状の落ち込みは誰もが予想しなかったレベルと思います。

    2) 経済の鏡

    実際には長期用船もあるので、Baltic Indexが直ちに運賃に結びついていない場合もあるはずです。そして、Baltic Indexが1/4になったから、荷動き量も1/4になっているわけではありませんが、原材料の世界的な貿易量は減少していると言えます。このことは、同時に生産量も落ち込んでいるし、製品の貿易量減少にも繋がっていくし、同時に製造業の売上減少、業績悪化に結びつくはずです。しかも、それが世界的な規模で起こっていると私は考えます。そうでないと、このような大きなBaltic Index下落にはならないと思うからです。

    3) 日本経済

    闇みたいな可能性もあるのではと懸念します。10月20日の日経ですが、次のニュースがありました。

    新日鉄の減益幅縮小、JFEは一転増益 今期見通し

    原材料や燃料の価格下落があり、業績が改善したことを報じていますが、10月22日には鉄鋼大手、3年ぶり減産 自動車向けなど低迷と言った報道があります。利益増加は、原材料価格と製品価格の下落のタイムラグにより生じているだけで、大きな方向は、生産量減少に向かうと思います。

    例えば、数ヶ月前には、トラック輸送業界が軽油値上がりにより利益が生まれないとの話がありました。これからは、仕事がない、そして廃業・倒産といった暗い傾向が始まるように思えるのです。

    4) 対策

    輸出依存が多い企業は、売上減少に見舞われる気がします。輸出依存とは、直接輸出のみならず間接的な部分も含めてです。

    数年以上前ですが、リストラという言葉を良く聞きました。日本のリストラの多くは、企業の体質改善ではなく、単なる人減らし、正規社員減らし、中高年高給社員の首切りでしか無かった場合が多かったのではないかと気になります。これらのリストラは企業の業績を一時的には良くしても、長期的な改革策ではないからです。

    不況時には何をするか?研究開発と思います。企業の投資とは、設備投資のみにあらず、研究開発への投資は極めて重要です。その企業が、他企業には負けない分野、負けたくない分野で、研究開発投資をするのです。それで、絶対とは言えないでしょうね。うまくいかずにやはり倒産するかも知れません。でも、研究開発の成果は例え倒産しても残ってくれる可能性があるし、夢があります。何もしないでいるより、研究開発に突き進んで、倒産したなら、やるだけやって倒産したので、ある満足感が得られるかも知れません。人員減らしより、よほど楽しいですよ。

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    パトカーに追跡されたら止まりましょう

    こういうことで最高裁まで争っている人がいたのだと感心しました。短い判決文です。

    10月16日 最高裁判所第一小法廷 棄却決定 (全文pdf

    争点の刑法208条の2第2項は、次の条文です。

    2  人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。
    (注:「四輪以上の」が平成19年5月23日法律第54号で削除された。)

    次の事件でした。

    被告人は,普通乗用自動車を運転し,パトカーで警ら中の警察官に赤色信号無視を現認され,追跡されて停止を求められたが,そのまま逃走し,信号機により交通整理の行われている交差点を直進するに当たり,対面信号機が赤色信号を表示していたにもかかわらず,その表示を認識しないまま,同交差点手前で車が止まっているのを見て,赤色信号だろうと思ったものの,パトカーの追跡を振り切るため,同信号機の表示を意に介することなく,時速約70kmで同交差点内に進入し,折から同交差点内を横断中の歩行者をはねて死亡させた。

    「殊更に無視し」とは、赤色信号についての確定的な認識がないことを意味するとして、被告人は最高裁まで争っていたんですね。次の最高裁の意見に納得します。

    赤色信号を「殊更に無視し」とは,およそ赤色信号に従う意思のないものをいい,赤色信号であることの確定的な認識がない場合であっても,信号の規制自体に従うつもりがないため,その表示を意に介することなく,たとえ赤色信号であったとしてもこれを無視する意思で進行する行為も,これに含まれると解すべきである。

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    2008年10月21日 (火)

    会計処理ルールの緩和に関する報道

    10月17日に金融資産の時価評価に関連してを書きましたが、その続編です。

    10月20日(月)金融庁で17:02から17:23に掛けて、佐藤金融庁長官の記者会見がありました。

    金融庁の記者会見の概要

    この記者会見について、朝日はこの記事 銀行の自己資本比率、有価証券評価損の取扱い検討中=金融庁長官で、「国際的な整合性を考慮しながら検討していくとしている。」と報道しました。日経は、この記事 金融機能強化法改正案「モラルハザード助長防ぐように」 金融庁長官で記者会見について報道していましたが、特に金融資産の時価評価については、触れていませんでした。

    10月17日時点より報道も少し落ち着いてきているのかなと思いました。

    金融庁の記者会見概要は、1問1答形式ですが、バーゼル合意に関係しての見直しの検討と思います。当該部分を続きを読むに入れました。

    バーゼル合意(バーゼルII:Base II Accord)とは、銀行活動がグローバル化した結果、世界的な統一基準で銀行について管理規制していくための合意です。ここに金融庁の説明があり、ここに日銀の説明(少し古いが他の説明より解りやすい。)があり、ここにWikiの英語版があります。

    金融庁の説明にあるように、海外営業拠点を有する国際統一基準行は自己資本比率8%以上ですが、そうでない地銀等の国内基準行は4%が基準値です。可能性としては、国内金融のみを行う銀行に関してのルールの緩和はあり得るのかも知れないと思います。一方、メガバンク等の国際統一基準行については、国際的に統一した基準で対処しないと、国際的な金融恐慌に陥ってしまうので、日本だけがと言うようなことは絶対になく、時価評価を実施して、その国の政府が対処し、国際的にも対処すると言うことになると思います。更には、途上国の金融機関だって、そうなる可能性はあるし、現実にアイスランドの銀行については、国際的に助けなくてはならなくなっていますが、これも時価で評価された結果があるから可能なことです。

    なお、バーゼル合意による銀行の管理規制と銀行を含む企業の財務諸表の会計基準とは話が異なりますし、適用するルールも多少異なりますので、この点を混同すると話が混乱します。

    続きを読む "会計処理ルールの緩和に関する報道"

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    不思議な鉄道京阪「中之島線」

    大阪で京阪電気鉄道の中之島線が10月19日に開業しました。

    Nikkei Net Kansai 10月20日 京阪中之島線が開通──鉄道ファンら500人、門出祝う

    1) 中之島線の路線

    ここにあるように4駅が開業しているが、実は「北浜駅となにわ橋駅」及び「淀屋橋駅と大江橋駅」は、ほとんど同じ場所にあり、もともと京阪電鉄なので、京阪電鉄が2駅間並行して走ることになり、実質の延長は2駅約1.5kmしかない。


    詳しい地図で見る

    何故半分の距離で済む淀屋橋駅からの延長をしなかったかについては、ここにNikken Times 特集インタビュー 中之島高速鉄道(株) 坂本富司雄社長として、坂本社長が次のように答えておられました。

    ルートに関しては「何故淀屋橋から延伸しないのか」とよく質問を受けますが、これは延伸先に同じレベルで地下鉄御堂筋線が位置しており、もしそこから延伸するとなれば莫大な費用と時間がかかりますから、事実上不可能です。現在の天満橋駅からの分岐延伸は、同駅には番線が4つあったことから、その2つを利用しようとしました。

    天満橋駅というのは、京阪電鉄の嘗てのターミナル駅であり、淀屋橋駅から延長しないとなると線路分岐を取れる工事可能な地点としては、天満橋駅になってしまったと理解します。(次の建物の下が京阪電鉄天満橋駅です。)


    詳しい地図で見る

    2) 工事費と税金

    この大阪府の資料によれば3ページ目の左下あたりに1500億円とあります。そうなると、実質では1.5kmの建設なので、1kmの実質建設費が1000億円です。同じ資料の2ページ目ですが、国庫補助金25.2%と書いてあります。すなわち、日本国民の税金が378億円使われました。

    この東京都交通局のWebによれば、大江戸線の都庁前~新宿間の建設費が343億円/kmのようです。

    都営地下鉄の路線別建設費

    項目区間建設キロ
    (km)
    全線開業建設費
    (億円)
    キロ当たり(億円)
    線名
    浅草線 西馬込~押上 18.7 昭和43年 864 46
    三田線 三田~西高島平 22.8 昭和51年 1,450 64
    三田~白金高輪 ※1 1.6 平成12年 763 474
    新宿線 新宿~本八幡 24.8 平成元年 5,822 235
    大江戸線 新宿~光が丘 13.9 平成 9年 3,989 286
    都庁前~新宿 ※2 28.8 平成12年 9,886 343

    ※1 白金高輪~目黒は帝都高速度交通営団(現東京地下鉄株式会社)が建設
    ※2 都庁前~新宿間は、東京都地下鉄建設株式会社が建設

    単純比較は良くないと思います。しかし、税金を投入する以上は、それが有効なのだと国民に対して説明が必要です。「地下鉄御堂筋線がじゃまになったから、二重投資になっています。」と説明しているのみであれば、だめであり、例えば、新しい地下鉄を淀屋橋から何故建設できなかったのか、ゆりかもめのような新交通システムでは何故ダメか、経済的有効性や投資効果がどうなるかを数字で示すべきであります。

    私は、鉄道はエネルギー効率の面を初め多くの点で優れているし、税金が投入されること自身が悪いとは思いません。しかし、たった1.5kmの中之島線に税金を378億円投入するなら、地方の赤字ローカル線の補助金に少し回しても良かったかも知れないとの気持ちになってしまいます。但し、気分で決めることは良いことではなく、数字を示して国民の了解を取るべきです。

    3) 上下分離?

    大阪の人は、頭が変なのかなとも思いますが、道路公団でそんなことをやるから仕方がないのかなとも思います。

    しかし、私は上下分離なんて絶対反対です。金銭勘定を誤魔化す時に、財布を複数用意して、都合良く使い分けます。上下分離とは、それを許すことです。何故、京阪電気鉄道に線路もトンネルも全て保有して事業をさせないのか?京阪電気鉄道は、一流の鉄道会社と思います。補助金を出す相手として問題があるとは思いません。

    京阪電気鉄道に建設補助金と運営補助金を支出すれば、それで良いはずです。責任と会計報告が一体となって初めて有効な事業経営が可能です。

    地方自治体による天下り先が好きというか、無駄が好きというか、中之島線を調べると無茶苦茶とチャイマッカーと思いました。このNikkei Net Kansaiの記事も面白いです。

    63年には天満橋―淀屋橋間で営業開始し、西進を進めてきた。」それなら、西進できるように、地下鉄御堂筋線と立体交差できるように、最初から計画して線路を地下深く下げておけばよいのに。

    同線は西九条を経て最終的には新桜島まで延伸する計画があるが、計画立案から時間がたっているにもかかわらず事業化のめどは立っていない。」それなら、新交通システムで良いではないか。

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    2008年10月18日 (土)

    国連安保理事会の理事国就任に思う

    10月17日の国連総会で日本が国連安全保障理事会の非常任理事国(Non-permanent Member)に選出され、2009年1月1日から2年間その任務に就くことになりました。読売の記事と国連のUN Newsは下記です。

    読売 10月18日 日本が国連安保理の非常任理事国に、最多の10回目選出

    UN News 17 October 2008 Five non-permanent members of Security Council elected today

    国連の安全保障理事会とは、国連憲章24条1項に次のように規定されており、国際の平和及び安全の維持に関する主要な責任を負い、その責任に基く義務を果すに当って加盟国に代って行動する重要な役割を果たす国連の機関です。

    国連憲章24条1項 国際連合の迅速且つ有効な行動を確保するために、国際連合加盟国は、国際の平和及び安全の維持に関する主要な責任を安全保障理事会に負わせるものとし、且つ、安全保障理事会がこの責任に基く義務を果すに当って加盟国に代って行動することに同意する。

    安全保障理事会は、常任理事国(Permanent Member)5国と非常任理事国10国の15国で構成され、常任理事国を含む9国の賛成多数で手続事項に関する安全保障理事会の決定がなされます。(国連憲章27条)各国1票であるが、9国に常任理事国が含まれることから常任理事国の拒否権と呼ばれる取り決めです。

    国連憲章(日本語訳)については、この国際連合広報センターのWebにあります。

    世界の平和のために日本政府は国連安全保障理事国としての仕事をしていただきたいと思います。

    多極主義の時代と呼ばれたりしていますが、そのなかでは国連に軸足を置いた外交が一つの重要事項であると思うし、被爆国として核廃絶に向けた努力をして欲しいと思います。それに関連して思うのが、北朝鮮問題です。米国は北朝鮮をテロ支援国家(State Sponsor of Terro)から外しました。10月11日の米国内務省の発表はここにあり、”the Secretary of State has rescinded the designation of the D.P.R.K. as a State Sponsor of Terrorism, effective immediately”と言っています。

    米国が北朝鮮をテロ支援国家から外した理由は、その発表の冒頭にあるように、核兵器廃絶へ向けた検証手続きの合意です。合意内容はここにあります。

    The Democratic People’s Republic of Korea (D.P.R.K.) has agreed to a series of verification measures that represents significant cooperation concerning the verification of North Korea’s denuclearization actions.

    北朝鮮の核問題は、日本にとって大きな問題のはずだし、被爆国として真剣に取り組むべき問題です。米国の動きに対して、それを積極的に支援せず、北朝鮮の核問題、朝鮮半島の非核化に取り組もうとしないようでは、「過ちは繰返しませぬから」とある広島原爆慰霊碑の文面が空虚に思えます。国連安全保障理事国として、アジアや世界の平和と核不拡散に積極的に取り組むべきと思います。

    今回の理事国就任については、イランも立候補していたので、2国の選挙でした。そのイランですが、来年春以降のブッシュ後には、動きがあるかも知れないと思います。イランも核廃絶の手続きを合意すれば解決するし、イランはIAEAの査察受け入れに合意するはずです。但し、イランに関しては、確実に核兵器を保有していると言われているイスラエルの問題に火がつけばやっかいだと思います。イスラエルは核保有を認めないであろうし、暗黙の中での和平しか困難と思うからです。

    選挙に向けて各党がどのような主張をするか、どの党が常任理事国となった政府を指導し国際平和を推進するにふさわしいか、見ていきたいと思います。拉致問題も核廃絶を通じての交渉で解決するしかないはずで、制裁では解決しないはずです。

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    2008年10月17日 (金)

    経団連は時価会計に賛成

    直前のエントリーの続きです。次の意見書を経団連が10月14日付で出しているのですが、国際会計基準(IFRS)の適用に全面的に賛成しておられると理解します。

    (社)日本経済団体連合会 2008年10月14日 会計基準の国際的な統一化へのわが国の対応

    IFRSを適用と言っても、IASとIFRSを細部まで読み込んで、対応するのは大企業でないと無理と思います。それだからこそ、率先してIFRSを早期に適用すべく尽力願いたいと思います。

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    金融資産の時価評価に関連して

    金融資産の時価評価や時価会計に関連しての報道が多くなっていますので、私自身の整理の意味もあり、書かせていただきます。

    1) 国際会計基準の動向

    日経の記事と国際会計基準委員会(IASB: Internatinal Accounting Standards Board)の発表は次の通りです。

    日経 10月14日 金融商品の時価評価、規則の一部を緩和 国際会計基準審議会

    IASB Press Release 13 October 2008 IASB amendments permit reclassification of financial instruments

    IASBの改訂した基準(AMENDMENTS TO IAS 39 AND IFRS 7)そのものは、ここにあります。一言で言えば、米国基準で許されていた金融資産の保有目的区分の振り替えと同じような区分振り替えを認めたのです。改定基準を読んだ私の理解は次の通りです。

    国際会計基準(IASとIFRS)は、金融資産を次の4つの保有目的区分に分けています。(国際会計基準は連結財務諸表を主たる対象としているので、子会社株式及び関連会社株式はIAS27の適用となります。)
    (a) financial assets at fair value through profit or loss(売買目的金融資産)
    (b) held-to-maturity investments(満期保有目的投資)
    (c) loans and receivables(金銭債権)
    (d) available-for-sale financial assets(その他金融資産)

    評価方法は、(a)は時価評価を行い、評価差額は当期の利益。(b)と(c)は双方とも、利息法を採用しての償却原価法を適用する。従い、(b)と(c)に実質的な差はないと理解します。(d)も時価評価であるが、時価評価は洗い替え法を適用し、評価差額は包括利益とする。

    今回は、次のような区分変更の内容と理解します。
    (i) 保有している(a)売買目的金融資産が近い将来において売却しないことが確実であれば、他の区分(b)~(d)への振り替えを認める。但し、他の区分から(a)売買目的金融資産への振り替えは認められない。
    (ii) 金銭債権のカテゴリーを満たしていたが、(a)売買目的金融資産としたした金銭試験は今後相当期間または満期まで保有する予定であるなら、(b)金銭債権への振り替えを認める。
    (iii) デリバティブについては、保有目的区分の振り替えは認められない。

    日本の会計基準で例えれば、売買目的有価証券を満期保有目的の債券又はその他有価証券への振り替えを認めたのである。実際には米国基準(GAAP)との調和を図るために、米国基準に合わせた。また、無条件に振り替えを認めたのでもないはずです。

    2) 日本基準の現状

    日本基準を作成している企業会計基準委員会の発表は次の通りです。

    企業会計基準委員会 10月16日プレスリリース 時価評価とその算定を巡る会計基準等について

    そして、このプレスリリースにある本日公表の実務対応報告公開草案「金融資産の時価の算定に関する実務上の取扱い(案)」ここにあり、ページの下のダウンロードボタンを押すとダウンロードできます。

    ダウンロードして読むと解りますが内容は、以下についてのQandA形式による解説についての公開草案であり、基準の変更ではありません。
    Q1 時価の概念
    Q2 市場価格が実態を乖離していた場合の時価
    Q3 市場価格を時価とみなせない場合の、合理的な見積りに基づいて時価を算定する場合の留意する事項

    国際的な会計基準における金融資産の保有目的の変更についても近々発表されるとおもいますが、上記の1)をフォローするような案と思います。

    3) 新聞報道

    新聞のみを読んでいると誤解を起こす恐れがあると思います。

    日経 10月17日 日米欧、時価会計一部凍結へ 金融危機封じへ非常手段
    朝日 10月16日 金融商品の時価会計適用、日本も緩和へ 欧米と協調
    MSN産経 10月16日 時価会計、金融商品で適用緩和へ 企業会計基準委員会
    毎日 10月17日 佐藤・金融庁長官:時価評価会計、日本も見直し

    例えば、次のような例です。

    日経: 「市場の混乱を受けて時価会計凍結を検討する米国」

    朝日: 「金融危機で価格が著しく低下している商品については、決算期ごとに損失処理しないで済むようにする。」

    MSN産経: 「株式や債券などを、時価で評価する「投資目的」から、取得時の価格(簿価)で評価できる「満期保有」に切り替えることを認める方向で検討する。」(株式には満期が存在しないため、満期保有は概念として存在しません。)

    毎日: 「大きく値下がりした金融商品について決算上、取得時の価格(簿価)での計上も認めることなどが柱となる見通し。」

    さすがに、企業会計基準委員会がプレスリリースを出しました。お笑いだなあ!

    企業会計基準委員会 お知らせ 金融危機対応に関する報道について

    ・・時価会計一部凍結や金融商品の時価会計の適用の緩和を決定したかのような記事が出されていますが、憶測記事であります。

    そして「私どもでは、欧米の動向を踏まえつつ、金融資本市場の健全性・透明性の確保に寄与できるよう、早急に検討していくこととしております。」と締めくくっておられます。

    4) 金融商品の時価評価の重要性

    大和生命保険は10月10日、東京地裁に更生特例法手続き開始を申し立てをしました。もし、申し立てをしなければどうなっていたでしょうか?可能性としては、更に資産内容が悪くなり、一方で保険金は保険契約通りに支払われ、満期未到来の保険契約者の受取金額は更に低くなっていた可能性が高いと思います。善意に解釈すれば、大和生命保険の経営陣もある程度頑張ったが、これ以上自力で頑張りすぎると保険契約者の損失を拡大してしまう。損失拡大を未然に防ぐために裁判所に更生特例法手続き開始を申し立てた。

    資産状態が良いか悪いかは、時価評価をしないと無理です。金融資産としては、預金ぐらいしかないメーカーではありません。金融機関の資産はほとんど全てが、貸付金、デリバティブ、CDOその他の金融資産です。これを時価評価しなかったら、そして時価評価した結果が公表されていないなら、安心して預金やその他の取引ができません。同じことが、外国の投資家や取引先、預金者からも言えるわけで、信頼できる財務諸表を開示できないことは、金融機関にとっては死を意味します。現在、政府資金(公的資金との言葉が使われていますが、公的資金と言うと誤魔化されるので、政府資金と言います。)の銀行への注入が検討されていますが、大前提は再建可能であることであり、そのベースとなる信頼できる財務諸表が存在することです。

    この16日の日経記事「金融相「中小融資円滑に」 銀行トップら23人と異例の会談」には、「地方銀行からは時価会計凍結を求める声も出た。」との文章があるのですが、驚きです。そんなことを言ったら、その銀行の預金を引き上げるリスクがあるのですが、預金取り付けリスクがあると思いますが、どのように考えたのでしょうと思います。

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    定額減税のその先

    10月16日の朝日です。

    朝日 10月16日 定額減税に埋蔵金流用検討 財政投融資特会から3兆円

    定額減税に向かって進んでいるようですが、小手先の対応ではない、所得税のあり方についても考え、定額減税の先についても検討すべきと思うので、書いてみます。

    1) 6万5千円の定額減税

    朝日の記事には、”導入に積極的な公明党は「4人家族で6万5千円以上」の実施を主張”と書いてあることから、4人家族で6万5千円減税になるとすると、税がどうなるかを計算しました。

    200810

    給与所得が収入の全てであり、配偶者と子供2人(うち1人は16歳以上23歳未満とする。)の4人家族を前提とし、協会けんぽ(旧政府管掌保険)と厚生年金に加盟し、生命保険料控除等による所得控除が10万円受けられるとしました。

    ボーナスを含んで960万円以下の年間給与金額であれば、住民税の方が金額が大きい。定額減税を実施するとなると、所得税と住民税の双方を対象としないと、効果が薄いこととなります。ちなみに、上記の前提条件の場合では、年間給与額620万円で所得税65千円となり、620万円ないと所得税のみでは定額減税を全額取得できなくなります。住民税を減額するとなると、国税から地方自治体への税額譲与のもう一つの法律を通さねばいけないことになります。

    所得金額が低いほど影響が大きいので、5百万円以下の部分についてグラフを拡大しました。

    500200810

    定額減税の結果、360万円以下の人は税を払わなくて済みます。(なお、厳密には、住民税の定額部分(均等割)が別途4千円程度ありますが、取り扱いが不明なので触れないでおきます。)

    2) 将来の所得税の姿

    定額減税を今後も有効だと継続しても、その分を国債発行でカバーしても問題解決にはならず、消費税増税をするとすれば、270万円以下の人にとっては、減税なしで消費税が増えるだけ。低所得者層に対して増税をもたらすことになると思うので、定額減税は一時的・暫定的の措置に止めるべきと思います。

    抜本策としては、所得税の103万円の壁を取り払うことだと思います。103万円の根拠は給与所得控除の65万円(所得税法28条3項一号)と基礎控除38万円(所得税法86条)の合計であり、年間給与額が103万円以下だと、所得税がかからない。従い、サラリーマンの奥さんがパートで働く際には、103万円が実質的に上限金額となり、結果として低賃金労働力の供給源となっている。

    その結果が、労働市場に対して低賃金労働を供給し、一般的労働市場の賃金水準を低めているだけではなく、結婚・退職した女性が通常の賃金を得ることができる職場への再就職復帰への障害にもなっている。あるいは、結婚の高年齢化や、少子化、未婚率の上昇といったことにも繋がっていると思います。

    これらのことは、所得税のみがその原因ではありませんが、所得税の制度は社会の発展に寄与し、人々を幸福にする方向に動かすような構造であるべきです。しかし、日本の所得税はそうではない。日本の社会は、農民社会から、男が働き女が家事、そして現代と発展してきたが、所得税は未だに共働きを冷遇する制度になっていると考えます。(あるいは、本来は短時間少額労働者に対する優遇であるはずが、その優遇策を逆に企業が利用して変なことになっているのでしょうか?)

    3) 参考例

    外国では、どうなっているかと少しだけ参考例を記載します。

    A 米国

    独身、夫婦個別、夫婦合算、扶養義務独身の4種類で、結婚している場合は、夫婦個別か合算かを選択することが可能です。日本は、年末調整があるが、米国には年末調整がなく、納税義務者は全員が申告することになるので、夫婦合算による申告・納税が可能と言えます。所得税は累進税率ですから、2007年の税率表では夫婦個別の場合$31,850以上が25%となるのに対して、夫婦合算であれば$63,700以上になります。税の面では、夫婦合算申告が有利となります。

    B フランス

    米国よりもっと徹底していると言えます。所得は世帯合算で、これを係数で割り算して、その結果をその同じ係数でかけ算します。独身は係数1、結婚していれば2で、子供1人につき0.5増えます。従い、子供二人であれば、3.0です。例えば、独身では14,000ユーロ以上なら25%ですが、子供二人の場合は25%以上が適用されるのは42,000ユーロ以上となります。

    財務省のWebにもこのような資料がありました。ベルギーも興味ある制度で、扶養控除が子供が増えれば一人あたりの金額が増加します。

    4) 年金や健康保険

    所得税のみではなく、年金と健康保険も同時に考える必要があるでしょうね。夫の扶養家族であり、103万円以下の給与収入で、1日の労働時間が一般社員の3/4以下であれば、健康保険が夫の被保険者として利用でき、年金が3号被保険者となる。従い、負担をしなくて便益が享受できる。一方、年金・健康保険が適用されると、健保と年金の合計で保険料が給与所得控除を差し引く前の給与総額の12%以上(協会けんぽの場合)負担することとなります。

    働く人が意欲を持って働ける制度。働く人を応援する制度を作るべきだと思います。

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    2008年10月14日 (火)

    自社株購入は賢いのかバカなのか

    本日(10月14日)、この官報号外により、政府は自社株購入緩和の内閣府令第61号を出しました。官報号外を出してまでの素早い対応です。

    昨日の日経の記事は、この金融庁、自社株買い規制の緩和策発表 14日から実施です。金融庁の14日の発表はこちらにあり、内閣府令第61号である有価証券の取引等の規制に関する内閣府令の特例に関する内閣府令はこちらからダウンロードできます。

    変更点は、有価証券取引等規制府令の17条であり、取引所の取引終了時刻の直前30分間の規制の除外と100分の100への変更で、本年12月31日までの適用です。続きを読むに、17条を入れておきます。

    (1) 制限なく自社株を購入できるか

    当然"NO"であります。まず第1点は、会社法による自社株購入の規制です。会社法156条により自社株購入は、株主総会の決議が必要です。但し、定款に定めがあれば、上場会社は取締役会決議で自社株購入が可能です。

    そして、会社法461条により、分配可能額を超えて自社株購入ができません。

    「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」は、取引所の正常な運営確保のためのルールであり、今回はこれを少し緩和するのです。従い、月間平均売買単位数の規制は残っておりますし、他の規制についても同様です。

    (2) 自社株購入は意味があるか

    自社株の株価を上げることができれば、増資し資本充実を計る際に、同じ株数の増資に対して、多額の資金を得られるというメリットがあります。取締役にとっては、高い株価の方が高い役員報酬を提案しやすくなる。

    しかし、無理に高く買っても、その後に値下がりすれば、何もならないはずです。すなわち、200で買っても、その後100に値下がりするとどうなるかですが、100の株価で増資すれば100しか資金が調達できないから、倍の株式数の増資が必要となり、株の希釈化を生んでしまう。その結果、更に株価が下がる恐れもあります。

    そもそも自社株を買うと言っても対価を払うのですから、キャッシュは社外に流出します。自社株購入資金を借入金で調達すれば、資金コストは発生することとなります。最も、購入した自社株に対して配当金負担がなくなるから借入コストと配当金負担の比較です。

    例えば、1000円の株価に対して年間30円配当をしていれば、3%であり、配当は税引後利益からで、借入金利は税前なので一見有利です。しかし、有利且つ安定した借入をするには、資本・負債比率や会社の業績もあったりするので一概には言えません。やはり総合判断が必要です。

    言えることは、自社株が安いと判断できるのであれば購入したらよい。しかし、無理に買いを建てて、実力以上に株価上昇した自社株を購入してしまっては、バカみたい。当たり前のことですが、今回の規制緩和は基本構造に変化を与えるものではなく、実質の状態・環境は以前と同じです。経営者の皆様、賢く立ち回ってください。自社の本業を発展させて社会貢献することが最善の策です。

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    2008年10月13日 (月)

    アーバンコーポレイションに対する課徴金納付命令に係る審判手続開始決定

    金融庁は、アーバンコーポレイションに対する課徴金納付命令に係る審判手続の開始を決定しました。

    日経 10月10日 アーバンに課徴金命令、金融庁発動へ 虚偽記載で150万円

    金融庁 10月10日 株式会社アーバンコーポレイションに対する課徴金納付命令に係る審判手続開始の決定について

    アーバンコーポレーションの本件の関連は、8月20日に書いたアーバンコーポレーションとBNPパリバのデリバティブ取引が私なりに、全体像を書いたつもりで、その後9月17日に東証のアーバンについての決定や10月 6日にアーバンコーポレイション集団訴訟準備中を書いていることから、金融庁の決定に関連して、雑感を書きます。(エラそうなことを、書いていると思われるかも知れませんが、あくまでも雑感ですので、読み流してください。)

    1) 課徴金の額

    150万円は、少なすぎる気もしますが、課徴金を命じるとした金融証券取引法の172条の2は本年6月13日公布の平成20年法律第65号で改正されています。しかし、改正が未施行であり、改正の適用があれば、3百万円でした。なお、この平成20年法律第65号により改正を盛り込んだ172条の2(改正後は172条の4に条番号が変更)の条文を作成しましたので、参考として続きを読むに入れました。

    平成20年法律第65号(金融商品取引法等の一部を改正する法律)の施行日は、基本は附則第1条により6ヶ月以内ですが、172条の2は附則第8条により施行日以後に開始する事業年度からの適用と了解します。

    計算根拠は、アーバンコーポレーションが臨時報告書を提出した日が帰属する事業年度の平均株価を347.13円とし、これに発行株式数227,071,645株を掛けた788億2338万円の3/100,000である2,364,690円を算出し、これが3百万円以下であることから、3百万円を適用し、臨時報告書であることから第2項により1/2にしたと了解します。

    Urbancorpchart_2

    参考まで、Yahoo株価チャートを上に掲げましたが、改正後であっても時価総額の10万分の6とか3です。正常な株式市場の維持に正確な情報開示が欠かせないと考えると、故意にされた虚偽の記載に対する課徴金としては、改正後の数字であっても、私は低すぎる気がするのですが、いかがでしょうか?

    10月6日に書いた蛇の目ミシン株主代表訴訟583億円とは余りにも金額が違うものですから。もっとも、蛇の目ミシンは課徴金ではありませんが。

    2) 刑事罰

    金商法197条の2第6号に該当し、5年以下の懲役若しくは5百万円以下の罰金もしくは併科という刑事罰が、これから問題になるのではと思いました。刑事罰が万能ではないのですが、172条の2による課徴金が課されるなら、197条の2もあるのだろうと思いました。

    3) 情報開示

    市場の健全な発展・発達は重要と考えます。情報開示は、そのために必要な、最重要項目であり、情報開示に問題があったアーバンコーポレーションのケースは問題がありすぎた。一般投資家を欺すような情報を開示することは、許されないと言うのが私の考えです。

    toshiさんは、10月11日のブログで、平成20年法律第65号で改正による172条の2における追加である「記載すべき重要な事項の記載が欠けている」という部分が未施行であることから、「違法認定」において、どうしてもひっかかると述べておられました。

    私の場合は、弁護士ではないので、気楽に述べますと、次の通りです。

    臨時計算書の開示情報は、企業内容等の開示に関する内閣府令19条に規定されている「へ 新規発行による手取金の額及び使途」は内閣府令で定められた事項であり、改正前の条文でも、その範囲に入る。なお、アーバンコーポレーションの6月26日の臨時報告書の当該部分は以下でした。

    本件取引により調達する資金につきましては、財務基盤の安定性確保に向けた短期借入金を始めとする債務の返済に使用する予定です。

    アーバンコーポレーションも、8月13日に訂正臨時報告書を提出して、次のように訂正している。

    本件取引により調達する資金につきましては、割当先との間で締結するスワップ契約に基づく割当先への支払に一旦充当し、同スワップ契約に基づく受領金を財務基盤の安定性確保に向けた短期借入金を始めとする債務の返済に使用する予定です。

    続きを読む "アーバンコーポレイションに対する課徴金納付命令に係る審判手続開始決定"

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    2008年10月11日 (土)

    ニューシティ・レジデンス破綻から感じるJREITの不安(補足)

    ニューシティ・レジデンス破綻から感じるJREITの不安について、不十分な点がありましたので、補足します。

    1) 減価償却費と借入金返済の関係

    利益=収入 ー 費用 ー 減価償却費
    キャッシュフロー=収入 ー 費用 ー 借入金返済額

    と書きましたが、減価償却費も費用であるので、厳密には次の式が正しいことになります。

    利益=収入 ー 費用
    キャッシュフロー=収入 ー (費用 ー 減価償却費) + 借入金借入額 - 借入金返済額

    あるいは次のようにも表せます。

    キャッシュフロー=(収入 + 借入金借入額 ー 借入金返済額) ー (費用 ー 減価償却費)

    企業にとって、借入や返済に伴うキャッシュフローは損益の額に影響を与えない。一方、減価償却は損益では費用ですが、キャッシュフローは伴わない。固定資産の取得についても、同様であり、キャッシュフローと損益は事業年度毎の計算では、一致をしない。

    但し、全額を借入金で調達しているのではなく、出資と借入金の組合せであり、NCR投資法人の場合はほぼ50:50でした。もし、借入金ゼロでやっていれば、安全で常に100%配当も原則可能です。一方、低金利で借入金が調達できれば、レバレッジを効かせて、投資主に対する配当を高めることができます。

    2) NCR投資法人の場合

    具体的にNCR投資法人の場合を見てみます。なお、NCR投資法人の有価証券報告書からの数字ですが、池袋のタワーマンションは含まれていません。また、最新データは2008年2月までです。

    Jreitncr0810_5  

    上記の表で想定元本返済額については、今後の返済期間を30年と想定して、有利子負債額を30で割り算し、それを6月にするため更に12/6を掛けて2倍にしました。

    配当可能なキャッシュとは、借入等が全くなかった場合に手元に残るキャッシュであり、新規資産購入等の投資をすればが手元からその分のキャッシュが少なくなるし、借りれや新規出資を受ければ、増加することとなります。純利益額と同額の配当を実施し、法人税を払わないようにしていたのですから、結局は表の最下欄の金額のキャッシュを新規借入と新規出資で調達し、ネズミ講的に配当をしていたこととなります。

    資金繰りは利益100%配当の実施のために、常に火の車であった訳で、NCR投資法人の場合は、池袋のタワーマンションが倒産のトリガーになったのだと思います。

    3) JREITの今後

    常に債権者に対する債務である借入金の返済が優先しますが、NCR投資法人については、民事再生法による再建が認可されたと考えた場合、新規借入は困難と予想します。すなわち、90%超の配当による再建案は実現困難と思います。すなわち、法人税を支払うこととなり、配当は激減すると思います。また、賃貸マンションの管理・保守を節約したら、賃貸料が減少するわけで、費用の節約余地も少ないと想像します。

    唯一は、不動産市況が回復し、高い賃料を取れる時が来れば、再び法人税がかからないメリットを生かしての高いリターンが取れるのかも知れません。このことに関して、ファンダメンタルな世界では、人口減少社会、高齢化社会により需要減があるかも知れないことと、今の国債の乱発が将来の高インフレとなり、名目貨幣価値に対して資産価値が上昇する可能性だと思います。

    90%超の配当は、株式会社ではあり得ない世界です。何故なら、株式会社は配当の都度通常は利益準備金を配当額の10%計上しなければならないからです。(会社法445条)そもそも考え方が異なる株式会社と比較することに無理はありますが、株式会社の場合は、利益が計上できても、全額を配当とせず、次の事業のための投資資金に回したり、あるいは不況の際の安全弁として手元に資金を残したりします。

    JREITは90%超の配当による節税を目指すこととなり、不況に対して、市況の悪化に対して、弱い体質を持っていることを認識し、JREITの投資をすべきであるというのが、私の考えです。それと、格付け情報に頼ってはいけません。自分で、会社の財務状態を調査し、特にキャッシュフロー計算書は十分に読みこなすべきと考えます。

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    ニューシティ・レジデンス破綻から感じるJREITの不安

    不動産投資信託(REIT)のニューシティ・レジデンス投資法人(NCR投資法人)が、東京地裁に民事再生法の適用を申請しました。

    日経 10月10日 REIT初の破綻 ニューシティ、負債1123億円

    10月9日発表 民事再生手続開始の申し立てに関するお知らせ

    REITは、賃貸収入がその収入源の中核となっており、優良資産に投資をしていることから、安定した配当が得られ、倒産リスクは低いと見られていたと理解します。しかし、JREITは、その構造上安心できるとは限らないと思いました。

    1) JREITとは?

    JREITとは、「投資信託及び投資法人に関する法律(昭和26年6月4日法律第198号)」により設立された投資法人が不動産に投資し、その賃貸等の運用収益と、売却収益を投資主に配当します。 株式会社ではなく、株式に相当する証券は投資口と呼ばれ、株主総会に相当するのは投資主総会であり、役員は執行役員、監督役員、会計監査人です。

    何故JREITが盛んになったかは、税の利点と投資口の証券市場での上場です。

    2) 税の利点

    投資法人の法人税ほぼ無税

    次の様な条件を満たせば、投資法人は法人税をほとんど払わなくても良いのです。(多数あるので、重要と思う条件のみを記載します。)(租税特別措置法67条の15 投資法人に係る課税の特例)

    ・ 発行済投資口が五十人以上の者によつて所有されているもの

    ・ 同族会社に該当していないこと(上位3社の株主で50%以下の保有であること)

    ・ 他の法人の50%以上を保有する出資をしていないこと

    ・ 配当可能所得の金額の90%を超えて配当をしていること

    上記を満たしていても、最後の条件で、例えば95%を配当していれば、5%が投資法人に残り、これについては30%の税率で1.5%の少額の法人税がかかります。

    法人が投資主の場合の法人投資主への課税

    投資法人から受け取る配当金は税引き前の利益ですから、単純に益金の扱いとなり、受取配当金益金不算入は適用されません。(租税特別措置法67条の15第5項)しかし、もともと受取配当金益金不算入(法人税法23条)は、25%以上の株式保有でないと50%しか益金不算入とならないのであり、税引き前利益が益金となり課税されることについて損は全くありません。

    個人が投資主の場合の個人投資主への課税

    上場REITは、上場株式と全く同じ扱いです。すなわち、配当についても現行では所得税7%と地方税3%の合計10%で完了です。(租税特別措置法8条の5)但し、5%以上を保有すると総合課税。

    売却についても現行では所得税7%と地方税3%の合計10%で完了です。(租税特別措置法37条の11)

    なお、2009年4月から、15%の所得税と5%の地方税になる予定ですが、証券税制がそもそも優遇税制であるとするなら、それ以上の優遇がJREITには存在することとなります。

    3) NCR投資法人破綻の理由

    多くのブログで言われているように、やはり、この2007年12月13日の資産の取得で発表している池袋徒歩2分の32階建て、総戸数404戸の大型タワーマンション277億円の取得と考えます。NCR投資法人が277億円で取得と発表し、その4ページ、19ページで、鑑定価格257億円と言っているのですから、これって正常なのかと思います。

    20億円も高く買う。誰から買ったかというと、16ページに建築主池袋ティー・エム合同会社とあります。よく分かりませんが、この日経BPネットの記事によれば、このオーストラリアのMacquarieも関係しているようです。

    この広告には、タワーマンションの竣工は2007年12月と書いてあります。すなわち、完成時にNCR投資法人が購入したと言うわけですが、着工したのは、2年以上前、基本構想や土地取得を初め実質プロジェクトとして動き始めたのは相当前と思います。多分、NCR投資法人が購入を約束したのは、相当前に遡るのではと想像します。すなわち、その時点で、277億円が相場であったころです。

    Macquarieも、無茶苦茶なリスクをとっていないと思うのです。一方、Macquarieは誰に話をしたかですが、NCR投資法人の管理会社であるCB Richard Ellis Group, Inc. にだと思います。

    CB Richard Ellis Group, Inc.は、相場を読み違えた。結果、277億円をNCR投資法人は資金調達できなかった。このように想像します。

    4) JREITの構造問題

    2)で書いたJREITの税の利点が崩れるとどうなるかですが、例えば、90%を超える配当を支払うキャッシュを用意できないとなると、

    「投資法人は、法人税を払う → 配当額が減少する」 となりますが、更に、

    法人投資主は、租税特別措置法67条の15第5項が適用されるので、税引後利益にも拘わらず益金不算入にはならない。

    個人投資主は、法人税相当額の配当減少となる。

    このため、JREIT投資法人は90%超を配当しようとする。NCR投資法人の場合は100%でしてた。

    利益とキャッシュフローの違いは、次のように減価償却費と借入金返済額の違いです。

    利益=収入 ー 費用 ー 減価償却費

    キャッシュフロー=収入 ー 費用 ー 借入金返済額

    減価償却は建物であれば最大は65年です。こんな長期の借入はないのであり、常に借入金返済額の方が大きく、キャッシュフローの方が利益より小さいこととなります。すなわち、利益と同額の配当を支払うためには、借入をしてくるか、新たな投資を受け入れていかねばならない。そのためには、常に新規投資を手がけて、新たな投資を呼び込んで、その投資資金を配当に回す。

    90%超の配当実現のためには、ネズミ講をするしかない。もし、90%が不可能なら、法人税を支払うから、もっと惨めです。これば、JREITの構造的欠陥ではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

    5) 日本版不動産不況

    サブプライムは対岸の火事だと思っていたら、自分の方にも負けないような火種を持っていたのではないかとの気分です。JREIT破綻は、NCR投資法人に止まらないことになります。

    例えば、これですが、2008年9月17日の格付け情報です。NCR投資法人をA+としています。格付け情報が意味をなさなかったサブプライムと似ています。

    私の懸念が当たっているのか、間違っているのか、しばらく様子を見てみます。

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    2008年10月 9日 (木)

    大きな政府へ転換か?

    7日の米大統領選挙のテレビ討論会で、共和党のマケイン候補が住宅ローンの買い取りを主張しました。(実際の発言は、討論会の冒頭近くの2分58秒からのマケイン候補による発言と思いますので、その発言を続きを読むに入れておきます。)

    日経 10月8日 米大統領選討論会 オバマ氏「減税」マケイン氏「ローン買取」

    金額としては、3000億ドル(約30兆円)であり、現段階では先週成立した金融安定化法の枠組みを使い、その7000億ドル(約70兆円)のうち数と理解します。

    Reuter Oct 8 WRAPUP 4-McCain pushes $300 billion mortgage plan

    WSJ OCTOBER 9 McCain Reshuffles Rescue Deal

    今回の米国大統領選では、オバマ候補の主張もマケイン候補の主張も、似通っている部分が相当多い気がします。両候補とも、基本的には減税であるが、住宅ローン買取にしても、エネルギー関係にしても、小さな政府路線から少し変わってきたのではとの気がします。必ずしも、大きな政府ではないにしろ、大規模な予算を伴う政策を実施するには、小さな政府では、困難が伴ってしまう。適正規模と言ったら、逃げに過ぎないことになりますが、これからの世界的な激動の時代を乗り越え、その中で成功し、国民の生活を守り切るには、単純に「小さな政府」や「民にできることは民に」ではなく、社会が、時代が必要とする政府をつくって行かなくてはならないと思います。

    蛇足

    マケイン候補の住宅ローン買取案も具体案は、大変だろうなと思います。下手をすると、変なことになるなと思ったもので。(当然、案は練られて、対策が講じられると思います。)

    ・ 単純にローンを買取しても融資している金融業の救済となり、住人の救済にはならず。
    ・ まじめに返済している人は、救済の対象ではなく、返済不履行者が救済されるなら、モラルハザードを生まないのか?

    日本でも、衆議院選挙が近いはずです。減税とバラマキの双方が盛り込まれたマニフェストが出てくるのだろうな。実現不可能ではないにしろ、無理矢理実施すると弊害がいっぱい出てくると考えられる様な案。

    そう言えば、米大統領選でも金融安定化法の審議でも、Tax Payerなる言葉が頻繁に出てきます。日本では納税者なる言葉は、税務署ぐらいでしか聞かなかったりして。逆に、埋蔵金なる言葉が、出てきたりします。

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    2008年10月 8日 (水)

    TV報道の素材負け? 人工呼吸器の取り外し

    光市事件についてBPOの意見書2008年4月15日の意見書が調査した33のテレビ番組すべてが、不適切な点があり、素材負けをしていると書かれていると、10月2日のブログ橋下弁護士(大阪府知事)に800万円の支払いを命じる判決のなかで書きました。やはりこれも、その類かなと思いました。新聞3社(但し、日経は共同の文章です。)と共同およびNHKの報道は以下でした。

    読売千葉 10月8日 「呼吸器外し」苦悩の審議 鴨川・亀田総合病院 「委員会、荷重すぎる」
    朝日千葉 10月8日 呼吸器外し要望「意思疎通に人らしさ」
    日経 10月7日 「呼吸器外す意思尊重を」 千葉の総合病院、倫理委が提言
    共同 10月7日 呼吸器外しの意思尊重を 倫理委が異例の提言
    NHK 10月7日 呼吸器外し 患者の意向尊重も
    (NHKについては、リンク切れが早いので続きを読むにも入れておきます。)

    (1) 人工呼吸器を医師が外すと殺人となるか?

    明確に述べているのはNHKで、新聞各社は「刑事責任の可能性」というような言葉で表現されていますが、NHKは「日本では人工呼吸器を外す行為は認められず」と言っていますので、この断定については驚きです。

    報道されている過去の事例としては、富山県の射水市民病院でのこと、旭川の北海道立羽幌病院でのこと、がありますが、いずれも刑事事件として起訴されていないと理解します。

    共同 2008年7月16日 富山呼吸器外し立件困難 射水市民病院6人死亡で
    共同 2006年4月6日 呼吸器外しで起訴困難 羽幌病院事件で旭川地検

    本人からの書面等による確認があり、病院が倫理委員会をつくり、実際に人工呼吸器を取り外す際にも、複数の医師で確認しあって実行するなら、刑事罰に医師が問われることはないと私は確信します。それでも、人工呼吸器を取り外す行為をされる医師の方は、苦い医療行為をする気持ちになられると思います。

    医師の行為を刑事罰に相当すると断定する権限は、NHKにはないはずです。逆に、正確に報道する義務を有しているはずです。

    (2) 市民による議論

    国民・市民による議論が必要です。命について厚生労働省が決定することはおかしい。議員が決定することはおかしい。法律より前に、一定のルールについて社会的コンセンサスを作ることが重要だと思います。思いつくままに、問題提起を書いみます。

    A. 人工呼吸器

    人工呼吸器をなぜ使用するかと言えば、使わなかったら、死亡したからであり、人工呼吸器により助かった人も多いと思います。では、人工呼吸器を使用したが、回復が図れていない場合は、何時、どの様な条件の場合に人工呼吸器を外せるか?外すことは許されないのか?人工呼吸器を外すと直ちに死亡するとは限らないものの、死に向かって進む可能性が強いと思います。

    B. 人の意志

    亀田総合病院により治療されておられるこの方は、ALS(ここに厚生労働省の簡単な説明があります。)であり、筋肉がほとんど動かないが、意識も頭脳活動も現時点で全く問題はないし、生きる意志も希望もお持ちと理解します。報道からすれば、「今後、万一意思疎通ができなくなった時は人工呼吸器を外してほしい。」との希望です。植物状態になったなら自分は人工呼吸に依存しての生ではなく、自然状態の生でおいて欲しい。その結果、死に至っても、意志疎通もできない中、人工呼吸器により生を保ち、苦しみを継続したくないとの意志と了解します。

    「植物状態=脳死」ではありません。しかし、死をまねくことになる可能性が高いと言えます。インフォームドコンセントとは、自分の治療方針を自分自身が決定することです。全てを承知で、自分自身が選択した治療方針は、崇高のものとして誰もが敬意を払わねばならないように思います。

    C. 医療の崩壊

    この問題は、人工呼吸器を初めから使用しなかったならば、発生しないのです。本来は、人工呼吸器を使って助かる人がいるなら、積極的に助けるべきです。しかし、トラブルを避けることが優先し、人工呼吸器は極力使用しないとなったなら、本末転倒となります。医療とは人々のために存在する。社会全体が「君子危うきに近寄らず」になってしまっていることが最近多いのではないのかなと感じます。そうなると、社会制度が崩壊してしまうのではないか。社会制度を守るのは、厚生労働省でも国会でもなく、その社会の人々です。

    (3) 参考

    参考となる読み物として、李 啓充 医師が、医学書院の週刊医学界新聞に連載をされている「アメリカ医療の光と影」で、2006年9月18日から2007年5月21日まで16回にわたって米国の「延命治療の中止を巡って」として書いておられる記事があり、ネットで読むことができます。以下が、その記事であり、実例を知ることにより多くのことが学べます。

    延命治療の中止を巡って(1) 殺人罪
    延命治療の中止を巡って(2) 遷延性植物状態
    延命治療の中止を巡って(3)  異例の裁判
    延命治療の中止を巡って(4) 論点
    延命治療の中止を巡って(5) 歴史的判決(1)
    延命治療の中止を巡って(6) 歴史的判決(2)
    延命治療の中止を巡って(7) 母の願い(1)
    延命治療の中止を巡って(8) 母の願い(2)
    延命治療の中止を巡って(9) 母の願い(3)
    延命治療の中止を巡って(10)  クルーザン家の悲劇(1)
    延命治療の中止を巡って(11)  クルーザン家の悲劇(2)
    延命治療の中止を巡って(12) クルーザン家の悲劇(3)
    延命治療の中止を巡って(13)  クルーザン家の悲劇(4)
    延命治療の中止を巡って(14)  終末期医療における患者の権利
    延命治療の中止を巡って(15)  パターナリズムの呪縛
    延命治療の中止を巡って(16)  殺人罪に問うことの愚かさ

    また、このブログ元検弁護士のつぶやき 人工呼吸器とり外し問題で、多くの議論がされています。ずいぶん参考にしました。

    (4) 蛇足

    李 啓充 医師が、「アメリカ医療の光と影」の2008年9月29日で、米国の医療保険制度について書いておられます。これも、今の日本が参考とすべきことと思います。ここにあります。

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    2008年10月 7日 (火)

    流動性高いマーケット

    7月24日に石油価格の値下がり始まったか?を書きましたが、あの頃からだったでしょうか、市場の流動性が高くなり、投資リスクが高くなり、下手に手を出すと火傷をしそうだと感じています。

    色々なブログで勉強をさせていただいていますが、その中で、これはと思ったブログの記事について。

    1) 一寸の虫に五寸釘

    本日は、手っ取り早い金儲けの陥穽を書いておられ、証拠金の100倍の金額のFXをやりますという100倍レバレッジのこのFXの宣伝を金儲けの陥穽として紹介されておられました。このすごさ、多分プロかセミプロでなくとも、少しでも外国為替に携わったことがある方は、分かると思いますが、そんなリスク・・・、うまくいけばよいけど・・・、失敗したら・・・、多分失敗するだろうな・・・てな感じではないかと思います。

    先ずは、この7月以降の外国為替レートのチャートを書いてみました。対象とした外貨は、米ドル(USD)、ユーロ(EUR)、英ポンド(GBP)、人民元(CNY)、インド・ルピー(INR)、ブラジル・レアル(BRL)、ロシア・ルーブル(RUB)、豪ドル(AUD)、カナダ・ドル(CAD)、韓国ウォン(KRW)です。KRWは100KRWに対しての円貨としています。

    Forex200810a

    全般的に各通貨とも円に対して下がっていますが、見にくいので7月1日を100としてその後の為替の動きを表したのが、次のチャートです。

    Forex200810b

    一番落ち込みが激しいのがBRLで、次がAUD、そして下がり幅が小さかったのが、CNYとUSDでした。このチャートを更に9月1日を100として書いたのが、次のチャートです。

    Forex200810c

    変動の様子は、3月間も1月間も同じように思え、BRLは76になり、変動が小さかった人民元CNYや米ドルUSDでも95.9と95.6であり4%以上下がっています。円資金による外貨投資(円キャリー)をしている人がいたら、全員損をしていると思います。

    上のチャートの為替レートはIMFのSDRレートから作成したのですが、実際のFX取引においては、為替の手数料が入ってきますし、レバレッジ100倍と言っても、外国為替のポジションを作るために資金を借りて、投資通貨で運用してとしますので、借入と運用の金利差もあるので、手数料が相当発生します。

    為替は、理論的にはマクロ経済等で予測できるのでしょうが、実際にはプロでも予測不可能な世界です。FX取引をするのであれば、ギャンブルだと思って、取引をすることだと思います。例えば、レバレッジなしでFXをすることも可能ですが、BRLのように75になってしまうこともあることを認識する必要があります。

    NHKが昨日クローズアップ現代で「人気金融商品の落とし穴」としてFX取引を取り上げていましたが、「金融庁が悪い」みたいな嫌味なメッセージがあるように感じてしまいました。報道機関として、金融商品の危険性や留意点のようなものを報道すべきと思うのですが。

    2) 会計ニュースコレクター

    本日、「リーマンショック収まらず リスクばらまきの多大なツケ」として、週刊ダイヤモンド2008年10月11日号にある、リーマンブラザーズ絡みの金融商品(具体的にはクレジット・リンク・ローン)でみずほ信託銀行の100億円損失に絡んで書いておられます。

    クレジット・リンク・ローンとは、デリバティブと思えばよいのですが、デリバティブとはなんぞやになります。極端な話として、投資銀行のようなデリバティブ屋さんに、私は「XXXXXというデリバティブが欲しい。」と言えば、「ハイ、これでいかがですか?○○円です。」と作ってくれます。社債とは、どこかの会社が発行した債券ですが、デリバティブだったら、実際には存在しない債券と同等の金融商品が作れます。ハイリスク・ハイリターンやローリスク・ローリターンの微妙な組合せや、償還期間も好きなように設定できます。

    報道は金融危機はサブプライム問題で住宅ローンと単純化して言っていることが多いが、デリバティブに微妙に組み込まれたりしていて、作った人間でさえ、よく分かっていないのではと思います。作った奴らは、完成してディールができれば、報酬を入手して終わりですから。投資家は、そうではなく、最後までつきあわなくてはならないが、納得ずくで買っているから仕方ありません。

    なお、ブログで国民生活センターの注意すべきハイリスクな投資取引・投資関連商品を紹介されておられます。さすが、独立行政法人国民生活センターです、リスクの高い金融商品について警告されています。NHKとは違う。偉いと思います。

    FXやデリバティブが悪いのかというと、グローバリゼーションの中、規制することは不可能です。すなわち、規制しようとしても、基本的に抜け道が無限に存在するような世界だし、結局は機関投資家ではない一般投資家に販売するときには、リスクの存在を十分に説明することで対処するしかないと私は思います。

    どの様な投資も、流動性が高くなっていると感じます。十分気をつけてください。最も、皆が投資の手じまいをして、キャッシュを預金に移したら、市場はいよいよ暴落する可能性もありますが。

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    2008年10月 6日 (月)

    アーバンコーポレイション集団訴訟準備中

    山口弁護士のブログで知りました。8月20日にアーバンコーポレーションとBNPパリバのデリバティブ取引を書いていることから、少し書きます。

    このあおい法律事務所のWebにアーバンコーポレイション集団訴訟手続に関する説明書があります。やはり、準備をされておられのだなと思いました。

    8月20にも私は「東証1部上場会社のするべきことではない」と書きましたが、アーバンコーポレーションは、BNPパリバとのスワップ契約の存在を、民事再生手続き開始の申し立てをした8月13日まで、6月26日から隠して、しかも誤解を生む内容の発表をしていたのだから、金商法24条の5、22条、21条による訴訟はあり得るなと思いました。

    この訴訟も、蛇の目ミシン株主代表訴訟と同じように、裁判で勝って、どうやって金銭を回収するかという大変さが残るだろうなとの懸念も少しは持ちました。でも、9月17日の東証のアーバンについての決定に書いたように、東証は「不適正な開示」と認めたものの対抗手段やペナルティーは取れずといった歯がゆい状態です。このまま置いておくのも、健全な証券市場の発展のためによくないことと感じます。従い、やはり集団訴訟で頑張ってくださいと言いたい。

    集団訴訟は、2008年6月27日以後アーバンコーポレーションの株式を取得し、8月13日後にも保持していた株主により提起されるようで、ヤムを得ない判断だと思いますし、BNPパリバのインサイダー取引や共同不法行為責任についても当面は対象外とすることも息切れするより懸命であると思います。

    しかし、一方で6月26日に正しく情報開示がなされていたなら、自分は売り抜いたのであり、300億円の資金調達に成功したと信じて保有し続けて損をしたという株主もおられると思います。この場合は、延々とした水掛け論が続くでしょうか?「BNPパリバとのディールがなければ、ずっと早く民事再生手続きになっていた。」、「BNPパリバとのディールなしで民事再生手続きの方が健全であった。」・・・・・とか。

    株式投資とは、会社の能力や成績を評価し、経営者の能力や成績を評価して行うものです。でも、会社の経営者の個人的な力や魅力、あるいは会社の人材というのが、表面的な数字よりも重要なのかも知れないと思います。

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    蛇の目ミシン株主代表訴訟583億円

    蛇の目ミシンの元代表取締役社長もしくは副社長を務めた5人(うち2人は旧埼玉銀行出身)に対しての株主代表訴訟において、最高裁は5人による上告を棄却する決定をし、東京高裁における差し戻し審の判決である約583億円の賠償命令が10月2日に確定しました。

    日経 10月2日 蛇の目株主代表訴訟、旧経営陣の583億円賠償が確定

    一人あたり100億円以上になるのですが、支払えるのでしょうか?5人は、オーナー経営者ではなく、サラリーマンであったわけだし、1人100億円以上も支払える資産も持っていないと想像します。代表訴訟ですから、5人が支払う義務を負う相手先は蛇の目ミシンであり、蛇の目ミシンは株主のために5人から受けた損害について判決を元に金銭で回復する義務を有しています。蛇の目ミシンのプレスリリースを見てみます。

    蛇の目ミシン 2008年10月03日 旧経営陣に対する株主代表訴訟に関するお知らせ

    損害賠償金の回収については弁護団と協力して行う予定ですが、回収可能金額、さらにはこの旧経営陣に対する賠償命令の確定による当社の収益への影響は不明です。」と言っておられます。

    事件は、記事にある仕手集団「光進」の小谷光浩元代表に蛇の目ミシンの株を買われた。その結果、小谷から要求あった蛇の目ミシンの取締役への就任を受け入れ、さらに続く小谷からの巧妙な脅かしに動かされて、深みに入っていく決定を5人が重ねてしまった。

    この裁判は1審、2審は忠実義務,善管注意義務に違反すると認めたものの、判断については無理からぬところがあり、過失があるということはできず、損害賠償の責任を負わないとしました。

    最高裁まで争うこととなり、最高裁は「警察に届け出るなどの適切な対応をすることが期待できないような状況にあったということはできず、過失を否定することはできない。」として東京高等裁判所に差し戻す判決を2006年4月10日に出しました。この最高裁判決文に「証券取引所に上場され,自由に取引されている株式について,暴力団関係者等会社にとって好ましくないと判断される者がこれを取得して株主となることを阻止することはできないのであるから,会社経営者としては,そのような株主から,株主の地位を濫用した不当な要求がされた場合には,法令に従った適切な対応をすべき義務を有するものというべきである。」とあります。上場会社の取締役は、そのような義務を負うのが当然であると私も思います。

    差し戻し審である東京高裁の判決は、本年4月23日にあり、約583億6000万円の賠償を命じる判決で、今回の10月3日最高裁の上告棄却決定で確定しました。

    2006年4月10日の最高裁の差し戻し判決はここ (全文)にあります。

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    米大手銀行間のワコビアをめぐるシティvsウェルズ・ファーゴ問題は地域分割で手打ちか?

    米国の金融危機をめぐる色々な出来事は、猫の目の動きより激しいと思います。ワコビアとシティとウェルズ・ファーゴに関する出来事を見ていると、「さすが米国だ、活気がある。」と思ってしまいました。

    1) これまでの動き

    ワコビアの合併、身売りの報道がありました。

    日経 9月20日 米モルガン・スタンレー、ワコビアと合併交渉 米紙報道
    日経 9月27日 米銀ワコビアが身売り検討、3行が買収に関心 米メディア報道

    その中で、一旦はシティと合意が成立します。

    日経 9月29日 シティのワコビア買収、政府介入で破綻処理回避

    ところが、ウェルズ・ファーゴが逆転します。

    日経 10月3日 米銀大手ワコビア、ウェルズ・ファーゴが買収 1.6兆円
    日経 10月3日 「公的負担なし」で逆転 ワコビア、ウェルズが買収

    しかし、シティは9月29日の合意に違反するとして、裁判所にシティとの独占交渉を訴えました。

    日経 10月5日 ワコビア買収、独占交渉権を延長 米シティ「裁判所が容認」

    2) 複雑な経緯

    ワコビアとシティは、合意したにもかかわらず、何故ウェルズ・ファーゴの逆転があったかですが、シティとは22億ドルだったのが、ウェルズ・ファーゴからは150億ドルで話が来たからです。そして、シティとは22億ドルが合意事項ではなく、交渉することが合意事項であったのです。

    交渉中に他社と接触することまで禁じていたのか、禁じることが可能であるのか、又禁じていたとしても、その違反に対してシティが対抗措置として有効な手段があるのか、シティには150億ドル以上の値を付ける以外に方法はないのか。日経の報道で書かれている独占交渉権も、それほど簡単な内容ではなく、非常に複雑です。

    さらに、シティによる買収に関しては連邦預金保険機構(FDIC)が資金融資を実施するとの話がありました。ウェルズ・ファーゴによる買収は、ウェルズ・ファーゴ株式がワコビアの株主に合併比率に従い交付されるだけですから、政府資金やFDIC資金の関与はありません。10月 2日の米上院の金融安定化法案修正案可決 で書いたように、米上院が金融安定化法を可決したのが10月1日です。7000億ドルは、枠の話ですから、これを何時、どのように使うかは、有効に使わねばならないわけで、ワコビア救済は政府資金やFDIC資金の関与なしで終わらせたいところです。

    シティが裁判所に提起し、法廷闘争も始まったのですが、これについても複雑です。例えば、この文書があります。シティとワコビア/ウェルズ・ファーゴは主張が違って当然であり、裁判官にとっても判断が難しい部分が多くあります。裁判所が金融危機を拡大する一因になることは避けたいですし。

    3) ワコビア分割案

    ワコビア分割案を報じたのは、次のWall Street Journalの記事です。

    WSJ OCTOBER 6 Fed Pushes to Resolve Wachovia Deal Dispute

    ワコビアの3,346ある店舗の内、シティが米国北東部と中部/大西洋地域の店舗を、ウェルズ・ファーゴが米国南東部とカリフォルニアの店舗及び資産管理部門や仲介部門を引き継ぐ案が書かれています。そして、連邦預金保険機構(FDIC)が資金融資に応じると。

    FDICは、銀行が保険料を負担しているのであり、連邦政府ではありません。だから、7000億ドルの金融安定化資金に手を付けるわけではありません。そして、ワコビアとシティとウェルズ・ファーゴの3銀行が合意するのであれば、裁判所はもう手を出す必要はありません。

    多分、これで解決に向かうと私は予想します。米国の金融危機回避処理のすごさを感じます。日本だったら、政治家が互いを攻撃しあって、最終的には解決できないというパターンになりはしないかと危惧するものですから。

    4) シティ、ワコビア、ウェルズ・ファーゴ

    3行とも日本のメガ・バンク並あるいはそれ以上の銀行です。参考として、シティ、ワコビア、ウェルズ・ファーゴと日本のメガ・バンクの比較表を掲げておきます。これだけ巨大な銀行ですから、信用不安に陥ったら、恐ろしいことがおきるかも知れないと実感できます。(数字は、各社の上場持株会社の連結貸借対照表からであり、米国3行は2007年12月末、日本3行は2008年3月末です。)

    銀行 シティ ワコビア ウェルズ・ファーゴ 三菱UFJ みずほ 三井住友
    総資産額(十億ドル) 2,188 783 575 1,816 1,498 1,086
    純資産額(十億ドル) 114 77 48 83 38 35

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    朝日新聞の公貧社会 相続税

    朝日新聞が「相続税減らしに走る富裕層」と書いていましたので、引き続き相続税について書いてみます。

    1) 相続税はいくらか?

    とにかく相続税率をグラフにしてみました。

    200810_2 

    1988年(昭和63年)以後3回にわたって税率が引き下げられました。(1987年(昭和62年)以前は、更に高かった。)最高税率は、2003年から50%に引き下げられました。

    グラフの左下はゼロに張り付いていますが、これは配偶者と子供2人が相続人であるとして、基礎控除5千万円と相続人1人あたりの基礎控除1千万円が適用され、基礎控除で8千万円を受けられるとしてグラフを書いたからです。(1988年等は、基礎控除の額が少し小さいので、微妙にグラフが左に寄っています。)

    実際の相続税額の計算の基となる課税価格は、不動産であれば路線価格をベースに計算したりするので、時価より低くなることが多いと思うし、更に小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(租税特別措置法69条の4)が適用され80%減額されたりするので、平均的な財産しかない人はほとんど掛かってこないか、掛かってもそれほど巨額ではありません。

    従い、1億円の相続財産があり、配偶者と子供2人が相続人で、特例が全く受けられなかった場合は、相続税額の単純計算は250万円となります。しかし、配偶者が半分の5千万円を相続したとすると、配偶者に対する相続税額の軽減(相続税法19条の2)が受けられ、子供2人が各62.5万円づつ負担するのみとなります。すなわち合計125万円。

    相続税は国税だけで地方税はありません。性格としては、富裕者税です。

    2) 相続税の課税実態

    200106

    上の表の死亡者数は、厚生労働省の人口動態統計から、相続税のデータは国税庁の統計からです。死亡者数に対して、相続税を納付する人は、4.2%です。上の表の平均相続財産は、課税価格に平均基礎控除額を加算しただけですから、実際はもっと上です。但し、平均なので、巨額の財産を残した人もいる

    17

    上のグラフは、課税価格で書いていることから、1億円程度を加算したのが実態であり、左の端は2億円以下1億円超という感じです。そして、1億円以下に104万件が存在するといった具合です。これを考慮して、書いたのが下のグラフです。

    2008

    ほとんど(95%以上)の人は、子孫に残す財産の額は1億円以下で、相続税を支払わない。やはり富裕者税ですね。

    3) 相続税の性格

    95%以上の人は相続財産が課税価格に達しないのですから、公正な社会を作る。すなわち、格差の固定、貧困の固定をしないことがあげられます。現在の税率は、一番上のグラフの紫線ですから、妥当と感じます。格差拡大に進んでいるようです。1億総中流も、なか悪くはなかったと思います。

    所得税で課税を逃れたら、その分は、財産として残るのであり、相続税のもう一つの性格は、所得税の落ちこぼれを再補足する性格があります。

    4) 朝日の記事の批判

    A 高い相続税

    相続税が1億5千万円とか3億円とか書いていますが、一番上のグラフを見ていただければ分かるように、5億円近い財産やグラフからはみ出た8億円近い財産を相続する場合に、該当します。朝日新聞は、庶民の感覚を失ったのかなと思いました。

    B バブル時の相続税

    バブルで不動産価格が上昇したときは相続税は増えました。例えば、平成3年(1991年)は4兆円近い相続税が納付されたが、2006年は1.2兆円と70%ダウンです。しかし、相続納付割合は6.8%であり、税額ほどは動いていません。平均課税価格が3.15億円でしたから、相続税対象の平均相続財産額は4億円と今より1億円高かった。これに一番上のグラフの一番高い税率である1988年以降の税率が適用でした。バブル時を比較に出しても、あまり参考にならないように思います。

    C 相続税と寄附

    朝日が明確に述べているわけではないが、税率を下げたら寄付金が増加することに単純には繋がらないと思います。本当に、社会のために寄附で貢献したいと思う人なら、単純に相続人に財産を残すのではなく、遺言を書いて、寄附(遺贈)をすると思います。遺贈をしたからと言って、相続人が納付する相続税が増えるわけではないですから。

    もう一つは、相続人が、これほどまで自分は財産が不要だから、相続人の意志で寄附する場合ですが、寄附を行った相手が所得税において寄附金控除を受けることができる先であれば、相続税についても同じように寄付金控除が適用され、結果税率が低くなります。(租税特別措置法70条)

    相続税を納付して、その上で寄附を行うことは、全くの自由です。寄付金と税を結びつける必要は必ずしもないと思います。現状でよいと思います。

    5) 相続税の改正

    相続税は来年3月に大幅改正がなされる予定です。と言うのは、本年5月に「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」という法律が制定されています。施行は10月からで、始まったばかりです。この法律の附則2条が次の条文です。附則に次に制定する法を書いているなんて、滅多にないと思います。

    附則2条 政府は、平成二十年度中に、中小企業における代表者の死亡等に起因する経営の承継に伴い、その事業活動の継続に支障が生じることを防止するため、相続税の課税について必要な措置を講ずるものとする。

    事業承継相続人に対する相続税が80%納税猶予となるとの案と了解します。これをするためには、現状の相続財産全額に対して計算するのではなく、相続人毎に税額を計算する必要があると話を聞きました。その結果、相続税が各個人が相続する財産価格により各人毎に計算することになると理解します。

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    2008年10月 2日 (木)

    米上院の金融安定化法案修正案可決

    次の日経ニュースでは「下院は3日にも修正案を採決する予定だが、・・、法案の行方はなお予断を許さない。」と書いています。私は、修正が盛り込まれて可決すると予想します。何故なら、信用崩壊が生じると損失が大きすぎる。議員さんは、自分の仕事をアピールをしたいのが本質であり、多くの議員は賛成を条件にしての修正に動くであろうと思うからです。

    日経 10月2日 米上院、金融安定化法案修正案を可決

    関連を書き進めます。

    1) 米上院投票結果 賛成74 反対25

    米上院(Senate)の議員(Senator)の数は、1州から各2名がそれぞれの州議会で選出され、米国には50州あるので、総数100人です。(首都ワシントン特別区は、どこの州にも含まれず、州ではないので、上院議員の選出はできません。)

    投票結果は、この米上院の投票結果を見て下さい。議員名に続く括弧は、最初が政党(R:共和党、D:民主党)で、次が選出州名の略号です。マサチュセッツ州民主党のケネディー議員が、脳腫瘍手術のために投票できなかったようです。

    出席した全員が、どう投票したのですが、政党別に区分すると次の通りです。

    政党 賛成 反対 無投票 合計
    共和党 34 15 0 49
    民主党 39 9 1 49
    独立派 1 1 0 2
    合計 74 25 1 100

    ちなみに、大統領候補のオバマ氏、マケイン氏そして民主党副大統領候補のバイデン氏は全員賛成票を投じています。共和党副大統領候補のペイリン氏はアラスカ州知事であり、上院議員でないので投票していません。

    この投票を見て思うのは、米国の政党には、あまり党議拘束というのはないと感じました。議員が自分の信念で行動することを良しとすることに、私は賛成します。二大政党政治を本当に実施するなら、その方が重要である。党議拘束でやるとボス政治や権力闘争が、はびこる気がします。

    2) 米上院が可決した他の法律

    上の日経の記事には、「税制優遇措置などを加え」とあります。このNY Timesの記事には、それ以外に預金保険の上限を10万ドルから25万ドルに引き上げ、医療保険制度の改革方針の盛り込みもあったと書かれています。他にもあると思いますし、このあたりが今後の駆け引きになると思います。

    3) 信用と会計

    現在の米国の金融危機の一端には、サブプライム問題があり、住宅金融を複雑に証券化したCDO(Collateral Debt Obligation)の評価額が下がったことによる損失です。一番の原因は、住宅価格が下がったことですが、そもそも高すぎたバブル状態であれば、下がって当然と言えます。単純な1対1の債権であれば、担保処分による回収額の算出も容易かも知れないが、複数対複数で混じり合ったCDOですから、その評価は相当困難であると私は考えます。

    時価会計の下では、債権、債券や証券と言った金融商品は当然時価で評価しなければならない。そのため、CDOを時価評価し、時価評価に伴う評価損を認識していることによる金融危機であるから、時価評価を一時的に中止すべきであると言うのが、あり得る議論です。例えばこのブルームバーグの記事は、「米証券取引委員会(SEC)に時価会計規定を一時停止する権限を与える修正条項」とも言っています。

    しかし、サブプライム問題やCDOの発達は、時価会計があるから成立したのであり、取得原価主義であれば、そもそもなかったと考えます。すなわち、取得原価主義ではなく、時価で評価されているから、価格下落も反映されるという安心感が、市場規模を拡大したと考えます。従い、時価主義の適用を一時でも停止したなら、時価を反映していない、もしかしたら価値のない債権、債券や証券に投資しているかも知れないとの不安が生じたら更に大きな信用不安を引き起こすと私は考えます。

    4) SECの対応

    議会の影響があってかどうか知りませんが、9月30日にSECは次の解釈指針(Clarification)を発表しました。

    Clarifications on Fair Value Accounting 2008-234

    ロイターと日経をあげておきます。

    ロイター 10月1日 米SEC、時価会計に関するガイダンスを発表
    日経 10月1日 SECとFASB、証券の時価評価を柔軟にする指針を発表

    柔軟化と言うより、適切に運用するための解釈指針との言い方が、良いと思いますが。会計の数字は、ルールにより変化してしまうし、恣意的な解釈が許されても変化する。自然界に存在するルールではなく、人間が作り出したルールですから、新しい事態に対して常に対応できるように発展させて行かなくてはならない。人間が作り出したものには、欠陥があるわけで、欠陥の補正を継続することにより発展があるのだと思います。日本の現状も、同じようなものだなと感じます。

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    橋下弁護士(大阪府知事)に800万円の支払いを命じる判決

    次のニュースです。(広島地裁の判決文が光市事件懲戒請求扇動問題 弁護団広報ページにアップされたので、追記しました。)

    共同 10月2日 光市事件で、橋下知事に賠償命令 弁護団への懲戒呼び掛け

    どのような裁判かは、2007年9月18日の光市事件に関するもう一つの裁判で書いていますので、そちらを見ていただければよいのですが、光市事件の弁護団の弁護士に対する懲戒請求をTV等を通じて橋下は扇動した。その結果、一般市民から多くの懲戒請求が弁護士会に送られた。弁護士会は、懲戒請求に該当する事実は認められず、正当な弁護士活動の範囲を超えていないと懲戒処分をしていません。(参考:東京弁護士会の懲戒しない旨の決定の公表

    光市事件の弁護団(22名)のうちの弁護士4名が、個人として2007年9月3日に広島地裁に橋下徹弁護士に損害賠償を求め損害賠償の民事裁判を提起しました。この民事裁判の判決が本日あったわけです。

    扇動したのは橋下ですが、一方で、そんな扇動の共同行為者はTV局だと思います。TVがなければ、橋下もなかった。

    追記

    広島地裁の判決文が光市事件懲戒請求扇動問題 弁護団広報ページにアップされました。ここからダウンロード可能であり、前半後半があります。

    原告である弁護士4人の主張を全面的に認めた判決と思います。そして、TV番組についても、次のように述べています。(判決文34ページ)

    Photo_2

    BPOの意見書とはこの2008年4月15日の意見書です。

    裁判制度(司法制度)とは、重要です。必死になって、守り、育てていかねばならない制度であると確信します。

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    BHPによるリオ吸収合併

    世界最大級の鉱山会社2社の合併が進むようです。

    BHPのリオ買収、豪当局が容認 「競争阻害せず」

    BHP Billitonの発表はこのWebページの下の方にある”Agree”をクリックすると出てきます。

    ヨーロッパでの承認手続きが残っているようですが、1月には多分おりるのでしょう。

    どのような会社規模かというと、

    会社 BHP Billiton(合併存続) Rio Tinto(合併消滅) Vale do Rio Doce(参考)

    連結売上高

    59,473百万ドル
    (6兆2447億円)

    29,700百万ドル
    (3兆1185億円)

    33,677百万ドル
    (3兆5361億円)

    純利益

    15,390百万ドル
    (1兆6160億円)

    7,312百万ドル
    (7678億円)

    10,403百万ドル
    (1兆0923億円)

    日本の会社の数字を参考に記載すると、トヨタ

    会社 トヨタ 新日鐵

    連結売上高

    26兆2892億円

    4兆8270億円

    純利益

    1兆7179億円

    3550億円

    ここに外務省の「鉄鉱石(鉄鋼)の需給動向とその背景」と題した2008年7月の文書があり、次のような記述があります。

    鉄鉱石の生産は、新興工業国の旺盛な鉄鋼需要を背景として03年から急増し、06年の生産量は前年比12%増の14.8億トン。供給寡占であり、豪州、伯の2か国で世界の総輸出量の63%を占め、3大生産者(ヴァーレ(伯)、BHPビリトン(英・豪)、リオ・ティント(英・豪))が海上貿易量の78%を占めている。

    3大生産者とは上の3社であり、鉄鉱石の年間生産量はBHP 111百万トン、Rio Tinto 145百万トン、Vale 296百万トンです。このUS Geological Surveyの資料によれば、世界の鉄鉱石生産量は1,900百万トンと推定されています。このReuterの記事は、合併に関連して550億ドル(5兆8千億円)の融資が交渉中と書かれています。また、面白いのは、BHPもRio Tintoも英国とオーストラリアに別々の会社が存在し、合同で事業をしているという形です。合併で、どのようになるのでしょうか?

    いずれにせよ大規模鉱山会社の合併で、これからも色々なところで話題になると思います。ところで、日本、韓国、中国の製鉄会社の国境を越えた合併というのもあるのでしょうか?そのような規模のことをして世界と対抗しないと、日本経済は本当に沈没するような懸念も持つのですが。

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