金融資産の時価評価に関連して
金融資産の時価評価や時価会計に関連しての報道が多くなっていますので、私自身の整理の意味もあり、書かせていただきます。
1) 国際会計基準の動向
日経の記事と国際会計基準委員会(IASB: Internatinal Accounting Standards Board)の発表は次の通りです。
日経 10月14日 金融商品の時価評価、規則の一部を緩和 国際会計基準審議会
IASB Press Release 13 October 2008 IASB amendments permit reclassification of financial instruments
IASBの改訂した基準(AMENDMENTS TO IAS 39 AND IFRS 7)そのものは、ここにあります。一言で言えば、米国基準で許されていた金融資産の保有目的区分の振り替えと同じような区分振り替えを認めたのです。改定基準を読んだ私の理解は次の通りです。
国際会計基準(IASとIFRS)は、金融資産を次の4つの保有目的区分に分けています。(国際会計基準は連結財務諸表を主たる対象としているので、子会社株式及び関連会社株式はIAS27の適用となります。)
(a) financial assets at fair value through profit or loss(売買目的金融資産)
(b) held-to-maturity investments(満期保有目的投資)
(c) loans and receivables(金銭債権)
(d) available-for-sale financial assets(その他金融資産)
評価方法は、(a)は時価評価を行い、評価差額は当期の利益。(b)と(c)は双方とも、利息法を採用しての償却原価法を適用する。従い、(b)と(c)に実質的な差はないと理解します。(d)も時価評価であるが、時価評価は洗い替え法を適用し、評価差額は包括利益とする。
今回は、次のような区分変更の内容と理解します。
(i) 保有している(a)売買目的金融資産が近い将来において売却しないことが確実であれば、他の区分(b)~(d)への振り替えを認める。但し、他の区分から(a)売買目的金融資産への振り替えは認められない。
(ii) 金銭債権のカテゴリーを満たしていたが、(a)売買目的金融資産としたした金銭試験は今後相当期間または満期まで保有する予定であるなら、(b)金銭債権への振り替えを認める。
(iii) デリバティブについては、保有目的区分の振り替えは認められない。
日本の会計基準で例えれば、売買目的有価証券を満期保有目的の債券又はその他有価証券への振り替えを認めたのである。実際には米国基準(GAAP)との調和を図るために、米国基準に合わせた。また、無条件に振り替えを認めたのでもないはずです。
2) 日本基準の現状
日本基準を作成している企業会計基準委員会の発表は次の通りです。
企業会計基準委員会 10月16日プレスリリース 時価評価とその算定を巡る会計基準等について
そして、このプレスリリースにある本日公表の実務対応報告公開草案「金融資産の時価の算定に関する実務上の取扱い(案)」がここにあり、ページの下のダウンロードボタンを押すとダウンロードできます。
ダウンロードして読むと解りますが内容は、以下についてのQandA形式による解説についての公開草案であり、基準の変更ではありません。
Q1 時価の概念
Q2 市場価格が実態を乖離していた場合の時価
Q3 市場価格を時価とみなせない場合の、合理的な見積りに基づいて時価を算定する場合の留意する事項
国際的な会計基準における金融資産の保有目的の変更についても近々発表されるとおもいますが、上記の1)をフォローするような案と思います。
3) 新聞報道
新聞のみを読んでいると誤解を起こす恐れがあると思います。
日経 10月17日 日米欧、時価会計一部凍結へ 金融危機封じへ非常手段
朝日 10月16日 金融商品の時価会計適用、日本も緩和へ 欧米と協調
MSN産経 10月16日 時価会計、金融商品で適用緩和へ 企業会計基準委員会
毎日 10月17日 佐藤・金融庁長官:時価評価会計、日本も見直し
例えば、次のような例です。
日経: 「市場の混乱を受けて時価会計凍結を検討する米国」
朝日: 「金融危機で価格が著しく低下している商品については、決算期ごとに損失処理しないで済むようにする。」
MSN産経: 「株式や債券などを、時価で評価する「投資目的」から、取得時の価格(簿価)で評価できる「満期保有」に切り替えることを認める方向で検討する。」(株式には満期が存在しないため、満期保有は概念として存在しません。)
毎日: 「大きく値下がりした金融商品について決算上、取得時の価格(簿価)での計上も認めることなどが柱となる見通し。」
さすがに、企業会計基準委員会がプレスリリースを出しました。お笑いだなあ!
企業会計基準委員会 お知らせ 金融危機対応に関する報道について
「・・時価会計一部凍結や金融商品の時価会計の適用の緩和を決定したかのような記事が出されていますが、憶測記事であります。」
そして「私どもでは、欧米の動向を踏まえつつ、金融資本市場の健全性・透明性の確保に寄与できるよう、早急に検討していくこととしております。」と締めくくっておられます。
4) 金融商品の時価評価の重要性
大和生命保険は10月10日、東京地裁に更生特例法手続き開始を申し立てをしました。もし、申し立てをしなければどうなっていたでしょうか?可能性としては、更に資産内容が悪くなり、一方で保険金は保険契約通りに支払われ、満期未到来の保険契約者の受取金額は更に低くなっていた可能性が高いと思います。善意に解釈すれば、大和生命保険の経営陣もある程度頑張ったが、これ以上自力で頑張りすぎると保険契約者の損失を拡大してしまう。損失拡大を未然に防ぐために裁判所に更生特例法手続き開始を申し立てた。
資産状態が良いか悪いかは、時価評価をしないと無理です。金融資産としては、預金ぐらいしかないメーカーではありません。金融機関の資産はほとんど全てが、貸付金、デリバティブ、CDOその他の金融資産です。これを時価評価しなかったら、そして時価評価した結果が公表されていないなら、安心して預金やその他の取引ができません。同じことが、外国の投資家や取引先、預金者からも言えるわけで、信頼できる財務諸表を開示できないことは、金融機関にとっては死を意味します。現在、政府資金(公的資金との言葉が使われていますが、公的資金と言うと誤魔化されるので、政府資金と言います。)の銀行への注入が検討されていますが、大前提は再建可能であることであり、そのベースとなる信頼できる財務諸表が存在することです。
この16日の日経記事「金融相「中小融資円滑に」 銀行トップら23人と異例の会談」には、「地方銀行からは時価会計凍結を求める声も出た。」との文章があるのですが、驚きです。そんなことを言ったら、その銀行の預金を引き上げるリスクがあるのですが、預金取り付けリスクがあると思いますが、どのように考えたのでしょうと思います。
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コメント
こんばんは
政府は言っていることと狙いが矛盾していますね。
中小企業の貸し渋りに配慮した発言趣旨だと思いますが(選挙対策)、この際時価会計で資本不足に陥る金融機関は存在価値がない証明(貸すべき取引先がない証明。預金者の預金を持ち合い株式や高リスクの金融商品に投資するなら信用金庫とか地銀とかと言ったそもそもの存在価値がない)なので、抜本的な対策を打つよい機会だと思います。
投稿: gonchan | 2008年10月18日 (土) 00時43分
gonchan さん コメントありがとうございます。
gonchan さんの言われるとおりで、バブル崩壊以後の日本の金融危機で大手金融機関はメガバンクへ合併・統合と向かったものの、中小金融機関は相互銀行が地銀になったぐらいで、(多少の倒産はありましたが)基本的には弱小銀行が多すぎますね。
規模が小さいと1件の貸付額も小さくなるし、与信や管理も大変だし。そして、ある人が言いましたが、銀行とはIT産業である。弱小にとっては、IT費用の負担は重いですから。中小銀行(信用金庫、信用組合等を含め)の統合を図らないと下手をすれば、多くの銀行が倒産してしまう。
中小企業への貸し渋り対策も重要ですが、中小銀行を統合し、合理化し、体力を強くする政策が、もっと重要と私は思います。(親亀をこけんようにせんと、子亀はこけまっせ!)
投稿: ある経営コンサルタント | 2008年10月18日 (土) 15時17分