都立墨東病院における妊婦死亡
マスコミが「たらい回し」と言いたがる事件が報道されています。(今回は、次の読売のように「受け入れを断られ」との表現を使っている報道が多いようですが。)
読売 10月22日 脳出血に「対応できぬ」と7病院が拒否し、妊婦が死亡
今回の出来事についての多くの意見は次の読売の社説に代表されると思います。
妊婦搬送拒否 一刻も早い医療改革が必要だ(10月23日付・読売社説)
細部は、余り掴めていませんが、それでも気になることがあるので、書いてみます。
1) 東京都の病院戦略
東京都(病院経営本部)は、本年1月31日に「第二次都立病院改革実行プログラム」を策定し、ここに発表しています。気になる項目としては、次のような項目があります。
6 経営力の強化
7 都立病院の新たな経営形態の検討
広尾病院、墨東病院、府中病院をERやDMATを含め中核的な病院と位置づけ、整備していく方針と理解します。そして、一方で、経営力の強化を掲げ、この資料の最終ページ(104ページ)には、一般地方独立行政法人にすることも20年度から十分な検証を実施すると記載されています。
広尾病院、墨東病院、府中病院を含む、病院経営収支の2006年度の実績は、8月21日の自治体病院の経営指標の実績(その3)に記載の表にありますが、他の都道府県と比較すると赤字幅は小さいと思えます。
ERを営利事業として実施することが果たして社会にとって良いのだろうか。政府や地方自治体が、これだけは、国民・住民の福祉のために、確保するのだという方針が最初にあるべきと考えます。当然そのための税金支出が伴います。「民間の手法」と言う言葉が、医療の面で使われることがありますが、「民間の手法」イコール「損をする事業は取り組まない。取り組めない。」であることを忘れてはなりません。「民間の手法」を適用するのであれば、損失が発生する事業については、必要な補助金を支出して、その事業を支えるというコミットメントをすることです。
2) 墨東病院のケース
都立墨東病院のホームページの「お知らせ」から、「産科の外来診療の縮小について」をクリックすると次の文書が現れます。
産科の外来診療の縮小について
当院の産科におきましては、医師の欠員が生じたため、平成18 年11 月13 日(月曜日)からしばらくの間、外来診療を縮小いたしますのでご了承下さい。
● 予約のある患者様、救急の患者様につきましては従来どおり診療いたします。
● 予約のない初診患者様は紹介状の有無に関わらず、新規の予約受付及び予約外受付診療は行なっておりません。お近くの医療機関を受診されるようお願いいたします。
● 予約外の再診患者様、再診予約をするか、総合案内でご相談下さい。分娩予約のある場合に限り医師に確認のうえ判断いたします。
平成18 年11 月13 日からと書いてあるので、2年前からこの文書が掲げられていたと思います。一方で、この文書の29ページによれば、墨東病院は東京都立病院で最も周産期医療が充実した病院に思えます。医師不足であっても、報酬を高く、待遇を良くすれば、医師は働いてくれると考えるのが、民間の考え方です。
墨東病院のケースを考えると、猛烈な矛盾があるように思えます。医師を大東亜戦争の日本兵のように、赤紙一つで招集し、前線に無理矢理送り込むような扱いをしては、いけません。医療の充実のためには、合理的に対処することが必要かつ重要です。
3) 五の橋産婦人科
墨東病院と五の橋産婦人科は、すごく近く、500mも離れていないと思います。墨東病院はここで、五の橋産婦人科はここです。しかも、五の橋産婦人科のドクター紹介には、「院長 川嶋 一成 埼玉医科大学卒 墨東病院勤務の後、平成9年当院院長に就任」と書いてあり、五の橋産婦人科の医師の方々は、墨東病院の産科の実情はよくご存じであったと思います。
このあたり、何をどう考えるべきかですが。墨東病院も、五の橋産婦人科も、遺族から訴訟を受けるリスクを考えて、記者会見に臨んでいるように感じてしまうのです。結果は、妊婦さんが亡くなったのですが、本当は、1時間強で受け入れができた成功例ではないかと思うのです。墨東病院も当直ではなかった医師を自宅から呼び出して対応したのですから。多分、最初の電話で、墨東病院も勤務に就いていなかった医師を呼び出したが、念のために、別の受け入れ先を探そうと墨東病院と五の橋産婦人科は協力して尽力した。(墨東病院の産科医は、別の妊婦のために手が離せなかったと思いますが)
私は、墨東病院の関係者も五の橋産婦人科の関係者も、妊婦と赤ちゃんのために全力を尽くされたと思います。非難するのではなく、感謝し、激励するのが本当の姿だと思います。
4) 週刊文春
今回の報道は、TV、新聞が第一報です。しかし、23日の発売とおもいますが、週刊文春10月30日号のルポ「産婦人科の戦慄」に、この出来事が詳細に書かれています。この意味するところは、何でしょうか?入院したのが、10月4日です。10月4日から10月22日までのどこかの時点から週刊文春の記者は取材をしていたはずです。そして発売日の前日に、TVや新聞にリークしたのではと疑います。目的は、週刊文春のその記事をハイライトし、販売部数を伸ばすためです。
マスコミが悪いと言っても始まりません。報道内容が事実であれば、非難することが賢いと思いません。但し、マスコミに振り回されることなく、それぞれの重要性を私たち自身がよく考える必要があると思います。
医療の問題は、医師不足なんて簡単な言葉では解決できない底深さを感じます。例えば、「医療費を削減しつつ医師不足も解消する。」なんて標語を聞いても、それは政治家と政治家にしっぽを振る官僚の言葉でしかないと思ってしまいます。しかし、一方で、具体論になればなるほど、難しさを感じます。
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