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2008年11月19日 (水)

駒澤大学154億円損失に思う

駒澤大学がデリバティブを使った資産運用に失敗して154億円の損失を出したニュースがありました。

日経 11月19日 駒沢大、デリバティブで154億円損失 金融危機が直撃
朝日 11月29日 駒大、資産運用損失154億円 キャンパス担保で穴埋め

企業の売上高に相当する学校法人駒澤大学の平成20年度学生生徒等納付金収入が168億円なので、年間売上高に匹敵する損失を出したことになります。

1) 損失の理由

報道を総合すると、「金利スワップ」と「通貨スワップ」の計4商品を外資系金融機関2社と昨年度に契約し、このスワップの損失が膨らみ154億円の損失で損切りをして、10月末に解約したとのことです。

高金利運用をするためにCDMを購入したのかと思ったら、どの報道もスワップでした。スワップとは交換なので、交換時は等価交換です。基本的なスワップの利用方法は資産運用ではなく、リスクヘッジです。金利スワップであれば、長期固定金利と短期変動金利の交換等であり、通貨スワップであれば、ドルと円を取り決めた時期に取り決めた交換レートで交換する等です。

資金運用をスワップで利用する例は、次のような場合です。

A. 円資金で国債等の運用を行っている。しかし、円金利は安い。

B. 円金利が安いからドルで運用する。円で1%の運用がドルで5%の運用に相当するなら、スワップを行うことにより1%の円運用は相手に渡すが、5%のドル運用を得ることとなる。

C. 但し、同時にドルのリスクも来ることから、将来満期になった時のドルの交換レートがその時のスポットレートとなる。そこで、通貨スワップを締結して、ドルを渡し、円を入手するスワップを組む。

うまくいくように勘違いしそうですが、実はC項として書いた外貨スワップのレートは、運用金利差が影響するから結果は損得なしです。むしろ、厳密に言えば、同じ通貨の調達と運用の金利差および手数料が発生することから、損をします。

レバレッジを効かせ、証拠金の何倍かの規模にすることと、オプションを組み込めば、バクチ性が高まります。通常は、反対取引を実行して何時でも精算可能です。但し、オプションの反対取引なんかは、相当の逆ざやが生じる可能性があり、リスクが大きいこととなります。

駒澤大学のケースもそのようなことと思いますが、朝日の記事に「17日の臨時理事会で、経理担当者の責任が議論されたが、まず、契約のいきさつや商品の詳しい内容などを調べるため、調査委員会を設置」とありますので、調査委員会の報告書が公表されるまで、待ちたいと思います。

2) デリバティブに手を出した理由

学校法人が、資金運用で利益を生み出す義務はないはずです。なぜ、デリバティブを使って利益を生み出そうとしたかです。デリバティブそのものは、ヘッジ手段として利用することも可能であり、有用ですが、運用手段としては疑問がある。

駒澤大学の平成19年度決算を見るとデリバティブ運用損650万円があるものの、デリバティブ運用益1億6195万円が計上されており、資産運用収入として平成19年度は合計19億3792万円が計上されている。平成19年3月末の貸借対照表を見ると、企業会計において投資その他の資産に該当するその他の固定資産が約165億円あり、流動資産のうちに有価証券が約60億円含まれている。結果、225億円の投資に対し19億円の運用収益故8.4%の運用を行ったこととなる。

平成20年度の予算を見ると、運用収入が24億円となっている。30年国債でさえ、2.28%程度の現在のマーケットで8%以上の運用益をあげる予算となっていることによりリスクがあっても高収益のデリバティブに手を出すことになってしまったと言うことはないのかと思う。過去に高金利の時に購入した債券があり、満期保有目的債券のように時価評価せず、償却原価法を適用して高金利が得られることになっている場合もある。詳細を知らないので、調査委員会の報告書を待たねばならないが、もし無理な資金運用計画になっているとするなら、原因は計画そのものにもあると思う。

経理担当者の責任として片付けると問題の本質を見誤ることになるだろうと思います。

3) ガバナンス

企業を含めあらゆる組織にとって最重要なことは、ガバナンスの確立と思います。ところで、駒澤大学には、経済学部、法学部、経営学部があり、それぞれに大学院が設置され、法科大学院も存在します。この事件の一番の皮肉は、ガバナンスについて研究を行い、教育をしている大学で生じたことです。また、デリバティブについても同じで、研究・教育の対象であったのですから。

駒澤大学には、今回の事件を教訓として、ガバナンス上の問題点と改善点を明らかにし、今回の事件を他の関係者にも公表し、教訓を社会に広げていただきたいと思います。財産目録を見ると223万m3の土地が簿価171億円となっていることから、m3当たり7,661円です。全ての土地が世田谷区駒沢ではないでしょうが、m3当たり10万円とすると2000億円を超える含み益があることとなります。154億円の損失は駒澤大学の存続に影響があるとは思えず、これを生かすべく、その教訓とすべき事項を公表願いたいと思います。

一般企業の場合は、競争相手に企業秘密が漏れることとなり、公表が困難な事項も多いと思うが、私立大学の場合は、一般企業と比べれば制限を受ける事項は少ないし、具体的事例を通じての研究は最も得られる成果が大きいと思います。

私の言うガバナンスとは、私立学校法の学校法人の場合のガバナンスは、どうあるべきかを含みます。公益法人改革により12月1日から「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」と「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」が施行となります。株式会社の場合は、もまれてガバナンスができあがっている部分があるが、従来の公益法人は善意の運営が前提となっており、ガバナンスが弱い部分が相当あることを懸念します。

ガバナンスは問題が起きることにより強化・発展・確立されていく部分があると思います。これを機会に駒澤大学がガバナンス強化に貢献願いたいと思います。

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