BNPパリバによるアーバンコーポレーションとの取引
8月20日にアーバンコーポレーションとBNPパリバのデリバティブ取引を書いており、題名を逆にして本日は、書いているようです。BNPパリバが、アーバンコーポレーションとの取引に関する外部検討委員会の調査結果を公表しました。ビー・エヌ・ピー・パリバ証券会社による2008年11月11日の発表は、ここにあり、同ページ下部の報告書概要(PDFファイル)をクリックすると報告書がダウンロードできます。
上記についての報道としては、日経 アーバンコーポ破たん前の重要情報、パリバが非開示促す、朝日 BNPパリバ、アーバンの資金調達でインサイダー取引に該当の可能性、毎日 BNPパリバ:「インサイダー取引も」アーバン株売買でがあります。
BNPパリバは、発表文に次のように書いておられ、インサイダー取引規制に抵触しないと判断されています。
尚、本報告書中のインサイダー取引に関する記載について、一部報道でインサイダー取引に該当する可能性が高いとの記事がありましたが、これは委員会の見解とは異なるものと思われます。外部検討委員会より補足の説明を別途受領致しました。弊社と致しましては、本件はインサイダー取引規制に抵触するものではないと判断しております。
本日は、toshiさんのブログ、yuraku_loveさんのブログ、会計ニュースコレクターさん、Grande's Journalさん等多くのブログで本件について述べられておられました。私なりに考えてみます。
1) BNPパリバによるアーバンコーポレーションとの取引
どのような取引であったかの概要を頭に入れておく必要があるので、簿記の仕訳的に表現します。(財務諸表としての仕訳ではなく、概要を整理するための仕訳です。)
(A) BNPパリバ
私の頭に浮かぶ、BNPパリバから見た取引は次の表の通りです。
年月日 | 摘要 | 借方 | 貸方 | 備考 | ||
科目 | 金額 | 科目 | 金額 | |||
2008.7.11 | 2010年満期転換社債型新株予約権付社債(CB)の買受け | アーバンCB | 300億円 | 現金 | 300億円 | 300億円をアーバンに支払い |
2008.7.11 | スワップ契約の支払い受領 | 現金 | 300億円 | 金銭債務 | 300億円 | 金銭債務額は、スワップ契約実行に応じ確定する。 |
2008.7.11以降 | アーバンCBの株式への転換 | アーバン株式 | 150億円 | アーバンCB | 150億円 | CBの転換の 株式への転換 |
2008.6.26~2008.7.11以降 | アーバン株式の売却 | 現金 | 101億円 | アーバン株式 | 101億円 | CBの転換又はアーバンからの借株を市場売却 |
2008.6.26~2008.7.11以降 | スワップ契約の実行 | 金銭債務 | 91億円 | 現金 | 91億円 | スワップ契約に基づきアーバンに支払い |
2008.6.26~2008.7.11以降 | スワップ契約の実行 | 金銭債務 | 49億円 | アーバン株式 | 49億円 | スワップ契約に基づく変動差額 |
2008.6.26~2008.7.11以降 | スワップ契約の実行 | 金銭債務 | 10億円 | 当期利益 | 10億円 | スワップ契約に基づく利益 |
2008.8.13 | 民事再生法申請による期限の利益喪失 | 金銭債務 | 150億円 | アーバンCB | 150億円 | スワップ契約解除に伴い権利義務相殺(相殺特約) |
表中の年月日の順序が変になっていますが、スワップ契約は2本締結され、6月26日から7月11日の期間を対象としたスワップ契約1と7月11日以降を対象としたスワップ契約2の2種類であり、アーバンからBNPパリバへの支払いはスワップ契約1及びスワップ契約2の双方とも7月11日でした。実質は、1本のスワップ契約です。
(B) アーバンコーポレーション
私の頭に浮かぶ、アーバンから見た取引は次の通りです。
年月日 | 摘要 | 借方 | 貸方 | 備考 | ||
科目 | 金額 | 科目 | 金額 | |||
2008.7.11 | 2010年満期転換社債型新株予約権付社債(CB)の発行 | 現金 | 300億円 | 社債 | 300億円 | 300億円をアーバンに支払い |
2008.7.11 | スワップ契約の支払い実行 | 金銭債権 | 300億円 | 現金 | 300億円 | 金銭債券額は、スワップ契約実行に応じ確定する。 |
2008.7.11以降 | 転換社債の株式転換 | 社債 | 150億円 | 資本金等 | 150億円 | 資本金等は、資本金及び資本準備金 |
2008.6.26~2008.7.12以降 | スワップ契約の実行 | 現金 | 91億円 | 金銭債権 | 91億円 | スワップ契約に基づきアーバンに支払い |
2008.6.26~2008.7.12以降 | スワップ契約の実行 | 損失 | 49億円 | 金銭債権 | 49億円 | スワップ契約に基づく変動差額 |
2008.6.26~2008.7.12以降 | スワップ契約の実行 | 損失 | 10億円 | 金銭債権 | 10億円 | スワップ契約に基づく契約差額 |
2008.8.13 | 民事再生法申請による期限の利益喪失 | 社債 | 150億円 | 金銭債権 | 150億円 | スワップ契約解除に伴い権利義務相殺(相殺特約) |
上記は、整理であります。300億円の転換社債を発行し、そのうち150億円が転換されたものの91億円しか現金が入金せず、59億円はスワップ契約による株式価格差やスワップ手数料のようなものでなくなりました。資本取引・損益取引の混同はなんて、難しいことは考えていませんので、ご了承下さい。
スワップ契約の内容は、アーバンがBNPパリバに300億円を支払い、BNPパリバはアーバン株のその日の出来高の12%~18%にVWAP(その日の平均市場価格)を掛けた金額の90%をアーバンに支払う契約です。CBの方は、1株344円の固定金額で株取得となり、BNPパリバは市場価格で売却し一見損失となるが、その見合いがスワップ契約の差と等しいわけで、更に90%相当しかアーバンに支払わないから10%儲かります。
アーバンから見ると、一見損ですが、初めから株価下落を覚悟して、時価増資をし、手数料を10%支払ったのと同じです。もし、スワップ契約を隠しておけば、BNPパリバがCBを引き受けて資金援助をしたように誤解が生まれれば、株価下落は少ないか、うまくいけば、株価上昇も期待したのかも知れません。
2) BNPパリバはインサイダー取引に該当するか
最終的には、裁判所が決めるのでありますが、私の無責任発言においては、「抵触」とはならないだろうと、思います。理由は、BNPパリバ自身の発言がそうであることと、インサイダー取引のリスクは大きすぎるので、BNPパリバ自身も負わないだろうと思うことです。
別の言葉で言えば、上の仕訳にあるように10億円を短時間に儲けたのです。最終的には、8月13日の仕訳のように特約により債権・債務相殺でチャラパーです。あえてリスクを冒す必要がない取引をBNPパリバは仕組み、契約し、実行することに成功したのです。BNPパリバの発表によると、利益は総額11億7977万円です。
しかも、問題視されることが予想された取引です。村上代表ではないですが「金商法、インサイダー取引のプロ」です。アマチュアのアーバンが冒しても、BNPパリバは冒さないと思います。
但し、BNPパリバの関係者が個人で、アーバン株を売買していれば、別です。しかし、市場で最大300億円の株を売り込む話です。従い、値下がりが確実なわけで、売りを行うために、借り株ができなければならないことから、個人でインサイダー取引をしようとしても、普通より困難だったと思います。
アーバンの関係者であれば株を保有していたと思えることから、むしろインサイダー取引の恐ろしさは、そちらに向かう可能性もあるのではと思います。
3) BNPパリバの問題点
外部検討委員会は、インサイダー取引については、判断する立場にないので判断を差し控えるとしています。しかし、他の点については、問題点を指摘しています。
(A) アーバンによるスワップ取引の非開示
私も当初よりこの点を問題にしたし、金融庁の臨時報告書と有価証券報告書の虚偽記載による合計1231万円の課徴金もスワップ取引に関して虚偽の記載を行ったことによる課徴金です。
報告書は、「アーバンは当初はスワップ部分を開示する意向を示していたが、最終的に「非開示」とする姿勢に転じています。その経緯は明らかではないが、BNPパリバが非開示とするよう働きかけたことも一因となっていることが十分に推測されます。」と書かれてあり、推測がありうるとのことです。
BNPパリバからアーバンに対して開示を勧める文書は残っていなかったと判断してよいと思います。そこまで、すべきかの議論はありますが、もし私がBNPパリバに勤めていたとすれば、自分自身の身の安全のために、個人名の文書でよいから、何か残したかも知れません。めちゃくちゃな個人主義であり、KYせずとの非難があるかも知れませんが、仕事とはそれほど冷酷かも知れません。
(B) ガバナンス
もっとも難しいものです。インベストバンクなんて人が次から次へと変わっていく。チームでやっている面もあるが、個人プレーの方がずっと大きかったりです。でも、そこを外銀なんかよくやっているなと逆に思ったりします。
多分、BNPパリバも相当にしっかりしたガバナンスを構築されておられたと思います。それでも、完璧には行かず、そしてガバナンスの最重要点は、その組織の長です。長が、しっかりしていれば、未然にあるていど感じて、行動をします。組織の長(子会社であれば、子会社のCEO)に求められる役割で、最大の仕事は、顧客との関係ではなく、その組織のガバナンスの弱点を補うことと私は思います。
それからすると、リーマンを買われた野村さんも大変だな。でも、野村さんだから、やり遂げられるかなと思います。
4) 今後
今後は、どうなるのでしょうか?朝日の11月12日は金融庁、BNPパリバを行政処分へ アーバン増資巡りなんて書いていますが、行政処分まで行くのでしょうか?分かりません。
刑事罰には、未だ誰も問われていないが、あり得るのか?検察の方も、ウォッチして追いた方が良いのでしょうか?私にとっては、沈みゆくアーバンコーポレーションに乗っかっているアーバン経営者が最後の悪あがきをしてしまった事件と思えます。従い、一般投資家を欺して、金をとったホリエモンの私のイメージとは少し異なっています。
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