ソマリア海賊問題
ソマリア沖の海賊対策として、海上自衛隊の護衛艦派遣が検討されていることが報じられています。
日経 12月27日 ソマリア沖「まず現行法で海自艦派遣」 政府、1月メド対処要領
そして、自衛艦の派遣について、民主党小沢氏も自国の船舶を警備するということに憲法上の疑義はないと思うと発言したとのことであり、実現の可能性が高いと思えることから関連することを書いてみます。
日経 12月26日 小沢氏「憲法上疑義はない」 ソマリア沖の海自艦派遣に理解
1) 海賊事件
ソマリア沖海賊事件で最も有名なのは、サウジアラビアの原油タンカー”シリウス スター”(318,000トン)が満載の原油を積んで喜望峰経由で米国に向けケニヤ沖合830kmを航行中の11月15日にソマリアの海賊に積荷とともに乗っ取られた事件です。次のBBCニュースに、”シリウス スター”の写真が出ていますが、長さ330mの船ですから、とても大きいです。
BBC 18 November 2008 Hijacked oil tanker nears Somalia
海賊の目的は、金銭であり、”シリウス スター”が解放されたとのニュースがないので、まだ身代金交渉(船と積荷も含め)が続いていると思います。BBCニュースの11月18日の時点で、2008年は92海賊事件が発生し、そのうち36件で船が乗っ取られ、268人の船員が人質として捕らえられているとあります。
発生している海域は、BBCニュースの地図にあるが、ソマリア沖とは言っても、極めて広くイエメンの近くとソマリアの南東沖で遠い部分はソマリアから1000kmもある膨大な海域です。そんな海で、ロケット砲やカラシニコフで武装して5mほどの小舟(高速艇)で、襲ってくる。
海賊相手に自衛艦が適切なのだろうか、むしろヘリコプター巡視船の方がよいのではとも思えますが、よく分かりません。例えば、ここに海上保安庁の2008年11月6日発表の「東南アジアへの巡視船の派遣について~タイ・インドネシアにおいて海賊対策連携訓練等を実施~」という文書があります。海賊は軍隊ではなく、犯罪であり、海上保安庁の方が対策についての経験やノウハウ蓄積も多いと考えます。海上保安庁の起用についても、検討すべきでと思います。
2) 国連安保理決議
国際連合安全保障理事会で、ソマリア海賊に関する決議がされています。海賊取り締まりのために、ソマリア政府に協力する国の艦船が領海立ち入りを可能とする2008年6月2日決議1816号があり、当初6ヶ月の期間限定であったが、2008年12月2日決議1846号により12月間延長され2009年12月1日までとされた。更に、2008年12月16日決議1851号により、海賊対策艦船派遣協力国は海賊の拿捕等についてソマリア政府に協力してソマリア国内(領土)にも立ち入る等の協力も可能とした。
海賊の取り締まりは、公海であれば国際法により可能です。海賊が領海に逃げ込めば、その国の政府が取り締まりを行う。決議1816号は、6月間に限りソマリア政府の事前承認等の手続きを経て外国艦船が領海進入を可能とした。しかし、不十分であるとして、決議1846号により期間を更に12月延長し、海賊が陸に上がっても海賊を拿捕できるように決議1851号が行われた。
私の上記解説は、相当意訳的な部分があるので、実際の決議文を読むために、リンクを掲げます。
国連安保理決議 1816号
国連安保理決議 1846号
国連安保理決議 1851号
3) ソマリア
ソマリアは、国連に1960年に加盟した。2)で書いた外国艦船による海賊取り締まりは、ソマリア政府が国連に取り締まり協力要請をしたことを受け、安保理決議をしています。しかし、その政府は決議文に”TFG: Transitional Federal Government”と書いてありますが、暫定政府であり、ソマリアを実効支配していません。ソマリアは無政府状態であり、ソマリア海賊問題のルートはここに存在します。外務省のソマリアの説明はここにありますが、「暫定連邦政府(我が国は未承認)」と書いてあります。米国国務省のソマリアの説明はここにあります。外交関係はないが、暫定政府と定期的対話はあると書いてあります。
ここにWikiのソマリア地図があり、暫定政府地域、ソマリランド独立派地域、イスラム法廷連合等の地域、及び中立地域が示されています。驚くかな、暫定政府首都であるモガディシュ(人口約100万人)の周りは、一歩外へ出ると他の支配地域です。
2008年12月16日決議1851号国連安保理決議についてのプレスリリースがここに、にあります。その中に、潘基文事務総長の演説についても書かれています。潘事務総長の人道関連に関しての演説には、次のように、モガディシュから逃げ出た人々が本年だけで25万人。毎月5000人がケニヤの難民キャンプに避難している。生活物資の支援必要者は320万人と推定される。(人口840万人の国です。)
Regarding the humanitarian situation, he(BAN KI-MOON) said access remained severely restricted, and the level of insecurity for humanitarian workers and the local civilian population was unacceptably high. During this year alone, an estimated 250,000 people had been displaced from Mogadishu. The overall number of internally displaced persons stood at 1.3 million and an average of 5,000 Somali refugees arrived monthly in the refugee camps in Kenya. The number in need of assistance and livelihood support in Somalia stood at 3.2 million. The delivery of such assistance remained a logistical challenge, not least because of piracy, which had increased the cost of transporting supplies.
海賊により援助物資の輸送も容易ではない。しかし、海賊の言い分は、「♪こんな姿に、誰がした♪」かもしれません。アフリカの不幸の一面です。ソマリアは、19世紀に北部が英国植民地(保護領)となり、南部がイタリア植民地(保護領)になりました。1960年6月に英領が独立し、同年7月に伊領の独立があり、2つの地域が合わせてソマリアとなりました。(民族的には双方ともソマリア人、ソマリア語、イスラム・スンニです。)1969年に革命によりシルマルケ大統領暗殺、バレ少将が最高革命評議会議長に就任。1974年ソ連と友好条約を締結。1977/78年エチオピアと交戦(オガデン紛争)した。ソ連は、エチオピアを支持し、ソマリアは米国に接近。オガデン紛争後は、米国援助があったものの、バレ大統領の独裁色が強くなり、国内の不満が増加。1989年首都で暴動発生し、1991年1月バレ大統領は首都を追われ、全国的に内戦状態になった。最近では、2008年8月の暫定政府とソマリア再解放連盟の間の、停戦等を定めた「ジプチ合意」がありますが、ジプチはソマリアの北に位置する都市国家です。国内の政治的取り決めも外国でしなければならない状態です。
4) ソマリアに関して望むこと
喫緊の課題として海賊対策は必要です。しかし、海賊対策により問題が解決するほど甘くはありません。破綻国家を、どのように援助すべきかは容易ではありません。米ソ代理戦争時代は、それぞれが国内の別の一派を援助したことによりかえって問題解決を困難とし、対立の激しさを生んだと思います。オガデン紛争にしても、ソマリアとエチオピアの国境の線引きを決めたのは、ソマリア人ではなく、植民地宗主国であったのですから。
日本政府に望むことは、海賊対策だけではなく、ソマリア暫定政府がソマリア全国民が支持できる政府を樹立することを支援することです。海賊対策にしてみても、自衛艦の派遣より海上保安庁の人がソマリア政府に海上警備についての知識・経験を伝えることや、警備艇、巡視船をソマリア政府に提供することの方が、重要な気がします。
緊急援助食料さえ被援助者に届かないこと。無法状態であること。なかなか想像できないですね。昭和20年の敗戦日本でも、政府は機能していた。法も有効であったから、戦後復興ができた。日本が、破綻国家に援助できることは多くあると思います。
エチオピアで日本人医師赤羽桂子さんが誘拐されるという事件がありました。ここに共同の10月31日のニュース「「健康だ」と人質の赤羽さん エチオピアの誘拐」があります。その後ニュースがないが、赤羽さんは今もソマリアのどこかで、軟禁されているのだろうと思います。赤羽さんの一刻も早い解放も願いたいと思います。
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