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2008年12月31日 (水)

ソマリア海賊問題

ソマリア沖の海賊対策として、海上自衛隊の護衛艦派遣が検討されていることが報じられています。

日経 12月27日 ソマリア沖「まず現行法で海自艦派遣」 政府、1月メド対処要領

そして、自衛艦の派遣について、民主党小沢氏も自国の船舶を警備するということに憲法上の疑義はないと思うと発言したとのことであり、実現の可能性が高いと思えることから関連することを書いてみます。

日経 12月26日 小沢氏「憲法上疑義はない」 ソマリア沖の海自艦派遣に理解

1) 海賊事件

ソマリア沖海賊事件で最も有名なのは、サウジアラビアの原油タンカー”シリウス スター”(318,000トン)が満載の原油を積んで喜望峰経由で米国に向けケニヤ沖合830kmを航行中の11月15日にソマリアの海賊に積荷とともに乗っ取られた事件です。次のBBCニュースに、”シリウス スター”の写真が出ていますが、長さ330mの船ですから、とても大きいです。

BBC 18 November 2008 Hijacked oil tanker nears Somalia

海賊の目的は、金銭であり、”シリウス スター”が解放されたとのニュースがないので、まだ身代金交渉(船と積荷も含め)が続いていると思います。BBCニュースの11月18日の時点で、2008年は92海賊事件が発生し、そのうち36件で船が乗っ取られ、268人の船員が人質として捕らえられているとあります。

発生している海域は、BBCニュースの地図にあるが、ソマリア沖とは言っても、極めて広くイエメンの近くとソマリアの南東沖で遠い部分はソマリアから1000kmもある膨大な海域です。そんな海で、ロケット砲やカラシニコフで武装して5mほどの小舟(高速艇)で、襲ってくる。

海賊相手に自衛艦が適切なのだろうか、むしろヘリコプター巡視船の方がよいのではとも思えますが、よく分かりません。例えば、ここに海上保安庁の2008年11月6日発表の「東南アジアへの巡視船の派遣について~タイ・インドネシアにおいて海賊対策連携訓練等を実施~」という文書があります。海賊は軍隊ではなく、犯罪であり、海上保安庁の方が対策についての経験やノウハウ蓄積も多いと考えます。海上保安庁の起用についても、検討すべきでと思います。

2) 国連安保理決議

国際連合安全保障理事会で、ソマリア海賊に関する決議がされています。海賊取り締まりのために、ソマリア政府に協力する国の艦船が領海立ち入りを可能とする2008年6月2日決議1816号があり、当初6ヶ月の期間限定であったが、2008年12月2日決議1846号により12月間延長され2009年12月1日までとされた。更に、2008年12月16日決議1851号により、海賊対策艦船派遣協力国は海賊の拿捕等についてソマリア政府に協力してソマリア国内(領土)にも立ち入る等の協力も可能とした。

海賊の取り締まりは、公海であれば国際法により可能です。海賊が領海に逃げ込めば、その国の政府が取り締まりを行う。決議1816号は、6月間に限りソマリア政府の事前承認等の手続きを経て外国艦船が領海進入を可能とした。しかし、不十分であるとして、決議1846号により期間を更に12月延長し、海賊が陸に上がっても海賊を拿捕できるように決議1851号が行われた。

私の上記解説は、相当意訳的な部分があるので、実際の決議文を読むために、リンクを掲げます。

国連安保理決議 1816号
国連安保理決議 1846号
国連安保理決議 1851号

3) ソマリア

ソマリアは、国連に1960年に加盟した。2)で書いた外国艦船による海賊取り締まりは、ソマリア政府が国連に取り締まり協力要請をしたことを受け、安保理決議をしています。しかし、その政府は決議文に”TFG: Transitional Federal Government”と書いてありますが、暫定政府であり、ソマリアを実効支配していません。ソマリアは無政府状態であり、ソマリア海賊問題のルートはここに存在します。外務省のソマリアの説明はここにありますが、「暫定連邦政府(我が国は未承認)」と書いてあります。米国国務省のソマリアの説明はここにあります。外交関係はないが、暫定政府と定期的対話はあると書いてあります。

ここにWikiのソマリア地図があり、暫定政府地域、ソマリランド独立派地域、イスラム法廷連合等の地域、及び中立地域が示されています。驚くかな、暫定政府首都であるモガディシュ(人口約100万人)の周りは、一歩外へ出ると他の支配地域です。

2008年12月16日決議1851号国連安保理決議についてのプレスリリースがここに、にあります。その中に、潘基文事務総長の演説についても書かれています。潘事務総長の人道関連に関しての演説には、次のように、モガディシュから逃げ出た人々が本年だけで25万人。毎月5000人がケニヤの難民キャンプに避難している。生活物資の支援必要者は320万人と推定される。(人口840万人の国です。)

Regarding the humanitarian situation, he(BAN KI-MOON) said access remained severely restricted, and the level of insecurity for humanitarian workers and the local civilian population was unacceptably high.  During this year alone, an estimated 250,000 people had been displaced from Mogadishu.  The overall number of internally displaced persons stood at 1.3 million and an average of 5,000 Somali refugees arrived monthly in the refugee camps in Kenya.  The number in need of assistance and livelihood support in Somalia stood at 3.2 million.  The delivery of such assistance remained a logistical challenge, not least because of piracy, which had increased the cost of transporting supplies.

海賊により援助物資の輸送も容易ではない。しかし、海賊の言い分は、「♪こんな姿に、誰がした♪」かもしれません。アフリカの不幸の一面です。ソマリアは、19世紀に北部が英国植民地(保護領)となり、南部がイタリア植民地(保護領)になりました。1960年6月に英領が独立し、同年7月に伊領の独立があり、2つの地域が合わせてソマリアとなりました。(民族的には双方ともソマリア人、ソマリア語、イスラム・スンニです。)1969年に革命によりシルマルケ大統領暗殺、バレ少将が最高革命評議会議長に就任。1974年ソ連と友好条約を締結。1977/78年エチオピアと交戦(オガデン紛争)した。ソ連は、エチオピアを支持し、ソマリアは米国に接近。オガデン紛争後は、米国援助があったものの、バレ大統領の独裁色が強くなり、国内の不満が増加。1989年首都で暴動発生し、1991年1月バレ大統領は首都を追われ、全国的に内戦状態になった。最近では、2008年8月の暫定政府とソマリア再解放連盟の間の、停戦等を定めた「ジプチ合意」がありますが、ジプチはソマリアの北に位置する都市国家です。国内の政治的取り決めも外国でしなければならない状態です。

4) ソマリアに関して望むこと

喫緊の課題として海賊対策は必要です。しかし、海賊対策により問題が解決するほど甘くはありません。破綻国家を、どのように援助すべきかは容易ではありません。米ソ代理戦争時代は、それぞれが国内の別の一派を援助したことによりかえって問題解決を困難とし、対立の激しさを生んだと思います。オガデン紛争にしても、ソマリアとエチオピアの国境の線引きを決めたのは、ソマリア人ではなく、植民地宗主国であったのですから。

日本政府に望むことは、海賊対策だけではなく、ソマリア暫定政府がソマリア全国民が支持できる政府を樹立することを支援することです。海賊対策にしてみても、自衛艦の派遣より海上保安庁の人がソマリア政府に海上警備についての知識・経験を伝えることや、警備艇、巡視船をソマリア政府に提供することの方が、重要な気がします。

緊急援助食料さえ被援助者に届かないこと。無法状態であること。なかなか想像できないですね。昭和20年の敗戦日本でも、政府は機能していた。法も有効であったから、戦後復興ができた。日本が、破綻国家に援助できることは多くあると思います。

エチオピアで日本人医師赤羽桂子さんが誘拐されるという事件がありました。ここに共同の10月31日のニュース「「健康だ」と人質の赤羽さん エチオピアの誘拐」があります。その後ニュースがないが、赤羽さんは今もソマリアのどこかで、軟禁されているのだろうと思います。赤羽さんの一刻も早い解放も願いたいと思います。

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2008年12月28日 (日)

低所得者の税と保険料負担

12月26日の税制改革中期プログラムを考えるに、しまさんよりコメントを頂いて、どうお答えすればよいのか迷ったことから、新しいエントリーを建てました。

1) 基礎年金の財源の全額税方式について

私がリンクを張った日経 12月25日 基礎年金の財源、全額税方式に 自民・民主の議員7人が改革案のことを言っておられるとの前提で、私の意見を書きます。

消費税を使って全額税方式との報道ですから、企業の負担はないのですが、逆に2009年度から基礎年金の負担の2分の1を国庫負担とすることが決まっており、この国庫負担が継続することが前提で考えているはず。国庫負担は、即ち税負担と同じです。

現状は、国民年金保険料は月額14,410円の負担で、40年間支払った場合の満額支給額が1年に792,100円です。40年間の支払合計が6,916,800円なので、8.7年で回収可能と考えるか、税の部分も支払ったとして17.5年が損益分岐点と考えても良いのかも知れません。最も、障害年金、遺族年金もあるので、民間の生命保険の年金より有利と思うし、保険料を支払わないと2分の1負担の税金を取り戻せない制度ですから。

厚生年金の場合、企業と受給者が各半額負担で、ボーナス込みの給与額の15.35%です(現状)。従い、年収5百万円であれば、受給者は約38万円の負担であり、月額では約32,000円です。40年間支払った場合には、792,100円の基礎年金に120万円程度の報酬比例部分の年金が加算されます。

上の例で、国民年金と厚生年金を比較すると厚生年金は負担が2.22倍となるが、受け取りが2.51倍になるので、お得感があります。しかし、企業負担も加えると、厚生年金の負担は倍の4.44倍になるので、国民年金がお得。但し、厚生年金でも所得が小さいと、受取額には基礎年金部分があるので、お得額が増加する。一方、高額所得者に配偶者が専業主婦で3号被保険者のケースが多いとすると、3号被保険者は保険料を払っていなくても792,100円の年金を配偶者が受領できる。

これでも統合を続けてきた結果であり、今後さらに国民年金、厚生年金、共済組合制度を統合して制度間の公平を確保することが重要と思います。しかし、大きな問題に納付率があります。ここに社会保険庁が2008年12月25日に発表した平成20年4月から9月までの国民年金の納付率がありますが、59.4%です。計算をすると納付額より給付額の方が大きいが、不信感が広まっているのだろうと思います。強制的に納付させるとなると税の方が徴収費用も効率も良かったりしますから。強制であるにも拘わらず納付率が60%を切ってしまった制度を継続するより、制度の見直しを考えるべきだと思います。さもないと、年金受給資格のない老人が将来大量発生し、そうなると余りにも多い生活保護者に対する生活保護費に税金の多くの部分を使うことが懸念されます。

なお、企業負担の厚生年金保険料と健康保険料ですが、なかには企業が負担するのが嫌であるとして、国民年金と国民健康保険を従業員に掛けさせたり、あるいは従業員の給料から正規の金額を天引きしておきながら、社会保険庁には安い金額を申請したりする犯罪行為が行われていることもあるようです。例えば、この厚生年金特例法についてという社会保険庁のチラシを見てください。これに関しても制度改革して、国税庁を歳入庁とし、効率よく徴収が実施できるようにすべきと考えます。(不正を無くす方法として、企業を調査することが考えられますが、企業からすれば税務署のみでたくさんなはず。歳入庁で一本化すれば、所得税、住民税、保険料の全てが同時に手続き、調査できるはずです。脱税をするのも基本的には高額納税者であり、不正が生じにくい制度とは、弱者に恩恵があると私は思います。)

2) 低所得者の税の負担

税には、担税能力と所得再配分機能を考える必要があると思います。この点からして、低所得者の税は低くて良いと思います。どの程度の低さがよいのか、よく考える必要があると思います。但し、自ら働かない人にまで特権を与えることは不必要であるが、働く意欲があるにも拘わらず職を失った非正規・派遣労働者から高額の税を取るのかの問題があります。その意味で、雇用保険制度についても同時に考える必要があると思います。

所得税、住民税、消費税、厚生年金、健康保険(くみあい健保)の合計で独身者の場合の負担を考えると、次の通りです。(収入が給与所得のみの場合です。)

支払義務発生点 支払額
所得税 103万円以上 最低税率5%(累進税率は注書1)
住民税 98万円以上 10%一律
消費税 0円以上 4%一律
特別消費税 0円以上 1%一律
厚生年金 0円以上 7.675%一律(同額の雇用者負担を含まず)(注書2)
健康保険(組合健保) 0円以上 4.1%一律(同額の雇用者負担を含まず)(注書2)
介護保険(40歳以上) 0円以上 0.565%一律(同額の雇用者負担を含まず)(注書2)

(注1)累進税率:独身で給与所得のみで、生命保険等の控除もなかった場合は、337万円以上が10%、490万円以上が20%、890万円以上が23%・・・・40%といった累進税率の適用となる。
(注2)厚生年金は、年間支払額726万円以上は納付額定額。健康保険・介護保険は1452万円以上は、保険料定額。

消費税を増税するなら、所得税を増税する方が、103万円なり89万円を差し引いてからの計算なので、低所得者の負担は軽くて済みます。増税するなら、消費税と所得税の双方のバランスをとって増税するという方法もあります。

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2008年12月26日 (金)

税制改革中期プログラムを考える

政府は、12月24日の閣議で”持続可能な社会保障構築とその安定財源確保に向けた「中期プログラム」”(以下、税制改革中期プログラムと呼ぶ)を決定しました。

閣議決定された税制改革中期プログラムはここにあり、日経のニュースは次でした。

日経 12月24日 消費税上げ「11年度から」 税制改革の中期プログラムを閣議決定

中期展望については、やはり基本的な部分の見直しも重要であります。報道では、日経のみならず、消費税増税のみがハイライトされすぎており、もう少し税体系を含めて考えるべきと思うことから、以下書き進めます。

1) 平成21年度予算

平成21年度予算も12月24日の閣議で政府案が決定されました。

日経 12月24日 09年度予算案を閣議決定 一般歳出、過去最大の51兆円

予算フレームは、ここにあり、次の表の通りです。(四捨五入による端数の過不足あり。)

平成21年度予算    (単位:兆円)
歳出 歳入 歳入前年度 増減
一般歳出 51.7 租税及び印紙収入 46.1 53.6 -7.5
地方交付税交付金等 16.6 その他収入 9.2 4.2 5.0
国債費 20.2 公債金 33.3 25.3 7.9
歳出合計 88.5 歳入合計 88.5 83.1 5.5

歳出が5.5兆円増加し、税収が7.5兆円減少するが、これを特別会計からの繰入4.2兆円実施し、その上で国債による資金調達を7.9兆円増加するという一般予算です。なお、前年度歳入の53.6兆円は当初予算であり、補正後の税収予想は46.4兆円であり、今回の政府予算案とほぼ同じです。ちなみに差はこの表にありますが、21年度予算と20年度補正との差で大きいのは、揮発油税の一般財源化により7710億円増を見込むが、法人税の減少を6150億円予想しています。

多分不況により、法人税の歳入落ち込み幅は更に大きくなると私は予想します。

2) 主要税

税収46.1兆円の内訳は、この表にあり、次の通り所得税、法人税、消費税の3税で78.6%を占めます。

  税額(兆円)   割合
所得税 15.57 33.8%
法人税 10.54 22.9%
相続税 1.52 3.3%
消費税 10.13 22.0%
酒税 1.42 3.1%
たばこ税 0.84 1.8%
揮発油税 2.63 5.7%
その他の税 2.46 5.3%
印紙収入 0.99 2.1%
合計 46.10 100.0%
所得税のうち源泉徴収分は12.7兆円、確定申告分は2.9兆円です。

但し、所得税、法人税、消費税は、実は本質に大きな差はないとも言えます。法人は事業活動における中間的な存在であり、最終的には個人に何らかの形で帰属すると考えることができるからです。消費税は、基本的には所得税の変形として個人が間接税として負担する所得税であるとも言えます。

3) 所得税

税制改革中期プログラムでは、次のように述べています。

個人所得課税については、格差の是正や所得再分配機能の回復の観点から、各種控除や税率構造を見直す。最高税率や給与所得控除の上限の調整等により高所得者の税負担を引き上げるとともに、給付付き税額控除の検討を含む歳出面も合わせた総合的取組の中で子育て等に配慮して中低所得者世帯の負担の軽減を検討する。金融所
得課税の一体化を更に推進する。

高所得者の税負担を引き上げと中低所得者世帯の負担の軽減があり得ると私は読みました。なお、所得税については、消費税や社会保険料負担と同時に考えた方がよいと思います。

4) 消費税

消費税が何故所得税と同じ個人の負担かというと、所得税法の構造として5条で個人事業者と法人は消費税を納付する義務があると規定されていますが、同時に30条で「事業者が国内で行う課税仕入れに係わる消費税額を、課税標準に対する消費税額から控除する。」と定められており、更に52条、53条により控除する金額の方が大きければ、超過額の還付を受けられます。言わば、事業者は政府に成り代わって販売先より消費税を徴収し、税務署に納付する役割をしているようなものです。そして、支払った消費税は控除(又は還付)されるのですから、工場等の設備投資で多額の消費税の支払いがあっても、精算することにより企業負担にはなりません。(厳密には、課税売上割合が95%未満でありば、企業負担は存在するが、最終的には売値に転嫁しているとも言えます。)

一方、消費税と所得税を比較した場合、所得税は累進税率構造や所得控除等があるので、所得再配分の機能を果たせるし、住宅所得特別控除のように、景気対策等政策手段としても使えフレキシビリティーが高いと言えます。基本的には、消費税よりも所得税が優れているというのが古典的な理論であったのですが。最近は、どうも・・と言う具合です。しかし、決定するのは、国民です。お上でも政治家でもないのであり、税は国民が負担するのであり、国民が決定すべきです。

更に参考資料を国税庁の統計情報から作成しました。このWebあたりから入手したものです。

民間給与実態調査結果から作成した年間給与水準(ボーナス・残業込み)のグラフです。なお、民間給与の調査であるので、公務員は対象となっていません。

H19

男と女でピークが異なっており、女の場合は100万円から200万円の人が一番多く、男では300万から400万円と400万円から500万円がほぼ同じで、この辺りが一番人数が多い。なお、グラフ上では1000万円から1500万円の部分に小さなピークがありますが、これは区分した幅が1000万円以下では100万円であったのが、1000万円を超えてから500万円刻みになっているからで、実際にはなだらかな減少カーブと思ってください。

次が、給与水準と各給与水準の人が納付している税額を表示した円グラフです。

H19_2

900万円から1000万円の部分をピンク色にしましたが、1000万円以下は人数では94.9%です。1000万円以上の人は人数では5.1%ですが、税額では46.6%です。

給与所得なので給与所得控除が適用されるのですが、とりあえず給与金額別の負担率を見るために、税額を単純に給与総額で割り算したパーセンテージが次のグラフです。

H19_3

800万円以下は5%にもならないのですが、これは給与所得控除と扶養控除等の所得控除があるからです。但し、地方税及び厚生年金保険料や健康保険料が強制的に天引きされるのですから、各個人が実際に負担として感じるのは、このグラフの税率ではありません。地方税は10%一律で、厚生年金保険料7.675%、健康保険料(協会けんぽの場合)4.1%です。従い、上の税率グラフに20%程度負担率が増加するような具合と思います。

保険料は保険なので高所得になっても一定額で所得比例ではなく定額となります。一方、健康保険が国民保険になると所得が低い場合に、負担増になると思います。

非常にやっかいで複雑ですが、所得税のみで論じてしまうと、低所得者は税の負担が低すぎるといった類の話になる恐れがあります。変な逆説を言えば、「低賃金労働者がいるから、高所得者が高所得を享受できる。」みたいな部分もあると思います。次のような報道もありますが、一つの方法と思います。

日経 12月25日 基礎年金の財源、全額税方式に 自民・民主の議員7人が改革案

次に各給与水準別に人数が増加しているのか減少しているのかを見てみます。男、女、男女合計の3種類のグラフを掲げます。

H19_4

H19_5

H19_6

赤線の100万円~200万円のクラスが男女とも増加しています。格差拡大は、低所得者層の増加により生じているような気がします。各給与水準クラスの人数分布推移を男女別に表したのが次のグラフです。

H19

H19_2

男女で分布が異なっており、女性の場合は、低いクラスが多い。多分、パートで働いて、且つ所得金額を自ら制限しておられる方も多いのではと思います。給与所得の場合は、103万円の壁(給与所得控除65万円と基礎控除38万円の合計)や130万円の壁(夫の健康保険・社会保険の3号被保険者になる生計維持基準)があり、バカなことになっていると思います。

既得権益を保護しすぎると全体が不幸になる危険性があると思います。男女関係なく働き、各人が自己の能力を発揮できる社会にしないと、人口減少の日本に明るい未来が開けない気がします。

なお、税制改革中期プログラムでは、消費税について次のように述べています。

消費課税については、その負担が確実に国民に還元されることを明らかにする観点から、消費税の全額がいわゆる確立・制度化された年金、医療及び介護の社会保障給付と少子化対策に充てられることを予算・決算において明確化した上で、消費税の税率を検討する。その際、歳出面も合わせた視点に立って複数税率の検討等総合的な取組みを行うことにより低所得者の配慮について検討する。

5) 法人税

税制改革中期プログラムの文章は次です。

法人課税については、国際的整合性の確保及び国際競争力の強化の観点から、社会保険料を含む企業の実質的な負担に留意しつつ、課税ベースの拡大とともに、法人実効税率の引下げを検討する。

「社会保険料を含む企業の実質的な負担に留意」なんて、これでは消費税増税して法人税を安くするみたいで、企業は良いでしょうが、日本国民はこれでOKなの?と思います。

次に、国際的な税率比較ですが、この財務省の比較によれば日本と米国はほぼ同じで高いのです。米国と同じであれば、良いのでは思うのですが。それと、実効税率は40.69%で正しいのかと思います。即ち、次の式で計算すると確かに40.69%となるのですが、例えばトヨタの2008年3月期の連結損益計算書は、税引前利益2兆4372億円に対して法人税等の負担は9115億円です。これからすると37.4%です。研究開発費の法人税の特別控除の適用があったりするからと思いますが、各種の優遇策と企業が政府及び地方自治体から受けているサービスも合わせて考えないといけないと思います。

実効税率=(法人税率30% x (1 + 地方税率20.7%) + 事業税率7.56%)/(1 + 事業税率7.56%)

法人税についての議論で、「税率が高すぎると外国に逃げてしまう。」との主張があります。そこで思い浮かぶのが、Ikeaという家具屋さんです。北欧スウェーデンの家具として売っていますので、本社はスウェーデンと思っておられる方が多いのではと思います。しかし、本社はオランダなのです。多分、その理由は税務対策、節税にあると思います。

その様なことが、例えば、トヨタで可能でしょうか?Ikeaは、非上場会社です。だから、そんな大胆な戦略も可能ですが、トヨタ本社はオランダになりましたなんて言ったら、日本ではたちまちホンダに負けてしまったりして。そう言えば、経済財政諮問会議でトヨタ出身の方が法人税率の引き下げを言っておられたように思いました。

仮に外国に逃げたとして日本で納付する法人税が減るのでしょうか?原則変わらないはずです。日本法人であれば、全世界所得が課税所得となるが、持ち株会社を外国に移せば、海外生産の所得は日本の法人税は課せられません。しかし、日本法人又は日本法人の子会社・孫会社である故に、日本の法人税がかかる場合は、外国税額控除の適用となります。これ以上は、どちらの税率がどうとか細かい議論になるし、更には本当に節税を計る場合は、租税条約の抜け穴の利用やタックスヘブンの利用をするので、猛烈に複雑となります。

税は日銀の金利ではないので、下げた場合の恐ろしさは奈落の底的な感じがあると私は思います。いずれにせよ、税の中期政策は国民にとって重要な課題です。

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2008年12月24日 (水)

医療トラブルの報道

12月19日の続きです。週刊文春の記事を読んでみました。どのような書き方をしているか興味がありましたし、自分のブログでエバハートのメーカーであるサンメディカル技術研究所と医療を提供した国立循環器病センターの反論をリンクの形で紹介したことから、週刊文春の記事にも目を通す必要があると思いましたので。

1) 第三者の医師のコメント

記事には、「人工心臓の手術をしているわけですから、まず心タンポナーデを疑う必要がありました。経過を見る限り、最低でも超音波をかけた19時20分の時点で開胸手術を考えなければいけない。唯一それしか対応策はないはずです。」との第三者の医師のコメントが書かれていました。

このまま読んでしまうと、「なるほど」と思ってしまうのですが、それほど簡単ではないので、以下に続けます。

2) その医師のコメントは正しいのか

記事には、カルテを見せと書いてあるので、デタラメのコメントとは言えないでしょう。しかし、全てのデータを見て、分析して判断しているのではないはずです。その場にいた医師が最も多くの情報を持っていたはずであり、ある選択肢の中から最良と思う選択をしたはずです。

医療に関してセカンド・オピニオンがあります。セカンド・オピニオンはその医療機関で診療を受け、必要なら追加検査を受け、元の医療機関の診断と治療方針等も含め多くの情報・データを提供して得られるし、正しいオピニオンは情報とデータにより得られるものです。カルテだけで、断定的なことを言うのは困難なはずです。

医療とは、場合によっては、即座に判断して治療方針・内容を決定する必要がある。翌日になれば最も正しい判断が下せるとしても、その前に病状が悪化するリスクが高いなら意味がないことがある。それぞれのタイミングにおけるベター・ベストを実践するしかない。従い、結果から、あの時の治療には間違いがあると言うのは、その治療に対しての評価としては適切ではないはずです。ビジネスの世界でも何でもそうだと思います。そんなに単純ではない。

3) 問題医師

誰が、コメントをしているかというと神奈川県大和市南林間の大和成和病院院長南淵明宏医師です。院長挨拶がここにあり、写真付きです。

2001年に当時12歳の女児が東京女子医大で心臓手術を受け死亡した医療事故で東京女子医大の医師が刑法の業務上過失致死で逮捕・起訴されました。2005年11月30日東京地裁で無罪判決となったのですが、この事件の裁判における検察側の証人となったのが、南淵医師でした。無罪判決の後は、マスコミ各社に対して弁護士なしの本人訴訟により名誉毀損による損害賠償を訴え、勝訴あるいは和解を勝ち取って行かれました。刑事事件については、検察が控訴し、東京高裁で今も裁判中です。

裁判において南淵医師の証言に対する反論は、被告人となっている医師が紫色の顔の友達を助けたいというブログを書いておられ、2008年1月17日のエントリー「検察官の異議申し立ては棄却! 第5回控訴審速報 自ら報告」に南淵証人が客観的に証人にふさわしくないことの理由を書いておられます。例えば、「証人は、手術で使用された、陰圧吸引法(人工心肺の脱血法)は、一回も経験したこともなければ、見たことすらない。」とか。

そして、そのブログにもう一つ、横浜地裁2004年8月4日判決(判例時報1875号119頁)において損害賠償が認容された事例の被告医師が南淵医師であることを2008年1月17日の控訴審で弁護側が言及したことを述べています。横浜地裁は、医療法人の経営する病院に勤務する医師が無断アルバイトや患者からのベンツの供与を理由に退職したにもかかわらず、医療過誤の事実を患者側に伝えて解雇されたなどと週刊誌の取材やテレビで発言し、病院の社会的評価を低下させたとして、医療法人の医師に対する損害賠償請求を認容しました。

さらに、Yoshan先生が2008年6月5日のブログ 南淵明宏氏の謝礼感覚で、患者からベンツや金銭の受け取りをすることを賞賛するような南淵医師のエッセイを紹介され、これに対するYoshan先生のコメントを書いておられます。

南淵医師とは、このようなことで有名な医師なのです。

4) 報道の姿勢

何も知らないで報道に接することは、恐ろしいことです。週刊文春は、「この医師に依頼すれば、このようなことを書いてくれる。言ってくれる。」と分かってコメントを依頼し、記事を作成したと思います。この手のことは、報道だけではなく、世の中に多くあることかも知れません。

報道は、真実を報道するのではなく、自分の新聞や雑誌の販売部数を増やし、TV報道番組・報道ワイドショーは、視聴率を上げることを目的に報道しているように思えます。「犬が人を噛んでもニュースにはならないが、人が犬を噛めばニュースになる。」との言葉を思い出します。言い過ぎの部分はあるでしょうが、そんな部分はないと否定することはできないと思います。

報道以外も基本的には同じことで、政治家の言葉、商品の宣伝文句等々私たちも、常に疑問を持ち、自分の目で見て、自分で考えて正しい行動をとらなければならないですね。しんどいが、そうしないと世の中良くならない。でも、そうすることが生きることの一つの楽しみであるかも知れません。

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2008年12月19日 (金)

医療報道の読み方

変なタイトルにしましたが、理由は次の産経の記事からです。

MSN産経 12月17日 【国循の不同意治験】母親「納得できぬ」変わり果てた姿…説明なく

これだけを読むと、国立循環器病センターは問題のある医療機関だと思ってしまいます。同じことを朝日は次のように報道しています。

朝日 12月17日 治験での人工心臓手術後に植物状態 1年後に少年死亡

ニュアンスが異なって受け取れます。産経は患者家族のみの取材で書いています。しかし、朝日のWebには、「会見で記者の質問に答える国立循環器病センターの友池院長(中央)ら=17日午前10時58分」と説明が付された写真があり、記者会見を行い、多分産経の記者も出席していたと思います。患者家族の気持ちを報道することは誤りではありません。しかし、一方のみを報道すると誤解を生じさせる可能性があり、一流の報道機関を目指すのであれば、偏った報道は避けるべきと考えます。特に医療関係に関しては、私の場合は、大淀病院毎日報道がきっかけでしたが、患者サイドに感情移入した報道が多いと感じます。医療をよくするには、問題点の根本をついた報道を望みます。国立循環器病センターのこの件についての私の報告は以下の通りです。

1) 人工心臓・エバハートとは?

この東京女子医大のWebに植え込み型遠心ポンプエバハートの説明があります。拡張型心筋症や虚血性心筋症等で、死亡の危険が高く治療方法としては心臓移植があるが、脳死下の臓器提供数は非常に限られている。心臓移植に代わる方法としては、人工心臓があり、世界でも開発中で既に使用中の補助人工心臓も存在する。当然のことながら、心臓移植よりも人工心臓の方が広く適用可能となるはずであり、更なる開発と本格実用化を推進すべきであるとの意見が多くある。

エバハートは、東京女子医大の山崎健二医師の考案した補助人工心臓であり、実用化を目指しているメーカーは株式会社サンメディカル技術研究所で、ホームページはここにあります。又、エバハートの説明はここにあります。エバハートは、補助人工心臓であり、左心室に付けて使う補助循環装置で、本来の心臓を取って置換るものではありません。但し、本来の心臓が回復するか、あるいは心臓移植を受けるまでは、エバハートは取り外さず、ずっと使用を続けます。エバハートを付けたままで退院し、高いQOLをおくれる可能性もあるとのことです。東京女子医大のWebのエバハートの絵を勝手にコピーしたのが次です。

Evaheart02

2) 治験

治験とは、薬事法14条に従い医薬品、医薬部外品、特定の化粧品又は医療機器の製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けるために実施する臨床試験であり、医療機器についての臨床試験に関しての基準は医療機器の臨床試験の実施の基準に関する省令(臨床試験の省令)で規定されています。

治験においては、未だ政府承認を受けていない段階の医薬品や医療機器を使用するのであり、当然のこととして健康保険の対象外です。メーカーが将来の販売時の対価で回収する研究費として費用負担をします。但し、入院費等保険対象のものもあると理解します。そして治験については、臨床試験の省令においてインフォームドコンセントを初め、厳しい規定がなされています。

治験があるからこそ新しい医薬品や医療機器が使えるようになり、今まで治療困難であった分野の治療が可能となる。但し、野放し状態では大変なことになるのであり、合理的なルールがあってこそ、社会や人々が応援することができる。又、自分自身があるいは身近な人、又は子孫が将来必要となった場合、その治験の結果として有効且つ安全と確認された医薬品や医療機器を使用できることなる。

3) 報道されたケース

当時18歳の拡張型心筋症の少年で、2007年春に、エバハートを装着する手術を受け、それから約1年後に死亡したとあります。多分、エバハートが最善の治療方法であったのだと思います。そして、国立循環器病センターは、当然のこととして、少年の病気やエバハートのことについて様々な説明をして、少年も少年の家族も合意してエバハートを装着する手術を受けたのだと思いますし、この部分は、そうであったと確信します。もし、そうでなければ、問題にすべき点です。

産経の記事は、「同意を得ぬまま治験が継続された疑いが浮上した。」とあり、手術から6月後に本当は中止したいにも係わらず、無理に同意させられたとのニュアンスが読み取れます。ところで、エバハートを取り外すことは可能であったのでしょうか?取り外したら、死にまっしぐらではなかったかと思います。その評価なしで、この部分を議論すると誤ります。手術から約2週間で、少年の容体は悪化したのであり、悪化した状態で、取り外したら本来の心臓に更に大きな負担を掛けるばかりではなく、取り外し手術の負担も少年には相当大きなはずです。本来の心臓が回復していないのに、エバハートを取り外すオプションはなかったはずと思います。エバハートを装着していなくても死亡した可能性は、どうであったかも評価しないと公平ではないと思います。

新聞が遺族の気持ちを報道しても良いのですが、医療を批判するなら、医療について正しく分析し、理解して理性で書いて欲しいと思います。実は、メーカーサンメディカル技術研究所のWebを見ていると、文藝春秋に対する抗議文がありました。これです。週刊文集の12月25日号が人体実験などと書いたようです。法に従って治験は実施されたと考えますが、そうであれば、文藝春秋は損害賠償をすべきと考えます。

4) 明るい未来へ向けて

脳死移植が悪いとは思いません。しかし、脳死移植以外の選択肢を与える人工心臓は明るい未来を開く可能性があるものと思います。この少年は人工心臓に関連する貴重な治験データを残したのであり、多くの人に希望を膨らませたと思います。

日本の明るい将来は、相当多くの部分を高度技術に依存することになると思います。最先端医療は、そんな高度技術の1つの分野と思います。真実の報道より、センセーショナルであることを望む(一部のor多くの)マスコミ報道に負けずに、関係者の方々頑張ってください。

追記

国立循環器病センターも、12月18日付で週刊文春に対するコメントを出しておられるので、そのリンクを紹介しておきます。

補助人工心臓に関する記事について

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近江八幡市総合医療センターPFI解消の続報

近江八幡市総合医療センターPFIの契約解除の合意が17日に成立したと報道がありました。

読売 12月18日 病院の民間活用破たん、近江八幡市が契約を解除へ

解約金として20億円を支払うとのことですが、「PFI方式を継続するより約113億円節約できる」とも書かれています。それでは、PFI方式としたことにより133億円の無駄使いが発生することになっていたのではと思います。

近江八幡市の市民から責任追及の声が、あがるのでしょうか?財団法人 日本経済研究所と株式会社 病院システムの2者は、どのようなアドバイスをしていたのでしょうか?

過去の近江八幡市総合医療センターPFI関連のエントリーは以下でした。

1月30日 近江八幡市PFI病院の倒産の恐れ
12月15日 近江八幡市は病院のPFI解約方針

この直前のエントリーで取り上げた高知医療センターPFIは、どのようになっていくのでしょうか?なお、高知医療センターの脳外科を高知新聞の記者が密着取材して、2008年02月04日から「医師が危ない」と題した特集が夕刊に掲載されていました。Webではここにあり、読むことができます。PFI方式と直接関係はないでしょうが、大病院の医師の置かれている状況が新聞記者の目を通して直接伝わってきます。大変だな~と思います。興味のある方は、読んでみてください。

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高知医療センターPFIでも問題浮上

近江八幡市の病院PFI解約について、12月15日のエントリーで書きましたが、高知県・高知市共同事業の病院PFIである高知医療センター(ホームページはここ)でも問題が発生しています。

高知新聞 12月02日 高知医療センター 本年度末7億6000万円不足

高知新聞 12月04日 高知医療センター 127億円借り換え検討

12月2日の記事では、2009年3月末で7億6千万円の資金が不足するとなっていました。12月4日の記事は、金利の低い地方債に借り換える方針を決め年間5億円の軽減を見込むとなっています。やはりPFIなので高くついている。そこで、PFIを解約して、違約金を払わざるを得ないが、資金コストの安い地方債に切り替えるということで、近江八幡市とほぼ同じパターンです。もう少し、中を覗いてみます。

1) 高知医療センターのPFI事業

高知市には、高知県立中央病院と高知市立市民病院があったのですが、この2つの病院を統合して新たな病院として高知医療センターが作られました。高知医療センターの病院事業を実施している事業者は、地方公営企業法に基づき高知県と高知市が組織している高知県・高知市病院企業団です。(企業団規約はここにあります。)

病院事業者は高知県・高知市病院企業団(以下企業団とする。)ですが、病院の箱物(建物)はオリックスが出資した高知医療ピーエフアイ株式会社(以下SPCとする。)からのファイナンス・リースとなっており、更に医療の範囲外となるビル管理、施設管理、清掃、給食、検体検査、看護補助、そしてITシステム等がSPCから企業団に提供され、リース対価とサービス対価が企業団からSPCに支払われる契約が締結されています。この契約は長期契約であり、ITシステムを除く部分が30年契約で対価が2,132億円。ITシステムが8年間で46億円です。

思想としては、医療ライセンスが不要で民でできるものは全て民に一括で投げて、医療ライセンスが必要な医療事業部分は県と市が組織している企業団が実施するスキームです。相乗効果で良くなると期待したのでしょうが、絵に描いた餅を実践したのだと思います。餅の絵は、正しいフィージビリティースタディーをしなくても描けますから。悲しいのは、絵に描いた餅で、税の無駄使いをされている県民・市民です。国庫補助金も出ていれば、日本人全員が無駄使いにつきあったことになります。

2) 高知医療センターの平成19年度決算

高知医療センターの平成19年度決算がWebで公開されており、ここにあります。損益計算書を図示したのが、次です。

H19pl

支出が収入より大きいことが分かります。収入の紫部分が構成団体負担金となっていますが、県と市の救急医療負担金(5.4億円)、割愛職員退職給与金(4.8億円)等であり、リンク先の損益計算書に記載されています。支出の中で、経費、減価償却費、支払利息等がPFIのSPCへの支払いに相当すると思います。

次が、貸借対照表で、平成19年3月末も比較のために表示しました。

20083bs

赤の部分が累積赤字で、自己資本と資本剰余金を減額せずに表示したので、資産サイドの一番上に記載しました。平成20年3月末と19年3月末を比べると、累積赤字が大きくなっているのが分かります。20年3月末の累積赤字は58.1億円で、19年3月末の39.2億円より18.9億円増加しました。結果、20年3月末において、自己資本と資本剰余金の合計から累積赤字を差し引くと21億円です。公企業会計では、企業債も借入資本として資本に算入するようですが、民間企業ベースでは、丁度1年を経過後は債務超過すなわち、実質破産状態に陥ります。

PFIによる資金調達部分は長期未払金と未払金の多くの部分と思うのですが、貸借対照表を眺めると、せいぜい138億円あるいはPFI契約保証金を足しても150億円程度であり、全体の総資産に対しては40%足らずです。高知新聞の記事では、127億円となっており、PFIよる資産リース部分は127億円だと思います。そうすると年間5億円の節減は4%弱金利節約と思います。病院のような公共施設で、通常より4%も高い資金コストによる調達を行っているのは、おかしかったと思います。

3) PFI解約の可能性

近江八幡市のPFI病院と同じで、高知医療センターPFIも早く解除すべきと思います。継続することは、年間5億円の無駄使いを継続することです。違約金ですが、相手がオリックスなので、うまく交渉すれば違約金を下げるられる可能性があると思うのです。12月13日のオリックスの懸念で、オリックスの資金調達コストが上昇していることを書きました。13.125%は、もしかしたら年率ではなく、5年間に対してかも知れませんが、仮に5年間であったとしても年間2.625%です。オリックスは、資金調達に苦労しているはずで、金融のプロがうまく交渉すれば、オリックスにも利益をもたらす形で、低い違約金で解除できる可能性があると思います。

病院をPFIにしてしまった結果、給食も検体検査も看護補助もすべてSPCが1社で提供することになり、合理化できた部分はあるかも知れないが、独占で競争がなくなったのです。そして、フレキシビリティーに欠けているはずです。付随サービス部分についても、見直しを計り、最も合理的な契約に変更すべきと思います。そう考えると、病院PFIとは、良い所が一つもないように思えます。

私もPFIが全てダメだと言うのではなく、場合によっては、うまくいくこともあり得るはずです。例えば、ある企業が効率の高いゴミ発電を開発した。自治体がゴミを収集するので、ゴミをその業者に渡す。業者は、ゴミを燃して発電して、灰処理をする。業者は従来のゴミ処理費用より少し安い価格でゴミ処理を請け負い、発電した電力料金も収入とする。但し、設備の建設、運転を含め、事業リスクは業者がとる。このような、自治体がリスクを負えない事業で、民間が自己の経験や企業力でリスクを負って、利益を生み出せる分野がPFI事業の分野だと思います。

「民にできることは民に」ではなく「事業は、最適な仕組みを構築して」であります。

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2008年12月18日 (木)

自動車産業の今後

不況が拡大していると思います。次のようなニュースもありました。

日経 12月17日 ホンダの今期下期、1900億円の営業赤字に 上場以来初の減配

ホンダの発表は、2008年度業績予想の修正2008年度業績予想プレゼンの通りです。2008年度12月間の通期の純利益予想は連結1,850億円の利益で、単体550億円の損失となっています。ホンダは、海外生産が多い会社であり、連結売上高のうち四輪生産台数365万台のうち、北米で44%、アジアで22%であり、国内での16%より大きな数字になっています。

前回の発表数字と比較すると連結で純利益が3,000億円の減少であり、単体の純利益が2,030億円減少して赤字転落なので、国内生産に係わる赤字増が連結利益減少の70%近い要因と考えられる。単体売上は、国内生産が主体のはずであり、そのなかで輸出が70%を超えています。今回の修正における、通期ベースの売上を比較すると、輸出の減少が13.4%であり、国内の減少が7.3%です。四輪の台数では、輸出減少11.1%で国内販売減少が4.1%となっています。

他の自動車会社を見ると、日産の12月17日のニュースは次でしたし。

日経 12月17日 日産、国内の減産拡大 非正規社員ゼロに

トヨタも北米減産のニュースはありましたし。

日経 12月8日 北米で追加減産、トヨタが意向 4工場対象

米自動車ビッグスリーが、どのような道をたどるのか、未だ不明点が多いが、UAW(全米自動車労組)とどのように話がまとまるか、全産業において米国の労働組合がこれからどのようになるかが一つのキイポイントだと思います。ビッグスリーについて「労働者1人当たりに1時間平均73ドルのコスト」で、「日系メーカーの場合は1人1時間当たり労働コストは平均49ドル」という情報があります。単純比較はできないものの、生産コストにおいてビッグスリーが不利になっていると思います。新参メーカーはデトロイトを避け、UAWに属さない人を雇用しても、歓迎される地域に生産拠点を置くことができた。ビッグスリーは、そんなことをしたくて不可能であった。UAWも、組合員を守ることができなければ、存在意義はなくなるのであり、現実に医療保険が切り捨てられていこうとしていた米国において、UAWが何もしないことは許されなかった。

一方、日本では、派遣・非正規社員の削減が連日報道されています。無責任経営とも言えるし、不況の時は雇用数を減少するのが当然であり、派遣・非正規社員は調整弁であるとする考えもあるはずです。実は、昔から日本でも工場に出入りする人材提供下請けが存在し、不況の時には調整弁の役割を果たしていたと思います。その当時は、正社員は終身雇用で、肩たたきすらほとんどなかった。しかし、給料は下請けの方がよかったりして。調整弁を無くすことは困難だろうと思います。しかし、調整弁=派遣・非正規社員というのは、余りにも能がない話で、もしそうするなら、正社員の数倍の給料で働いてもらうこととするとか、働く者が納得できる制度にすべきと思います。

日経 12月17日 「雇用保険料引き下げやむを得ず」 厚労省が報告書素案なんてニュースがありますが、保険料を下げるよりも、給付を厚くする方が、重要ではないかと思います。わがまま・無能力経営者は日本の法人税が高いから競争力が失われていると言います。企業の競争力は、法人税率が主要因で決まるのではなく、複雑な要素で決まってくるし、有能な人材なんて法人税より重要です。例えば、日本は治安が良い国であり、そのことから治安面でのコストは日本では安くついているはずです。同様に、不況になり不幸にも解雇されても、ある程度の支援を受けれられるなら、安心して働ける豊かな国になるはずです。企業も恩恵を受けられる。国民も幸福。そのように税を有効に使うことを考えるべきと思います。

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2008年12月15日 (月)

近江八幡市は病院のPFI解約方針

1月30日のエントリー 近江八幡市PFI病院の倒産の恐れで書いた近江八幡市立総合医療センターのPFI契約を解約する方針を近江八幡市が決定したと報道がありました。

朝日 12月14日 病院PFI、初の契約解除 近江八幡市、違約金20億円

20億円は、誰のお金だと言いたい所です。1月30日に書いたことから、続けます。

1) 病院の平成19年度決算

こちらの近江八幡市の公営事業の状況の数字によれば、平成19年度の病院事業は27億57百万円の赤字で、一般会計からの繰入が8億5千万円です。人口が68,267人(平成17年)の近江八幡市ですから、一人4万円強です。従い、金額的には定額給付金より大きい。近江八幡市の全員が、定額一時金を市に寄附しても、赤字が埋まらない。あるいは、一般会計より繰り入れた8億5千万円を人口で割ると12,500円弱になり、丁度定額給付金と同じぐらいです。なお、平成19年度の損益計算書を続きを読むに入れておきます。

こちらに、平成20年9月10日開催の近江八幡市議会定例会の議事録があり、議事録によると次の通りです。(午後3時4分再開後の日本共産党加藤昌宏議員の質問に対する平野幸男総合医療センター事務長の答弁からです。)

 単位:百万円 平成17年度決算 平成18年度決算 平成19年度決算 平成19年度予算
医業収益 7,620 7,548 9,357 8,673
医業費用 7,418 7,780 12,114 9,795
医業損益 202 -232 -2,757 -1,122
医業外収入 201 836 - 782
医業外費用 392 742 - 1,036
経常損益 11 -138 -2,757 -1,376
年度未処理欠損金 11 -299 - -2,658

医業収益は予算と比較して7.9%増となっているが、費用は23.7%増となっている。こんな経営ってあるんですか?と思います。

2)PFI解約は当然

議事録を読み進むと、解約以外考えられなくなります。これでもPFIを続行しているなら、背任行為に思えます。議事録の次の部分です。

(加藤昌宏君) それでは次に、PFIとの交渉の問題について。
 市の直営という問題については、基本的には双方が一致されたということですが、あり方検討委員会もそうですけれども、監査委員もそうですけれども、直営とSPC委託との費用の試算について提案されていましたが、そういう内容について検討、計算されたのか、お伺いをしたいと思います。

総合医療センター理事(岡田一君) 直営の場合とSPCとの委託との経費の違いということでございますね。この分の違いにつきましては、いわゆるそれぞれの委託業務につきまして、SPCの経費という部分が入っておりますので、少なくともその部分については、直営の場合は安くなるということでございます。ただいずれにいたしましても、各業務ごとの見直しというふうな部分でございますね。例えば清掃であるとか、あるいは警備であるとか、そういうふうな部分につきましても、それぞれの業務の見直しというものは必要になると思います。
 以上でございます。

直営の方が安くなると明確に答えています。この質疑の後に、PFIの金融に関することにも話が及ぶが、当然明確な答弁はできません。もともと、PFIとして、民間に投げていたのだから、近江八幡市の手が届かない所ですから。

3)何故PFIであったのか

1月30日に書いたように、何故PFIを選んだのか、その説明をした文書が私には見あたりません。例えば、ここに近江八幡市の平成13年5月付の「近江八幡市民病院整備運営事業実施方針」があります。PFIについての説明は、1ページ目に次のように書かれています。

さらに、本事業は、民間事業者の資金、経営能力及び技術的能力の活用による効率的な病院整備・運営の実施と、市民に対する創意工夫に満ちた良質な病院サービスの提供の実現を目指すべく、民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(平成11 年法律第117 号。以下「PFI法」という。)に基づき実施するものとする。

ごまかしが行われていたのではと思えてしまいます。更には、ここに、平成13年6月8日付の「近江八幡市民病院整備運営事業実施方針等に関する質問回答集」があります。しかし、この中に、私が見た限りでは、何故PFIかの回答はありませんでした。

最も、そうかも知れないのです。この近江八幡市立総合医療センターの病院の経緯という文書によれば、「平成13年03月PFIによる新病院建設決定」と書いてあるのです。順序が逆であります。事業の基本方針を決定することが、最重要であるのに、決定後に、質問を受け付け既定路線を走ろうとしていたように思えます。

4)今後すべきこと

先ずは、PFIの解約ですが、その前に、近江八幡市民に対して、20億円の解約金・違約金の根拠を説明すべきです。そして、解約しなければ、更に損失が広がり、この事態に至った以上20億円で解約することが最小限度の損失で抑える方法であることを説明すべきです。私が、近江八幡市のWebを見た限りでは、残念ながら見あたりませんでした。(20億円は、近江八幡市民一人当たり3万円弱の金額です。

何故PFIを選択してしまったのか、損失の予測、リスクの予測等々はできなかったのか。適切な事業計画、事業計画の検討、PFIとしない直接経営等の代替案との事業比較、計画段階における適切な情報公開、公聴会はなされていたのか。課題は、限りなくあります。市民の税金で行う事業であるからには、適切な事業推進が必要です。この調査を実施することが、必要であり、またその調査報告書を公開することです。(サイゼリヤやアーバンコーポレーションについて、多くのアクセスを頂いていますが、サイゼリヤやアーバンコーポレーションもあのような情報公開は実施しています。)

PFIは、民間事業であり、地方自治体は損をしないとの考えがあったとしたら、大間違いです。むしろ病院を現時点では認められていない株式会社が経営するよりも不合理な制度がPFIであるとも言えます。何故なら、PFI事業とは、フレキシビリティーが働きにくい事業だからです。私は、病院をPFIで実施することは、勧めません。

万一、PFIによる事業実施の決定プロセスにおいて違法行為があったなら、損害賠償を求めざるを得ないと思います。なお、実施方針には、財団法人 日本経済研究所と株式会社 病院システムをアドバイザーとして起用すると書いてあります。この人達は、何ものでしょうか?少なくとも、アドバイザーが提出した報告書を全て完全公開すべきと考えます。もし、間違った提案をしていれば、アドバイザーに対しても損害賠償を求めるべきです。(そこまで責任を持った信頼できるコンサルタントを起用すべきです。コンサルタントも、大変で、人ごとではありませんが、無責任なことを言ってはならないと、心して私は仕事をしています。)

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2008年12月13日 (土)

オリックスの懸念

「火のない所に、煙は立たない。」でしょうか?オリックスの次のような、プレスリリースは気になってしまいます。

12月5日 証券取引等監視委員会への調査依頼について
12月9日 短期流動性について

Yahoo株価チャートを見ても、この6月間右肩下がりです。

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1) 5年もの借入には13%以上の金利上乗せ必要

J-CDSの5年CDS(Credit Default Swap)のオリックスの参考値が1312.5ベーシスポイントです。年率の%では、13.125%です。通常金利に、これだけ上乗せしないとオリックスは資金調達ができないと考えるべき参考値です。

J-CDSの説明は、このCDS参考値公表制度要領(PDF)をご覧下さい。東京金融先物取引所が、発表している参考値です。CDS参考値は、このページから見れます。ちなみに、オリックスも6ヶ月前の6月中頃は1%強でした。6月以降の推移は、以下の通りです。

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10月頃から急激にCDS参考値が上昇したのが分かります。CDS参考値は、貸倒リスク(倒産リスク)参考値とも言えるでしょう。オリックスの1312.5を分かりやすいように、他の会社と比較すると、自動車メーカーはトヨタ202.2、ホンダ231.4、日産514.8であり、低い会社として関西電力、中部電力、東京電力は46.0、46.0、46.66があります。

正直、1312.5は高いです

2) オリックスの財務内容

ここに第2四半期報告書があります。2008年9月末までなので、CDS参考値が高くなる前です。しかし、貸借対照表は現在もほぼ同じと考えられます。8.9兆円の資産のうち、3.6兆円が営業貸付金で、リースは2.1兆円で、有価証券が1.2兆円あります。純資産が1.2兆円で、負債が7.6兆円です。負債の中で、短期借入金1.3兆円と長期借入金4.5兆円があります。

問題は、短期借入金のなかにC/P(コマーシャル・ペーパー)も入っていると思いますが、返済をするための資金調達のコストは、金利上昇が避けられないと思えることです。もし、5年CDS参考値が13%故、5%高くつけば、650億円の年間金利負担増であり、10%高ければ1300億円増です。赤字転落の可能性もあります。

有価証券の中に、日本・海外の地方債が2575億円あるのですが、CDO(Collateral Debt Obligation、オリックスはモーゲージ担保証券と呼んでます。)が4946億円あります。このCDOの中身は不明ですが、CDS参考値が13%になっている理由は、このCDOかも知れない。あるいは、営業貸付金3.6兆円の不良債権の割合が高いのかも知れない。このあたり、無責任に勝手なことを言ってはならず、慎まねばならないのですが、オリックスのCDS参考値1312.5ベーシスポイントから想像をたくましくしました。

3) 他にCDS参考値の高い会社

オリックスより高い会社があります。アイフル2870、武富士2480で、プロミス1300はほぼ同じ。他に1000以上の会社は、日本航空1550や、最近高くなってきて有名なソフトバンク1011が見受けられます。

消費者金融も大変なのですが、オリックスより貸付金利が高いはずなので、少しはましかな。でも、2000以上なんて、消費者金融が資金調達をサラ金からしているような感じに思えます。

4) 金融機能強化法の成立

金融機能強化法(賞味期限延長法)が12月12日日経 金融機能強化法が成立 予防的な公的資金の注入可能にの報道のように成立しました。12月10日のエントリーで書いたように、金融機能強化法が対象としているのは、金融機関であり、ノンバンクは対象外です。しかし、この日経12月12日 政投銀、CPを直接購入 政府検討、企業の資金繰り支援のように、政策投資銀行が企業のC/P(コマーシャルペーパー)を購入することもするようです。そうすれば、優良大企業の資金援助は可能です。

オリックスは、どうするかですが、オリックスの資金貸付先の支援も必要だから、多少は援助すべきと思えます。但し、市場を無視してはならず、その場合は、CDS参考値並の市場貸付金利でC/P買い取りをすべきと考えます。

オリックスはあおぞら銀行の株式を保有しており、9.09%保有株主です。しかし、政府支援は、あおぞら銀行に直接すべきです。

重要なのが、中小企業の金融支援ですが、私は金融機能強化法でするなら、信用金庫、信用組合といった本来の中小企業金融を行うべき金融機関を強化して実施すべきと考えます。但し、必要に応じて、信用金庫、信用組合の再編を推進し、合理的に金融がなされるようにすべきです。

5) ヤミ金融

心配なのが、ヤミ金融です。消費者金融の財務状態を調査していませんが、アイフル2870、武富士2480のCDS参考値なんて、利息制限法より高いので、資金調達が失われたと同然。タダでさえ、グレーゾーン金利の返還をする必要があるのに、新規消費者ローンなんて考えられない。

その結果が、どうなるのか。ヤミ金融がはびこることを恐れます。ヤミ金融なんて、消費者金融のように優しくはないです。グレーゾーン金利や出資法違反金利を取り戻そうとしても、不可能に近い。一方で、藁をも掴まざるを得ない人はいると思います。

ここは、地方自治体等で、生活支援金融をされておられる人達に是非頑張ってもらいたいと思います。政府も、金融機能強化法、大企業C/P買い取りのみならず、生活金融支援を頑張ってもらいたい。麻生総理の緊急記者会見なんてありましたが、残念ながら生活金融支援については、ほとんどないと感じます。自殺者多発なんて、嫌です。

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2008年12月12日 (金)

サイゼリヤのデリバティブの恐ろしさ

サイゼリヤがデリバティブで153.1億円の損失を出しました。

日経 12月10日 サイゼリヤ、デリバティブ契約解除で損失153億円 全取締役を減俸に

サイゼリヤ 12月10日発表 デリバティブ契約解約に関するお知らせ

見逃してしまいそうですが、このデリバティブ取引は52百万豪ドルの円との為替スワップでした。従い、1豪ドルを65円とすると、34億円足らずの取引で153.1億円の損失になっています。目的が外貨変動為替ヘッジであれば、あり得ないような損失金額なので、少し分析します。

1) デリバティブ契約の内容

デリバティブ契約の内容については、この11月21日のサイゼリヤ発表 デリバティブ評価損発生見込みに関するお知らせに書かれています。2種類のデリバティブ契約があり、2007年11月22日と2008年2月7日に締結され、それぞれの契約締結時の豪ドルの為替レートは105.83円と98.93円でした。サイゼリヤは、オーストラリアから牛肉等の輸入があり、豪ドルを安く入手できれば、豪ドル決済の仕入れ価格も安くなります。そこで、これら2本のデリバティブ契約ではサイゼリヤが豪ドルを78円と69.9円で入手可能な契約としました。

但し、豪ドル為替レートが万一78円(もう一つの契約では69.9円より豪ドル安/円高になった場合は、比例級数的に逆に豪ドル高/円安の為替レートでサイゼリヤは円対価を支払う契約でした。金額は、2007年11月22日の契約は24百万豪ドルで2008年12月1日から2010年11月1日まで毎月百万豪ドルであり、2008年2月7日の契約では28百万豪ドルで2008年8月から2011年3月まででした。

チャートで示すとよく分かるので、チャートを作りました。(2007年11月22日の契約についてです。)

200812a

青のAUDスポットレートが、実際の豪ドル為替レートの動きです。デリバティブ契約を締結した頃は、豪ドルは100円程度であったので、まさか78円以下になるとは思っていなかった。しかし、2008年9月に悪夢の78円以下に突入した。しかも、この契約のスワップ時期は2008年12月からなので、読みと結果は全く逆に出てしまった。

基準為替レート78円以下になると比例級数的に豪ドル高/円安為替になるのですが、それを示したのが次のチャートです。これは、今後の為替が1豪ドル=65円で推移したと仮定してデリバティブ契約によるレートを計算したものです。

200812b

レートの上限である600円/AUDに2009年8月以降は張り付きました。

2) 教訓

上記の様な結果になったことから、反対取引を組んで、契約解除する以外に選択はなくなったと思います。これが、34億円足らずに相当する外貨変動為替ヘッジで、その5倍近い金額の153.1億円の損失を生んだ理由です。

デリバティブは、リスクヘッジに使用するものです。多分、サイゼリヤの経営者もレストランのメニューは円建てであり、豪ドルを78円や69.9円で固定して為替リスクをヘッジしたつもりでいたと思います。しかし、これはヘッジではありませんよね。

決して、「後出しジャンケン」で言っているのではありません。上のチャートは、ファイナンスのことが少し解っている人であれば、書けたのです。そして、チャートを書いたり、確率を計算したりして、リスクの度合いを予想できたのです。それと、インベストメントバンクの手の内を、ある程度は読むことができるのです。少しでも読めれば、落とし穴に気づいたりします。

ファイナンスコンサルタントでも経営コンサルタントでも良い、自社に人材がいないのであれば、外部の専門家に少しだけでも相談することと思います。サイゼリヤがデリバティブ契約を締結した相手は、この金融庁の行政処分により業務改善命令が出されたBNPパリバですが、さすがBNPパリバで、このようなデリバティブを作られたと思います。考えれば、ハイリスク・ハイリターンのデリバティブなんて、簡単なのかも知れません。不況になるほど、「貧すれば鈍する」に陥ってしまいやすいかも知れないので十分注意してください。

株主代表訴訟の訴えがあっても問題がないように経営をすることは重要です。このようなデリバティブ取引を実行する際は、そのデリバティブを持ってきたインベストメントバンクの説明のみを聞かず、他のファイナンスに詳しいコンサルタント等の意見も聴取して、経営者として判断することをお奨めします。日本は、金融商品を販売する際にはリスクについて十分に説明することを金商法が義務づけていますが、考えれば矛盾する点が少しあると思います。むしろ、同業者でない利害関係のないコンサルタントの意見が、私からすれば、よいと思います。

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2008年12月11日 (木)

納税者番号導入、所得税最高税率上げ

納税者番号導入、所得税最高税率上げを、10日午前の自民党税制調査会(津島雄二会長)の幹部会合で大筋を了承したとのことで歓迎します。

日経 12月10日 政府・与党、納税者番号導入を検討 所得税最高税率上げ

反対意見が出てくるでしょうが、所得税を上げないと、お先は真っ暗と思います。所得税を上げて、貧乏人の負担を軽くして、金持ちの負担が上昇するようにしないと、社会不安が解消せず、日本がジリ貧になる気がします。所得税増税は、超過累進課税を採用しているから、高所得者の税負担が大きくなるが、低所得者の負担を一定以上は上げられないので、所得再配分機能が働きます。(なお、考え方によっては、小渕内閣時代に景気対策として時限的に特例として下げた所得税率を元に戻すだけとも言えます。)

観点を変えて考えると、「所得税を上げること」と「消費税を上げること」のどちらが良いかです。勿論、両方とも上げないことが納税者としては、良いに決まっています。しかし、サービスを受けるための財源として負担するなら、どちらが良いかです。私は、所得税が合理的と思います。何故なら、高所得者の負担を大きくして、低所得者の負担を少なくする調整が所得税だと可能だからです。

9月4日のエントリーの中で、次のグラフを掲げました。

0809

紫の線が社会保障負担です。コンスタントに右肩上がりで、これは年金保険料と健康保険料です。グラフは、GNI(国民所得)に対するパーセンテージです。しかも、この紫の線の社会保障負担は、年金改革もあり医療費の増加もあり、右肩上がりが継続します。一方で、保険料であるが故に、一定の高所得者以上は定額となり、そのような高所得者の負担パーセンテージは低くなります。

黒の線が国税で、茶の線の地方税より少しパーセンテージが高いものの、国税収入には法人税もあることから、1990年をピークに下がるか横ばいです。赤の線が、国税と地方税の合計です。これも同じで1990年がピークです。格差社会を緩和することが重要だと考えるなら、所得税の増税が最も有効であり、例えば年間所得3千万円以上の人あたりをターゲットにしたらと思います。次のグラフは、年間所得3千5百万円以上の人について10%増税した場合のグラフです。

200812

なお、最初のグラフの潜在的国民負担率のパーセンテージは、赤字国債も含めて負担率と計算した場合です。つまり、赤字国債も将来返済することから国民負担です。実際の負担は、将来に来るので、言わば将来増税の約束です。

次に納税者番号ですが、大賛成です。公平な課税が原則であり、不公平を無くさないと社会は成立しません。今は、住基ネットという個人には何の役にも立たない番号が割り振られて管理されています。住基ネットの番号を個人で知っていて役に立つことはないと思います。

歳入庁をつくり、年金、健康保険、地方税、国税全て統合して徴収すれば、不正は生じにくくなります。徴収経費も安くつきます。日本が、やっと先進国になれることを期待します。

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2008年12月10日 (水)

金融機能強化法の改正案が12日成立の見込み

金融機能強化法の改正案が成立する見込みとなりました。

日経 12月9日 金融機能強化法の改正案、12日に成立へ 自民、民主が合意

1) 成立に合意と言うが

面白いですね。報道では「11日の参院財政金融委員会で採決するが、この委員会とその翌日の12日に開催される参院本会議では野党の反対多数で否決され、同日中の衆院で再可決成立することで固まった。」と言うのですから。

中身より、メンツみたいな感じでしょうか?

2) 改正と言うが

改正と言うが、賞味期限延長法の様な気がします。例えば、この法案に書いてあるのは、次の第3条第1項のような条文です。分かりやすいように、その下に、第3条第1項を掲げておきますが、「平成20年3月31日まで」を「平成24年3月31日まで」と変更しただけです。

第三条第一項中「平成二十年三月三十一日」を「平成二十四年三月三十一日」に改め、「第十五条第一項」の下に「及び第三十四条の二」を加え、同条第二項中「平成二十年三月三十一日」を「平成二十四年三月三十一日」に改める。

預金保険機構(以下「機構」という。)は、金融機関等(銀行持株会社等を除く。以下この章において同じ。)から平成二十二十四年三月三十一日までに当該金融機関等の自己資本の充実のために行う株式等の引受け等(当該金融機関等が銀行等である場合にあっては、株式の引受けに限る。)に係る申込み(第十五条第一項並びに預金保険法 (昭和四十六年法律第三十四号)第五十九条第一項 、第六十九条第一項、第百一条第一項及び第百五条第一項の規定によるものを除く。)を受けたときは、主務大臣に対し、当該金融機関等と連名で、当該申込みに係る株式等の引受け等を行うかどうかの決定を求めなければならない。 

3) 農林中央金庫

上に掲げた第3条1項に該当する金融機関等とは

1 銀行、2 長期信用銀行、3 信用金庫、4 信用協同組合、5 労働金庫、6 信用金庫連合会、7 信用協同組合連合会、8 労働金庫連合会、9 農林中央金庫、10 農業協同組合連合会、11 漁業協同組合連合会、12 水産加工業協同組合連合会、13 銀行持株会社等ですが、最後の銀行持株会社が除かれていることから12種類ですが、色々あるものです。

この法案は、11月5日衆議院財務金融委員会で可決された際に附帯決議がなされています。附帯決議の内容は、続きを読むに入れておきましたが、農林中央金庫と新銀行東京に関連して附帯決議がなされています。

そのうちの一般の人に馴染みが薄いのが農林中央金庫です。馴染みが薄いのは、当然のことで、何故なら出資者は会員である農業協同組合(JA)、漁業協同組合(JF)、森林組合(森組)、およびそれらの連合会、その他の農林水産業者の協同組織等で2008年3月31日現在で4,260団体ならびに優先出資者となっている金融機関、証券会社等です。現在の資本金2兆160億円のうち、会員による出資金が1兆9910億円で98.8%が会員による出資です。また、預金が2008年9月30日現在で38兆3119億円ありますが、この預金の大部分は会員である出資者で、そのうちでも農業協同組合関係が85%以上を占めています。

農林中金の2008年9月末の連結貸借対照表がここにありますが、その概略は、純資産が2.4兆円(うち資本金が2.0兆円)で負債が55.6兆円です。そして、この負債と純資産の合計58.1兆円に対する資産は、貸出金8.8兆円、有価証券32.9兆円、それら以外が16.4兆円であり、56.7%が有価証券での運用です。

農林中金は、農林中央金庫法により設立された法人であり、農林中央金庫法第1条には、「農林中央金庫は、農業協同組合、森林組合、漁業協同組合その他の農林水産業者の協同組織を基盤とする金融機関としてこれらの協同組織のために金融の円滑を図ることにより、農林水産業の発展に寄与し、もって国民経済の発展に資することを目的とする。」とその目的が定められています。農林水産業と農林水産業者のための組合組織としての金融機関であり、農林水産事業に資金貸し付けがなされるのが本来の姿であると思います。しかし次の表(農林中金ディスクロージャー誌より)のように、貸付金の相手に農林水産事業者は少なく、しかも貸付金より有価証券が大部分といびつな形になっています。

Nochuu0803yokin

日本の農業は、自給率が低下し、働き手が高齢化し、価格競争力が多くの農産物で失われておりと悪循環に陥っていると思います。その結果が、農林中金の財務状態であり、預金はあるが、その運用は有価証券となっているという変な形になっていると考えます。有価証券が多い為に、2008年9月末のその他有価証券評価差額金は1兆円のマイナスです。その結果は、この1兆円を超える資本調達です。仮に32.9兆円の有価証券が10%価値が下がれば、3.3兆円なので、増資後の純資産が1兆円増加しても3.4兆円なので、ほぼ同じです。最も、1兆円キャッシュが増えても、どうするかまた問題が増えます。有価証券の明細を分析していないので、これ以上述べることはしませんが、実情は大変だと思うし、その原因が日本の農林水産業の構造的問題に起因しており、経営が悪かったと単純に言える状態ではないことを指摘しておきます。農林中金に関しては、金融機能強化法なんてレベルではない、農林水産業振興基本法のようなものが必要ではないかと思います。

4) 金融機関に対する資本増強

金融機能強化法の改正案が成立するのでしょうが、実際に個別の金融機関の再編や資本増強は何時になるのか興味があります。即ち、現在の状況では、自民党は衆議院選で負ける可能性があります。そうなると、今回民主党が反対するものの、実は資本増強時の与党は、民主党、あるいはXX連立だったりして。そう考えると、皮肉の皮肉、訳が分からない。

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2008年12月 8日 (月)

余りにも酷い麻生発言

麻生首相の「労働は罰」発言には驚きました。

日経 12月8日 首相「7割の宗教で労働は罰」 日本は「善」と認識

麻生太郎首相は7日の熊本県天草市での演説で、高齢者雇用問題に触れた中で「世界中、労働は罰だと思っている国の方が多い。旧約聖書では神がアダムに与えた罰は労働。旧約聖書、キリスト教、イスラム教、足したら世界の何割だ。7割くらいの宗教の哲学は労働は罰だ」と述べた。

とありますが、キリスト教やイスラム教の人が聞いたら、何て思うのでしょうね。私が知っているキリスト教やイスラム教を信仰している人の中で、労働が罰だと思っている人は、一人もいません。逆に、日本の民間信仰の中に、「前世の行いが良くなかったから、今このような境遇にある。つらい労働もそのためだ。」との思想があると思います。

社会主義革命は、労働は尊ばれるべきものであり、資本主ではない労働者が中心となるべき社会を目指すのだとして起こったというのが私の理解です。ソ連社会主義は、崩壊しました。しかし、労働を尊ぶ考え方まで否定されたと誰も思っていないし、現実にそのような社会を目指して多くの人達が尽力していると思います。

米国で、自動車ビッグスリーが救済の対象として議論されているのは、下請けを含め自動車産業で働く人達に対する配慮があるからです。労働政策は、政府の政策の中で、最も重要な政策のはず。

リーダーの資格どころか、政治家としても失格と言わざるを得ない。「我が国のみが正当だ。隣国はバカだ。隣国を滅ぼそう。」と言って、反対する者には「愛国心のない人間だ。」と非難するマンガを見ているみたいです。(KYなのだから、仕方ない。KYの人だって、ずっとまとも)

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2008年12月 5日 (金)

国籍法改正の成立

最高裁が判断した国籍法3条1項の要件は過剰であり、その過剰部分である国籍法第3条の適用は憲法に違反するとした部分の法律改正が本日参議院で可決成立しました。

朝日 12月5日 改正国籍法が成立 国民新・新党日本は反対

判決があった翌日の6月4日に国籍確認訴訟の最高裁判決を書いたこともあり、今回の国籍法改正に関しても、すこし書きます。

1) 3条1項の改正内容

改正に係わる法文は、ここにあります。3条1項の修正を書き出すと次の通りです。(横線で消した部分が今回の改正で削除され、アンダーライン部分が挿入されます。)

父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した父又は母が認知した子で二十歳未満のもの(日本国民であつた者を除く。)は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であつた場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であつたときは、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。

改正前は嫡出子となっていたことから、非嫡出子は3条1項の適用外でした。改正は、単純に認知した子としたので、嫡出子と非嫡出子の区別はなくなりました。なお、非嫡出子であっても、生前認知の場合は、国籍法2条で「日本国民」と出生時になります。

この裁判所のWebに6月3日の最高裁判決文があります。例えば、次の文章も含まれています。

国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは,憲法14条1項に違反するものであったというべきである。

2) 投票結果

投票結果は、投票総数 229のうち、賛成票 220、反対票 9でした。ここに、議員毎の投票結果があります。

最高裁が違憲だとしたことにより、合憲にするための改正にも拘わらず、何故反対票を投じる議員が存在するか、奇異なところです。憲法は、国民が定めたものであり、議員は憲法に従わねばならず、憲法に合致した法を制定せねばならない。

反対票を投じた議員の反対理由は、偽装認知の問題です。

3) 国籍法改正と偽装認知

改正前と比較すれば偽装する手段は増加したのでしょうが、次の憲法14条1項という極めて重要な人権の確保がより重要なことであり、憲法14条1項は私たちが絶対に守り抜かねばならない憲法条項と考えます。

憲法14条1項 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

しかも、今回の改正条文の「父又は母が認知」と言う意味は、「父又は母が自分の子供である」と宣言することであり、偽装すれば民法772条の公正証書原本不実記載(5年以下の懲役又は50万円以下の罰金)にもなります。父又は母には、扶養の義務が一生涯にわたって生じます。父が子供と言うからには、外国に住んでいた母親の子であれば、その国や場所で母親と会っていなければならず、国外であればパスポートその他記録が存在します。偽装が全く生じないとは言えませんが、認知するに当たり本人が手続きせねばならないことから、牢屋覚悟でないとできないのではと思います。スピード違反や飲酒運転は、証拠が残らないが、認知偽装は証拠を残し、しかも犯罪者の名前を記録に残す行為ですから。

参院法務委員会での12月4日の採決に際しては、付帯決議にDNA鑑定導入の当否の検討が盛り込まれたようですが、DNA鑑定にも問題はあります。すなわち、DNAが親子の判定として使うことで良いのかです。DNA上では実は親子ではないが、戸籍上も親子として生きておられる方もおられると思います。例えば、こんな最高裁判決の事件もありました。(母が子供を実の子ではないと親子関係不存在の訴えを出したが、最高裁は権利の濫用であるとしました。)

DNA鑑定を当事者間で合意して実施するのは構わないのですが、国家権力がDNA鑑定をするとこを認めることの恐ろしさを感じます。(権力がDNA鑑定を実施するのは、犯罪の捜査等特殊な場合のみ強制力が許されると考えます。)

その他、偽装認知関連に関しては、ここに11月27日の参議院法務委員会の議事録があり、中央大学教授の奥田安弘氏と日本弁護士連合会の遠山信一郎氏が参考人として意見を述べておられます。私の変な文章より、両氏が述べたことがずっと参考になると思います。

4) 不可解な反対者

それでも反対者がいるし、不可解です。例えば、11月27日の参議院法務委員会の議事録の丁度中程に新党日本田中康夫氏による質疑があります。「ペドフィリア」なんて私なんか聞いたことがないような言葉を使って、人身売買の類を促進すると言っています。しかし、それは別の法律がカバーすべきで、人身売買関連の現行法が不十分なら、そちらを整備すべきであります。

この産経 11月17日 によれば、国籍法改正案を検証する会合に賛同する議員の会なんて国籍法改正反対議員の連合ができたとのニュースがあったり。この河野太郎ブログのコメント欄閉鎖宣言は、国籍法反対の書き込みが集中して炎上した結果と聞いています。

もっと素直になって、平常心を持ち、理性で思考すれば良いと思います。

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2008年12月 4日 (木)

後期高齢者医療制度の保険料滞納

次の朝日のニュースですが、後期高齢者医療制度の保険金は年金から天引き(特別徴収)だと思っていたことから、滞納という言葉に最初は驚きました。

朝日 12月1日 高齢者医療滞納20万人 主要72市区を本紙調査

1) 滞納となる直接原因

天引き(特別徴収)は、年金額18万円未満の場合はされないのですね。この厚生労働省のパンフレットにも、次のように書いてあります。

月額1万5千円以上の年金をもらっている方は、窓口に出向いて納めていただく手間をかけないため、原則として、2か月ごとに払われる年金から2か月分の保険料をお支払いいただきます。

「窓口に出向いて納めていただく手間をかけないため」と言うのは、表向きで、本当は徴収経費を節約するためと理解しています。徴収経費節約は、とても重要なことです。節約した金額を医療費に回せるのですから。

逆に言えば、年金月額1万5千円未満となる後期高齢者からは、どうやって徴収するか、大問題だろうと思います。そこで、年金月額1万5千円未満で他に収入がない人の保険料いくらか心配になります。

2) 年金月額1万5千円未満の後期高齢者医療保険料

後期高齢者医療保険料は広域運用がなされており、都道府県毎の保険料と理解します。朝日の記事には「東京都杉並区は約2割に上る。」とあり、東京都の保険料を探すとここにありました。

年金月額1万5千円未満の場合は、所得割は適用されず、均等割は月450円(年5,400円)です。そんな金額なら、徴収経費の方が、高くつくと思います。徴収経費の方が、高ければ、免除した方が、合理的になります。朝日の記事は、「滞納している高齢者は計20万6745人と、全体の約5%」と述べています。

3) これからどうなる後期高齢者医療制度

「後期高齢者医療制度の廃止等及び医療に係る高齢者の負担の軽減等のために緊急に講ずべき措置に関する法律案」が2008年6月6日に、投票総数 231のうち賛成票 133、反対票 98で参議院において可決されているんですね。投票結果はここにあります。しかし、現状においては、衆議院で採択すらされる見込みはない。

ところで、いずれ衆議院総選挙があります。その結果、自民・公明が負ければ、この法律は成立する可能性があるのではと思いました。

仮に後期高齢者医療制度が廃止になったとして、その後はどうなるのでしょうか?抜本的な医療保険制度の改革をすべきと私は考えます。自民党政治というか55年体制というか、八方美人のパッチワーク政策が破綻していると思えます。100年安心なんて、嘘っぱちの標語に、惑わされてはならない。数字を正しく分析して、正しい判断を下す必要があると思います。さもないと、後期高齢者医療制度が廃止になっても、何も解決しないことになると思います。

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