後期高齢者医療制度の保険料滞納
次の朝日のニュースですが、後期高齢者医療制度の保険金は年金から天引き(特別徴収)だと思っていたことから、滞納という言葉に最初は驚きました。
朝日 12月1日 高齢者医療滞納20万人 主要72市区を本紙調査
1) 滞納となる直接原因
天引き(特別徴収)は、年金額18万円未満の場合はされないのですね。この厚生労働省のパンフレットにも、次のように書いてあります。
月額1万5千円以上の年金をもらっている方は、窓口に出向いて納めていただく手間をかけないため、原則として、2か月ごとに払われる年金から2か月分の保険料をお支払いいただきます。
「窓口に出向いて納めていただく手間をかけないため」と言うのは、表向きで、本当は徴収経費を節約するためと理解しています。徴収経費節約は、とても重要なことです。節約した金額を医療費に回せるのですから。
逆に言えば、年金月額1万5千円未満となる後期高齢者からは、どうやって徴収するか、大問題だろうと思います。そこで、年金月額1万5千円未満で他に収入がない人の保険料いくらか心配になります。
2) 年金月額1万5千円未満の後期高齢者医療保険料
後期高齢者医療保険料は広域運用がなされており、都道府県毎の保険料と理解します。朝日の記事には「東京都杉並区は約2割に上る。」とあり、東京都の保険料を探すとここにありました。
年金月額1万5千円未満の場合は、所得割は適用されず、均等割は月450円(年5,400円)です。そんな金額なら、徴収経費の方が、高くつくと思います。徴収経費の方が、高ければ、免除した方が、合理的になります。朝日の記事は、「滞納している高齢者は計20万6745人と、全体の約5%」と述べています。
3) これからどうなる後期高齢者医療制度
「後期高齢者医療制度の廃止等及び医療に係る高齢者の負担の軽減等のために緊急に講ずべき措置に関する法律案」が2008年6月6日に、投票総数 231のうち賛成票 133、反対票 98で参議院において可決されているんですね。投票結果はここにあります。しかし、現状においては、衆議院で採択すらされる見込みはない。
ところで、いずれ衆議院総選挙があります。その結果、自民・公明が負ければ、この法律は成立する可能性があるのではと思いました。
仮に後期高齢者医療制度が廃止になったとして、その後はどうなるのでしょうか?抜本的な医療保険制度の改革をすべきと私は考えます。自民党政治というか55年体制というか、八方美人のパッチワーク政策が破綻していると思えます。100年安心なんて、嘘っぱちの標語に、惑わされてはならない。数字を正しく分析して、正しい判断を下す必要があると思います。さもないと、後期高齢者医療制度が廃止になっても、何も解決しないことになると思います。
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コメント
こちらのブログに直接コメントするのは初めてですが、いつもアチコチではお世話になっています。改めてお礼申し上げます。
さて、年金の月額15000円未満(年18万円未満)の後期高齢者の未納問題ですが、とりあえず3点ご指摘させてください。
1点目:後期高齢者医療保険料の特別徴収対象にならない、年金の月額15000円未満の老齢者の年間所得あるいは年収は、年金だけとは限りません。現役の自営業者(主に農業など)、利子配当所得、家賃不動産収入などで年収数百万円を超える後期高齢者もかなり含まれているはずです。特別徴収対象外=均等割の月額450円の保険料=徴収コストの方が上回る、の図式でイコールではありません。その一つの事例として、下記の2点目と3点目を例示しておきます。
2点目:特別徴収にならない年金の年額18万円未満とは、一つの年金制度(年金の支払者)から受ける公的年金が18万円未満の場合です。次のような場合は年金の総額は18万円を超えても特別徴収(年金からの保険料控除)は行われません。
・老齢基礎年金…17万円(社会保険庁)
・老齢厚生年金…16万円(厚生年金基金)
・退職共済年金…17万円(公務員の共済組合)
受給年金の合計50万円ですが、特別徴収出来ない
3点目:後期高齢者で年金額18万円未満の場合で、現役世代の子供に扶養されていて、ゆとりある生活を営んでいる場合でも、本人の所得が年18万円に満たない年金だけであれば、均等割の月額450円の納付義務があります。同居している倅夫婦と合計したら、家族の総収入が1千万円以上ということもあります。そうした場合でも後期高齢者本人を扶養している家族の年齢や組み合わせによっては、高齢者の年金所得だけで判断されて月450円だけの保険料です。
ご紹介された東京の保険料例示のHP(下記URL)での、例14がこうした実例です。
http://www.tokyo-ikiiki.net/seido/santei.php
以上の通り、特別控除の対象外である年金額が月額15000円未満の高齢者=年間収入が年金の18万円未満しかない貧窮者、とは断言できません。特別控除対象外であっても、平均以上の生活水準の高齢者も多いのです。
投稿: 法務業の末席 | 2008年12月 6日 (土) 09時15分
法務業の末席サン コメントありがとうございます。
「特別控除の対象外である年金額が月額15000円未満の高齢者=年間収入が年金の18万円未満しかない貧窮者、とは断言できません。」については、私もその通りと考えます。
但し、年金額が月額15000円未満の高齢者の中には、生活貧窮者も相当多いと想像します。
法務業の末席サンのご指摘について、
1点目:
医療保険料の所得割の算定対象所得は、前年の総所得金額及び山林所得金額並びに長期(短期)譲渡所得金額の合計から基礎控除額330,000円を控除した額なので、年金以外に所得(例えば、家賃収入)があれば、月額450円なんて少額ではなく、軽減措置が適用されないこともあり得る。
特別徴収はできないが、当然徴収すべきと考えます。さもないと、不公平が生じます。
年金額を特別徴収の適用・不適用の基準にするのではなく、全て特別徴収とし、領収書を発行するという原則を貫くのが良いと私は思うのですが。
ところで、年金額18万円未満の場合に特別徴収を適用しないことの根拠省令等は何でしょうか?私も、実は、その根拠が確認できず、後期高齢者広域連合のパンフレットや案内書等のみで書いています。
2点目:
そのように想像していましたが、根拠となる省令等が分かっておらず、あくまで想像でした。
なお、蛇足なのですが、法務業の末席サンがあげておられる例の老齢基礎年金…17万円の場合は、現実にはあり得るのでしょうか?即ち、老齢厚生年金を受給している場合です。老齢厚生年金の受給資格も保険料を納めた期間が原則25年以上なので、25年以上納めれば、老齢基礎年金は18万円以上になると思ったからです。勿論、納付免除もあるし、高齢者で制度が今とは異なる場合もあり、中にはそんな例外的な人もいるとは思うのですが?
3点目:
例14の場合や、預金や不動産等多くの資産を持っているが、年金保険料を納付していなかったから年金額18万円未満の人もいると思います。一方で、所得がなく月450円の保険料となる人から保険料を徴収してどれほど意味があるのかなとも思います。
即ち、扶養している子供や孫が所得税を支払い、資産に対して預金利息の税、固定資産税等が正当に支払われていれば、辻褄が合っているような気もします。最も、この点からすると、証券優遇税制の継続なんて私は反対です。正規の税を適用すれば良いのですから。それでも、5年以上保有の場合の税率2分の1や、損失の他の所得との相殺、そして次年度へ損失の持ち越し等の適用があるのですから。
生活保護を受けていなければ、後期高齢者医療保険料も介護保険料も全額免除にはならないと私は理解しています。生活保護を受けるかどうかでギャップがありすぎるのかなと思うのです。生活保護を受けるためには、親族が扶養できないとか、資産を売却・処分しなければならないとか、簡単ではないが、一旦生活保護を受けてしまうと、元に戻ると、保険料は軽減措置はあるものの、払わねばならず、生活保護から抜け出せなくなったりして。悪循環が生じていないかと懸念します。
投稿: ある経営コンサルタント | 2008年12月 6日 (土) 12時35分
ある経営コンサルタント様
お尋ねの件についての回答ですが、出来るだけ専門的な内容にまで踏み込んで正確性を期しましたので、少々長くなりました。申し訳ない。
>> 年金額18万円未満の場合に特別徴収を適用しないことの根拠省令等は何でしょうか?
【回答】特別徴収については、高齢者の医療の確保に関する法律第110条により、介護保険法での特別徴収の規定(介護保険法第134条他)を準用しています。そして介護保険法の文言や数字の読み替えについては、政令(高齢者の医療の確保に関する法律施行令)に拠ります。当該政令は下記の通りです。
高齢者の医療の確保に関する法律施行令
(平成十九年十月十九日政令第三百十八号)
『第二十二条 準用介護保険法第百三十四条第一項第一号 及び第二項 から第六項 までに規定する政令で定める額は、十八万円とする。』
>>老齢基礎年金…17万円の場合は、現実にはあり得るのでしょうか?
【回答】老齢年金の受給資格を得るためには、ご指摘の通り原則として受給資格期間(年金加入期間=保険料を納付した期間)が、通算で25年間(300月)以上が必要です。しかし特例として「合算対象期間」(別名:カラ期間)を先の受給資格期間に参入することが出来ます。この合算対象期間は過去の任意加入出来た時代に、任意加入(保険料納付)をしなかった期間を言い、受給資格の要件である25年の加入にはカウントしますが、年金額(老齢基礎年金)の金額計算ではゼロ円で計算されます(金額はゼロだからカラ期間)。このカラ期間の代表例は昭和61年3月以前のサラリーマンの専業主婦(専業「主夫」でもOK)、つまり昭和61年4月の改正で設けられた第3号被保険者に相当する期間です。
このカラ期間が299月で、国民年金の保険料納付が1ヶ月だけの、合計300ヶ月(25年)の場合でも老齢基礎年金が支給されます。この1月分以外に公的年金(国年・厚年・共済)の加入期間が無い場合、この人の年金受給額は、年額1651円の老齢基礎年金だけが支給されることになります。
私が先の投稿で例示した老齢基礎年金17万円の事例では、20歳~60歳までの公的年金の保険料納付期間が約8年半の場合の金額ですが、15歳の中卒で就職して厚年又は共済に加入した20歳までの5年弱の期間は、老齢基礎年金の計算上は先のカラ期間としてカウントされます。ですので、中卒で郵便局などに就職して20歳までの5年弱を共済に加入し、20歳からは旧電電公社に転籍して現在のNTT厚生年金基金に8年半勤めて退職し、その後16年半は合算対象期間だった場合を想定しています。共済年金と厚生年金基金の金額は、その勤めていた当時に幾らの給料(報酬額)を貰っていたかで相当な違いが生じますが、理論上は充分に可能性のある年金額の事例です。
投稿: 法務業の末席 | 2008年12月 6日 (土) 18時24分
続きです。
>> 所得がなく月450円の保険料となる人から保険料を徴収してどれほど意味があるのかなとも思います。
【回答】月々15000円の年金だけで全ての生活費を賄って暮らす老齢者が居ると思いますか?、年に18万円未満の年金収入しか無く、他に収入や取り崩す資産(預貯金など)が無胃のであれば、当然この老齢者は生活保護を受けなければ生きていけません。でも報道された東京都杉並区の老齢者は、一体どうやって暮らしているのでしょうか?
答えは子女や孫などによる「扶養」です。同居して衣食住の一切を賄って貰っているか、別居している子女からの仕送りなどの家族間の援助により、こうした老齢者は生計費を賄っています。
こうした扶養・仕送り・生活支援という個々の財貨の世代間の移転を、国家が社会全体の制度として整備したものが「社会保険制度」です。本来は若い現役世代が、毎月の稼ぎの中から社会保険料という形で老人世代への扶養に要する費用を拠出し、その拠出された費用負担(保険料)を原資にして医療費や年金を給付する。これが「世代間扶養の社会保障制度」です。つまり一人一人が自分の親の面倒を見るのではなく、同じ現役世代の仲間が協同連帯して自分たちの親を扶養する制度が「社会保障制度」で、その原資を所得収入に比例して応能負担の保険料として拠出するのが「社会保険制度」なんです。個人が所得収入に応じて拠出する保険料ではなく、企業収益や経済取引などから徴収する税金を原資として社会保障制度を維持運営することが「社会福祉制度」です。
そして、どのレベルの生活水準を保障するか、国民的合意された生活レベルが「社会保障水準」です。すなわち憲法で規定される「健康で文化的な最低限の生活」を保障するのが「社会保障」であり、その生活レベルが「社会保障水準」です。その社会保障水準を実現するための手段が保険料拠出による「社会保険制度」であり、税負担による「社会福祉制度」です。
日本では、この「社会保障」「社会保険」「社会福祉」の概念定義が正しく理解されていないことが多く、非常に残念に思うところです。
>>扶養している子供や孫が所得税を支払い、資産に対して預金利息の税、固定資産税等が正当に支払われていれば、辻褄が合っているような気もします。
【回答】日本の健康保険制度の最大の欠陥は、被扶養者の有無に拘わらず保険料同じということです。国民健康保険には均等割として世帯の加入者数に応じた保険料計算部分(市町村ごとに違いますが、加入者1人につき月額で数百円~千数百円程度)がありますが、被用者保険制度(健保・共済)は、扶養する妻子や親などが何人居ても独身者と同じ保険料です。そのために年金受給年齢の高齢者は、従来は現役世代の子女の被扶養者となって健康保険料を一切負担していない人が大多数でした。
自らは年金を貰いながら、医療の面では保険料を負担せずに低い窓口自己負担(老人保健は窓口負担がタダの時代があったぐらいです)で、若い現役世代より多額の保険給付を受給(医療費が多い)しています。この老人世代の負担は少額で給付は多額というアンバランスが、国民皆保険制度を蝕む大きな病巣(癌)となっていました。結果として保険給付を一律に圧縮する為に保険診療報酬(レセプト点数)を低く抑えることになり、医療機関の資金不足や赤字での医療崩壊の要因となっています。
このような「老人は負担無しで医療は使い放題」を是正する目的で導入されたのが、75歳以上の被扶養者の廃止による後期高齢者保険制度で移行あり、原則全ての75歳以上の国民からの保険料徴収です。ただこうした後期高齢者医療制度の理念や目的が、国民に対して充分に説明されて納得を得ていたかという点では、政府や厚生労働省の過去の努力は不充分と言わざるを得ません。特に残念なのは、国会議員や医療ジャーナリスト、医療業界の方々(医師や病院設置者)にも、後期高齢者医療制度導入の意義目的や理念が誤解されていることです。
投稿: 法務業の末席 | 2008年12月 6日 (土) 18時34分
法務業の末席サン 丁寧なご説明を大変ありがとうございます。
読ませていただいて、制度の小手先の改良ではなく、根本的な改革をせねば制度維持が最早困難と思うのです。根本的な改革のためには時間を掛けた議論や様々な人々、機関、団体による調査が必要と思いますし、ある日突然急激に制度変更とすることもできず、移行期間もそれなりに必要と思います。
早急な対応が必要な事項もあれば、十分な議論が必要な事項もあると思います。
裁判制度にしても重要な改革を十分な議論なしに最近は実施しすぎていると思います。(私なんか、民事は何故とばしたか、何故3:6なのか全く解っていません。)審議会にしても、事務局が初めから結論を持っていて、その結論通りに短期間に無理矢理収めるような。
投稿: ある経営コンサルタント | 2008年12月 6日 (土) 21時44分