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2008年12月19日 (金)

医療報道の読み方

変なタイトルにしましたが、理由は次の産経の記事からです。

MSN産経 12月17日 【国循の不同意治験】母親「納得できぬ」変わり果てた姿…説明なく

これだけを読むと、国立循環器病センターは問題のある医療機関だと思ってしまいます。同じことを朝日は次のように報道しています。

朝日 12月17日 治験での人工心臓手術後に植物状態 1年後に少年死亡

ニュアンスが異なって受け取れます。産経は患者家族のみの取材で書いています。しかし、朝日のWebには、「会見で記者の質問に答える国立循環器病センターの友池院長(中央)ら=17日午前10時58分」と説明が付された写真があり、記者会見を行い、多分産経の記者も出席していたと思います。患者家族の気持ちを報道することは誤りではありません。しかし、一方のみを報道すると誤解を生じさせる可能性があり、一流の報道機関を目指すのであれば、偏った報道は避けるべきと考えます。特に医療関係に関しては、私の場合は、大淀病院毎日報道がきっかけでしたが、患者サイドに感情移入した報道が多いと感じます。医療をよくするには、問題点の根本をついた報道を望みます。国立循環器病センターのこの件についての私の報告は以下の通りです。

1) 人工心臓・エバハートとは?

この東京女子医大のWebに植え込み型遠心ポンプエバハートの説明があります。拡張型心筋症や虚血性心筋症等で、死亡の危険が高く治療方法としては心臓移植があるが、脳死下の臓器提供数は非常に限られている。心臓移植に代わる方法としては、人工心臓があり、世界でも開発中で既に使用中の補助人工心臓も存在する。当然のことながら、心臓移植よりも人工心臓の方が広く適用可能となるはずであり、更なる開発と本格実用化を推進すべきであるとの意見が多くある。

エバハートは、東京女子医大の山崎健二医師の考案した補助人工心臓であり、実用化を目指しているメーカーは株式会社サンメディカル技術研究所で、ホームページはここにあります。又、エバハートの説明はここにあります。エバハートは、補助人工心臓であり、左心室に付けて使う補助循環装置で、本来の心臓を取って置換るものではありません。但し、本来の心臓が回復するか、あるいは心臓移植を受けるまでは、エバハートは取り外さず、ずっと使用を続けます。エバハートを付けたままで退院し、高いQOLをおくれる可能性もあるとのことです。東京女子医大のWebのエバハートの絵を勝手にコピーしたのが次です。

Evaheart02

2) 治験

治験とは、薬事法14条に従い医薬品、医薬部外品、特定の化粧品又は医療機器の製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けるために実施する臨床試験であり、医療機器についての臨床試験に関しての基準は医療機器の臨床試験の実施の基準に関する省令(臨床試験の省令)で規定されています。

治験においては、未だ政府承認を受けていない段階の医薬品や医療機器を使用するのであり、当然のこととして健康保険の対象外です。メーカーが将来の販売時の対価で回収する研究費として費用負担をします。但し、入院費等保険対象のものもあると理解します。そして治験については、臨床試験の省令においてインフォームドコンセントを初め、厳しい規定がなされています。

治験があるからこそ新しい医薬品や医療機器が使えるようになり、今まで治療困難であった分野の治療が可能となる。但し、野放し状態では大変なことになるのであり、合理的なルールがあってこそ、社会や人々が応援することができる。又、自分自身があるいは身近な人、又は子孫が将来必要となった場合、その治験の結果として有効且つ安全と確認された医薬品や医療機器を使用できることなる。

3) 報道されたケース

当時18歳の拡張型心筋症の少年で、2007年春に、エバハートを装着する手術を受け、それから約1年後に死亡したとあります。多分、エバハートが最善の治療方法であったのだと思います。そして、国立循環器病センターは、当然のこととして、少年の病気やエバハートのことについて様々な説明をして、少年も少年の家族も合意してエバハートを装着する手術を受けたのだと思いますし、この部分は、そうであったと確信します。もし、そうでなければ、問題にすべき点です。

産経の記事は、「同意を得ぬまま治験が継続された疑いが浮上した。」とあり、手術から6月後に本当は中止したいにも係わらず、無理に同意させられたとのニュアンスが読み取れます。ところで、エバハートを取り外すことは可能であったのでしょうか?取り外したら、死にまっしぐらではなかったかと思います。その評価なしで、この部分を議論すると誤ります。手術から約2週間で、少年の容体は悪化したのであり、悪化した状態で、取り外したら本来の心臓に更に大きな負担を掛けるばかりではなく、取り外し手術の負担も少年には相当大きなはずです。本来の心臓が回復していないのに、エバハートを取り外すオプションはなかったはずと思います。エバハートを装着していなくても死亡した可能性は、どうであったかも評価しないと公平ではないと思います。

新聞が遺族の気持ちを報道しても良いのですが、医療を批判するなら、医療について正しく分析し、理解して理性で書いて欲しいと思います。実は、メーカーサンメディカル技術研究所のWebを見ていると、文藝春秋に対する抗議文がありました。これです。週刊文集の12月25日号が人体実験などと書いたようです。法に従って治験は実施されたと考えますが、そうであれば、文藝春秋は損害賠償をすべきと考えます。

4) 明るい未来へ向けて

脳死移植が悪いとは思いません。しかし、脳死移植以外の選択肢を与える人工心臓は明るい未来を開く可能性があるものと思います。この少年は人工心臓に関連する貴重な治験データを残したのであり、多くの人に希望を膨らませたと思います。

日本の明るい将来は、相当多くの部分を高度技術に依存することになると思います。最先端医療は、そんな高度技術の1つの分野と思います。真実の報道より、センセーショナルであることを望む(一部のor多くの)マスコミ報道に負けずに、関係者の方々頑張ってください。

追記

国立循環器病センターも、12月18日付で週刊文春に対するコメントを出しておられるので、そのリンクを紹介しておきます。

補助人工心臓に関する記事について

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