一度は、書いてみたかったテーマです。コンサルタントは、ある種の専門家です。例えば、弁護士も法律家の専門家です。しかし、企業の事業について最もよく知っているのは、その事業の業務に実際に携わっている人であり、外部の人間ではありません。なぜ、外部のコンサルタントを起用するかというと、企業を超えた広い視野や高い観点で見た場合の視点を得るためです。弁護士を起用するのは、法に関する専門的な見地からの意見や助言を得るためですが、同時に一歩離れた視点で見た場合の、見解が欲しいからです。
方針は自分自身で決定せねばなりません。参考例が不二家事件です。
不二家は、2007年1月11日のこのお詫びとご報告にあるように、消費期限切れの牛乳を使ってシュークリームを製造したと1月10日に報道があり、長期の工場閉鎖と休業に追い込まれ、3月に山崎製パンと業務協定を締結し、4月に160億円の第三者増資を受けて、本格的な再開が実現しました。
実は、この不二家事件はコンサルタントをうまく使えなかったことにより発生してしまった損失と言える面が大きいと思います。即ち、「消費期限切れの牛乳」が過度にセンセーショナルな表現であり、実態を反映したものではなかった。勿論、その背景には、不二家の経営が家族主義・同族経営であり、近代的経営でなかったことから、不祥事が発生した時に、それに対処できなかった面があります。2008年第2四半期決算では売上の増加傾向はあるものの、黒字経営には至っていない。しかし、ペコちゃん、ポコちゃんという歴史あるブランドがあり、再生に期待したいと思います。
経営とコンサルタントの起用について不二家問題から雑感を書いてみます。
1) 不二家信頼回復対策会議報告書
不二家は、問題の真相と社会的信頼を失墜するに至った原因を明らかにし、不二家に提言を行うことにより、信頼回復と企業再生を図るために、企業コンプライアンス、食品衛生の専門家、弁護士、公認会計士などの外部専門家により構成された不二家信頼回復対策会議に調査・活動を依頼し、その結果として提出された2007年3月30日付の信頼回復対策会議最終報告書を公表されました。ここにあります。
報告書を読むと、報道されたことと、実態に差があることが認識できます。不二家の食品安全性についても、問題なしとは言えないが、一応の水準にあると私は読みました。不二家の信頼性をアピールするためにも、この報告書を公表し続けていただきたいと思います。そして、何より良いことは、他業界の人でも、この報告書から学べる点が多いことです。
なお、報告書にも厳しい提言があります。TBS朝ズバについては、「TBSの対応如何では、損害賠償請求など法的措置をとることも検討すべきである。」と言っています。
2) 報道されたことの真実
① 埼玉工場での消費期限切れ牛乳の使用
埼玉工場では、UHT殺菌という「超高温殺菌」された牛乳である、消費期限が適用されない牛乳を使っていた。通常は出荷日から7日後が賞味期限であったが、使い捨て容器ではなくリターナブル容器を使用していたことから出荷日から4日を賞味期限としていた。しかし、リターナブル容器の洗浄が工場で行われており、加熱工程を経て商品に使用されることから4日を過ぎても問題がなく、最終的には菌検査も実施されていた。
なぜ、コンサルタントに問題視されたのかは、明確な書面ルールがなく、2006年10月、11月に「チョコ生」の工程のトラブルで余った牛乳がシュークリーム工程に送られていたが、在庫処分のルールもその記録もなかったことから、コンサルタントによる消費期限切れの牛乳使用の指摘につながった。消費期限切れや賞味期限切れの牛乳使用のエビデンスが存在していたわけではなかった。
② プリンの消費期限1日延長
不二家は、プリンの消費期限の社内基準は製造日から8日であった。表示する消費期限としては、安全サイドを採用し製造日から6日としていた。しかし、泉佐野工場で中間製品を製造し、埼玉工場で最終製品に加工するようになった際に、埼玉工場製造日ではなく、埼玉工場受入日を基準に6日とした。結果、無理が生じた。そこで再検証の結果、10日でも細菌検査で問題はなく9日で風味も問題はなく、1~2日消費期限を延長することとした。しかし、社内ルールの変更は実施されなかった。
3) コンサルタント報告書
問題のセンセーショナルな部分を含むコンサルタント報告書は、11月13日に配布された。これがどういう訳か12月29日に複数のフランチャイズ店にFaxされ、1月9日に共同通信から不二家に問い合わせが来た。そして1月10日の報道につながり、不二家の対応のまずさが出てしまった。
もし不二家が1社員の勝手な判断などと説明せず、コンサルタント報告書を受け調査中と説明し、実態を正直に公表していたならば、生産中止に追い込まれなかったと私は思う。では、何故コンサルタントの存在を隠したかは、コンサルタントとの契約で作成した文書等の第三者への開示禁止があったからである。不二家は本末転倒の判断をしてしまったと考える。契約上何が開示禁止かは、その契約書を読む必要があるが、この場合は開示して問題が生じないと思うし、仮に最悪の場合でも、損害賠償を請求されるだけで、金銭的なものである。一方、説明をしなかったことにより受けた不二家の損失は比較にならないほど大きかった。
仮にコンサルタントが不二家の情報開示により信用を失墜したとして不二家を訴えたとしても、不適切な表現や間違った表現があったのであれば、逆に不二家がコンサルタントを訴えれば良いのである。
4) 問題点・改善点
不二家問題の一番の反省点は経営体質であったと思う。報告書の中に、「創業家による同族経営の下での社長を頂点とする企業組織全体のまとまり」との表現がある。一方で、不二家は売上・利益が減少傾向にあり、リストラによる工場閉鎖と人員削減を続けていた。そのような状態で重要なことは、同時に企業の体質改善を実施することであり、そのためには、社内の有能な人員を活用して社内ルールを含む企業の競争力を上昇させることであり、合理的な経営に移行することであった。
コンサルタントも色々です。だから、優秀なコンサルタントを見つけること。そして、いくら優秀であっても、そのコンサルタントと納得がいくまで議論をして、最終決断は自らが下すことです。
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