朝日の記事に「08年度上場企業倒産、最悪の45件」というのがありました。
朝日 4月1日 08年度上場企業倒産、最悪の45件
記事に「最多だった02年度の22件を大幅に上回った。」とあります。東証のみを対象とした場合、上場企業の数は、2002年末で2119でした。それが、この3月末には、2370ですから、企業数は1.12倍になったのに対して、倒産数2.04倍ですから、2008年度の企業倒産数は非常に多かったと言えます。そして、これから更に増えるのではないかとの懸念があり、危惧されます。
1) ゴーイング・コンサーン
ZAKZAKの3月26日の記事です。
ZAKZAK 3月26日 大和自、コスモスイニシア…最新版!経営不安126社
とあり、
ゴーイング・コンサーンに関して監査法人から注記が付されたその126社の会社名が、ZAKZAKのWebのこことここにあります。
2) 金融庁の改正案
上場企業については、継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるときは、財務諸表にその内容や対応策を注記することが求められています。上場企業の場合は、財務諸表について監査法人による監査が必要であることから、継続企業の前提(ゴーイング・コンサーン)も、監査対象です。
金融庁は、監査基準の改訂案と財務諸表等規則の改正案を3月26日と27日に公表しました。金融庁のWebのこことここにあります。
3月24日に開催された企業会計審議会・監査部会において、一定の事象や状況が存在すれば直ちに継続企業の前提に関する注記及び追記情報の記載を要する現行の規定を、国際的な基準との整合性を図る観点等から改めることとしたとのことですが、今ひとつしっくり来ません。
財務諸表等規則の改正案からすれば、「当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるときは」という部分を追加したのが、大きな改正と思え、本質論ではないように思えます。
本音は、次の日経ビジネスオンライン(NB Online)の記事の事態を恐れている経営者の逆襲ではないの?と勘繰りたくなるのです。
NB Online 3月31日 「監査倒産」続出の懸念 3月危機を乗り切っても…企業に迫る次なる試練
3) ゴーイング・コンサーン(継続企業の前提)とは?
簿記の最初に、これがないと会計が成立しないと習います。ゴーイング・コンサーンについて、一番分かりやすく書いているのが国際監査基準と呼ばれる”INTERNATIONAL STANDARD ON AUDITING 570 GOING CONCERN”の2.Going Concern Assumptionの次の文章と思います。
Under the going concern assumption, an entity is viewed as continuing in business for the foreseeable future. General purpose financial statements are prepared on a going concern basis, unless management either intends to liquidate the entity or to cease operations, or has no realistic alternative but to do so. Special purpose financial statements may or may not be prepared in accordance with a financial reporting framework for which the going concern basis is relevant (e.g., the going concern basis is not relevant for some financial statements prepared on a tax basis in particular jurisdictions). When the use of the going concern assumption is appropriate, assets and liabilities are recorded on the basis that the entity will be able to realize its assets and discharge its liabilities in the normal course of business.
企業が事業を継続するとの前提で資産の評価が可能となる。先行きが、成り立たないとなれば、予測がつかなくなる。an entity is viewed as continuing in business for the foreseeable futureが前提であり、永遠ではないが、その企業の成立が危うくなるとは思えないことが必要です。金融庁の改訂・改正案は、「将来にわたつて事業活動を継続する」という部分を修飾語を付けて、より適切な文章にするとのことでしょうか?
4) 財務諸表と監査報告書の目的
決して投資家のためだけでは、ありません。取引先、債権者、従業員等様々な利害関係者のためです。財務諸表とは、誤魔化して、金を集めて、経営者が自分個人の懐に富を蓄えようとするものでは、絶対にないことは確かです。しかし、粉飾すれば、そのようなことが可能であるし、例え個人の懐に入れずにいたとしても、傷口を大きくしてしまうことはあり得るし、債権者にとって見れば、債権の50%が回収できたのが、ゼロになってしまうこともあり得ます。
会計監査とは、経営者が作成した財務諸表にお墨付きを与えるのであるから、大きな責任を社会に対して持っています。ゴーイング・コンサーンが怪しいにも拘わらず、財務諸表に注記されていないなら、経営者に問いただし、その上で疑問が払拭できないなら、その旨を監査報告書に記載するのが監査法人の義務です。黒白明白にならないこともあるでしょう。しかし、そのような場合でも、財務諸表を利用する多くの関係者に有用な真実の情報を提供しようとするのが、会計監査です。
5) 企業倒産への備え
危ないと判断したなら取引を押さえることです。自らのビジネスを減少させることに繋がり、容易ではありません。しかし、倒産したら、ビジネスを減少させるより、はるかに大きな痛手を被ります。倒産するか、しないか、やはり財務諸表が、一番大きな情報を与えてくれます。企業の生き残りのための、現時点における最も重要なことは、そのようなことではないかと思います。
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