東芝の繰延税金資産取崩による損失
日立の次は、東芝を書きます。
東芝は、4月17日に2008年度 業績予想の修正を発表しました。
日経 4月17日 東芝、営業赤字は2500億円に縮小 09年3月期
東芝の発表説明会資料は、ここからDownloadできます。
この発表において、本年1月の業績予想に対して、営業損益と税引前損益は、それぞれ300億円と500億円の改善の数字を予想したものの、最終損益は逆に700億円の悪化(損失拡大)を予想しました。
700億円の損失拡大の理由は、繰延税金資産です。
繰延税金資産とは、前払い税金であり、税効果会計に係わる会計基準の(注5)には、次のように書かれています。
繰延税金資産は、将来減産一時差異が解消されるときに課税所得を減少させ、税金負担を軽減することができると認められる範囲内で計上するものとし、その範囲を超える額については控除しなければならない。
1) 東芝の繰延税金資産
東芝が2008年3月末の連結貸借対照表で計上していた繰延税金資産、繰延税金負債は次の金額でした。
繰延税金資産(流動) 1485億円
繰延税金資産(固定) 2858億円
繰延税金負債(流動及び固定) 807億円
差し引き 繰延税金資産 3536億円
2009年3月期において、第3四半期までで、繰延税金資産は3536億円から、4300億円へと464億円さらに増加していたとのことです。この4300億円の繰延税金資産のうちの地方税(道府県民税、市町村税、都民税)相当分の850億円を資産計上せず、2009年の損失(2009年としては、結局は639億円の損失)として計上するとの発表です。(発表説明会資料の7ペ-ジ目参照)
地方税についての繰延税金資産を取り崩すこととした理由は、地方税については、「連結納税制度の適用がなく、単独の課税所得が現在の経済環境では厳しい状況の為、一括で取り崩し」との説明ですが、今ひとつ納得がいかない部分があります。即ち、赤字の連続で支払い済みの地方税を相殺するような課税所得が生まれないと見込まれる子会社も存在するでしょうが、全体からすれば将来の利益は見込めるはずです。赤字のまま閉鎖となる会社は、利益金額では少数派と思うからです。
これ以上の議論は、私も情報を保有していないし、監査法人が的確な仕事をされるのであり、最終的な報告を待ちたいと思います。
2) 監査の重要性
4月2日の2008年度は上場企業倒産が最悪の45件で、ゴーイング・コンサーン(継続企業の前提)を書きました。ゴーイング・コンサーンが検討の対象になった場合には、繰延税金資産なんて考えられないと思います。
企業が赤字になれば、赤字が繰越損失金となり将来の税金を減額していくれると期待します。しかし、課税所得が生まれてくるとの確証が無くては、資産として貸借対照表に計上するのは正しくないはず。
M&Aで成長を続けた企業が、不況に入り、急成長を遂げた故に、脆弱性が問題となる企業もあると思います。M&A企業の特徴は、資産として「のれん」を計上していることが多い。「のれん」は、現在の日本の会計基準で毎期規則的な償却をすることが必要ですが、同時に固定資産の減損会計の対象でもあります。固定資産の減損会計を適用し、評価するには、将来のキャッシュフロー予測は必要不可欠です。
ビジネスの仕組みが複雑化してきたからには、企業の財政状態や営業成績を表す財務諸表も、それに適応して対処する必要がある。会計士の方々、大変ですが、頑張ってください。経済や金融を支えるインフラそのものと思っています。
| 固定リンク
コメント