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2009年6月29日 (月)

インサイトvsプリウス、そしてi-MiEVとティーダを比較しました

エコカー減税とエコカー補助金により、落ち込んでいる新車販売も、エコカーについては販売増は期待できると自動車メーカー各社は懸命にエコカーの販売に力を入れていると思います。ちなみに、次の表が2009年5月と5月までの自動車販売台数であり、昨年より落ち込んでいます。

新車販売台数(2009年5月実績)    自販連・全軽自協・輸入組合調べ
ブランド 2009年5月販売台数 本年累計
(a)
前年累計
(b)
増加率
(a)/(b)
乗用車 トラック・バス 合計
ダイハツ 32,718 8,990 41,708 259,747 289,853 -10.4%
日 野 0 1,134 1,134 9,865 18,221 -45.9%
ホンダ 35,700 1,830 37,530 230,975 276,920 -16.6%
いすゞ 1 1,855 1,856 14,203 26,813 -47.0%
レクサス 1,815 0 1,815 7,444 12,788 -41.8%
マツダ 10,523 2,122 12,645 78,076 115,726 -32.5%
三 菱 6,457 2,749 9,206 64,047 91,513 -30.0%
三菱ふそう 0 1,246 1,246 9,564 16,305 -41.3%
日 産 32,189 5,673 37,862 243,733 328,704 -25.9%
日産ディーゼル 0 324 324 2,253 5,303 -57.5%
スバル 6,987 3,809 10,796 69,701 94,877 -26.5%
スズキ 34,307 9,340 43,647 277,468 305,619 -9.2%
トヨタ 72,277 8,226 80,503 472,773 667,938 -29.2%
外国車 11,621 150 11,771 64,604 88,599 -27.1%
合計 244,595 47,448 292,043 1,804,453 2,339,179 -22.9%

1) 比較するエコカー

エコカーで比較するなら、インサイトプリウスを外すことはできず、そして2009年7月下旬から売り出す三菱i-MiEVを対象に加えました。日産も、減税・補助金対象となる車があると宣伝しており、その中でティーダを加えました。次の表が、カタログ等のデータから抽出した比較表です。(三菱i-MiEVは、軽自動車アイを電気自動車に変更しているので、他の3車種との同一ベースでの比較とはならないのですが、電気自動車ということで対象にしています。)

車種 INSIGHT PRIUS TIIDA i-MiEV
タイプ G L 15M
メーカ希望小売価格
(消費税込み)円
1,890,000 2,050,000 1,674,750 4,599,000
10.15モード燃料消費 30km/L 38km/L 20km/L 125Wh/km
全長 mm 4,390 4,460 4,250 3,395
全幅 mm 1,695 1,745 1,695 1,475
全高 mm 1,425 1,490 1,535 1,610
ホイールベース mm 2,550 2,700 2,600 2,550
最小回転半径 m 5.0 5.2 5.2 4.5
車両重量 kg 1,190 1,350 1,150 1,100
室内 長 mm 1,935 1,905 2,035 1,790
幅 mm 1,430 1,470 1,390 1,270
高 mm 1,150 1,225 1,240 1,250
電池 容量(kWh) 5.75 6.5 N/A 16
タイプ ニッケル水素電池 ニッケル水素電池 リチウムイオン電池
電圧 (V) 100 650 330
モーター(最高出力kW) 10 60 47

価格については、電気自動車i-MiEVが他の車の倍以上であること以外は、こんなものかなと感じる感覚です。大きさはi-MiEVを除いて、ほぼ同じです。なお、i-MiEVは乗車定員4名です。

2) コスト比較

エコカーと言っているのですから、燃費等を含んで比較しなくてはなりません。次の表が、上記のメーカ希望小売価格にガソリン代を1リットル150円であるとして仮定して、10万キロメートル走った場合の、購入費と燃料費を計算した結果です。

INSIGHT PRIUS TIIDA i-MiEV i-MiEV
の前提
想定走行距離 100,000 100,000 100,000 100,000
10.15モード燃料消費 30 38 20 125 Wh/km
10万km燃料消費量 4,000 3,158 6,000 15,000 kWh
ガソリン150円/リットル 600,000 473,684 900,000 300,000 20円/kWh
購入費 1,890,000 2,050,000 1,674,750 4,599,000
合計 2,490,000 2,523,684 2,574,750 4,899,000

10万kmの実際走行に要する燃料消費は、10.15モードの20%増と仮定しました。i-MiEVは、ガソリンを消費しないことから、電力料金を20円/kWhとし、同じように20%のマージンを加えました。

結果は、INSIGHTとPRIUSがほぼ横並びです。そこで、今度はガソリン価格を100円から200円の範囲でグラフを書いてみました。

Insightprius20096

INSIGHTとPRIUSの線が交差するのは、1リットル190円です。ホンダvsトヨタのおもしろさを感じます。10年間の平均ですから、190円は高いかも知れないし、利息を考慮した時間価値を考えるとホンダがより有利。しかし、トヨタは、負けまいとPRIUSを最大限値下げして対抗していると思います。このグラフの比較で言えば、日常的に車を使い10万キロ以上走行するのであれば、PRIUSが有利で、土日のみの使用であれば、INSIGHTが有利かと思います。

3) メンテナンスを含んだコスト

ハイブリッドカーは、自分でメンテナンスはおろか、通常の自動車修理工場でもメンテナンス不可能と思います。1)に書いた表でPRIUSとINSIGHTを比べると、電池容量、電圧、モーター出力全てPRIUSが大きい値です。(電圧は、i-MiEVより高い。)通常の車の修理工場ではメンテナンスができず、メーカ指定・適合店でないとメンテナンスが無理だから、HiTech製品につきものの現象です。そうなると、INSIGHTとPRIUSのメンテナンスについては、価格や条件は同じかも知れませんが、可能性としては、PRIUSの方がHiTechだから、少しメンテナンスも高くつくかも知れません。

HondaファンはINSIGHT、ToyotaファンはPRIUSを選ぶのが間違いないでしょう。そうでない人は、色々悩んで考える。いずれにせよ、購入の際に、納得するまで、質問するのがよいと思います。現状では、納期が長くて、嫌なことを言うやつには、売ってくれないなんて変な気を回す必要はないはずです。

4) CO2排出・環境評価

10万km走行するとして、走行時に排出するCO2を計算しました。計算は、ガソリン発熱量34.6MJ/l、ガソリン炭素排出係数18.3tC/TJ、CO2換算44/12としました。

なお、製造時にCO2の排出はあり、さらには鉄板等の材料製造時のCO2,鉄鉱石や石炭の採掘・運搬に関わるCO2排出等を含んだLife Cycle Assessmentが必要です。そこで、PRIUSの環境仕様というページにCO2 LCA評価という絵があり、これをにらんでPRIUSの製造に係わるCO2排出量を3,000kgとしました。大雑把ではありますが、製造に係わるCO2は車体重量に比例するとして、INSIGHT、TIIDA、i-MiEVの製造時CO2を計算しました。結果は次の表の通りです。

なお、i-MiEVの走行時CO2排出量は、東京電力の販売電力kWhあたりのCO2排出量425kg/MWhを使いました。

INSIGHT PRIUS TIIDA i-MiEV
走行時CO2排出量(kg) 9,287 7,332 13,930 6,375
製造時CO2排出量(kg) 2,644 3,000 2,556 2,444
合計(kg) 11,931 10,332 16,486 8,819

またしても、INSIGHTとPRIUSの激しい競争です。一見、i-MiEVが低そうですが、i-MiEVは1回の充電で160kmの走行距離であり、これを伸ばすには電池を大きくする必要がある。そうなると、重くなる。価格が上がると同時に、燃費も悪くなる。更に言えば、石炭で発電をしたならば、INSIGHTやPRIUSに負けるのみならず、TIIDAとも良い勝負になってしまいます。

数字を使わずに感覚で考えてしまう場合の環境問題の恐ろしさです。電気自動車は排ガスを出さないから、クリーン。しかし、その電気は、どうやって作ったの?です。同様な、説明がこの環境省のWebにある低排出ガス車の開発 (トヨタ自動車)にありました。20ページですが、燃料電池車は燃料製造時のCO2排出量が多いため、ハイブリッドカーよりもCO2排出量はLife Cycle Assessmentをすると多くなるとあります。

イメージで、環境を考えると誤ります。環境は数字を使って考えないといけません。

5) エコカー減税とエコカー補助金

どうでも良い話かも知れませんが、エコカー減税とエコカー補助金の法的根拠について触れておきます。エコカー減税は、本年3月31日公布の地方税法改正(法律第9号)の第12条の2の2(自動車取得税の減税)と同日の3月31日公布法律第11号の中の租税特別措置法第90条の12(自動車重量税の免税等)によるものです。全額免税となるのは、電気自動車、ハイブリッドカー、CNG車、高性能ディーゼル車です。ガソリン車は、燃費性能により75%免税又は50%免税あるいは適用が受けられないかです。

エコカー補助金は、5月29日に成立した平成21年度補正予算による環境対応車普及促進事業費 357,216百万円です。その内容は、この経産省、国交省の説明にあります。ハイブリッドであるかどうかは関係なく、燃費基準達成車には補助金が出ます。最も大きな補助金を受けられるのは、大型トラック・バスで90万円(中古からの乗り換えの場合は180万円)です。

自動車取得税と自動車重量税の免税あるいは軽減が受けられるのは、乗用車のみならず基準を満たせば、トラック・バスも可能です。

ちなみに、2007年度の温室効果ガスの排出量確定値が2009年4月30日に発表されました。温室効果ガスの総排出量は1,374百万トン。うち非エネルギー起源を含めCO2が1,304百万トン。運輸部門のCO2排出量が249百万トンです。このうち乗用車が126百万トンで、貨物車が90百万トンです。合計で、日本全体のCO2排出量の16%強となります。ここをねらい打ちでしょうか?

中には年間10万km以上走行するトラックもあるわけで、リッターあたり4kmの燃料消費率を5kmに伸ばすことができれば、年間5,000リットルの節約となります。金額では年約50万円。CO2で年約13トンの節約です。だから、積極的に免税、税軽減、補助金を推進すべきだと言えます。問題は、財源です。今は、一般財源を使っており、継続するには、私は、炭素税を他の省エネ・低炭素政策財源用も含めて導入すればよいと思っています。かつては、石油業界は炭素税に真っ向から反対していました。しかし、現在は、そんな強い反対はできない。昭和シェル石油は、このように太陽電池をやっていますし。どの企業も、既得権益を守るより、新しい世界にどう立ち向かうかがより重要な時代です。

ところで電気自動車の場合、ガソリン税と軽油取引税を現状では払わずに済みます。電気自動車が多くなってくると、道路予算の財源はどこからもってくるのでしょうか?

6) これから

これからも未だ開発が進むと思いますが、ToyotaとHondaはすごい会社であり、F1レースを日本でしているような気がしました。i-MiEVの車体重量は、1100kgですから、軽4輪「i」の900kgと比較すると200kg重くなっています。エンジンが電気モーターに置き換わり、電池が搭載された結果ですが、電池の開発とブレーキ作動時の発電をしてのエネルギー回収を含む電気関係のコントロールがハイブリッドカーと電気自動車のキイポイントだと思います。

ハイブリッドカーは、現状では日本生産でしか対応できない。海外生産をする場合、Hondaの方が、HiTechを押さえている分だけ、有利ではないかと思うのです。いずれにせよ、米国メーカはハイブリッドカーを生産できない。ヨーロッパメーカもディーゼルに力を入れていた分だけ、対応が遅れている。当面世界でToyotaとHondaの2社独占が続くのではないか。多分、HiTechの度合いが少し低いHondaの方が、海外生産も台数増産も対応が容易である気がします。

ハイブリッドカーになると下請け企業も変わってくる。現在、PRIUSの電池はパナソニックでINSIGHTが三洋電機。双方ともニッケル水素電池。車メーカか電池・電気制御メーカか、どちらの技術力が高いかによっても、主導権は異なってきて、これからの絵は微妙に変わる。ハイブリッドカー、電気自動車、水素燃料電池車がこれからどのような戦いになっていくのだろうか。最も、電池素材となる希少金属の問題もあり、その点では俄然中国有利になったりして。

2)に掲げたグラフにおいて、ハイブリッドが有利ですが、比較しているTIIDAは非常に良い燃費の車なのです。グラフは、税優遇や補助金を計算に入れていない比較ですから、ハイブリッドカー恐ろしきやです。先進国間の貿易で、車に関税・非関税障壁は存在しないし、エコカーですから、皆賛成する。内燃機関と電動機の2つのエンジンを持ち、その上に燃料タンクと電池を持つ2重投資の見本みたいに思えたハイブリッドカーでした。今では、こんな姿になっているのですから、これから先はいよいよ分からないかも知れませんが。

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2009年6月28日 (日)

愛のないNHKニュース

リンクは張りませんが、次のタイトルのニュースを本日の夕方7時のニュースでNHKが放送をしていました。

「移植後死亡の男児 両親と帰国」

嫌な気分です。この1歳の男児は、米国で心臓移植を受けて、その後で死亡したのです。

まず言いたいことは、米国では心臓が余っているのですか?と言うことです。(日本も含め)世界中、どこでも移植を受けるために、待機している人が多く、移植を受けられずに亡くなられる人の方が、多いのです。

外国人が、どうしてその国の人に優先して、脳死の人の臓器提供を受けられるのですか?常識では、不思議です。勘繰れば、金銭です。臓器移植法の第2条を掲げます。この第2条は、今回衆議院を通過した改正法案でも、改正になっていません。

(基本的理念)
第2条
 死亡した者が生存中に有していた自己の臓器の移植術に使用されるための提供に関する意思は、尊重されなければならない。
2  移植術に使用されるための臓器の提供は、任意にされたものでなければならない。
3  臓器の移植は、移植術に使用されるための臓器が人道的精神に基づいて提供されるものであることにかんがみ、移植術を必要とする者に対して適切に行われなければならない。
4  移植術を必要とする者に係る移植術を受ける機会は、公平に与えられるよう配慮されなければならない。

私は、NHKが取材されたケースがどうであるかは当然知りません。しかし、善意で、任意で、人道的な精神でなされ、公平であるからこそ、臓器移植を積極的に推進できるのです。「○○ちゃんを救う会」の問題点として、多くの人達が問題点を指摘しています。それを、何故NHKは、あえてこの時期に報道したのでしょう。「バカですから!」で済ませてよいのかな?と思います。

NHKが、報道したケースは、不幸にもなくなってはいますが、心臓が未だ動いている同じような年頃の子供の心臓を動いている間に取りだして、この夫婦の子供に移植したのです。NHKからインタビューを受ければ、「同じような不幸を繰り返して欲しくない。」となるでしょう。インタビューでは出てきていませんが、私は、この夫婦は心の中では、「臓器提供をして下さった子供とその両親・家族にとても感謝しています。不幸にも私たちの子供は亡くなりましたが、生きるための希望を精一杯頂いたと感謝しています。」と言い続けていて欲しいのです。それなのに、心でそう思っていても、NHKに突然インタビューされたらと思うと、非人道的NHKであります。

臓器提供を受ける人達が、エゴイストであるなら、私は臓器移植などしたくありません。報道機関は、人を憎しみに向かわせる存在でしょうか?脳死や臓器移植の背景には、大きな愛が存在します。

愛など、存在しないNHK。仕方ないですね。でも、私は朝ドラ「つばさ」を、愛を描いていると楽しみに見ています。だから、NHKも全てが愛なしではなく、愛がある部分もあると解っていますが、影響力が大きいニュースで愛をつぶす報道を見ると嫌になりました。

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2009年6月26日 (金)

臓器移植法改正のNHK報道は嫌になる

相変わらず、NHKの報道は、正確さを欠き、誤解をまき散らすと思いました。

図を持ち出して、「衆議院で可決されたA案は、脳死を人の死とする。」と断定していましたから。

詳しくは、6月23日のエントリー 臓器移植法改正を読んでいただければよいのですが、脳死を受け入れないとか、臓器移植のための臓器提供をしないと表明しておけば、脳死判定を受けることもないし、無理矢理臓器を摘出されることもありません。当然、その人の意志が尊重されます。

ほとんどの人は、脳死になる前に、心臓死となります。事故か何かで、ICUに入れられた時に、心臓が生きているのに、脳が死んだのではないかと疑われる状態になります。その時に、脳死判定を受けて、脳死と診断されて、初めて脳死です。自宅で脳死はあり得ないし、脳死となるには、最後の最後まで、医療サービスを受ける必要があります。脳死、脳死とバカのNHKに言われたくありません。ICUだって、満床に近いことがよくあるから、脳死になりたいと思っても、なれない悲しさが出てきたり。

次に、現行法は、15歳以下の脳死段階での臓器提供を禁止しているとNHKは言います。子供を含む視聴者全員に、わかるようにするとして、そんな表現を用いるのでしょうが、法と日本人をバカにすることは嫌いです。6月23日エントリーで書いたように、法は、「意思を書面により表示している場合」と言っているのであり、この解釈について現在厚労省の平成9年10月8日付け通達により運用しているからです。但し、その通達は、厚労省も審議会を始め関係者の意見を取り入れて出したのですから、勝手な独断ではありません。その通達は、日本臓器移植ネットワークこのページにありますが、その第1の項であり、次のようになっています。

第1 書面による意思表示ができる年齢等に関する事項
 臓器の移植に関する法律(平成9年法律第104号。以下「法」という。における臓器提 供に係る意思表示の有効性について、年齢等により画一的に判断することは難しいと考え るが、民法上の遺言可能年齢等を参考として、法の運用に当たっては、15歳以上の者の意 思表示を有効なものとして取り扱うこと。
 知的障害者等の意思表示については、一律にその意思表示を有効と取り扱わない運用は 適当ではないが、これらの者の意思表示の取扱いについては、今後さらに検討すべきもの であることから、主治医等が家族等に対して病状や治療方針の説明を行う中で、患者が知 的障害者等であることが判明した場合においては、当面、法に基づく脳死判定は見合わせること。
 臓器の提供先を指定する意思が書面により表示されていた場合は、脳死・心臓死の区別 や臓器の別にかかわらず、親族に限定する場合も含めて、当面、当該提供先を指定する意 思表示を行った者に対する法に基づく脳死判定及びその者からの臓器の摘出は見合わせること。

通達は、法ではないので、拘束力はありませんが、「医師は・・・」と医師が主語になっている法律条文の所ですから、医師がこれをどう解釈するかの問題ですが、医師に強制をすることは誰もできません。また、現行法を支持するなら、海外渡航移植はダブルスタンダードであり、現行法の改正運動をすべきです。

NHK職員にも法学部や理科系出身の人間がいると思いますが、法も読まない、調査もしない。権力闘争のみに興味があるように思えて悲しくなります。大東亜戦争は昔の話と思っていました。でも、こんな真実から離れた報道ばかりをしていれば、恐ろしいことが起こりそうに思います。戦争に導いていったことに対して、NHKは自らをどのように分析・評価しているのだろうと思います。

なお、最後に、他のマスコミもチェックしました。

日経 「A案は本人が事前に臓器提供を拒否しなければ、家族の承諾で脳死移植を可能とする。」とあり、報道許容範囲内と思う。

朝日 「衆院で可決された「脳死は人の死」を前提に15歳未満からの臓器提供を解禁するA案」とあり、問題含み。

読売 「衆院で約6割の賛成を得たA案は、脳死を「人の死」とし、15歳未満の臓器提供を認める内容だ。」とあり、問題。

MSN産経ニュース 「A案は、脳死後の臓器提供の年齢制限を撤廃し、本人が生前に拒否の姿勢を示さなければ」とあり、正確。

毎日 「衆院を通過したA案は、「脳死を人の死」とし、年齢制限を撤廃して本人が生前に拒否しなければ臓器摘出が可能」とあり、問題はあるものの、比較的少ない。

共同47 「「脳死は一般に人の死」と位置付ける衆院案(A案)」とあり、誤解をまねくが、「本人が生前に拒否表明していなければ家族の同意で臓器提供を可能にする改正内容」ともある。しかし、逆に支離滅裂・理解不可能にならないかなと思う。

ネット・Webがあるので、正確な情報を得ることが可能となりました。正確な情報を得て、マスコミ報道に接すると、こいつらマスゴミだなと思うようになります。そんなとき、新聞であれば、購読しなければよいのですが、放送法により契約締結が義務となっているNHKには、最高に頭に来ます。

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新生銀行とあおぞら銀行の合併の絵

株主総会では、新生銀行はあおぞら銀行との合併を考えていないとされていたと思いますが、本日は、次のように報道がありました。

日経 6月25日 新生・あおぞら銀、池田・前足利銀頭取に新社長打診 来秋合併へ

両行のプレスリリースは、ここここにあり、両行とも話し合いを持っていることは、認めておられます。そうなると、合併ができないとなると逆に不信感を持たれることになるのが懸念されます。合併の実現までには、1年近く要するのは、当然ですが、産業界や一般個人等に対する融資を含め、より一層の社会に対する金融サービスを向上させるための合併となるよう尽力願いたいと思います。

1) 合併比率1:1

上の日経を含め他の記事も合併比率1:1を報道しています。本日(6月25日)の東証終値で、新生銀行が161円で、あおぞら銀行が154円ですから、1:1はよい所と思います。ちなみに、過去6月間の株価の推移も同じような感じです。

20096chart_2

2) 合併後の資本金

発行済み株式の状況は次の通りです。下の表には、煩雑になりすぎるので書けていませんが、新生銀行についても、普通株式のうち269,128千株を預金保険機構が200,000株を整理回収機構が保有しています。両銀行とも、預金保険機構と整理回収機構の資本が入っています。

   発行済み株式の状況 (単位:千株)
新生銀行 あおぞら銀行
発行済み普通株式 2,060,347 1,650,147
自己株式 96,427 155,888
株主保有普通株式 1,963,919 1,494,259
第4回優先株式(預金保険機構保有) 0 24,072
第5回優先株式(整理回収機構保有) 0 258,800

新生銀行・あおぞら銀行のどちらが存続会社になるか不明ですが、株価を160円として合併により生じるのれんを計算すると、次の表のように、株主資本の方が金額的に大きく負ののれんとなりました。なお、新生銀行を存続会社とした場合の、あおぞら銀行の優先株については、残余財産を分配する場合の1株あたりの金額第4回優先株式1000円、第5回優先株式600円で計算をしています。

単位:百万円 新生銀行 あおぞら銀行
株主資本の金額(2009年3月末)
 個別財務諸表 601,750 527,271
 連結財務諸表 600,147 534,158
株価160円の場合の株主保有株式価額 314,227 239,081
優先株価額 179,352
株主保有普通株と優先株の合計価額 314,227 418,433

負ののれんが発生する場合は、昨年12月26日改正の企業結合に関する会計基準が平成22年4月1日以後の適用なので、負ののれんは直ちに特別利益として認識することになると理解します。この利益は税務上は益金ではないので、全額株主資本となるものの、増加する資本金と資本剰余金がその額だけ小さいのですから、お遊びのように思えます。

3) 株主構成

現在のまま移動がないとすると、次の表のようになります。あおぞら銀行の最大株主が米国のPrivate Equity Fundで、あおぞら銀行の最新データは、株主総会が終了しておらず、有価証券報告書が見れていないのですが、過半数の株式を保有していると思います。一方、新生銀行のSATURN・・・・という株主も米国のPrivae Equity FundのJ.C. Flowersであり、J. クリストファー フラワーズ氏は、ファンド創設者と理解します。

新生銀行とあおぞら銀行合併後の株主構成試算(単位:千株)
新生銀行 あおぞら銀行 合併後
サーベラス 821,469 821,469 23.8%
SATURN Ⅳ SUB LP 322,964 595,418 17.2%
SATURN JAPAN Ⅲ 110,449
J. クリストファー フラワーズ 91,297
SATURN V C.V. 70,708
預金保険機構 269,128 269,128 7.8%
整理回収機構 200,000 200,000 5.8%
オリックス 149,975 149,975 4.3%
ゴールドマン・サックス 68,000 68,000 2.0%
その他 831,373 522,815 1,354,189 39.2%
合計 1,963,919 1,494,259 3,458,179 100.0%

株主を見ても、両銀行は共通性があるように思えます。

4) 合併後の貸借対照表の資産

次のような感じになりました。

20093mergbs

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2009年6月24日 (水)

新生銀行の執行役報酬1億4千万円から6350万円に下がったの?

次のブルームバーグの記事によれば、新生銀行の執行役の2008年度の報酬は平均6350万円であったとのこと。

ブルームバーグ 6月23日 新生銀:執行役の報酬5-15%削減-株主総会で社長表明

さて、2009年6月4日に開催された参議院財政金融委員会において共産党大門実紀史委員の質問に対して金融庁監督局三國谷勝範局長は、次のように答えておられました。議事録は、国会図書館のWebからも取れますが、大門実紀史委員の質問と答弁部分の議事録をここ (文字化けの場合は、エンコードを日本語にしてみて下さい。)に置いておきます。

○政府参考人(三國谷勝範君) 両行から公表されております経営健全化計画によりますと、両行の常勤役員に対する役員報酬の一名当たり平均額は、二十一年三月期の計画値を見ますと、あおぞら銀行においては四千八百万円、新生銀行においては一億四千百万円となっているところでございます

ブルームバーグの記事は、23日に開催された株主総会における会社の答弁と理解します。一方、参議院財政金融委員会における政府参考人の発言は正しいとしか考えられません。1億4千万円と6350万円は、倍半分以上の差があるが、両方とも正しいとすべきと思います。そうであれば、1億4千万円は、計画値であり、6350万円が実績値と推察されます。そうなると、新生銀行は1430億円の赤字だったから、執行役の報酬は1億4千万円から6350万円にダウンしたと推察されます。

しかし、そう単純ではない可能性もあります。即ち、この新生銀行のWebから2009年6月23日開催の第9期株主総会資料がダウンロードできますが、その中の提供書面(事業報告)24ページには、執行役の報酬等総額として2,776百万円となっており、執行役の人数は27名(内退任済み11名)となっています。単純平均でも1億円以上です。ストックオプションの対価を費用としているので、27.7億円が全て現金で払われているのではないが、いずれにせよ高額報酬と多くの人が感じる水準と思います。

新生銀行の業績や財務状態については、6月17日の銀行の比較を参照いただければと思います。

一方、大門委員の質疑の中にあおぞら銀行のある支店の契約社員で働いておられる人のことについての発言が出ていますが、大変ですね。こちらは、あおぞら銀行で、新生銀行ではないのですが、この収入の雲泥の差は、どう考えればよいのだろうと思ってしまいます。

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2009年6月23日 (火)

臓器移植法改正

臓器移植法改正についてA案が衆議院で6月18日に可決されました。A案については、多くの報道は、「脳死は一般に人の死」と言っており、これでは誤解を生むことが多すぎると思うことから書いてみます。なお、報道としては、MSN産経ニュースをあげます。

MSN産経ニュース 6月18日 一転、臓器移植法案「A案可決」賛成263票

1) 衆議院で可決された法案

可決された法案により現在の臓器移植法のどの部分が改正となるかを続きを読むに入れましたので、法案については「続きを読む」をクリック下さい。第6条の改正が大きな改正であり、人の死の定義を定めていません。「医師は、2つの場合において、移植術に使用されるための臓器を、死体(脳死した者の身体を含む。以下同じ。)から摘出することができる。」としたのであり、この文章で「脳死は一般に人の死」と定めたと解釈するのは、余りにも拡大解釈であります。

なお、改正前の文章も「続きを読む」で、取消線で消しただけで、残してあります。「死亡した者が生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合・・・・」を2つの場合に変えたのです。15歳未満の脳死移植が日本で実施されなかった理由は、厚生労働省がガイドラインにおいて「自由意志の表示が行える年齢は15歳以上である。」としたからであり、民法961条が「十五歳に達した者は、遺言をすることができる。」との遺言能力15歳以上がその理由です。

「意思を書面により表示」との表現が足かせとなっていたことから、この足かせを外したのです。

2つの場合とは、続きを読むで、色を付けた6条1項の1号と2号ですが、1号は改正前と意味が同じと思います。2号は、「当該意思がないことを表示している場合以外の場合」というややこしい表現で、「臓器移植ドナーに私はなりません」と意思表示をしている人です。従い、移植拒否の人が移植の為に臓器摘出をされることはありません。

2) 子供が無理矢理臓器摘出を受ける

意思がない場合は、遺族が書面で同意すれば、臓器摘出があります。子供の場合について、子供の親とはそんなに信じられないのだろうかと思います。子供の感情や意思を一番知っている親が、臓器提供を申し出た場合には、それを受け止めて尊重するのが社会であると思います。

子供が天国で幸せに暮らすようにと子供の臓器提供を望む親がいるかも知れません。あるいは、そんなことをしない人が大部分でしょうが、他人が口をだすことではないと思います。最も、臓器提出可能な脳死になること自体、ほとんどあり得ないと思いますが。

虐待を受けた児童が、今度は遺族により臓器提供となる恐れについてですが、ないとは言えず、それ故、改正案には附則5がついています。この毎日 6月22日 臓器移植法改正:民主議員ら、参院に対案提出へも、「衆院を18日に通過したA案は、脳死を一般に人の死とし」と報じており、すんなりと理解しにくいのです。

3) 脳死

このMSN産経ニュース 6月7日 【臓器移植】(中)脳死は人の死か…議論再燃では、焦点がずれていると思います。脳死を人の死とは、できません。臓器移植法6条2項の改正されていない部分ですが、脳死を「脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定された者」と定めており、この判定は6条4項により「これを的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師・・・・・」と定められており、医療機関の脳死判定員会が判定します。

脳死判定員会は、移植を前提としなければ、判定行為もしないわけで、脳死判定員会が判定しなければ、脳死もあり得ません。移植をしなければ脳死はありえず、脳死状態で生き続けたというのは、おそらく脳死ではなかったのだと思います。

脳死の判断基準も変わっていくと思います。法で脳死を決めるのは、現在の条文でよいと思うし、A案は、マスコミが言うように「脳死を人の死」と定めることではなく、自由意思の範囲を拡大したのであり、逆に法が制限をすることがかえっておかしいと思います。

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2009年6月22日 (月)

ライブドア(LDH)配当の実態は資本の払い戻し

株式会社LDH(旧ライブドア)は、680億円の配当を行うとのニュースが先週ありました。

MSN産経ニュース 6月17日 ライブドア680億円配当案 1株6500円 「株主の要請」

このことに関連して、書きます。

1) 配当原資

6月26日の株主総会で決定し、6月末までに株主に対し、支払われると思いますが、実はLDHの事業利益からの配当ではなく、その原資は株主がかつて払い込んだ資本と言えます。

次の表が、株式会社LDH 第14期決算情報からLDHの個別貸借対照表の純資産の部を転記したものです。株式会社の株主への金銭交付額は、会社法461条に定められた分配可能額を超過してはいけない。LDHの現時点における分配可能額は、1203.9億円です。即ち、その他資本剰余金1766.5億円があるからであり、1年前の平成20年3月末であれば、実は30.6億円でした。資本金が862.9億円から1億円に、資本準備金が871.4億円から0への減少しており、合計1733.3億円がその他資本剰余金に変わったからです。

Ldhbs20093

2) 資本金、資本準備金の減少

資本金とは、株主が払い込んだ財産の額であり、資本準備金とは、その中で資本金として計上しなかった額です。(会社法445条)株式会社とは、株主が払い込んだ資本により活動をし、その結果として財産が増加すれば、払込時点より増加した額が剰余金であり、株主配当の原資です。従い、資本金や資本準備金を減少させることは、基本原則に反するが、会社の規模縮小等で株主に払い込んだ資本を戻すことはあり得ます。

会社法は、資本金、資本準備金及び(LDHの場合は計上されていなかったが)利益準備金の減少については、株主総会の議決(会社法447条、448条)と債権者に対する手続き(会社法449条)を定めており、LDHは2009年2月23日に、この資本金及び準備金の額の減少公告を行いました。

結果、その他資本剰余金が計上され、株主への配当が可能となりました。LDHは、社名がエッジであった時代を含め、株主配当を一度もしていなかった。初の株主配当が株主が払い込んだ財産の払い戻しで実施される皮肉な結果です。

3) LDHの今後

LDHが現在保有している最大の会社が株式会社セシールです。次の表がLDHの有価証券報告書にある2009年3月上半期の事業の種類別セグメント情報です。

Ldhsegment20089

セシールの株式の50.3%をLDHが保有しており、このLDH保有株式について、フジ・メディア・ホールディングスの子会社フジ・メディア・サービスがTOBを発表しています。(ここ)これに、LDHは賛同しており、このTOBは成立確実であり、その結果、上の表の黄色の通販事業がLDHから消滅する。残るは、インターネット事業が主体であり、インターネット事業のみを継続するのであれば、大きな金額の資本を維持しておく必要がない。そこで、今回の配当というか資金の払い戻しというかになるのは、合理的な判断と思います。

4) 最終的には

2009年3月期のLDH業績は連結で576億円、単体で557億円のそれぞれ純損失です。ほとんどが、LDH単体で発生していますが、その内訳には、
・ フジ・メディア・ホールディングスに対する和解による支払済み損害賠償金: 314.8億円
・ 日本生命他及び個人株主約3000名に対する訴訟損失引当金繰入:     223.8億円
の合計538.6億円の特別損失があります。

今回ホリエモンに対して配当を支払わない場合は、117.7億円については、現金の流出はされず、2009年2月18日付け公告でLDHが発表しているホリエモンを含む7名に対する損害賠償金345億7773万円と相殺されることと理解します。

2009年3月末時点でLDHには、現金・預金が1076億円あり、この中から、今回の配当をホリエモンには保留として支払うと564.4億円が流出し、511億円残ることとなります。しかし、訴訟損失引当金として計上している223.8億円を今後支払う場合は、残が287.8億円となります。ホリエモンには保留するとし287.8億円は、1株あたり3,300円強の配当資金です。

上記の場合は、ホリエモンに対して損害賠償金と相殺した金額は177.4億円であり、他の人達を加えると少し大きくなるかも知れませんが、損害賠償金の51%程度に止まり、ホリエモンから賠償を受けた分だけ、株主への今後の配当も多くなると言う計算です。事業収益からの配当期待ではなく、損害賠償金からの配当期待という変な形であります。

5) ライブドア

ライブドアとは何であったのでしょうか?2004年2月にエッジからライブドアへ、2007年4月にライブドアからライブドアホールディングへ、そして2008年8月にLDHへと、めまぐるしく社名変更を続けました。ホリエモンは、2006年1月に逮捕され、2006年4月にマザーズ上場廃止。現在までの利益の累計は、マイナスであり、損失なのです。

2005年9月期(当時はLDHは、9月決算でした。)からの貸借対照表と損益計算書を連結と個別の両方について掲げます。(クリックで拡大)全ての期間について、売上よりも流動資産の金額の方が大きく、資金調達サイドはほとんどが資本金・資本剰余金です。やはり財務諸表はいびつであったと言えると思います。そんな会社に対する投資は、気を付けなければいけないのでしょうね。実態のないバブル人気を一時は持っていましたから。

(注)途中に決算期の変更があり2008年3月期は6月期間です。2008年9月期は中間期であり、2009年3月期は中間期を含む1年間です。

Ldhfs2009

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2009年6月20日 (土)

小沢一郎への違法献金事件結審

たった1日の法廷だったのですね。

日経 6月20日 西松献金事件、前社長に禁固1年6月求刑 7月14日に判決

1) 政治資金規正法

裁判についてこのMSN産経ニュースにあり、(1)から(10)まで相当長いが、詳細な報告があります。あるいは、このMSN産経ニュース に前社長、国沢被告側の最終弁論の要旨がありますが、弁護士が述べたこととして、次の記述が含まれています。

A) 現金輸入について届け出をしなかったのは形式犯であり、違反は軽微であります。

B) 政治資金規正法は政治資金のあり方について定めたもので、一種の行政法規であり、実質犯と異なり形式犯です。あたかも贈収賄ととられるような適切な報道であったとはいえません。罪刑を越える非難を加えることはできません。

C) 公共工事の受注業者を決める際に影響を及ぼす政治家に、少なくとも嫌われたくないから多額の献金をするんです。ゼネコン各社にとって、競争に勝つためには献金は不可欠だと考えられてきました。西松建設だけが献金をしないことは不可能です。西松建設が政治団体を使って献金をしたのも、無理からぬことです。

D) 被告人は102日間という長期に渡り、身柄を拘束されました。実質上、取り調べが終了した後も保釈が認められず、罪刑に比べてあまりにも長期にわたり、拘束されました。

弁護人として当然のことを述べているのです。しかし、これをこのまま聞き逃してよいのか、何かおかしいのではと思います。C)の状態について西松建設や国沢被告に責任の一端はあるが、刑事罰を問うことだけで解決になるとは思いません。また、社会としてこれでは、絶対によくないはずです。

田中角栄はロッキード事件で収賄で起訴されました。裁判途上で死亡し、審理途上で控訴棄却になっています。しかし、榎本敏夫の最高裁判決がここ全文pdf)にありますが、田中角栄の収賄は認められています。

小沢一郎は、田中角栄ほど力がなかったのが理由で、収賄にならなかったとは思いませんが、釈然としません。

公共工事で政治家に金を渡すのは、一般市民の感覚からすれば贈賄であり、市長や知事が相手なら贈賄で、野党議員であれば政治資金規正法違反というのも、バランスが悪いと思います。ヤリ得になり、C)の問題解決がいよいよ困難になると思います。

2) 外為法違反他

A)の外為法違反を軽微だとはケシカランことで、重罪と思います。マネーロンダリング、贈賄、不正送金等を無くしていこうとしているのは、世界的な取り組みです。大量の現金をバッグに入れて持ち運びを軽微な違反であるとすることは、重大な不正を許すことであります。不正をするために、現金をバッグで運ぶのです。不正をするからには、記録を残さない。記録を残さずにすむのは、現生であります。(そんな小説がありました。もっとも、ロッキード事件は段ボールに現金を入れて渡したのですね。)

D)の102日間の身柄拘束は長すぎたと思いますが。

3) 二階俊博氏事件

どうするのかなと思います。検察審査会の「不起訴不当」と「起訴相当」を受けて検察が起訴をしなかった場合です。選挙前に起訴をすれば、自民への打撃は大きいと思います。しかし、反自民の政権になったなら、起訴になると思います。先ずは、検察に対して、状況の説明を求めるでしょうが。

面白いですね。小沢事件と二階事件がどう違うのか、分かるかも知れないなんて。

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2009年6月19日 (金)

小沢一郎への違法献金事件での公判始まる

西松献金事件については、3月7日に西松建設違法政治献金に思うのエントリーで、当時の思いを書き連ねました。本日初公判がありました。

日経 6月19日 西松前社長、起訴内容認める 検察「小沢事務所の意向『天の声』」

「国沢前社長は起訴内容について「間違いありません」と認めた。」とあり、時事ドットコム 6月19日 大久保秘書「よし、西松にしてやる」=支店幹部調書、検察読み上げ-西松事件からすると、西松建設東北支店幹部の供述調書のこの部分も認めたと理解します。

また、読売 6月19日 小沢事務所から「天の声」で受注…西松事件検察冒頭陳述には西松建設が小沢事務所の「天の声」で受注したと検察側が主張する工事一覧計122億7000万円なる案件リストがあります。

1) 小沢氏の説明

ここまで、裁判で検察に言われたのですから、ダンマリをしていると、国民からそっぽを向かれると思います。どう、出るのでしょうね。楽しみです。

2) 大久保被告の罪

小沢一郎氏の秘書の大久保隆規被告(47)は保釈保証金1500万円で5月25日に保釈されました。大久保被告の罪は、47ニュース 5月25日 民主・小沢氏秘書の保釈決定 保釈金1500万円にもありますが、政治資金規正法違反であり、「実際は西松建設からの企業献金なのに、ダミーとされる西松の政治団体」からの献金であるとして政治資金収支報告書に偽って記載したとの罪です。

裁判の検察の陳述と西松の「間違いありません」に対して、贈賄側と収賄側の落差がありすぎと感じます。例えば、金が政治団体から振り込まれているなら、献金者をその政治団体として間違いはないと思います。該当部分に、西松建設と注記しなかったのが、どれだけの罪かとなるだけではないの?と思います。収支報告書の記載方法より、「よし、西松にしてやる」と金を受け取ることがはるかに罪が重いのが私の罪悪感です。

読売 6月19日 「法相指揮権」めぐり波紋…民主第三者委が報告書で言及のようなニュースがありましたが、この2009年6月10日付第三者委員会報告書がここにあります。今回の第1回公判のニュースに接した後で読むと、大久保隆規被告の弁護をしているだけで、本質には迫っていないと感じます。勿論、捜査権もなく、公開されていることのみで、結論を出しているので、このようになってしましますが。

3) 二階俊博氏はどうか

6月17日のニュースです。

日経 6月17日 西松事件、二階派側の不起訴「不当」 検察審査会が議決

にあるように、検察審査会は会計責任者、泉信也参院議員らを「不起訴不当」、西松建設の国沢幹雄被告を「起訴相当」とする議決をしました。小沢事件が起訴で、二階事件が不起訴は、多くの人にとって、不可解であります。

なお、「不起訴不当」と「起訴相当」の違いですが、次の検察審査会法27条です。過半数で「不起訴不当」ですが、11人中8人以上でないと「起訴相当」にならないのです。

検察審査会法27条 検察審査会議の議事は、過半数でこれを決する。但し、起訴を相当とする議決をするには、八人以上の多数によらなければならない

こちらも、小沢事件とレベルを合わせて、裁判をすればよいと思いますが。

4) 総選挙への影響

どう影響するでしょうかね。一般的には、民主党不利となるのでしょう。民主党は、企業・団体献金の禁止団体からの政治献金禁止をマニフェストとして出していくと理解します。内容については、私も勉強不足ですが、内容次第、訴え方次第では、成り行きは分からないと思います。

いずれにせよ、変な候補者には入れません。

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2009年6月18日 (木)

元厚労省の局長村木厚子容疑者事件の疑惑

6月14日に厚労省現職村木厚子局長(現在は大臣官房付)が証明書偽造に関連して逮捕され、連日報道が続いています。

日経 6月14日 厚労省局長を逮捕 郵便不正事件、証明書偽造に関与の疑い

何故、証明書偽造に手を染めたのか、今後どこまで真相が解明されるか不明ですが、思うことを書いてみます。

1) 証明書偽造なのか?

報道では、証明書の偽造と多くの場合使われています。しかし、発行人の名義や使用された印鑑が正規のものであれば、偽造ではなく、手続きの不備であり、役人としての行為の背任であり、虚偽公文書作成になります。

虚偽公文書作成が、正規の用紙と印鑑を使用して実行されていれば、見破ることは不可能です。内部調査でしか判明しにくい。この場合、村木厚子容疑者と上村勉容疑者の二人のみで犯行が可能なのか疑問を持ちます。即ち、他に協力者はいないのか。黙認をしていた人はいないのか。

組織犯罪とは思いませんが、組織の中で、知っていてあるいは疑問に思っていて犯罪の告発をしなかった人がいる可能性を思います。普通の場合であれば、問題視するほどではないかも知れないが、公務員として不正行為に対しては常に高い志を有しているべきであると考えるからです。

2) 証明書偽造リスク

報道によれば、上村勉容疑者は犯行を認めてるが、村木厚子容疑者は否認しているようです。虚偽公文書作成であるとして、ばれないと踏んだわけではないと思うのです。文書として、証拠が歴然と残る犯行なので、そんなリスクがあると解りきった犯罪を何故実行したのかと疑問があります。

村木厚子容疑者は53歳として報道されていますが、53歳で中央の局長というのは出世頭になります。年収だって、2千万円を超えているはずです。そして、例え退官しても何らかの職には間違いなく就けるし、役所を退官後も退職給付を受けられる。有罪になれば、全て吹っ飛ぶわけですから、もし犯行をしているなら理解に苦しみます。

実は、村木厚子容疑者の夫も、厚労省の役人なんですね。ここに厚労省の幹部職員名簿がありますが、大臣官房の3番目の総括審議官(国際担当)村木太郎が夫であると理解します。だから、二人合わせると5千万円近い年収があったかも知れません。二人ともここまでの幹部職員で、個人の生活は相当犠牲になっていたと思いますので、夫婦生活がどうであったか不明ですが。

3) 障害者自立支援法とは何が目的

この朝日 6月16日 厚労元部長「障害者自立支援法制定意識し議員依頼了承」には、幾つかのことが書かれています。

A) 元障害保健福祉部長(退職)が大阪地検特捜部の任意の聴取に、障害者自立支援法への流れをつくるため、民主党国会議員の依頼に応じたという趣旨の証言をしている。

B) 2004年当時、障害保健福祉部の企画課長であった村木厚子容疑者は障害者自立支援法の成立に向けての厚労省において、その責任者であった。

C) 村木厚子容疑者は、この国会議員の元私設秘書で凛の会元会長の倉沢邦夫容疑者(73)=虚偽有印公文書作成・同行使の共犯容疑で逮捕=と面会。

ということで、C)からすれば、虚偽公文書作成となっているので、本物を作ったようです。倉沢邦夫が秘書をしていた国会議員とは、誰かですが、6月2日 毎日 郵便法違反:民主・石井副代表「全く関知していない」という報道があり、”石井氏は「倉沢氏は私設秘書だったが、・・・」と述べ”とあります。

最終的に、障害者自立支援法は国会の投票において民主党は反対に回り、自民・公明の賛成で2005年10月に成立しました。身体・知的・精神障害者は1割負担を強いられることとなり、色々な批判がある法です。もし、国会議員の一声で、役所幹部職員による虚偽公文書作成が行われたとするなら、重大なことと考えます。上にも書きましたが、虚偽公文書作成は一般の人にとって見破ることが困難です。本物の水戸黄門の印籠が出現するのですから。

法のほとんどは、役所が法案を作成し、国会ではほとんど修正もなく原案賛成で成立します。しかし、役所の法案がよく錬られたよい案であれば、それでよいのであり、このことに対する議論は止めておきます。役所で法案を作成する際には、審議会や公聴会のみならず様々な関係者の意見も聴取して懸命になって作っていくのであり、多くの役人は自らの時間を犠牲にしても取り組んでおられます。

ところが、国会議員の一声で、法案を通すために、虚偽公文書作成をしたとなると、余りにも酷いことです。野党を含め議員に対して法案成立に向けて何かをするのであれば、それは法案の中身についての説明であり、議論であるべきです。障害者自立支援法は役人や議員のためにつくる法ではありません。障害者の為につくる法です。

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2009年6月17日 (水)

銀行の比較

銀行の比較をしてみました。

1) 利息を比較

6月9日のエントリー劣後債で、東京三菱銀行発行の劣後債利息の関連や、その少し前の5月27日のエントリーソフトバンク社債で社債利息のことを書きましたが、利息は気になるところで、比較をしました。

比較の対象とする銀行ですが、メガバンク3行は外せない。それに、都市銀行となっているりそな銀行、そして新生銀行とあおぞら銀行を加え、その上で、話題銀行として新銀行東京と日本振興銀行を加えることとします。日本にどれだけ銀行があるかは、この金融庁のページ(pdf)にあります。

預金は、6ヶ月と1年定期預金の2種類とし利息の比較を行いました。

6月定期 1年定期
東京三菱UFJ 0.12% 0.20%
三井住友 0.12% 0.20%
みずほ 0.12% 0.20%
りそな 0.12% 0.20%
新生銀行 0.22% 1.10%
あおぞら - 0.95%
新銀行東京 0.12% 0.20%
日本振興銀行 - 1.10%

基本的には、横並びですが、新生銀行とあおぞら銀行は利息が高くて、面白いですね。新生銀行は旧日本長期信用銀行であおぞら銀行は旧日本債券信用銀行であり、この中で、あおぞら銀行のみ銀行債を発行しています。例えば、この売り出しの案内であり、6月11日付の案内では0.28%となっています。

2) 銀行業績

2-1) 都市銀行

企業は不況であっても、誰かが資金援助を続行してくれれば、倒産はしません。何時の日か回復すれば、大丈夫と期待ができます。銀行も同じで、資金が続けば持続しますが、預金を集めるために、利息を高くすれば、コスト増となってしまう。不良貸し出しになり、与信関係コストを膨らませてもどうもならないのですが、魅力がなくて誰も預金が減少するのは避けなければいけない。どの業種も大変ではありますが、とりあえずメガバンクの持ち株会社3社とりそなホールディングを比較しました。

先ずは、連結貸借対照表です。決算短信とディスクロージャー資料から作成しました。

4megabanks20093_2

グラフに書くと次のようになりました。やはり、メガバンクは大きいのです。

4megabanks20093graph

果たして不良貸付が、どれぐらいあるかを判断するのが、次の表です。りそなは、少し不良債権の割合が大きいようです。貸倒引当金の額とその引当率も書きました。

単位:十億円 2009年3月 MUFG MSFG みずほ りそな
破産更正債権及びこれらに準ずる債権 241 320 309 137
危険債権 656 678 595 367
要管理債権 293 196 478 164
金融再生法開示債権合計 1,190 1,194 1,382 668
正常債権 94,020 66,029 76,737 26,894
合計 95,210 67,223 78,119 27,562
開示債権比率 1.24% 1.78% 1.77% 2.42%
貸倒引当金及び投資損失引当金 1,222 1,078 890 441
引当金の引当率(引当金/合計) 1.28% 1.60% 1.14% 1.60%

りそなについては、2006年5月に公的資金(3兆128十億円)の注入を受け、現在でも49.54%株主は預金保険機構であり、2兆085十億円が預金保険機構と整理回収機構からの資金注入が残っています。

2009年3月期は、基本的には全ての銀行でサブプライムの影響があり、赤字転落が多かったのですが、次の表が連結損益計算書です。りそなは、減益となったものの、赤字にはなりませんでした。

4megabanks20093income

最後に、銀行の健全性を示すバーゼルII自己資本比率の比較表を掲げます。バーゼルIIの金融庁の説明はここにありますが、自己資本÷貸付等の金額と考えて下さい。Tier1比率は基本的項目の自己資本のみとするので、Tier1比率が常に低い比率となります。

自己資本比率の状況 (十億円) MUFG MSFG みずほ りそな
Tier1自己資本 7,575 4,335 3,767 2,079
Tier2(算入額) 4,218 2,421 2,794 771
控除項目 313 708 333 32
自己資本 11,480 6,048 6,228 2,818
リスクアセット 97,611 52,727 58,984 20,945
自己資本比率 11.76% 11.47% 10.56% 13.45%
Tier1比率 7.76% 8.22% 6.39% 9.93%

2-2) 他の4行

他の4行についても、同じように、連結貸借対照表他を作成しました。単位は、都市銀行4行と同じ十億円で書いています。

4otherbanks20093

単位:十億円 2009年3月 新生銀行 あおぞら 新銀行東京 日本振興銀行
破産更正債権及びこれらに準ずる債権 40 43 16 3
危険債権 179 113 17 13
要管理債権 66 14 0 0
金融再生法開示債権合計 284 170 33 16
正常債権 5,593 3,315 166 300
合計 5,877 3,485 200 331
開示債権比率 4.82% 4.88% 16.74% 4.72%
貸倒引当金 193 130 35 3
3.28% 3.73% 17.54% 1.03%

都市銀行4行と比較すれば、不良債権の割合が大きくなっていますが、特に、新銀行東京はダントツであります。新銀行東京の株主は東京都ですが、新生銀行とあおぞら銀行に対して注入された公的資金も未だ残っていますし、預金保険機構が贈与した金額は長銀に対して3兆235十億円で、日債銀に対して3兆141十億円と、それぞれ天文学的金額が贈与されました。これを考えると銀行の恐ろしさです。

4otherbanks20093inco

自己資本比率の状況 (十億円) 新生銀行 あおぞら 新銀行東京 日本振興銀行
Tier1自己資本 580 525 47 21
Tier2(算入額) 327 26 3 11
控除項目 104 67 3 0
自己資本 803 484 47 32
リスクアセット 9,621 4,172 153 333
自己資本比率 8.35% 11.60% 30.78% 9.65%
Tier1比率 6.03% 12.58% 30.52% 6.34%

3) 新銀行東京の問題

自己資本比率の状況だけからすると、新銀行東京は健全となるのですが、リスクアセットが少額であるだけで、次の表のように貸付をしていないからです。預金の半分しか貸付をしておらず、貸付金と有価証券を比較すると有価証券の方が大きいのです。一方、貸付を膨らませすることができるかというと、不良債権の率は一番高いのです。

貸付金/株主資本 貸付金/預金 貸付金/有価証券
東京三菱UFJ 12.0 0.77 1.91
三井住友 25.1 0.86 2.27
みずほ 27.6 0.91 2.34
りそな 13.1 0.83 3.31
新生銀行 9.8 0.98 2.70
あおぞら 6.5 1.33 3.09
新銀行東京 3.7 0.50 0.75
日本振興銀行 14.9 0.78 6.41

融資をしないと、利益を生み出せない。しかし、無茶な融資をすると、不良債権が膨らんでいく。新銀行東京は、本来であればもっと中小企業向けの融資が伸びていないといけないのですが、相手企業を審査し、問題が生じればコンサルタントでも何でも雇ってよみがえらせるような、そんなことをしなければならないのですが、萎縮して悪循環に陥っているように思えます。貸付金残高も1年間で210億円減少しています。一方で、有価証券が250億円増加しているので、この銀行は貸しはがしの先頭を行っており、中小企業の敵のような気もします。

まもなく都議選ですから、有権者がどう反応するか楽しみです。

4) 日本振興銀行問題

日本振興銀行は、上の分析からすれば、正常に思えます。しかし、SFCG(旧商工ファンド)からの債権買取で有名であり、2008年3月期と比較をしたのが次の表です。すごい増加をしていることが分かります。

20093c

貸出金なんて1年間で3.8倍ですから。債券を他の金融機関から買い取ることに問題はなく、その様な方法で業績を伸ばす方法もありますから。しかし、SFCGが同一の債権を日本振興銀行以外にも2重に譲渡をしているのであれば、姿はまるで異なってきます。

しかし、一方で、甘いビジネスはないのであり、新銀行東京は貸出金が減少しているのです。やはり、ここまで増加しているとなると心配です。 

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2009年6月12日 (金)

再び郵政選挙でしょうか

これほど早くこのニュースがあるとは、思いませんでした。

読売 6月12日 鳩山総務相が辞表提出、「潔く去るのがいいと判断」

当然のこととして、株主総会において日本郵政の指名委員会が提案した取締役候補を株主総会で賛成し、西川氏の続投が決定すると思います。しかし、波紋は大きいと思います。鳩山総務相の辞任が、日本郵政の提案内容を変更する理由にならないだろうし、変更したら西川派の議員が、今度は反麻生に立ち上がらざるを得なくなる。自民党の内部を考えるだけでも、小説を読むか、劇を楽しめるみたいです。

それと、自民が負けると、与党が変わるわけで、そうなると株主の権利として、総会の開催の請求(会社法297条)と総会における株主提案権(会社法303条)が出てきます。今の状態であれば、民主党は、これを行使して、日本郵政取締役メンバーの一新を計ると思いました。

4年たって、今回も郵政選挙である可能性を感じました。

1) 郵政民営化

前の日本郵政の経営者と株主でも書きましたが、株式会社ゆうちょ銀行と株式会社かんぽ生命保険は一刻も早く株式上場を果たし、民営化すべきです。一般の銀行や一般の生保と競争すればよいのです。郵便局が、ゆうちょ銀行やかんぽ生命保険の窓口となるかどうかは、競争です。郵便局が、他の銀行のATMを設置してもよいし、他の会社の生命保険を販売してもよいのですから。郵便局は、その地域と密接に結びついた仕事をすればよいのであるから、地域の人のために最適な銀行や生命保険会社を選び窓口業務を行えばよいのです。

郵便事業を民営化するかですが、例えば米国を例にします。米国は、郵便事業をUnited States Postal Service(USPS)が行っており、USPSは米国連邦政府の機関です。連邦政府の幾つかの法律が関係した日本で言えば、独立行政法人か公社という組織と考えます。単独で財務諸表を発行しており、監査法人による監査も受けています。(Ernst & Youngの監査報告書があります。)

郵便事業の大切さは、(1) 確実に相手先に届くことと(2) 途中で開封されず私信の秘密が守られることの2点と思います。私は、この2点について、日本の郵便事業は信頼できると思っています。この2点が崩れると、代替手法がほとんど消滅すると思います。現在、ネットが普及し、光ケーブルが広がり、E-Mailが多くの人に送付できます。しかし、どのようにネットが普及しようとも、現物が相手に届けることができるシステムは維持すべきです。

考えてもみて下さい。送っても、届かないかも知れないや、サービス地域ではありませんなんて。私は、嫌です。

2) 日本郵政改正案

単純に考えました。今の株式会社は、そのままで維持すればよいのです。取締役が9名います。この取締役のメンバーに国民、市民代表を入れればよいのです。例えば、裁判員制度のように、3名の職業取締役と6名の選挙権を持つ一般の人から選ばれた非常勤取締役により取締役会を構成し、経営事項を協議・決定していけばよいのです。裁判員制度の場合は評議は秘密事項ですが、取締役会には秘密はありません。(会社に損害を与える事項やインサイダー取引に関する事項等についての秘密保持義務はありますが)刑事裁判と同じことを日本郵政でできないことはないはずです。

多分、3名の職業取締役と6名の選挙権を持つ一般の人による取締役会と言えば、反対する人は多いかも知れません。そうであれば、総理大臣指名による3名、労働組合指名による3名、一般の国民から3名はいかがでしょうか?

4年前に圧倒的多数で、郵政民営化を国民は選んだのです。その結果を、どうするか。郵政民営化を推進すべし。民営化とは、総理大臣が選んだ人間に委せることではないはずです。株主が選んだ人間が経営にあたるであり、政府が株主である間は、国民からも取締役を選ぶべきと思います。一般国民・市民の非常勤取締役の報酬については、現在の非常勤取締役と同額を受け取ることとし、上場会社ではないから関係ないが、ストックオプションはなしにしましょう。

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2009年6月11日 (木)

日本郵政の経営者と株主

日本郵政西川社長人事に関するニュースで連日にぎわっています。

読売 6月9日 自ら辞任しないが…総務相認可なければ「法に従う」西川社長

読売 6月10日 中川元幹事長「本気で戦う」…郵政社長人事で総務相けん制

自民党の内紛か、日本郵政のだらしなさか、何であろうかですが、そもそも日本郵政は日本郵政株式会社であり、会社法により設立されたれっきとした株式会社です。現在の株主は、政府です。ガバナンス欠如の会社と思うことから書いてみます。

1) 日本郵政株式会社

株式会社のガバナンスの基本は、株主が経営者である取締役に会社の経営を委託します。株主が直接経営を行うのではなく、株主総会の多数決により取締役を選任し、取締役は取締役会を組織し、経営を行います。株式会社の大原則ですが、日本郵政の場合、株主は政府です。

政府とは、誰ですか?国民ですよ。日本郵政の場合、国民が顧客であると同時に、株主であります。政府は、国民の声を聞いて、株主としての権限を実行し、日本郵政の取締役にふさわしい人を選任すべきです。

上の6月9日の記事からすると、西川社長は国民の声を素直に聞くべき耳を持たず、愚民扱いしているように感じます。6月10日の中川氏は、テレビ朝日の番組でそのような発言をしたとありますが、そうであれば政治家として失格と私は思いました。

2) 何故西川氏は辞退しないのか

ここに2009年5月22日 日本郵政 社長会見の模様が、ありますが、その中に、次の質疑があります。

【記者】
・・本日、午前中の取締役会で、先だって指名委員会が決定した取締役選任の人事案と申しますか、そういうものが報告されたかと思います。この人事案についてなのですが、現在9名いらっしゃる取締役の方々がそのまま再任される、再任すべしという案なのか、あるいは解任、新任も伴うという異動のあるものなのか、その人事案の内容について、まずご説明ください。
【社長】
本日の取締役会では、株主総会の事案につきまして、指名委員会が決めた取締役選任案が報告され、日本郵政株式会社として決議したということです。取締役の選任案は、「9名全員再任させていただきたい」という案です。

日本郵政は委員会設置会社であり、指名委員会が株主総会に提出する取締役の選任案を決定します。それからすると、西川氏は委員会が決めたことを自分で覆せないと言っているようです。指名委員会の決定であるから、尊重する必要があるかとも思いますが。実は、であります。

西川氏自身がメンバーに入っています。ちなみに他のメンバーは、委員長牛尾治朗で、委員が高木祥吉(1971年大蔵省入省で、現在は日本郵政副社長)、奥田碩と丹羽宇一郎で全員で5名です。もっと言えば、この会社のガバナンスは無茶苦茶で、報酬委員会にも西川と高木が入っており、更には奥田が委員長です。お手盛りで、自らの報酬を決定することができる。こんなガバナンスは、ありだろうか?西川氏は、70歳です。高齢者になっても働くことには、大賛成です。しかし、社長になぜなるのですか?もっとふさわしい人が多くおられます。自らは退き、別の形で応援するのが本当でしょうが、酷い者です。

3) 総務大臣の権限

日本郵政は、2005年10月21日公布の郵政民営化法により設立することが定められましたが、同時に日本郵政株式会社法も公布されました。その日本郵政株式会社法第9条が次であり、取締役の選任は総務大臣の認可が必要となっています。

(取締役等の選任等の決議)
第9条  会社の取締役の選任及び解任並びに監査役の選任及び解任の決議は、総務大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。

かんぽの宿の売却を鳩山総務相は問題にしていることから、私も日本郵政のプレスリリースを見てみると、次のような発表はあるが、一括売却とした理由やオリックス不動産との契約金額を初め、契約内容等も見つけることができませんでした。

2008年12月26日 かんぽの宿等の譲渡について
2009年2月16日 「かんぽの宿等」事業の譲渡に関するオリックス不動産株式会社との契約の解約について
2009年2月16日 「かんぽの宿等」事業の譲渡について

これらのプレスリーリースを読んで、国民、市民、住民、利用者、顧客という観点が、残念ながら私には感じられないことです。

4) 今後

日本郵政は、国民のために存在していることを忘れてはぜったにダメです。しかし、現状は、国民から遠い所で、人事や事業方針を決めているみたいで、こんな民営化など不要だと思いました。

確かにそうです。郵政民営化は不要であったのです。郵貯と簡保を民営化すればよいのです。従い、現在の株式会社ゆうちょ銀行と株式会社かんぽ生命保険の株式を上場すればよいのです。そうすると今よりはるかに合理的になります。

郵便の自由化は、政府持ち株の株式会社がユニバーサルサービスを継続することで、簡単にライセンス制を導入できます。ヤマト運輸が、都会のみを配達区域に限定して、手を挙げてもよいと思います。正当なユニバーサルチャージを確保できれば、政府の郵便会社は現在の郵便制度を継続可能と思います。

4年前の郵政民営化選挙が思い浮かびます。あの結果が、現在のこんな事態に関係している部分は多いのだと思います。そうですね、ホリエモンまで、刺客候補で出ていましたから。

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2009年6月 9日 (火)

劣後債

劣後債に関する興味ある記事がありました。

毎日 6月7日 劣後債:個人投資家に人気 超低金利の中で利回り高く

利回り高くは、その通りです。しかし、全てが甘いのか、落とし穴はないのかと言うことで、記事にあるなかでの、金額が一番大きな東京三菱UFJ銀行を例として書いてみます。

1) 安全性

毎日の記事に書いてある劣後債は、メガバンクの金融機関ばかりですから、預金保険の対象ではないが、変な社債よりよっぽど安全です。しかも、株式と違い、元本が確定しています。

通常の社債と何が異なるかと言えば、この三菱UFJ銀行の資本性証券の説明ページの「劣後債権について」の次の劣後事由の説明にあります。劣後事由の発生により、元本も利息も払われなくなりますが、そんな事態は、発生しないと考えてよいのだろうと思います。

■ 劣後事由について
現在、当行が発行する劣後債には劣後事由として以下の3つがあげられています。

1. 破産手続の開始
2. 会社更生手続の開始
3. 民事再生手続の開始
劣後事由が発生すると停止条件が成就するまで劣後債の元利金支払いはなされません。

2) リスクと不便

劣後事由の発生がリスクです。それ以外には、ないと思います。但し、不便なことは、あるかも知れません。国債は勿論、一般の社債よりも中途で換金しようとする場合に、売るのに時間がかかったり、思ったより安く売らざるを得なかったりする可能性はあります。

それ以外に、不便なのは、株式のように価格上昇益がほとんど期待できないことでしょう。劣後事由が発生したら、株式よりは期待が持てるかも知れないが、元本が返済されない。この点については、株式と余り大きな差はない。価格変動を楽しむなら株式であり、手堅く収益を確保するなら劣後債と思います。

もう一つは、期限前償還オプションがついていたりします。発行者がオプションを持つのであり、市場金利が安くなり、新たに低い金利の劣後債が発行できるなら、新たに発行して、高い劣後債を期限前償還すれば利子負担が少なくなります。これを劣後債保有者から見ると、市場金利が安くなれば、固定利息の債権は価格が上昇します。しかし、上昇益が得られないうちに、償還されて元本が戻ってくる形です。ここに東京三菱UFJ銀行の行公募劣後債発行実績がありますが、発行から3年-5年を経過すると銀行に期限前償還の権利が発生するのがほとんどのようです。

なお、市場金利が上昇すれば、当然劣後債発行者は期限前返済をしないわけで、途中でもし有利になれば、期限前返済をするという一方にのみ強みがあるわけですが、それ故オプションであり、それを承知で投資家は投資をするわけです。

3) 劣後債は有利?不利?

東京三菱UFJ銀行の公募劣後債発行実績の一番最近である2009年3月13日に発行したリテール向け第19回期限前償還条項付無担保劣後社債の利息は2.75%です。これに対して、東京三菱UFJ銀行の普通社債の発行実績がここにあり、2009年4月9日発行の第104回債が5年満期ではありますが、利息は1.34%です。同じ東京三菱UFJ銀行の定期預金と比べると300万円以上の10年満期で0.6%ですから、定期預金よりは利率は高いのです。

定期預金は、預金保険があるしと言うわけで、うまく作られている。だからこそマーケットですが。

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2009年6月 5日 (金)

足利事件から学ぶ侵しやすい過ち

次のニュースからです。

朝日 6月5日 逮捕から17年「謝って」 足利事件の菅家さん釈放

犯罪がおきてから、19年。逮捕から17年の長期間が経過しています。何故なのだろうかと思っていました。モトケンブログで、二審から弁護をされてきた佐藤博史弁護士のインタビュー記事が次のあらたにすにあることが紹介されており、そのインタビュー記事を読み、誰もが侵しやすい過ちを佐藤弁護士が語っておられると思いました。

あらたにす 5月9日 <「足利事件」とDNA鑑定>佐藤博史弁護士に聞く

全部で10ページもある長い記事ですが、興味をお持ちの方は、是非お読み下さい。警察も極悪犯は検挙すべきであるとのプレッシャーがあって捜査したのだろうし、一審の弁護人が菅家さんを犯人であると思っていたことも、その時の判断としては、当然そうなった状態であったと思います。

私は、このあらたにすの記事には、感動しました。一つは、自分の確信を貫いて戦い通された佐藤弁護士の信念です。仕事なんて、報酬ではないのだ。自分の信念を通すことこそ、人の生き方なのだと思わせることを、実際に実行されているのですから。

もう一つは、このエントリーのタイトルです。変だと思っても、よく考えないで、通り過ごしてしまうことがあります。足利事件の関係者は、自らは気がつかなくても、結果として、そのようになったのです。私も、気をつけなくては、いけない。ヤバイかなと思ったら、もう一度考えてみることが重要と思います。足利事件のDNA鑑定から学ぶべきは、捜査とか刑事裁判とか犯罪に関する鑑定なんて、そんな犯罪に関する範囲のみではない、私たちがいつも接している出来事にもあてはまると思いました。

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GM、Ford、ToyotaとHondaの財務諸表の比較

GMの事業は、今後2月から3月の間で更生計画が承認され、更生計画に基づく会社更生が実施されると予想されます。更生計画により、GMの事業を引き継ぐ新GMの資本構成は、米連邦政府が大株主で、次の様になる予定ですが、新社会主義の会社というのが適切かも知れません。

米国政府(US Treasury)       60.8%
カナダ政府とオンタリオ州政府  11.7%
New VEBA(新労働組合)      17.5%
その他債権者            10%

(注)VEBAとは、Voluntary Employees' Beneficiary Associationの略で、従業員が組成する労働組合のような組織ですが、同時に健康保険組合の性格も持つような組織と理解します。

米国とカナダの政府が72.5%でUAWを加えると90%ですから、21世紀の社会主義の実験みたいです。成功して、新GMが上場し、政府がIPO利益を取れれば、国民の税負担が少なくなるわけで、皆Happyです。一方、経営に行き詰まれば、大変です。オバマ政権の最重要事項となるでしょう。実際、経営は政策ではないですから。演説して、票を得ることより難しい部分があります。

新GMの経営を占うには、時期尚早であり、Chapter11申請前の、財務諸表を使い、GM、フォード、トヨタ、ホンダを比較してみたいと思います。

1) 近年の業績

次のグラフは、2005年から2008年までの4年間の各社売上高と純利益の推移を表しています。なお、トヨタとホンダの2008年は2009年3月期の数字であり、決算短信からの数字です。比較のために、米ドルで表示しています。又、全て連結財務諸表からの数字です。

4carcompanies2008

少し、違ったグラフにしてみました。このグラフで総コストは、売上高から(特別損益を除く)税引前利益を差し引いた金額としています。

4carcompanies2008a

上のグラフで、破線が売上高と総コストが同額になるポイントです。従い、破線より左上に来れば、利益であり、右下に来れば損失です。トヨタの2008年は赤字ですが、それ以外は日本の2社は健全ラインにあります。なお、数字を記入したテーブルも次に掲げておきます。

上段:売上高
下段:純利益
単位:百万ドル
2005 2006 2007 2008
GM 193,050 204,467 179,984 148,979
▲10,417 ▲1,978 ▲38,732 ▲30,860
Ford 176,835 160,065 172,455 146,277
1,440 ▲12,613 ▲2,723 ▲14,672
Toyota 210,369 239,481 262,394 205,296
13,722 16,440 17,146 ▲4,369
Honda 99,080 110,871 119,801 100,112
5,970 5,923 5,989 1,370

2) 貸借対照表

貸借対照表で見ると、実態がよく解ります。GMとFordの2008年12月末とToyotaとHondaの2009年3月末の連結貸借対照表を図示します

4carcompanies2008b

黄色の部分が純資産ですが、左にある場合は、純資産ではなく、債務超過額となります。GMは、すごいですね。資産が91,047百万ドルに対して、負債が177,201百万ドルです。会社とは、こうなってでも存続できることを証明してくれているのでしょうか?倒産させることができない会社は、強いのです。

この4年間で、どう推移してきたかが次のグラフです。

4carcompanies2008c

2005年末においては、GMもFordも純資産額がほぼゼロであったのですが、GMは2007年、2008年と大きく損失を増加させて、債務超過額を増大させていきました。次のグラフがGMの2005年末から2008年末にかけての貸借対照表です。2006年に資産・負債が急激に小さくなっているのは、自動車ローン会社GMACの51%持ち分をFundに売却し、連結子会社から49%保有の持分法適用関連会社にしたためです。

4carcompanies2008d

自動車会社4社の純資産額(債務超過額)の総資産に対する比率は次の通りで、GMの場合は、債務超過額があっという間に膨らんでいきました。

4carcompanies2008e

4社の純損失額を資産総額の比で見た、各年のReturn on Assets(マイナスであるLoss on Assets)のグラフを書くと次のようになりました。

4carcompanies2008f

売上高に対する利益率(損失率)でグラフを書く次の様になります。自動車産業も、恐ろしい産業です。

4carcompanies2008g

3) 退職給付と退職者給付

退職給付関係を比較してみます。なお、ToyotaもHondaも連結財務諸表は米国基準を採用しており、GM、Fordとの比較がそのまま可能なのですが、退職給付会計の基準が日本基準と少し異なっています。米国基準においては、包括利益(Comprehensive Income)の概念が採用されており、純資産に「その他の包括利益(Other Comprehensive Income)」の区分があります。未認識過去勤務債務は、日本基準であれば、認識せずに注書きですが、米国基準では日本の退職給付引当金に相当する未払退職・年金費用に含めて計上するが、当期損益には含めず、直接に「その他の包括利益」に算入します。

次の表は、4社の退職給付関連の金額を示しています。退職給付債務の金額では、売上が一番大きいToyotaがGMの1/10近くです。その他の包括利益の中に計上されている金額は4社すべて損失であり、将来費用として認識することになりますが、その金額もGMが一番大きいのです。ToyotaとHondaを退職給付関連を比較すると、売上高は倍半分ですが、退職給付関連の金額はほぼ同じでした。退職給付制度の違いもあり、調べていないので何とも言えないのですが、会社の差は大きいようです。

自動車会社4社の退職給付関連の金額(単位:百万ドル)
GM
2008年12月
Ford
2008年12月
Toyota
2008年3月
Honda
2008年3月
退職給付関連期末債務予測額(Benefit obligation) 161,020 83,808 16,899 16,086
年金資産期末公正価値(Fair value of plan assets) 102,600 55,649 12,796 11,539
未払退職給付未払額(退職給付引当金)(Noncurrent liability recognized) 54,097 28,228 6,311 5,392
退職給付等費用期中認識額(Pension & OPEB expenses) 2,747 ▲808 960 693
包括利益・損失に計上されている退職給付費用累計額(Amounts recognized in accumulated other comprehensive income) 39,638 9,947 2,058 3,716

上記の退職給付未払額と退職給付費用をパーセントで表示したのが、次の表です。退職給付未払額とは、日本基準における(未認識過去勤務債務と未認識数理計算上の差異を含んだ)退職給付引当金に相当します。別の表現で言えば、外部の年金基金に対する積立てが終了していない部分の金額です。やはり、4社の比較ではGMが最大です。UAWがGMの主要債権者であることが納得できます。

Fordの退職給付費用がマイナスの費用(利益)になっているのは、退職者医療保険か何かの制度見直しにより、その債務計上(引当金の様な感じ)していた部分を2008年に減額したことにより、利益を認識したからです。但し、全体の総合ポジションは退職給付未払額であり、全体像を見失ってはいけません。

ToyotaとHondaについても、米国を含む全世界の合計数字ですが、GMやFordに比較すると数字が小さい。この一つの理由として、日本ポーションが大きいことがあり、公的年金制度により退職給付未払額が小さくて済ますことが出来て、企業の負担を低く抑えられていることがあると考えます。

GM Ford Toyota Honda
退職給付未払額/総負債 30.5% 12.0% 3.3% 6.9%
退職給付費用/売上高 1.8% -0.6% 0.5% 0.7%

4) 感想

GMって大変ですね。魅力ある車を開発していけるか、どうかが一番のポイントかもと思います。魅力ある車を生産し、ユーザーのサポートが得られ、多くの雇用機会を作っていれば、赤字かどうかなんて2の次なのだろうと思います。そうでないと、生き残れない気がします。でも、他の方法もあるかも知れませんね。いずれにせよ、今後が楽しみです。

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2009年6月 2日 (火)

GMの連邦破産法11条申請に思う

ついにGMが連邦破産法11条の申請をNY時間6月1日午前8時に提出しました。

Washington Post June 1, 2009 GM Files for Bankruptcy Protection
日経 6月1日 GM、破産法適用を正式に申請

前日の政府発表を受けての記事を2つ紹介しておきます。

日経 5月31日 米加政府、GMに3.8兆円追加支援 米政府が「破産法」正式発表
WSJ June 1, 2009 New Era in Autos as GM Set for Bankruptcy

予想通りとも言えるのですが、数年前だったら全く考えられなかったことです。私自身、ファニーメイとフレディマックに関連して米国自動車ビッグスリーのことで、資本主義と社会主義を書いたのが昨年9月9日でした。資本主義と社会主義の観点での、私の勝手なつぶやきを書きます。

1) 残るフォードはどうなるか

クライスラーが連邦破産法11条を申請したのが、一月前の4月30日でした。そこで、政府支援なしで頑張っているフォードですが、2009年1月-3月の第1四半期の業績は、次であり、大赤字、かつ債務超過です。

Ford Motor連結損益計算書
2009年第1四半期(単位:百万米ドル)
自動車売上 21,368
金融収益 3,410
収益合計 24,778
自動車売上原価 21,662
金融コスト、一般管理費 6,065
売上原価及び一般管理費 27,727
営業外収益費用 1,329
税引前四半期利益 ▲1,620
法人税等 ▲204
当四半期純利益 ▲1,416
少数株主損益 11
Ford Motor純利益 ▲1,427
出所:2009年5月8日SEC提出フォーム10-Q

Ford Motor連結貸借対照表
2009年3月31日(単位:百万米ドル)
現金・現金同等物 21,093 買掛金 12,882
売却可能有価証券 20,363 未払費用・前受収益 54,429
金融債権 84,008 借入金及び社債 145,586
有形固定資産等 23,779 その他負債 6,714
その他資産 77,670 負債の部合計 219,611
資産の部合計 203,134 資本金 24
資本剰余金 10,985
その他包括利益累計 10,624
自己株式 180
出所:2009年5月8日SEC提出
フォーム10-Q
利益剰余金 17,782
Ford Motor株主資本 ▲17,577
少数株主持分 1,100
純資産の部合計 ▲16,477
負債及び純資産合計 203,134

自力で頑張るには、苦しすぎる内容だと思います。一方で、GMやクライスラーが政府の支援を受けるわけで、競争がどうなるかの点があると思います。即ち、国営GMやクライスラーより、民営フォードは民間経営による競争力を発揮して、勝ち残るのかであります。勿論、将来のことは分かりませんが、フォードも何時政府に鳴きに行ってもおかしくないのであり、その時は政府も支援せざるを得ない状態であると思います。

資本主義のような社会主義のような不思議な状態と思います。

2) UAW、年金、医療保険問題

12月18日のブログ自動車産業の今後で、”ビッグスリーについて「労働者1人当たりに1時間平均73ドルのコスト」で、「日系メーカーの場合は1人1時間当たり労働コストは平均49ドル」という情報があります。”と書きました。

日経の3月9日の記事フォードとUAW、賃下げなど正式合意 GMとの交渉に影響もには、「ビッグスリー(米自動車大手3社)の現役従業員の労務費(手当含む)は時給換算で日本メーカーより10ドル程度高いとされる。」との文章があります。

いずれにせよ、ビッグスリーの人件費が高いのは事実であり、その原因はUAWが高い賃金を要求したからかとも言えるのですが、結果として高いコストになってしまう年金や医療保険をUAWは要求せざるを得なかった面があると考えます。政府の年金制度や医療保険が薄い場合は、労働者・組合員が安心して働けるようにするには、雇用主に応分の対応を求めざるを得なくなる。

ニクソン以来小さな政府を掲げ、民間活力を掲げ、社会保障を政府の制度から、民間の制度に移行させてきた。公的医療保険がなければ、退職者医療保険を整備せざるを得ない。民間医療保険は、治療方法を保険会社が保険契約の内容に応じて、決定するのですから、合理的であり、モンスター・ペイシェントは生まれてこないと言えるのですが、一方で、金が医療を決定する全てとなる世界です。保険会社は利益を追求せざるを得ないのであり、弱肉強食の世界が生まれてきます。

決して、保険会社が悪いのではないのです。小さな政府にして、政府の仕事を解放していまったことが問題だと思います。何を、どの部分を政府に残し、どの部分を民間の利益追求・競争市場に委ねるかは、個々の問題ですが、少なくとも「民にできることは、民がする。」は、大間違いです。その結果が、米国自動車産業問題の一つの原因になっていると私は思います。

3) 将来

米国自動車産業はどうなるのだろうか。少なくとも、米国が当分の間車社会であり続けることには、間違いがない。しかし、誰が車を供給するかは、ホンダ、トヨタの2社が一番可能性がありそうな気がするのです。理由は、世界でまともにハイブリッドカーを生産している会社だから。即ち、そのような開発力を持っているからです。

あるコンセプトの製品を作ろうとすると、相当な開発力が必要と思います。莫大な研究開発費を投入し、しかも成功させる力が必要ですから。多分、多くは失敗するのでしょうが、失敗を乗り越えての成功ですから、相当の金食い虫と思います。

国営となってしまったGM、クライスラーには難しいだろうし、フォードも生き続けるのが精一杯で、研究開発までは手が回らないはず。本当にホンダ・トヨタが米国や世界で大躍進となるかどうかは、分かりませんが、可能性はあるだろうと思うのです。

そこで、ホンダ・トヨタがいる日本の将来ですが、明るくあり続けるとは限らないのです。年金・医療保険を考えれば、将来は暗い可能性があります。「税金を高くすると、高額納税者が外国に逃げていって、日本の税収が減る。」とのバカなことを言う人がいます。外国に逃げていっても構いません。日本国内に所得の源泉があれば、日本での課税が可能です。本当に逃げていったら困るのは、頭脳です。もし、技術者や医師や高度技能者等、その人がいたら多くの貢献をする人達が日本から逃げていったら日本の将来は暗いのです。

年金や医療保険の制度が崩れてきたら、そんな国から、そのような人達は簡単に出て行きます。外国でだって高給で仕事に就ける人達だからです。住みよい社会を作ることが非常に重要なことと思います。ビッグスリーが、このような事態になった最大の原因が社会保障制度を小さくしすぎてしまった米国社会にあるのではないかと思ったことから書きました。

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