ダムについては、3部作となってしまいました。やはり、八ッ場(「やんば」と読みます。)ダムを採り上げないと、問題から逃げることになってしまいそうです。
1) 八ッ場ダム
ダムは、群馬県吾妻郡長野原町に6年先の平成27年度(2015年度)の完成を目指して建設が進行中で、ダム地点は次の所です。
この場所に、(基礎岩盤から)高さ116mのコンクリート重力ダムを建設し、そのダムの幅は左右の岩盤との距離になりますが、ダムトップ(堤頂)で290.8mです。イメージとしては、ダム堤頂の標高が586mと理解しますので、現在の国道145号の道路面標高が約510mなので、現在の道路から見て76mの高さのダムが建設されます。
ダムの形や大きさ等は、ここに国交省八ッ場ダム工事事務所の「平成21年事業の概要」と題した2009年4月22日付記者発表資料があり、その最終ページに図面があります。
2) 八ッ場ダムの機能及び費用
この八ッ場ダム工事事務所のWebSiteに平成20年9月12日国土交通省告示第1121号の「八ッ場ダムの建設に関する基本計画」という文書があります。これが、現時点の八ッ場ダムの機能や費用を記載している書類です。なお、第3回変更であり、それ以前の文書も探してみましたが、Webでは見つかりませんでした。
八ッ場ダムの機能について、以下の表に纏めてみました。(純貯水容量と記載してるのは、水道用水と工業用水の貯水です。)
八ッ場ダムの総貯水量が107,500千m3であり、標高536.3mより低い部分の水17,500m3は、利用できず、それより上の90,000m3を利用する。この90,000m3のうち7月1日から10月5日までは洪水に備えてダム水位を555.2m以下で維持し、ダムより上流で大雨があった時は、555.2mから583,0mまでの水位変化によるダム貯水量65,000千m3をバッファーとして使い、下流への河川水の流出を制限する。
従い、洪水緩和(治水)と水供給(水道用水と工業用水)が目的です。11,700kWの発電設備を設置するが、基本計画書10ページには「発電のための取水は、洪水調節、流水の正常な機能の維持、水道及び工業用水のための放流による場合を除いて行ってはならない。」とあり、発電は副産物・従産物であるので、上の表では省略しました。
建設費は、基本計画書で概算4,600億円とあります。なお、この費用分担について、割合が11ページ以降に記載されており、河川法による負担が2509億円(うち政府1673億円、群馬県、埼玉県、東京都、千葉県、栃木県と茨城県で836億円)。そして、水道・工業用水の負担額が2086億円で、これを群馬県(水道)、藤岡市(水道)、埼玉県(水道)、東京都(水道)、千葉県(水道)、北千葉広域水道企業団(水道)、印旛郡広域市町村圏事務組合(水道)、茨城県(水道)、群馬県(工業用水)と千葉県(工業用水)が分担します。
そして、群馬県(電気事業)が4.6億円の負担です。なお、この4.6億円は、電気事業のダム分担金であり、発電設備については一切含まれていません。
なお、更なる詳細については「八ッ場あしたの会」(ホームページ)の過大な財政負担というページに書いてあり、水道事業の政府補助の補正もされています。チェックはできていませんが、正しいと思います。
3) 八ッ場ダムの効果
3-1) 水確保
水道及び工業用水の確保に関する効果については、必要とする将来の水需要予測を検討する必要があり、膨大な量の情報や資料を入手する必要があると思うし、どこまでできるか不明なので、Give upします。現在水が不足していると理解していないし、将来の人口減少や、日本の産業構造の変化を考えると、水確保のために八ッ場が必要であるとは、感覚的に思えません。
むしろ水資源開発のリスクと恐ろしさを物語っているように思えます。八ッ場ダム工事事務所のWebによれば、1967年に実施計画調査が開始となり、1970年に実施計画調査から建設に移行になり、1986年に水源地域対策特別措置法に基づく国の指定ダムとして告示されたとあります。相当前に長い先の将来を想定して水需要が予測されたはずです。
3-2) 洪水緩和
八ッ場ダム工事事務所のWebには、「計画では、洪水期(7月1日~10月5日)に6,500万立方メートルの調節容量を確保して、ダム下流における計画高水流量、毎秒3,900立方メートルのうち約61パーセントに当たる毎秒2,400立方メートルの流水を調節し、ダム下流への放流量を毎秒1,500立方メートルに低減することになります。」と書いてありまし、基本計画の洪水調節も同じことが書いてあります。
利根川の大洪水の想定は1947年9月のカスリーン台風による洪水をベースにしています。最近の大雨・洪水の被害としては1998年9月の台風5号であったと、工事事務所のWebに書いてありました。そこで、吾妻川の村上水位観測所(群馬県北群馬郡小野上村村上字堀之内:JR吾妻線小野上駅付近)における河川水位と河川流量及び少し下流の神流川と合流した付近の八斗島(やったじま)観測所(伊勢崎市八斗島町:坂東大橋左岸下流400m)での河川水位と河川流量を台風5号による影響があった1998年9月16日から18日までについてグラフを書きました。
八斗島における本日(24日)の水位はマイナス2.67mでした。9月16日の水位(グラフの茶線)12時に3.36mとなり、氾濫注意水位1.9mを超えたが、避難判断水位4.5mには達せず、当然氾濫危険水位4.9mにはなりませんでした。同じ3日間の村上における河川流量を見ると最大が9月16日9時の2,354m3/秒でした。八ッ場ダムがあれば、吾妻川の河川流量を下げることができたでしょうが、村上で最大2,354m3/秒であり、しかも計画においてコントロールするという1,500m3/秒を超えたのは、たったの5時間でした。この観測結果からすると、八ッ場ダムなんて意味がないと思えます。
八ッ場あしたの会のWebに、八ッ場ダムの住民訴訟において2008年7月29日水戸地裁の証人尋問に出廷した新潟大学の大熊氏による証人尋問調書と意見書が紹介されていました。(このページからダウンロードできます。)八ッ場ダムを必要とする根拠となってきたカスリーン台風洪水の際(1947年)、洪水流量は実測されず、過大に推測されており、それをもとにした国の治水計画には科学的根拠がないなんて、根底から狂ってきます。
意見書にあった2001年9月の吾妻川の大出水の時のグラフも書いてみました。1998年9月の時より増水した時間は長かったが、それでも、最大流量1802m3/秒であっただけで、私には特に大きな問題がないように思えました。
八ッ場あしたの会のWebに、次の上毛新聞のコラムが紹介してありました。一つの推測ですが、否定しきれない部分があると思います。
コラム『戦争がなかったら』 ―1999年9月15日の上毛新聞より―
「第二次世界大戦がなかったら、カスリーン台風の災害も起こらなかった。 戦中の食糧難を解消のため赤城山麓の開墾、エネルギー源のための木材の供出などで乱伐され、森林は消えていった。そこへ大雨を降らせたカスリーン台風の来襲。保水力を失った山はその水を一気に川に流すしかなかった。・・・(以下略)。」 |
それと、現在運用中の大型ダムで、洪水調整力があるダムは、以下の表のように10あります。吾妻川を、ダムのない川として後世に伝える選択もあり得ると思います。吾妻川は、草津白根山に起因する酸性河川であったこともあり、ダムは建設されなかった。中和事業の為に、品木ダム(国交省 品木ダム水質管理所)はありますが、他に大きなダムはなく、ダムがないことも素晴らしい自然を残すことになると思います。
3-3) 水力発電
実は、八ッ場ダムの満水水位より高い位置(長野原町役場付近)で取水し、八ッ場ダムの下流約2.4kmで発電している東京電力松谷発電所があります。出力は、25,000kWなので、八ッ場ダム発電所11,700kWより大きいのです。なお、松谷発電所はと白砂川の水と川中発電所からの水も使用しており、発電後の水は原町発電所へ流しています。
下の写真が松谷発電所の写真で、中央下部の白い建物が発電所で、そこから左上に山に上がっていっている茶色の管が水圧鉄管です。
八ッ場ダムなしで、水力発電はできているのであり、ダムが発電に寄与する部分が多少あるが、それほど大きくないのです。むしろ、運転の方法(ダムからの放流)によっては、既存の水力発電(松谷発電所のみならず、下流の原町、箱島等も含め)の発電量を少なくする可能性さえあるのです。このことに関する衆議院議員塩川鉄也氏の2004年11月30日の質問書(この衆議院のWeb)と小泉純一郎内閣総理大臣の平成2004年12月10日答弁書(この衆議院のWeb)があります。
水が流れるから、発電することで良いのですが、副産物に過ぎず、既存発電所での発電量が減少するなら、それを差し引いた評価が必要です。なお、ダムの放流パターンが決まらないと発電と既存への影響の予測ができないので、原状では無理でしょうが、どちらにせよ、極めてゼロに近い点数のような気がします。
4) ダムとは地元にメリットなし
そんなことを言うと言い過ぎかも知れませんが、地元を狭く水没地域だとすれば、水没地域の住民にとっては、迷惑なだけと思います。洪水緩和も水資源確保も全て下流地域が恩恵を受けるのです。
だから、反対運動が発生するし、地元でも、市町村レベルや都道府県レベルになると関係者は多くなり、土建業者は工事受注が期待できるから賛成したり、また、直接の影響を受ける人は、実はそれほど多くない場合が多いと思います。長年にわたる賛成・反対の対立で疲れ果てたのが八ッ場ダムの地元と思います。
ダムは、地元にメリットなしとの考えで、計画するなら、地元の人々に対して手厚い保証を差し上げる。そのことにより、建設が早く終了するはずで、建設費もはるかに低くなる。バカみたいに、他の例や水準とかにこだわって、対立や反感が生じる。そんなことも、無駄な公共工事になっていると思います。
5) 今後のこと
八ッ場ダムは、民主党が無駄な公共工事として、あげている案件ですから、例え工事を続行するとしても、少なくとも見直しに入らざるを得ないと思います。幸い、ダムの本体工事は本年度の契約予定ですから、本体工事に手を付けずに凍結することも可能と思います。
但し、凍結しても地元に対する十分は補償はしなければなりません。公共工事は、損失を与えるプロジェクトであってはならないからです。
ところで、水に関する費用負担を2)に書きましたが、現制度では水は地方自治体の特別会計になっていると思います。また、「一抜けた。」は、他の自治体の負担が増えるので、抜けるに抜けられない変な構造ができていると思います。
八ッ場ダムは、問題の多いプロジェクトであると思います。その最大の原因は役人と政治家の癒着だと思います。今回も、調べてみて、なかなか資料が出てこないし、複雑怪奇な状態です。例えば、塩川鉄也氏の質問
改正河川法では、学識経験者の意見、住民の意見などを整備計画に反映することとしている。学識経験者の意見、住民の意見などを反映するための作業をしないまま、五十年以上も前につくられた八ツ場ダム建設計画を推し進めることは、改正河川法の趣旨に反すると思うがどうか。 |
に対しての政府(小泉純一郎氏)の答えは、次です。(読んでも、頭に入ってきませんが、原状問題なしの回答です。)
利根川水系に係る河川法(昭和三十九年法律第百六十七号。以下「法」という。)第十六条第一項に規定する河川整備基本方針(以下「河川整備基本方針」という。)及び法第十六条の二第一項に規定する河川整備計画(以下「河川整備計画」という。)については、これまで、その策定に必要な調査、調査結果の分析等を行ってきたところであり、今後とも、河川法施行令(昭和四十年政令第十四号)第十条に規定する準則にのっとって、引き続き、その策定に向けて取り組んでまいりたい。 また、河川法の一部を改正する法律(平成九年法律第六十九号。以下「平成九年改正法」という。)附則第二条の規定により、平成九年改正法の施行の際現に平成九年改正法による改正前の法第十六条第一項の規定に基づいて定められている利根川水系工事実施基本計画は、平成九年改正法による改正後の法第十六条第一項の規定に基づき利根川水系について定められた河川整備基本方針及び平成九年改正法による改正後の法第十六条の二第一項の規定に基づき利根川水系に係る河川の区間について定められた河川整備計画とみなすこととされており、八ツ場ダムは、利根川水系工事実施基本計画において利根川の洪水調節等のために必要な施設であると位置付けられている。 |
政権が代わる毎に、大型案件が推進と凍結を揺れ動くのは、国民として情けないし、あるべき姿ではありません。必要な案件は必要であり、優先度の低い案件は、そのように扱うべきです。私の提案は、役人がきちっとした評価書を国民の前に提出することです。国民が必要と認めているプロジェクトは、政権が代わろうとその評価は普遍です。多くの情報を国民に開示し、国民の支持を得る仕事を役人はすべきです。バカ政治家に、官僚タタキをされてはいけません。役人は、政治家のためではない、国民のための仕事をすればよいのです。
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