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2009年8月20日 (木)

日本航空の経営健全化

日本航空が過去最大の四半期赤字となったニュースに続いて、国土交通省が、日本航空の経営改善支援のための有識者会議を設置するとのニュースがあります。

日経8月7日 日航の4~6月期、最終赤字990億円 四半期で過去最大の赤字
日経8月18日 国交省、日航支援へ有識者会議設置

果たしてどうなのか、7月3日に書いた日本航空と全日空の比較に続き、今回も日本航空について書いてみます。

1) 日本航空の四半期業績(4月-6月)

日本航空の第1四半期の営業収入は3345億円で税引後純損失990億円でした。年間純損失4000億円近くなるので、巨額の損失であることに間違いはないでしょう。2009年3月期の業績が大赤字で話題になったトヨタの純損失は、4369億円でした。ちなみに、これより巨額の損失を計上したのは、トップが日立製作所7873億円、第2位野村HD7081億円、第3位みずほFG5888億円で、トヨタの次の第5位がパナソニック3789億円でした。なお、いずれも連結純損失です。

考えようによれば、いずれも超大企業で、これだけの赤字があっても存続できる優良企業です。日本航空も優良超大企業と言えるか、全日空と比較をしながら見てみたいと思います。2009年度第1四半期の日本航空と全日空の損益計算書(単位:百万円)を掲げます。

Jlana20091q

実は、日本航空のみならず、全日空も大赤字です。但し、営業損失、経常損失、税金等調整前純損失は日本航空の損失は全日空の約半分。しかし、税金を加味した純損失では全日空の損失額は日本航空の約30%になっています。その理由は、全日空が損失が繰越欠損金として将来の課税所得を相殺し、税負担を減額するとして、その対応額の法人税等の戻り187億円を計上していることによります。今後の税負担の見通し、即ち企業所得の計上が、確定的であったかどうかが、一つの明暗を分けてしまいました。

収入の減少に対して、事業費の減少が小さいことが分かります。航空輸送事業の特徴で、コストにおける固定費の占める割合が大きいからです。

2) 航空輸送事業の分析

セグメント情報によれば、日本航空の収入の86.9%が航空輸送事業であり、全日空は87.7%です。そこで、航空輸送事業の収支を比較をしてみると、次のようになりました。

Jlanaat20091q_2

上の表の前年同期比を見ると、両社の間で、さほど大きな差がないことが分かります。特徴は、国際旅客収入の減少です。日本航空の場合は、国際旅客収入が従来から国内旅客収入より大きかった。両社とも落ち込みが大きいのが、国際旅客と国際貨物であり、その影響は業務構造の違いの結果、日本航空の収入の減少の方が大きかった。

コストを比べると、収入減少が大きいから多少はそれに比例する部分もあるが、日本航空の方が、コスト低下は大きく、日本航空の努力の結果もあると思います。

3) 航空輸送事業の収入減についての検討

次のグラフは、全日本空輸の第1四半期決算説明資料からのコピーで、国際旅客収入について説明している部分です。旅客数の減収が大きいのですが、特にビジネス客の減少が大きく、しかも単価(YとCの加重平均と思いますが)の減少も見られる。

Ana20091qinternational_2

国際旅客収入の減少は、航空輸送業者の営業努力が足りないからではなく、世界的な金融危機と不況によるビジネス客の減少と同時に、企業の費用削減によるビジネスクラスからエコノミークラスへの移動が生じていることによる影響があると思います。

日本航空の決算説明資料には同種のグラフがないので、同社の月次輸送実績から、次のグラフを作成しました。Yクラス、Cクラスの区別がないので、国際線と国内線の区別で作成しました。

Jalpassenger20091q_2 

旅客の輸送人数・距離は日本航空月次輸送実績にあり、2009年度の第一四半期を1年前の2008年度第1四半期と千kmあたりの単価で比較しました。

日本航空の旅客輸送平均収入(円/千km)
2008年1Q 2009年1Q 前年同期比
国際旅客 13,640 9,043 66.3%
国内旅客 20,670 20,137 97.4%

国際線は、平均収入単価が低くなっており、全日空の上のグラフの単価の4月-6月が60%と70%の間にあり、全日空の場合とほとんど同じと思います。同じでなければ、乗客は安い方に流れるのであり、国際線は2社の市場争いのみではなく、多くの航空会社間の争いであり、自然に市場は形成され、当然の結果と思います。

4) 日本航空の今後

決して暗くないと思います。今回は、国際線の単価の下落の影響が大きく出たのが、大赤字の一番大きな理由と考えます。特に、今回の国際的不況の一番激しく出ているのが、金融関係であり、金融関係者の多くは、国際的に飛び回っていた。会社として利益を大きくするには、成功報酬でも何でもいいから、連中を目一杯働かせる。ビジネスクラスに乗せて、休憩を取らせず、時差も関係なく働かせるのが会社の方針でした。そんな人達の多くが職を失ったりしたのです。日本の国際的に動き回っている金融関係者も同じで、仕事が少なくなれば、出張を減らすのは当然です。

世界不況が何時までも続くわけではありません。近い将来に回復への軌道に乗り始め、2-3年先には回復したと言える状態になると思います。その時に、日本経済が回復しているかどうかについて、私は余り自信がありません。しかし、日本経済が回復していなくても、世界経済が回復すれば国際旅客輸送は、ほぼ元に戻ると思います。世界経済が復活すれば、世界経済を飯の種に、ビジネスマンも金融関係者も世界を駆けめぐります。日本のビジネスマンも金融関係者も同じです。

成田に発着枠を一番多く持つ会社が日本航空です。その結果、漁夫の利が転がり込む。これが、私のシナリオです。そうなった時に、利益を享受するように、生き延びて行かなければなりません。

5) 日本航空の悲観材料

日本航空の悲観材料こそ、冒頭にあげた国土交通省を初め、政府および政治家の介入の可能性です。郵政民営化については、郵便事業という政府か民間か、どちらがよいかグレイな部分がありましたが、航空輸送事業は民間事業であるべきです。何故なら、Open Skyも存在する多くの国の航空輸送事業との市場競争だからです。市場競争原理により発展させていくべき事業に政府は介入すべきではありません。

例えば、2009年6月の国内線で座席利用率の一番低かったのは沖永良部ー与論で17.9%、次が伊丹ー種子島18.4%でした。離島空路は必要ですが、沖永良部から日本航空は2日3便運行し、与論からは那覇に4便です。ワースト2の種子島からは、鹿児島に1日3便運行しており、赤字の伊丹ー種子島直行便を運行する理由はないと思うのです。

過去1年間で、運行を中止した国内路線が15あり、第1四半期決算説明補足資料によれば国内線での今後の減便が6便で増便が1便とあります。不採算路線の損失を正常な利益を出せている路線の利益で埋め合わせることは、おかしい。株式会社としては、不採算路線は、撤退であり、存続するのであれば、補助金による支援や搭乗率保証を受けるべきです。しかし、政府保証や政府支援を受けていれば、極めて不自由になります。

政府、役人、政治家にとっても企業の採算は重要です。しかし、時には、それ以上に大事なものが、政府、役人、政治家には存在します。不採算路線から撤退する自由を失ったら利益計上体質には変質不可能です。国際線にしても、National Flagの時代ではなく、自由競争の時代です。利益が生まれる、即ち利用者が最も利用する路線の運行を増加し、利用者の利益になることをすれば、国際線においても、定時運行や安全性の信頼を得ている日本航空であれば、高収益を確保できるはずです。逆に、日本航空がLCC(Low Cost Carrier)と競争して勝てるとは思いません。成田の発着枠を最大限に生かした戦略を建てること。それは、民間企業でないとできないと思います。

少し開港が遅れた富士山静岡空港に日本航空は6月4日から、福岡3便、札幌1便を運行していますが、6月の座席利用率は福岡57.7%、札幌84.8%でした。福岡便はやはりもう少し高い座席利用率が欲しいでしょうが、現状これ位かもしれません。しかし、6月は初就航効果による高い利用があった可能性があり、見通しによっては、撤退を決めるべきと考えます。但し、富士山静岡空港については静岡県による搭乗率保証があり、実際に受領できるか、いつまで続くか、様子を見る必要があると思います。静岡県にも財政問題はあるはずだし、それを良いことに、継続するだけが能ではないと思います。

3)の最後の部分に千kmあたりの平均単価の表を書きましたが、航空機はバスより安いし、国際線になると新幹線よりはるかに安いのです。従い、もう一つの課題が日本国内の輸送をどうするのかの基本線です。航空機、鉄道、バス、乗用車が存在する。空港と鉄道と道路の整備の調和です。現状では、高速道路を建設し、新幹線網を拡大し、空港を建設しているが、統合的な基本プランはなく、調和が取れていると思えない。現在日本において、旅客機が使用可能な空港は富士山静岡空港を含めて98あり、茨城空港開港で99になります。本当は、航空機、鉄道、バス、乗用車の棲み分けが必要です。狭い日本、そんなに空港作ってどうするの?です。主要空港から鉄道と高速道路が便利よく伸びていれば、空港の数を減らす変わりに、主要空港を大きくする。そうすれば、航空輸送費も低くなるはずです。

旅客輸送の基本プランこそ、国土交通省の仕事です。基本プランを国民と事業者に示し、活発な意見や批評を受けて、よりよい基本プランに発展させる。国土交通省以上に政治家が悪かったと思いますが、政治家の言うことを聞かない、正しいプランを作成し、国民に投げかけるのも役人の仕事として重要です。

日本航空の健全経営は、基本プランではありません。基本プランの中での、事業者の市場競争が健全経営を育むのです。従い、現取締役(経営陣)に政府援助を受けて再建しようという人が存在するなら、危険なことと思います。私だったら、執行役としてCFO(Chief Financial Officer)を外部から起用し、相当の権限を与えます。それで、必死になって経営健全化に取り組みます。また、場合によっては、政府援助を受けるより、民事再生法を選ぶ決断をするのが、本当の経営者であると思います。

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コメント

今回の記事も大変面白いものです。JAL・ANAの赤字原因ですが、私の分析によればヘッジの繰延損失を損益処理したものであり、あまり純資産額は減っておりません。ということはヘッジの繰延損失がなくなれば、黒字になるかもしれないと考えております。JALの場合はその影響を除去しても赤字なのですが、確かにおっしゃるように売上がもう少し改善すれば利益は出しやすい状態になっていると思います。

2兆円の売上があって赤字になる会社、本当にめずらしいです。コストさえなんとかすればいいだけなので楽です。再生の見込みは十分あるし、逆に国土交通省との関係に見切りをつけ、いったんだまてんで民事再生をするというのも手でしょう。サラリーマン経営者にはできないことですが。

投稿: ああ | 2009年8月22日 (土) 07時44分

ああサンいつもコメントをありがとうございます。

確かに、日本航空の6月末の繰延ヘッジ損益の損失残高は、3月末と比べて862億円減少しています。

しかし、この862億円の損失が損失の実現の結果として損益計算書で認識されたかというと、必ずしもそうではないと考えます。損益計算書で認識するとなると、燃油費になりますが、燃油費は905億円です。

たったの43億円での燃料調達はあり得ず、このマジックは、3月末頃の燃油価格バレル約55ドルを6月末の燃油価格により再評価換算を行った結果が大きいはずです。評価換算以外に、実際の調達分に相当するデリバティブ取引の決済についても、全く同じ構造です。私は、6月末はバレル75ドル程度で、バレル約20ドル程度価格上昇があったと推定します。

全日空も同じで、繰延ヘッジ損益の損失残高が378億円減少しています。

富士山静岡空港の福岡便は、静岡県から、70%の搭乗率保証を受けているようですが、本当に静岡県からすんなりと払ってもらえるのでしょうか?不良債権化する恐れどころか、減便も廃止もできずに、身動きが取れず、遠い未来にしか決済が望めない債権が膨張しやしないでしょうか?政府の関与が強くなればなるほど、政治家の選挙目当ての強引な介入が増加する危険性を感じます。

投稿: ある経営コンサルタント | 2009年8月22日 (土) 12時47分

はじめまして。初訪問させていただきました。
私はJALの関係者ではありませんが、少しかわいそうな部分も彼らはあるんですよね。本来、上場企業なので利益優先でよいはずですが、政治的な理由で儲からない路線を山ほど就航させられています。特に自民党さんのオオモノ議員さんがいる空港です。空港建設はお金が沢山動くので、地元に空港を強引にでも作れば政権与党さんにはこれに関連した見えないお金が自動的に入る。次の選挙も安泰なわけです。
空港が出来た後も、お土産店や空港サービス会社には政治家の身内がワンサカ。黙っててもお金が入る。やめられないですよね。空港建設。

静岡、神戸、広島、青森、中部、関空、北九州、・・・青森なんてあの県民人口で2つも空港がある。しかも片方は最近まで欠航の常習犯。茨城空港なんて正気の沙汰とは思えない。前の国土交通大臣の金子が偉そうに能書きをたらたら話していましたが、JALにたかって来たのは先生方ですよね?って言いたくなります。

社員6,500人のリストラよりも議員先生の悪影響を排除した方が経営再建になります。まじめにがんばってる社員を見ると不憫です。

投稿: ジョバンニ | 2009年9月17日 (木) 18時46分

ジョバンニさん

コメントありがとうございます。ジョバンニさんが書かれたように、日本の空港は、どうなのか、大いなる疑問を持ちます。

空港の決算書について、関空は株式会社であり、社債を発行していることから有価証券報告書が開示されており、内容は分かります。しかし、多くの空港の財務情報は、よく分からない。日本航空以上に事業内容が危機的であり、県が支え、政府補助金が支えている可能性があると思うのです。

民主党政権になり、政府財政支出の見直しを言っているのだから、個別空港の会計情報を、是非公開して欲しいと思います。公営病院については、総務省が、各病院の会計情報を公開し、XXX以下であれば、閉鎖するとやっているのですから。公営病院の閉鎖は、他の医療機関が遠くて、簡単ではなかったり、医療崩壊が進む恐れがあります。しかし、空港は離島や特殊な場合を除けば、新幹線や高速道路があり、影響は少ない場合もあり得ます。でも、議論をするためには、情報が国民に開示されていないと検討すら不可能ですから。

投稿: ある経営コンサルタント | 2009年9月17日 (木) 21時12分

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